スマレジで設定されているKPIは?今後の展開と合わせて解説
2022.09.01
企業が事業を成功させるためには、KPIの設定が重要です。その際には、、自社に適切なKPIを検討する際に外部企業の事例を参考にすると良いでしょう。今回は近年クラウドPOSシステムなどでビジネスを成長させているスマレジで用いられているKPIについて見ていきます。
本記事では株式会社スマレジの事業内容や過去の業績、そして主なKPIを公開情報の中から整理して解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
スマレジをはじめとする成長企業は、「経営数値を使って事業の状況を客観的に見て、考え、意思決定して行動することが習慣化(仕組み化)しているという共通項があります。ですが、数値の見るべきところがわからなかったり、データが散らばっていて集約するのも一苦労というケースが多いでしょう。Scale Cloudでは、経営数値やKPIを簡単に管理できるツールからKPI設計・運用までサポートしております。
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スマレジの会社概要
スマレジの事業内容
スマレジは小売業等のレジ機能や在庫管理、売上分析などの機能を備えたクラウドPOSレジを主体として顧客のビジネスをサポートする複数のクラウドシステムを提供しています。その他にも、投資事業や企業のデータ活用・DX化推進に寄与するITクリエイティブ人材の育成事業、通販事業なども行っています。
- 販売データ プラットフォーム運営事業
- クラウドソリューション事業
- 投資事業
- ITクリエイティブ事業
- 通販事業
ここでは、それぞれの事業について詳しく見てみましょう。
販売データ プラットフォーム運営事業
販売データプラットフォーム運営事業では、クラウドPOSレジである「スマレジ」、飲食店の注文管理をサポートする「Waiter」の2つの製品を展開しています。それぞれのサービスについて見ていきましょう。
スマレジ
スマレジは2011年に販売を開始し、まだハード販売が主体だったPOS業界の中でいち早く本質的な価値が「店頭決済とその集約データ」にあると捉えて開発・改良が進められてきました。その後、多様な業種で要求される異なるニーズに対応しながら、小売店や飲食店、医療機関など幅広い分野で導入が進んでいます。
近年では、クレジットカードや電子マネーなどキャッシュレス決済への対応、リアルタイム売上分析、在庫管理、RFIDを用いた商品読み取りなど周辺機器や新しいテクノロジーへの対応を実現しました。
「スマレジ・アプリマーケット」と呼ばれるプラットフォームを介して、ユーザーはそれぞれの店舗に必要な機能をスマレジと連係させることも可能です。2022年4月時点で、法人パートナー数は576社、個人パートナー数は319名に上ります。
Waiter
飲食店のスマレジユーザーの要望から開発が始まったWaiterは、来店客の保有するスマホから注文ができるセルフオーダー機能を搭載し、効率的な注文プロセスと店舗のコスト削減を実現し話題になりました。
管理画面では入店状況や注文状況などをリアルタイムで確認できて、クラウド上で操作するため、場所や端末に捉われません。
Waiterは品質向上や新機能の搭載などのアップデートを頻繁に実施しており、現場スタッフの声を元に、2か月に1回程度の定期的なリリースによって使いやすさの向上を図っています。
クラウドソリューション事業
この事業では、企業の業務効率を向上させるための勤怠管理サービス「TIME CARD」と給与計算サービス「スマレジ給与計算」を提供しています。
TIME CARD
TIME CARDは、企業の勤怠管理に掛かる工数を削減するためのもので、こちらもスマレジ顧客からの要望を形にしたサービスです。
単に出退勤の記録だけでなく、勤怠情報を利用して休暇管理やシフト管理、休暇管理や日報管理など煩雑な人事業務をサポートします。さらに、記録時の顔認証などの本人認証、バーコードやGPS機能を用いた不正防止機能なども搭載されています。
スマレジ社では、全社員が本サービスを利用し、改善ポイントや新機能などの改善ポイントを開発にフィードバックして、他のユーザーの要望も合わせて定期的にアップデートするなど、ユーザーのことを考えて常にサービスの向上を目指しているのです。
2022年4月時点での登録店舗数は約11万、利用者数は214万人にも上ります。
スマレジ給与計算
多くの企業にとって、人事でもっとも工数の掛かる業務の1つは給与計算といえるでしょう。マニュアルでデータを入力すると、ミスが発生して効率を落としたり、法規制への対応に苦労したり、個人の明細書の作成や配布が面倒など、大変な点を挙げればきりがありません。
スマレジ給与計算サービスは、勤怠管理情報を元に従業員の給与を自動で作成可能です。これまでの給与計算に掛かるコストを約70%軽減するとされています。各種保険や税金計算もカバーされることでミスが減り、従業員はいつでも自分の給与や勤怠状況をチェックすることができるのです。
投資事業
スマレジ社のサービスとシナジー効果が見込まれる企業に対して、M&Aやスタートアップ投資を行うのが「スマレジVentures」です。
この活動を通してスマレジプラットフォームの成長を実現することで、スマレジを利用する顧客へのさらなる価値提供に貢献することが可能になります。スマレジ社はベンチャーキャピタリストやコンサルタント等などの専門人材を有しており、投資や協業によって事業をサポートしています。
ITクリエイティブ事業
事業の成功にはDX化が不可欠になりつつある現在、DX化を担う専門知識を持ったIT人材が慢性的に不足している社会的背景を元に、スマレジ社はIT人材を育成するクリエイティブ事業「Smaregi TechFarm」を展開しています。
これまで未経験、もしくはITエンジニアとしての経験が3年程度までの初級者向けのプログラムであり、派遣事業を通じて多様な業界のシステム開発現場に関与することで、エンジニアの成長を実現しています。
通販事業
通販事業では、オンラインストア「STORE STORE」を展開しています。STORE STOREは、POSレジのスターターキットを始め、必要な周辺機器やアクセサリーなどを販売しているサービスです。その他にも、店舗決済に必要なバーコードリーダーや非接触型ICカードリーダー、レシート印刷プリターやレシートロールなど、多種多様に取り扱っています。
スマレジの市場規模
POSレジ市場は小規模店舗から大規模店舗まで見ると非常に大きいですが、スマレジのターゲットセグメントは中規模店舗であり、約77万店舗あります。そのうちの38%のシェアを取ることを目標にしており、2022年4月時点でのシェアは約3.9%となっています。
中規模市場で38%のシェアを獲得すると、国内市場全体の14%のシェアを獲得することになります。
スマレジの業績推移
スマレジ社の売上高は、過去5年間でCAGR32.5%と順調に成果を挙げています。コロナの影響が社会的に大きかった2020年4月期と2021年4月期においても、売上高・営業利益共に前年度より高い数値を示しています。
2022年4月期の売上高が大きく伸長したした要因は、解約率が低く抑えられている一方で新規有料契約が増加したことや、大型案件の受注でクラウド関連機器販売が好調だったためです。
2022年4月期の営業利益が前年比でマイナスとなっていますが、これは中期経営計画に基づく将来に向けたS&M投資などが要因とされています。例えば、販売費・一般管理費は2021年4月期が約12億円程度だったのに対し、2022年4月期は20億円と約1.6倍となっていますが、これはCMなどのマス広告を活用した認知拡大やリード獲得を狙った施策によるものです。
今後の展開
コロナの影響が減少し、消費活動が活発化してきたことで、スマレジ社のサービスに対する高い需要が継続することが予想されます。2023年4月期の業績予想でも、売上高は前期比YoYで30.2%の伸び(43億円から56億円)、営業利益は+2.3%(6.4億円から6.5億円)、経常利益は+9.9%(5.9億円から6.5億円)となっており、成長継続が予想されています。
ただし、営業利益は中期計画に従った成長投資を継続する見込みであり、2022年4月期から3年間は減益の可能性も覚悟しているようです。
スマレジのビジネスでは、サブスクリプション契約による継続的な月間利用料などからの収益を最重要視しており、後述するARRを2021年4月期の20.7億から2024年4月期には約2倍となる50億まで伸ばす計画です。2022年4月期の目標は無事に達成し、順調に推移しています。
スマレジサービスへの社会的な強いニーズと時代に合ったソリューション、さらには認知度向上や契約数増加に向けた各種施策によって今後数年間は売上の成長は続くと予想されます。一方で投資は引き続き行われるため、営業利益については前期比マイナスとなる可能性もあります。いずれにしろ中長期的には成長が継続するでしょう。
広告宣伝への集中投下
近年スマレジ社は市場における認知度を向上させるべく、広告宣伝に積極的に投資しています。S&M(Sales and Marketing)に投資した金額は、2021年4月期は2.7億円だったのに対し、2022年4月期は8.2億円と大幅に増えています。
その結果、2022年4月に実施されたTVCM認知度調査において、TVCMの認知度は25%とYoYで7%上昇しました。23年4月期も継続してS&M投資を行い、サブスクリプション売上高の成長につなげるとしています。
アプリマーケット施策
スマレジ社では、スマレジ・アプリマーケットの拡充によって、スマレジの高機能化や幅広い業界への適応、また追加アプリ利用料によって顧客単価を向上させることを狙っているようです。
このプラットフォーム上ではデベロッパーがアプリを作成することも可能であり、Developers Expert認定制度もあります。2021年4月期に27個だったアプリの数は、2022年4月期には79個まで大幅に増加しました。
利用可能なアプリが増えることにより、これまで機能不十分で導入が少なかった業界にも進出でき、契約数の増加と顧客単価の増加が期待できます。
決済サービス
スマレジPOSサービスと高いシナジー効果が期待できる決済サービスを強化することで、収益拡大を目指しています。これまでも自社の決済サービスを有していましたが、2022年5月にロイヤルゲート社を買収し、新たに決済サービス「PAYGATE」とスマレジの連携サービスを開始しました。クレジットカードや電子マネー、QR決済などのキャッシュレス決済を1つの端末で処理できるようになっています。
この対応により、収益構造を端末売上から月額利用料などのサブスクリプション型売上にシフトさせ、顧客単価の向上を達成しようとしているようです。
スマレジ・タイムカード(HR事業)
スマレジ・タイムカードは上述した通り、スマレジ社でも導入されている勤怠管理システムですが、スマレジ事業から独立させてHR事業の新体制を構築することで、さらに成長を実現するとしています。
スマレジの主なKPI
これまで見てきたスマレジ社の主なビジネスモデルは、ユーザーから月間利用料等を徴収するサブスクリプション型です。機器販売などのように、一度購入したら終わりではなく、契約期間中は毎月課金が発生します。
収益を確実に伸ばすためには、新規顧客の獲得と同時に顧客の維持も重要になります。このサブスクリプション型のビジネス状況を正しく捉えているかをモニターするために、以下の3つの重要な指標について見ていきましょう。
MRR(Monthly Recurring Revenue:月間経常収益)
サブスクリプション型のビジネスモデルは月単位で契約することが一般的であるため、毎月発生する収益を表すMRRをチェックします。MRRは月間の数値ですが、それを12倍したARR(Annual Recurring Revenue: 年間経常収益)もよく用いられます。その算出式は以下の通りです。
- MRR = 顧客数 × 月間利用料金
- ARR = MRR × 12
スマレジ社は四半期毎の経常収支を公開しており、右肩上がりに順調に推移していることが分かります。2022年4月期末時点でのARRは29.2億円で、前年同四半期比40.6%の増加となっています。
MRRについては、「SaaSの主要KPI【MRR】とは?概要や計算方法を分かりやすく解説」の記事をご参照ください。
チャーンレート
チャーンレート(Churn Rate)は、サービスの解約率など顧客の離脱状況を示す指標です。新規顧客をどれだけ獲得しても解約率が高ければ安定的に成長を遂げることはできません。そのためMRRと同時にチャーンレートをモニターすることも重要です。
スマレジ社が公開している「解約率」はMRRチャーンレートで、既存顧客の月額使用料の中で解約によって減少した利用料の割合を示しています。
解約率は2019年からこれまで1%以下の極めて低い水準で推移し、サービス品質向上の継続的な取り組みも手伝って年々減少傾向を示しています。MRRの結果と合わせてみても月額利用料収入が安定的に増えていると判断できるでしょう。
チャーンレートについては、「SaaSの主要KPI【チャーンレート】とは?種類や目安を解説」の記事からご覧いただけます。
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクスは一般的には「1顧客当たりの経済性・採算性」を示す指標です。この指標を求めるための要素としてLTV(Life Time Value : 顧客生涯価値)とCAC(Customer Acquisition Cost 顧客獲得コスト)があります。
- LTV = 平均利用額 × 平均利用年数 × 粗利益率
- CAC = 顧客獲得コスト/新規獲得顧客数
LTVは1顧客から得られる生涯収益を表し、CACは新規1顧客を獲得するために費やすコストを表します。ユニットエコノミクスはLTVをCACで割ることで算出可能です。
2022年4月期のスマレジの各指標の結果を見るとLTVは約70万円で前期比YoYで-8.49%、CACは約23万円で前期比YoYで+137.4%となっており、その結果ユニットエコノミクスは前期比YoYで-61.5%となっています。
ユニットエコノミクスについては、「SaaSの主要KPIと【ユニットエコノミクス】とは?計算方法や目安を紹介」の記事で解説しています。
まとめ
スマレジ社は早い段階から店舗決済やその集約データの価値に気付き、高機能なクラウドPOSシステムを開発してきました。社会ニーズを確実に捉え、コロナ禍においても順調に新規契約を獲得し売上を伸ばしているようです。さらに、将来に向けた成長投資を着実に実行し、ビジネスを順調にマネジメントしています。
現場主義で顧客の声を聞き、高頻度で改良を重ねてきたことで品質や信頼も向上し、解約率を低く抑えています。そして、これらの状況を示すKPIをモニターすることは、サブスクリプション型のビジネスでは非常に重要です。細かく公表しているスマレジ社は透明性が高く今後も成長が期待できます。
監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。