SaaSビジネスで重要なエクスパンションMRRについて詳しく解説

2022.05.01
SaaSビジネスで重要なエクスパンションMRRについて詳しく解説

日本や世界において、サブスクリプションサービスは人気のビジネスモデルです。毎月決まった売上が発生するため、顧客を一度獲得してしまえば安定した売上を計上させられます。このようなビジネスにおいて、毎月発生する売上のことをMRRと呼びます。

今回の記事では、MRRについてあまり理解が追いついていない方向けに、MRRの基本から算出方法について徹底的に解説していきますので、ぜひ最後まで見て参考にしてみてください。

エクスパンションMRRとは

エクスパンションMRRとは、既存顧客が前月の利用料金からの増加分を測定する指標を指します。サブスクリプションなどの場合は複数のプランがあり、顧客が現在のプランよりさらに高いグレードへ移行(アップグレード)した場合などが例です。

なお、既存顧客からの追加の収益は次の方法で生み出されていきます。

●  アップセル

●  クロスセル

●  パッケージセル

●  アドオン

それぞれ詳しく見ていきましょう。

アップセル

アップセルは、より高価なバージョンへとアップグレードしてもらうことです。顧客が購入した製品やプランよりも高価で高品質なものを提案して、購入してもらいます。

アップセルを実行すれば、新規顧客を開拓せず、既存顧客のみで総売上を増やせるのです。顧客あたりの売上単価を向上させることで、効率良く売上の向上が見込めます。複数プランを提供しているビジネス事業者が取り組みやすい方法で、より収益性を上げるためにはアップセルが重要になっていくと考えられます。

アップセルの手段としては以下の表をご覧ください。

  • 無料期間を設定
  • キャンペーンの実行
  • ボリュームディスカウント

身近なもので例を挙げるとした場合、「Slack」や「zoom」などが挙げられます。基本的には無料で使用できますが、有料版のプランを利用すれば、より活用できるサービスの幅が広がるのです。

クロスセル

クロスセルはセールス手法としても知られています。顧客がとある商品の購入を検討している際に、別の商品をセットにして購入してもらうための手法です。アップセルと似ていると感じる人も多いようですが、顧客1人あたりの単価を向上させることを目的としている点は同じといえるでしょう。

身近な例でいうと、Amazonや楽天をはじめとしたECサイトの「商品ページ」や「決済ページ」に「この商品を購入した人は、こちらの商品も購入しています。」「この商品を閲覧した方は、こちらの商品も閲覧しています。」といったリマインド機能はクロスセルの手法によるものです。SaaSビジネスにおいても、通常のプランにオプションを追加してもらうことで、クロスセルの効果が期待できるでしょう。

パッケージセル

パッケージセルとは、抱き合わせ販売といわれるセール手法です。相性の良い製品と関連製品をセットにして、まとめて購入をしてもらう戦略です。

身近な事例でいうと、レストランでよく見られるランチセットがあります。ランチセットを頼むとサラダバーやスープバーがついてくるなど、顧客のお得感を感じさせて購入をうながします。SaaSビジネスでもこういった手法は効果的なので、まとめて使用すると便利なサービスをセット販売すると、単体ではなくセットで購入してもらえる可能性が期待できるでしょう。

アドオン

アドオンとは、ビジネスにおける追加販売のことを指します。新しい顧客に商品を売るのではなく、既に商品を購入している顧客に対して追加で購入をしてもらうことをアドオンと呼びます。SaaSビジネスにおいては、顧客が現在利用しているプランに含まれていない部分に機能を追加するなどの方法が有効といえるでしょう。

ダウングレードした場合はコントラクションMRR

一度アップグレードした顧客が、必ずしも永久的にそのサービスを使用し続けてくれるとは限りません。解約されてしまったりダウングレードされてしまうこともあるでしょう。

このダウングレードによる収益減のことをコントラクションと呼び、月単位で集計したものをコントラクションMRRと呼ぶのです。

例えば、以下の2つのプランがあるとします。

●  ビギナープラン(月10,000円)

●  エキスパートプラン(月20,000円)

4〜5月にかけて、1人の顧客がビギナープランからエキスパートプランへ変更した場合、5月のMRRは1万円増えることになります。しかし、アップグレートする顧客だけでなく、プランをダウングレードさせる顧客も出てくるでしょう。

4〜5月にかけて、1人の顧客がエキスパートプランからスタンダードプランへダウングレードした場合は、プラスマイナスが0になりますし、それ以上にダウングレードした顧客が増えてしまうと、5月のMRRは当然減ることになります。

エクスパンションMRRの計算方法

エクスパンションがどれだけあるのかを把握できれば、顧客満足度を知ることにつながります。しかし、エクスパンションMRRを計算するメリットはそれだけではなく、「提供しているサービスが適正なのか」「現状提供しているサービスの課題はどこにあるのか」などを知る上で非常に役立ちます。

そこで、エクスパンションMRRの計算方法をまず覚えておくようにしてください。エクスパンションMRRの計算式は下記の通りです。

エクスパンションMRR = アップセル + クロスセル

例えば以下のようなサービスがあると仮定します。

●  ビギナープラン「月額1000円」

●  エキスパートプラン「月額2000円」

●  サポートサービス「月額 + 1000円」

10人が契約し、先月まで4人がビギナープラン、6人がエキスパートプランに加入しています。今月からビギナープランからエキスパートプランへ移行した顧客が1人、ビギナーズプランにサポートサービスを追加した顧客が1人いたとしましょう。

前月の利益は「1000 × 4 + 2000 × 6 =16,000円」

今月の利益は「(1000 × 3 + 1000) + 2000 × 7 = 18,000円」

顧客数が同じ10人ですが、利益率が上がっていることが分かります。さらに、サポートサービスといった付加価値プランをつけることによって上位サービスへのアップグレードができているため、顧客満足度アップも期待できるでしょう。

エクスパンションMRR率とは

エクスパンションMMR率は、前月と当月を比較する%として計算されていきます。これにより、既存顧客が製品やサービスがどのくらい購入されているのかを先月と比較して認識できるのです。

エクスパンションMRR率の計算方法は下記の通りです。

エクスパンションMRR – 先月のエクスパンションMRR ÷ 先月のエクスパンションMRR × 100 = エクスパンションMRR%率

エクスパンションMRRを把握する際には、エクスパンションMMR率も合わせて計算しておくと、より詳しく理解できるでしょう。

エクスパンションMRRのメリットデメリット

エクスパンションMRRについてさらに理解を深めるには、メリットとデメリットについて理解すると良いでしょう。ここからは、エクスパンションMRRのメリットデメリットについて徹底的に解説していきます。

メリット

現在の顧客に向けてより多くの機能を販売したほうが、新規顧客を獲得するよりもCAC(顧客獲得コスト)が圧倒的に低いので収益性が上がりやすいです。

また、エクスパンションMRRは現在の顧客の満足度を表す指標にもなるので、新規の製品やサービスを発表した際に買ってもらえる機会が大きくなると考えられます。新機能の利用率やアップグレードオプションに関心を示しているのか、理解しているのかについての有用な指標にもなるでしょう。

デメリット

上記では、エクスパンションMRRのメリットについて解説しましたが、メリットだけではなくもちろんデメリットも存在します。

エクスパンションを図る上でのデメリットは、アップセルとクロセルを強く推しすぎてしまうことで顧客に敬遠されてしまう可能性があるという点です。敬遠されてしまうと、ダウンセルや解約のリスクが発生してしまいます。これを防ぐには、顧客の利用頻度や時間なども分析し、そのユーザーや顧客に合った適切なアプローチをしていく必要があるでしょう。

エクスパンションMRRを増加させる方法

エクスパンションMRRを増加させるにはどのような方法があるのでしょうか。増加率を把握するために、まずはエクスパンションを月別で監視することが大切です。月別で監視できれば成長率を把握できますし、顧客の満足度を表す指標も得られます。指標を得るだけでなく、顧客の満足度を高めることも可能です。

エクスパンションMRRを増加させる方法としては、問題や課題を解決するために新機能を提供して顧客を満足させるのが有効といえます。ユーザーからの意見を積極的に聞き、製品の改善や新機能追加に活かすといった方法です。

ユーザーからの声を反映させて優れたアイデアを出すことによって、顧客の満足度アップ・エクスパンションMRRの増加につながっていくでしょう。

そして、もう一1つはアップセルの方法を学ぶことです。高価なサブスクリプションモデルとアドオンのマーケティングに積極的に取り組んでいきます。アカウントのアップグレードをうながし、顧客が得られるメリットを強調していくのです。結果的に今より質の良いサービスを受けられるので、エクスパンションMRRも増加していくでしょう。

エクスパンションMRRと一緒に確認するべき指標

エクスパンションMRRは、必ずしも正確な予測や数値を出し続けるものではありません。さらに、現在のサービスを顧客が新規で購入する可能性があると同時に、ユーザーを失う可能性も秘めているので注意が必要です。

こういった理由から、エクスパンションMRRと一緒に確認するべき指標があるので確認しておきましょう。

  • 解約率
  • ARPU
  • LTV

それぞれの指標について、詳しく解説していきます。

解約率

解約率は、顧客が現在契約しているサービスを解約する割合を示した指標です。サービスや会社によっては「退会率」「顧客離脱率」といった表記をする場合もあります。実際にサービスから完全に退会していなくても、有料会員から無料会員への切り替えも解約率として換算されます。

仮に、とても良いエクスパンションMRR率を維持しており、解約率も低く保てている場合は、顧客を維持しながらビジネスを拡大することも可能です。しかし、ビジネスを成長へと導きたいのであれば、エクスパンションMRRの解約率を追跡して分析することが必要不可欠といえます。

解約率についてより詳しく知りたい方は、「SaaSの主要KPI【チャーンレート】とは?種類や目安を解説」を参照ください。

ARPU

ARPU(Average Revenue Per User)は、1人のユーザーの平均的売上を示す指標です。通信事業者をはじめとする月額課金モデルのビジネスによく使われます。ゲーム業界でもよく使用されている指標ですが、SaaSビジネスにおいても重要です。期間あたりのユーザー平均単価や顧客の購入額の変化を分析する際に活用します。

SaaSビジネスにおけるARPUの活用については、「ARPU(ユーザー平均単価)って何?ビジネスモデルごとの計算方法を紹介」の記事で解説しています。

LTV

LTVは顧客生涯価値という意味で、顧客が契約してから終了するまでにどれだけの利益を生み出してくれるのかを表す指標です。また、既存の顧客によって新たな利益を生み出す構造になるため、新規顧客開拓に要する費用も安価になりますし、業務効率化する上でも重要になります。

 LTVについては、「SaaSの主要KPI【LTV】とは?重要性や計算方法を解説」の記事で、計算方法などを詳しく紹介しているので、参考にしてみてください。

まとめ

エクスパンションMRRは、既存顧客が前月の利用料金からの増加分を測定する指標のことです。エクスパンションMRRを参照することにより、自社サービスのどこに課題があるのかを知り現状を見つめ直すことができるので、ビジネスにおいては必要不可欠といえるでしょう。

月額プランや複数のサブスクリプションサービスを展開している企業の場合、全体の売上や指標を把握することが重要です。エクスパンションMRRだけでなく、解約率やLTVなども把握できれば、より理解度が高まるでしょう。

SaaSビジネスで重要な指標をさらに詳しく知りたい方は、下記の資料もご参照ください。

監修者

広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長

プロフィール

京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。

公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。

成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。

講演実績

株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。

論文

『経営指標とKPI の融合による意思決定と行動の全体最適化』(人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会)

特許

「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)

アクセラレーションプログラム

OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。

取材実績

日本経済新聞、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ、週刊ダイヤモンド、Startup Times、KANSAI STARTUP NEWSなど。

著書

『飲食店経営成功バイブル 1店舗から多店舗展開 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』(合同フォレスト)

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