KPIは不確実性と戦う武器

事業モデルをKPIツリーで表現してKPIで予測できるようにする
事業は、経営資源である、ヒト・モノ・カネを(その事業に)投入(インプット)した結果、アウトプットとしての売上や利益を得ることができます。
インプットしてからアウトプットされるまでのプロセスにおける処理パターンが見えてくると、その事業の方程式が見えてきます。
そうすると、その方程式(事業モデル)にどういった変数をインプットすれば、どういったアウトプット(売上や利益)が得られるのか、という予測ができるようになります。
方程式にそういった変数をインプットしながらアウトプットを観測することで、事業構造を正しく捉えることができますが、その手段として有効なのがKPIツリーです。
KPIツリーは事業を科学的に把握する手法なのです。
そして、KPIツリーのデータを日々見ることは事業の健康診断に当たります。
健康診断の頻度が高ければ高いほど、大きな問題が起こる前に問題を早期に発見し、早期に解決ができます。
そう、大きな問題(人で言うと大きな病気)になってからでは遅いのです。
Scale Driverを把握して事業をコントロールする
KPIツリーを使って事業構造を表現し、データで予測しながら経営をしていくことが、今のような不確実性の高い経営環境で戦う上で強力な武器になるでしょう。
たとえば、「1ヶ月に10社と成約して、100万円の売上がある」というデータがあって、これを50社に増やそうといった計画があったとします。
成約率と商談数のデータを見て、成約率が高いレベルで維持されていてこれ以上の改善がかなりハードルが高いとわかれば、商談数を増やすことに注力すべきという方針を導き出せます。
このように課題を見つけ出すためには定量的に観測することが重要です。
観測した結果をもとに事業を改善していくにはどうすればいいでしょうか?
先程の例えの続きでいくと、「商談数を増やすために、テレアポ数を増やすこととアポ率を高めることの2つの施策があるけれども、今の人員数ではテレアポ数を短期的に増やすのは限界がるので、アポ率を高めることを第一優先で検討しよう。しかし、それもそのうち限界が来るはずなので、アポ率を○%まで高められる目処が立ったら(再現性を高められたら)、テレアポ数を増やしていくために早めに採用を進めていこう。」といったように、具体的なアクションプランまで落とし込んでいくことができます。
KPIツリーの中で、予算をかけることで変動させることができるKPI、つまり、コントロール可能なKPIを見つけ出すことが重要です。先程のたとえでいえば、「短期的にあ人員数に限界があるのでテレアポ数はコントロールに限界があるけれども、アポ率は標準値と比べても低水準なので改善の余地があるし、それについてはコントロール可能だ」といった具合です。
これをKPIツリーの方程式に代入すると、全体の売上がどうなるかを予測できます。
各KPIに、いろんな変数を代入してみましょう。
つまり、数字遊びをしてみましょう。
そうすると、どのKPIが重要なのかが見えてきます。
KPIツリーの中で、影響度の大きいKPIを「Scale Driver」と呼んでいますが、それが見つかるはずです。
このScale Driverを特定する「数字遊び以外の」方法としては、弊社のScale Cloudを使えば自動的に解析されるのですが、そのロジックについてはまた別の機会で書いてみることにして、ここでは省略します。
早く実行して早く失敗して早く改善する
事業全体の方程式をとらえ、観測ができる仕組みができたら、次はPDCAを繰り返して事業を成長させていくことになります。
たとえば、売上が5%上昇すると思って実施した計画の結果が未達成になったとします。この「予測値(P)と実測値(D)のズレを観測(C)して改善(A)していくことが大事になってきます。
目標値・予測値(Plan)を設定して、達成するための施策を考え、Doしてみる。その結果を、素早く観測して、改善につなげていく。
これをKPIツリーにある各KPI一つ一つに対して徹底的に実行していきましょう。
最初は、Doした結果、未達成になるKPIがたくさん出てくるはずです。
仮に、未達成のKPIが10個も出てきたとすれば、その中でどれを優先的に改善していけばいいでしょうか?
どの会社も経営資源には限りがあります。その限りある資源を何に投下すれば最も効果的なのかが重要です。
その際にヒントになるのが先程のScale Driverです。Scale Driverを優先的に改善していくことで効果的に事業全体が改善されていくはずです。
もう一つのポイントとしては、あまりPlanに時間をかけすぎないことです。Doした結果が良かったのか悪かったのか、正しく評価するためにはこのPlanを立てることが大切ですが、時間をかけすぎる必要はありません。それでスピードが遅れるくらいなら、まずは精度50%のPlanであったとしてもまずはDoしてみて、Planと結果の差分を素早く認識して、どんどん改善していく方が得策でしょう。
失敗したらどうするのか、といったの懸念でDoが遅れたり、実施されなかったりするのはもったいないです。
正しいKPIで正しく失敗すると自然と予測値と実績値があうようになってくるはずです。組織として失敗を許容していきながら学習していくのが重要です。
さまざまなKPIに基づいて事業を改善していくPDCA活動の第一歩は、事業全体を定量的にKPIツリーで理解をすることです。
そして、計画(Plan)には時間をかけず、失敗によるリスクを予測しながら、ひたすら改善のサイクルを繰り返していくことによって、不確実性の中の『正解』を見つけていくことができるのではないでしょうか。

執筆者
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。