SaaSビジネスを成長させる28個の主要KPIとは?設定するメリットや注意点を紹介
SaaS業界ではもはや必須となっているKPIマネジメント。
その主要KPIについて説明します。
SaaSとは
SaaSとはクラウドサービスの一つの形態であり、「Software as a Service」のイニシャルを取った略語のことです。
直訳すると「サービスとしてのソフトウェア」です。従来のソフトウェアが自分のコンピューターにインストールして作動させていたのに対し、SaaSは提供事業者のコンピューター(サーバー)にアクセスして使用します。
代表的なサービスとしては、クラウド名刺管理サービス「Sansan」、クラウド会計ソフト「freee」、業務支援サービス「楽楽精算」などが挙げられます。
SaaSのメリット
インターネット環境があればどこからでもアクセスできる
ソフトウェアはクライアントのアカウントごとに提供されているため、オフィスだけでなく、自宅や外出先からもアクセスが可能です。
また、デバイスが違ってもアカウントが同じであれば、同じサービスを利用することができ、リモートワークなどの働き方にも大きな影響を与えています。
複数のチーム・複数の人数で編集や管理ができる
複数のチームや複数のユーザーで同時にデータの管理・編集ができます。
ひとつのファイルを共有し、同時に管理・編集できることは、パッケージ型のソフトウェアにはない大きな特徴と言えるでしょう。
導入までのスピードが早い
ソフトを開発の場合には設計~運用テストなど多くの工数を要する一方で、SaaSは基本的に申し込み後には使用することができます。
導入コストが安い
ほとんどのビジネスモデルが月額課金型となっています。ソフトウェアの開発費用に加え、導入への準備期間も短くでき、導入コストを大きく下げることが可能です。
また従業員の増減が多い場合でも、アカウントの増減だけで柔軟に対応することができます。料金を支払って買い切りで購入するパッケージ型のソフトウェアよりもコストの無駄を省くことができます。
このようなメリットが挙げられるため、2018年総務省の調べでは、企業の56.9%が一部でもクラウドサービスを利用していると回答しており、今後はリモートワークの普及も合わせさらなるニーズの拡大が予測されています。
それに伴い、SaaS型システムの提供を行う企業も飛躍的に増加しており、産業として台頭してきております。
スモールスタートができる
SaaSのなかにはスモールスタートできるものもあり、自社にとって有用なサービスを見極めてから組織全体に導入することが可能です。
スモールスタートとは、機能やサービスを限定して1部署や1チームなど、小規模で導入し、需要の拡大に合わせて導入規模を広げていくという手法です。
スモールスタートを活用することで導入コストが抑えられるため、新たな事業を開始する際でもリスク要因にはなりません。また、万が一自社のニーズに合致していなかった場合はそのまま撤退もできるため、企業の負担にならないことも魅力の一つです。
スモールスタートができることは、SaaSをはじめとしたクラウドサービス全体に共通するメリットであり、利用するサービスを複数検討している場合に便利です。
ソフトウェア開発をする必要がない
SaaSでは、ベンダーが作ったクラウドサービスを利用するため、自社でソフトウェアを新たに開発する必要がなく、開発コストもかかりません。
ソフトウェア開発のノウハウや人員が不足している企業では、新たなソフトウェアを開発することは困難な場合があります。
しかし、SaaSではすでに完成したソフトウェアを利用できることに加え、従業員の増減が多い場合でも、アカウント数の増減だけで対応できるため、自社の状況に柔軟に合わせられます。
買い切りのソフトウェアを導入するとどこかで無駄が発生する可能性がありますが、SaaSであれば無駄なコストをかけずに済ませることが可能です。
メンテナンスコストが抑えられる
SaaSでは、ベンダーがソフトウェアの開発と管理を行うのが一般的です。その一環として、ソフトウェアのアップデート作業も行ってくれるため、常に最新の状態でサービスを利用できます。
このように、自社でソフトウェアにかかるメンテナンスを一切しなくても良いため、管理の手間はもちろん、ソフトウェアのメンテナンスコストも一切かかりません。
メンテナンスコストの心配をする必要がないため、ランニングコストの計画も立てやすくなります。また、ソフトウェアのメンテナンスに人員を割く必要もないため、従業員を他の業務で活用できます。
セキュリティ面で安心
デジタル化が進む現代では、企業の情報セキュリティは非常に重要な要素ですが、SaaSはセキュリティ面でも安心です。
自社でソフトウェアを開発する場合は、セキュリティ面の管理はもちろん、トラブルがあった際の保守やメンテナンスもすべて自社で行わなければなりません。
しかし、SaaSであればベンダーが運用と保守を行い、常に専門的な対策を講じてくれるため、自社でセキュリティ対策をする必要がありません。
また、ベンダーがセキュリティ対策をしてくれることで、自社でセキュリティにコストをかける必要もないため、コスト削減にもつながります。
セキュリティ面における負担を軽減しつつ、安全な環境を提供してくれることがSaaSの魅力の一つです。
なぜSaaS業界では独自のKPIが用いられるのか
SaaS型のビジネスモデルを理解するうえで欠かせないのは、「SaaS KPI」と呼ばれる指標です。ここでは、SaaS型モデルに特有のKPIについて解説していきます。
SaaS型のビジネスモデルが売り切り型ではなく、予測性の高いストック型ビジネスであることが挙げられます。従来型の売り切り型のモデルでは、将来的に売れる確約がなく、「過去に実現した売上」で語られることが多くなります。一方、SaaSビジネスにおいては、契約が続く限りにおいては先々の収益が確約されることになるため、「その時点において、定常的な収益がどのくらいあるか」を予測しやすくなります。
また、ベンチャーキャピタル等の投資家にとってもKPIは重視している項目です。ベンチャーキャピタルが出資先を判断するときには、KPIを見て、どの程度の収益が見込めるのか、何をしたら経営加速できそうなのか判断しています。
それでは、経営レベルでSaaSビジネスのKPIを見ていく場合に、何が必要となってくるのでしょうか?ここでは、指標を「成長性」「効率性」「顧客継続性」の3つのカテゴリ分けて見ていきます。
SaaSビジネスにおける各指標について
ここからは、28個の重要指標について成長性、効率性、顧客継続性の3つに分類し、1つずつ解説していきます。
カテゴリ | 指標 | No. |
---|---|---|
成長性の指標 | MRR | 1 |
MRR成長率 | 2 | |
ARR | 3 | |
CMRR | 4 | |
ARPA | 5 | |
ARPU | 6 | |
顧客集中度 | 7 | |
顧客月間成長率 | 8 | |
ASP | 9 | |
Quick ratio | 10 | |
効率性の指標 | LTV | 11 |
CVR | 12 | |
CAC | 13 | |
CAC Payback Period | 14 | |
ユニットエコノミクス | 15 | |
バーンレート | 16 | |
ランウェイ | 17 | |
Magic Number | 18 | |
顧客継続性の指標 | CRR | 19 |
チャーンレート | 20 | |
ネガティブチャーン | 21 | |
ネットリテンションレート (NRR) | 22 | |
AU | 23 | |
NPS | 24 | |
NRS | 25 | |
CES | 26 | |
TtV | 27 | |
平均継続月数 | 28 |
SaaSビジネスにおける「成長性」に関する指標
ここでは、SaaSビジネスにおける「成長性」に関する指標を紹介します。
MRR
MRR = Monthly Recurring Revenue
SaaS事業における月間定額収益。
年間定額のサービスを提供している場合、その額を12で割るケースが多い。企業の総売上のうち、MRRが占める割合が高ければ高いほど、毎月の安定した売上が期待できるため事業が安定しているとみることができます。
そのため、一般的には将来発生する毎月のキャッシュ・フローも安定的に入ってくることが考えられるため企業価値も高くなることが期待できます。
MRRはさらに4つに分解をすることができます。
❶チャーン(Churn)
前月は有料顧客だったものの、今月は解約or無料プランとなっている場合。
❷コントラクション(Contraction)
有料プランには変わらないが、MRRが下がるケース。
例えば、契約プランが10万円/月から7万円/月になる場合。この場合のコントラクションは10万-7万円=3万円になります。
❸ エクスパンション(Expantion)
アップセルにより、MRRが上がるケース。
例えば、契約プランが10万円/月から13万円/月になる場合。この場合のエクスパンションは13万円/月-10万円/月=3万円になります。
❹ 新規顧客
前月は有料顧客でなかったものの、今月から優良顧客となった場合。
具体的な今月のMRRの計算方法
先月MRRが100万円、チャーンが10万円、コントラクションが3万円、エクスパンションが5万円、新規が20万円の場合
MRR=100万円-10万円-3万円+5万円+20万円=112万円となります。
MRR 成長率
MRR = Monthly Recurring Revenue
一定の期間にMRRがどれだけ成長したかを測る指標。
特に、SaaSのようなストック型のビジネスにおいてはMRRの成長が事業拡大において重要視されます。また、企業価値算定ののベースともなるため、資金調達の目線からも常に意識しておく必要があります。
ARR
ARR = Annual Recurring Revenue
年間定額収益。
月間定額収益を12倍で算出するケースが多いが、単発的なサービスやコンサルからの収益は含めません。
ARRはMRRをベースに計算され、企業価値評価のベースとなるため、資金調達観点から経営レベルでは常に意識していくべきKPIとなります。
ARRの詳しいマネージメント方法に関して知りたい方は「ARR70億円を超えても解約率を改善できたユーザベースのKPIマネジメントとは」も併せて御覧ください。
CMRR
CMRR = Commited MRR
1年契約等、長期の契約により将来的に確約されているMRRのこと。
これは、確定しているMRRと、将来的な予測に基づいたMRRなのかを明確に分けるために使われています。
将来の売上達成の精度や、将来の目標達成のためには追加でどれくらいMRRを積み上げる必要があるか、を明らかにしてくれます。
ARPA
ARPA = average revenue per account
1アカウント当たりの平均収益を表します。
似たような指標としては、ARPU(average revenue per user)があり、こちらはアカウント数ではなく1ユーザーあたりの平均収益となります。
ARPAを会社単位、ARPUをその会社の従業員単位で計測する会社もあります。ARPAとARPUを見る際は、社内で定義づけしたうえでどのように指標を用いるかの共通認識を持つようにしましょう。
ARPU
ARPU(Average Revenue Per User)とは、1ユーザーあたりの平均収益を把握するための指標です。
ARPAと似ていますが、ARPAは1アカウントあたりの平均収益を把握するのに対し、ARPUは1ユーザーあたりの平均収益を把握することが特徴です。
企業の業績を評価する指標として、これまでは主に通信事業をはじめとした月額課金モデルのビジネスで利用されてきましたが、近年ではSaaSビジネスでも活用されています。
顧客集中度
顧客集中度とは、企業の収益が少数の顧客にどれほど依存しているか把握するための指標であり、一般的に、構成比率の上位を占める顧客からもたらされた収益の割合から算出されます。
数値が高い場合は、企業の収益のほとんどが少数の顧客から得られたということになり、リスクがあると判断できます。
顧客集中度は、企業の顧客基盤に関連するリスクレベルの度合いが把握できる指標のため、SaaSビジネスでは重要な指標の一つといわれています。
顧客月間成長率
顧客月間成長率とは、1ヶ月間の新規顧客の増加率を把握するための指標であり、一般的に割合として計測されます。
特定の月に増加した新規顧客の数とその月の開始時点の顧客数を比較することで算出できます。
顧客月間成長率は、新たな顧客を獲得するための企業の取り組みや成長の可能性を把握できるため、SaaSビジネスにおいて重要な指標の一つです。
ASP
ASP(Average Sales Price)とは、新規顧客が平均してどのくらいの収益をもたらしているか把握するための指標です。
1ユーザーあたりの平均収益を計測するARPUと似ていますが、ASPは新規顧客のみが計測の対象です。
ASPは月間や年間などに限らず、指定した一定期間内で計算・分析することも可能であり、営業活動が適切に行われているか判断ができます。
Quick ratio
一定期間に失ったMRRと獲得したMRRの比率。
MRRの成長率がビジネスの量的な成長を示すものであるのに対して、Quick Ratio はビジネスの成長の質的な健全性を示すKPIです。
Quick Ratioによって、ビジネスが健全かつ迅速に成長しているかどうかをみます。
計算式 (新規顧客MRR+エクスパンションMRR)÷(チャーンMRR+コントラクションMRR)
目標値 4%前後
SaaSビジネスにおける「効率性」に関する指標
ここでは、SaaSビジネスにおける「効率性」に関する指標を紹介します。
LTV
LTV = life time value / 顧客生涯価値
1人の顧客が、サービスを始めてから終わりまでの間に、サービス提供側にどれだけの利益をもたらすかを算出したものです。
顧客との継続的な関係の結果によってもたらされる利益なので、CRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)が成功するほど大きくなると考えられています。
補足
LTVの簡単な測定方法は、各顧客がすべてのアカウントで生み出した月ごとの収益を平均し、そのアカウントあたりの平均収入(ARPA)に顧客がサービスを利用した平均月数を掛けることで算出できます。
ARPAをリベニューチャーンレートで割ることで、同じ結果を得られます。
LTVを改善させるためには、ARPAを上げる、つまり、アップセルやクロスセルによる利用価格の向上、または、顧客満足度の向上により解約率を減らすことが求められます。いずれにせよ、カスタマーサクセスが機能することが求められています。
CVR
CVR(Conversion Rate)とは、目標とするコンバージョンを達成したユーザー数を把握するための指標です。
マーケティング活動の中利用されることが多い指標であり、Webページへのセッション数のうち、問い合わせや資料ダウンロード、見積もり依頼などの最終成果に至った件数の割合で算出されます。
CVRは、ビジネスの成果を評価するうえで欠かせない指標であり、SaaSビジネスを展開する企業で幅広く利用されています。
CAC
CAC = 顧客獲得単価
見込顧客を獲得するためのマーケティング費用や、見込顧客を実際の顧客にするための営業部門の費用、契約後に顧客におけるシステム利用を軌道に乗せる(オンボーディング)ためのコストなどの合計を獲得顧客数で割ったもので、1顧客を獲得するためにかかったコストです。
低いコストで顧客を獲得できたほうが利益は増大するため、企業はCACを下げる努力します。CACは、CPA(Cost Per Acquisition)またはCCA(Cost of Customer Acquisition)とよばれることもあります。
CAC Payback Period
CAC Payback Period = 顧客獲得コスト回収期間
CAC(顧客獲得単価)を利益で回収するのにかかる期間のこと。簡単に言うと、顧客1社獲得するのに投資した金額を、どれくらいの期間で回収できるのかということです。
期間が短いほど、セールスやマーケティングといった新規顧客獲得への投資の費用対効果が高いと言えます。キャッシュ・フローの適正化を目指す観点からも抑えておくべき指標です。
計算式 CAC÷( ARPA×売上総利益率 )
目標値 12ヶ月以内
ユニットエコノミクス
1顧客あたりの収益性のこと。さらにコストを投資して顧客数の増加を目指すのか、それとも収益性の改善を検討しないといけないのかといった経営判断に役立つ指標です。
将来的な成長性の判断の指標ともなるため、投資家の判断材料としても使われています。SaaSビジネスを長期的に続けていくには、CACよりも多くの利益を顧客から得る必要があるため、CACは各新規顧客から得られるLTVとも密接に関係しています。
計算式 LTV÷CAC
目標値 3倍以上
バーンレート
1ヶ月当たりでかかるコストを表します。
スタートアップであれば、収入が安定していない中で、事業拡大に向けて多くの資金を投入していく必要があるため、基本的にバーンレートは高くなります。
バーンレートは、純粋に総コストだけを見る場合(グロスバーンレート)と、総コストから収入を差し引きしたコストを見る場合(ネットバーンレート)がありますが、一般的にはネットバーンレートのことをいいます。
ランウェイ
SaaS業界に限らず、スタートアップでよく使われる指標です。
簡単に言うと、あと何ヶ月で会社のキャッシュが尽きるかを表し、会社の資金がなくなるまでに残された猶予期間です。資金調達をはじめとした資金繰りの把握として用いられます。
Magic Number
Magic Numberとは、企業がマーケティングやセールスに投資したコストに対して、どれだけの収益成長を達成したかを把握するための指標です。
Magic Numberを利用することで、企業が効果的に顧客の獲得・維持ができているか、最大限LTVを獲得できているかを簡単に確認することが可能です。
将来的な利益を考えながら営業・マーケティング戦略を策定、改善していくためにはMagic Numberは欠かせないといえるでしょう。
計算式 (今四半期の経常収益-前四半期の経常収益)×4/前四半期の営業マーケティングコスト
目標値 0.75以上
SaaSビジネスにおける「継続性」に関する指標
ここでは、SaaSビジネスにおける「継続性」に関する指標を紹介します。
CRR
CRR(Customer Retention Rate)とは、特定の期間内で顧客を維持する企業の能力を把握するための指標です。
算出される比率は、顧客がどれだけ長くサービスを継続して利用してくれているかを示し、製品の価値や品質、顧客満足度などを表します。
CRRは、競争相手との比較に使用することが可能であり、業界内での企業の位置づけや競争力を評価するのに役立ちます。
チャーンレート
SaaS型のビジネスモデルについては、いかにして解約率を下げることができるかが持続的な成長には欠かせません。
いくら営業力のある会社が新規顧客獲得を積み上げたとしても、満足できるサービスを提供できずに解約されることが多ければ、高いARR成長率を達成することはできません。
チャーンレートは、まだビジネスが始まって間もない場合にはまだあまり気にする必要はありませんが、顧客数が一定数増えた後は、解約数を減らすことの重要性は高まります。
たとえば、10,000人の顧客がいて、チャーンレートが5%だとすると、10,000人×5%=500人となり、これが1年間続くとすると、500人×12ヶ月=6,000人の解約数が出ることになります。顧客数を維持するためには、6,000人の新規顧客を取ってこなければならず、これを実現することは相当ハードルが高くなってしまいます。
チャーンレートには2種類あります。
❶ カスタマーチャーンレート
顧客数ベースでの解約率を図るための指標。一定期間に解約した顧客や、有料会員から無料会員へとダウングレードした顧客の割合を表しています。
計算式 月間の総解約者数÷前月末時点での総顧客数
目標値 月間1~3%(≒年間10~30%)
❷ レベニューチャーンレート
カスタマーチャーンレートが顧客数ベースでの指標であるのに対し、レベニューチャーンレートは収益ベースで算出するチャーンレートとなっております。レベニューチャーンレートはさらに2つに分かれます。
A.グロスレベニューチャーンレート
解約やダウングレードによる損失金額で算出したチャーンレートのこと。当月に獲得した新規顧客の収益は含まれません。
B.ネットレベニューチャーンレート
契約プランのアップグレードによるMRRを反映させたチャーンレートのこと。売上の全体把握や予測を測る場合にはこの指標を用います。当月に獲得した新規顧客の収益は含まれません。
ネガティブチャーン(Negative Churn)
ネットレベニューチャーンレートがマイナスの状態をネガティブチャーン といいます。
解約などによる収益の減少をアップセルやクロスセル等による収益が上回っている望ましい状態です。
計算式 ネットレベニューチャーンレート<0
目標値 0%未満
ネットリテンションレート(NRR)
売上継続率や、ネットレベニューリテンションレートともいいます。
既存顧客の売上が、前期間と比較してどれだけ増減したかを測ることで、翌期間の売上を推測するための指標として使われています。
計算式 (月初合計MRR+エクスパンションMRR-コントラクションMRR-チャーンMRR)÷前月末時点でのMRR
目標値 100~115%(アメリカの上場SaaS企業のNRRの中央値は117%と言われています)
AU
AU(Active Users)とは、実際にサービスを利用しているユーザーの数を明らかにするための指標です。
契約をしてもユーザーが休眠状態になっているケースも少なくなく、AU(Active Users)を用いることでどれほどのユーザーが自発的にサービスを利用してくれているのか把握できます。
SaaSビジネスを成長させていくためには、ユーザーに対してサービスの利用を積極的に促し、満足度を高めたうえでLTVの向上を目指すことが大切です。
NPS
NPS(Net Promoter Score)とは、顧客満足度とロイヤルティを測定するための指標であり、顧客がどれだけ自社製品・サービスを友人や同僚に推薦する可能性があるか示します。
顧客に対してアンケートを実施し、「あなたはこのサービスを他社におすすめしますか?」といった質問に対して、0~10の11段階で評価をしてもらうのが一般的です。
顧客体験の質と企業が成長する可能性を把握することが可能であり、業界内でのNPSを比較することで、競合他社との相対的な立ち位置を評価し、市場での競争力を把握することができます。
NPSは、SaaS企業が顧客中心のアプローチをとるうえで意義のある指標であり、企業が提供する価値の実感と顧客満足度の両方を継続的に評価することが可能です。
CES
CES(Customer Effort Score)とは、顧客が製品やサービスを利用するにあたって、どの程度の努力が必要だったかを把握するための指標です。
一般的に、ユーザーに対して「ストレスを感じた、ストレスを感じなかった」などの質問をし、その割合を算出します。
CESは顧客体験のフェーズごとに評価するため、製品やサービスのどの部分に対してストレスを感じているかが可視化できます。
TtV
TtV(Time to Value)とは、顧客が製品やサービスを利用開始してから、その価値を実感するまでにかかった時間を把握するための指標です。
顧客がはじめて成果を実感するまでの時間は、顧客満足度やエンゲージメント、リテンションなどに大きく影響します。
顧客の解約を防止するためにはTtVを短縮し、顧客が価値を実感するまでの時間を限りなく短くすることが重要であり、必要に応じて製品・サービスのブラッシュアップをすることが大切です。
平均継続月数
1社当たりの平均的な継続契約期間。
解約率が高いほど、期間は短くなります。「LTV= ARPU×(平均継続月数」 とも言えます。
KPIを設定するときのポイント
ここでは、KPIを設定するときのポイントを紹介します。
定量的なKPIを設定する
KPIは具体的な数値で設定することが原則であり、数値で計測できないものはKPIとして設定することはできません。
SaaSに限らず、営業目標を達成するためには、「訪問数」や「架電数」、「商談数」や「成約数」など、具体的な数字を常に意識することが重要であり、「数」や「時間」や「率」などの誰もが理解できるKPIを設定することが大切です。
たとえば、「なんとなく」で決めたKPIやリーダーの「さじ加減」で決めたKPIなどの主観的なKPIを設定してしまっては、メンバーに理解してもらうことは難しいです。
組織全員が共通した認識をもって目標の達成に向かっていくためには、数字に基づいた具体的、客観的、定量的なデータで認識をすり合わせる必要があります。
現実的かつ合理的なKPIを設定する
数字に基づいたKPIを設定したとしても、それが現実的かつ合理的なKPIでなければ、目標を達成することは難しくなります。
たとえば、親の介護や子供の送り迎えなどで日中の活動時間が限られる従業員に、朝から夜まで活動できる従業員と同じ目標を設定することは現実的ではないといえます。
また、経験年数が浅い従業員と長年営業として活躍するベテラン従業員と同じ目標にすることは、合理的ではありません。
一律でKPIを設定するケースも多いですが、すべての従業員が同じように動けるとは限りません。
自走できる従業員であれば、積極的に顧客にアプローチできますが、なかには促されないと行動できない、営業にまだ慣れていない従業員もいます。
そのため、KPIを設定する際はそれぞれの従業員が現実的に達成できる目標を設定することが大切です。
ただし、安易に達成できる「形ばかり」のKPIを設定してしまうと、緊張感がなくなり、誰もKPIを気に留めなくなるため、必ず意義のあるKPIを設定するようにしましょう。
営業モデルに合ったKPIを設定する
KPIを設定する際は、一般的なKPIだけではなく、ビジネスモデルに合ったKPIも設定するようにしましょう。
SaaSの営業では、チャーンレート(解約率)やユニットエコノミクスなど、特有の指標があります。
SaaSのビジネスモデルに合ったKPIを設定し、そのKPIを具体的にどのようにして達成するか考えることで、課題の改善と目標達成につながるはずです。
たとえば、チャーンレートを改善したいのであれば、過去に解約された契約の特徴を分析し、解約に至った原因を探ります。
分析の結果、「定期的な訪問ができていなかった」「利用状況の確認を怠っていた」などの原因が特定できた場合は、「1ヶ月に1回は訪問する」「定期的に利用状況を確認する」などのKPIを設定すると、解約率の軽減につながります。
KPIはビジネスモデルや企業によって最適なものが異なるため、自社の状況や事業目標に合わせて設定するようにしましょう。
SMARTを意識して設定する
KPIは分析と管理をするためのものであるため、各指標は「具体的」かつ「測れる」ものでなければなりません。
KPIを設定する際は、目標設定でよく利用されるフレームワーク「SMARTの法則」を使うと、より具体的かつ測れるKPIが設定できるようになります。
SMARTとは、以下のアルファベットの頭文字からとられています。
Specific(具体的・明確) | ・誰が見ても理解できる ・個人による認識の差がない |
Measurable(計測可能) | ・進捗度が測れる具体的な数値 |
Achievable(達成可能) | ・高い目標を掲げつつも達成可能な範囲 |
Related(関連性) | ・KPIとKGIがつながっている |
Time-Bounded(期限設定) | ・目標達成までの期限を決める ・いつまでに何をするか明確にする |
SMARTの法則を活用することで、実行可能で意味のあるKPIを設定し、それを効率的に達成するための道筋が立てられるようになるはずです。
ベンチマークとする数値について
SaaS系企業はリモートワーク化推進や、政府のDX推進を背景に、よりニーズが高まっています。アメリカでは時価総額上位100社中7社にSaaS企業がランクイン、国内においても、株式市場マザーズにおいては、時価総額の上位10社中6社がSaaS関連の企業となるなど、産業を取り巻く環境は良好といえます。
上場しているSaaS系企業においては、投資家向けに各種KPIを公表しているケースも増えてきており、その数値を一定のベンチマークとするのも一つの手です。
一方で、各社の開示が進む中で、KPIを他社と単純に横比較するケースも見受けられますが、サービスの顧客対象が大企業向けなのか、中小企業向けなのか、などの違いにより絶対値の水準は異なるため、一律的に比べることは必ずしも正しいとは言えません。
どちらかといえば、その企業のKPIが時系列でどのように変化をしているかなどに注目した方が、よりビジネスの動向を把握することができるはずです。
まずは上記に示した主なKPIについて、自社の実績値を算出していくことで足下数値を把握し、今後どのような成長曲線を描いていくのかに注目していくことをオススメします。
また、先人に学ぶということもあるでしょう。
ユーザベース社のCFOにモニタリングすべきKPI指標やどう伸ばしていくかなどを直接インタビューいたしました。
赤裸々に語ってくれていますのでユーザーベース社の強さの秘密を知りたい方は下記資料を参考にしてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて800社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKYホールディングス社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。