シリーズAって何?投資ラウンドから資金調達方法まで詳しく解説
2022.06.15
資金調達における「シリーズA」という言葉をご存じでしょうか。シリーズAは資金調達の段階を指す言葉の1つで、比較的アーリーな段階の資金調達です。
サービスの提供を開始しており、そのサービスのPMFが確認できてまさにこれから成長速度を上げていこう、という段階のシリーズA。今回はそのシリーズAについて詳しく解説していきます。シリーズAの資金調達のポイントや主な資金調達方法などを紹介していくので、ぜひ参考にしてみてください。
シリーズAは投資ラウンドの1つ
シリーズAは、企業が投資を受ける段階を指す投資ラウンドの1つです。では、そもそも投資ラウンドとは何なのでしょうか。ここではまず、投資ラウンドについて解説します。
そもそも投資ラウンドとは
企業が事業を行い、成長していくためには運転資金が必要です。事業がすでに黒字化しており、その利益分で運転資金や成長資金を確保できれば良いのですが、設立したてのスタートアップなどは特に、常にその資金を社内で確保できるわけではありません。
そういった際に、企業は資金調達という選択肢を取ることになるわけですが、資金調達にはその規模感や企業・事業の状態に応じて目安となる段階があります。
その段階を投資ラウンドと呼んでおり、一般的には下記のように進んでいきます。
- エンジェル/シード期
- シリーズA
- シリーズB
- シリーズC
場合によってはシリーズD/Eと続いていくケースもあります。
エンジェル/シード
最初期にあたるエンジェル/シード期は、まだ製品がないアイディア段階〜製品・サービスをリリースする段階にあたります。
提供する製品がまだない状態ですから、企業としての売上も立っていないことが多く、製品の開発費や、創業期の運転資金の用途で資金調達を行うことが多いようです。
企業規模も創業者と数人〜10数人程度であることが多く、資金調達の規模感としては数千万円〜1億円強が相場となっています。
シリーズA
今回主に解説するシリーズAは、エンジェル/シード期の次のフェーズです。事業フェーズ的には、製品のリリースが完了しており、PMFが達成されている状態付近である状態を指します。
PMFはプロダクト・マーケット・フィットの略で、自分達の提供する製品が顧客の課題を解決する価値あるものであることが証明されており、自分達の製品を求める市場が存在することが明確になっている状態のことです。
端的にいうと「適切なターゲットに製品が売れている」状態が達成できているといえます。
適切なターゲットに製品が売れているのであれば、製品の生産数を増やして販促を強化していけば、いよいよ企業として本格的に売上を伸ばしていくことができます。
シリーズAの資金調達は1億〜5億円ほどが相場で、その費用を用いてマーケティング等を強化していくことが多いようです。
シリーズB
シリーズAの次がシリーズBの資金調達です。
シリーズAで得た資金から売上・シェアを堅調に伸ばしており、一定のマネタイズが実行できている状態で、さらに資金を投下して成長速度を上げていくために実行される資金調達がシリーズBです。
新規市場開拓や顧客単価アップを目的として、さらなる機能開発のための費用にあてたり、さらに大規模なマーケティングを実行するための費用にあてたり、それらを推進する人件費にあてたりなど、企業としても一気に規模が大きくなっていくタイミングです。
相場としては5億円〜数十億円の規模で調達されています。
シリーズC
上場も見据えるレイターステージの資金調達がシリーズCです。
シリーズBで投下した費用からさらに追加で開発・マーケティング費用を調達するケースもあれば、新規事業を開発して新たな顧客層を狙ったり、既存製品との相乗効果を狙うケースもあります。
上場準備のために企業としての体裁を本格的に整えるフェーズでもあり、規模感としては数十億円規模になります。
シリーズAの資金調達のポイント
それぞれのステージごとの特徴を紹介したところで、次にシリーズAの資金調達のポイントについて紹介していきます。調達に適した時期や調達金額の目安などを紹介するので、見ていきましょう。
調達に適した時期
シリーズAの資金調達は、上述の通りPMFを達成したタイミングで行うのが一般的です。PMF前に資金調達をしようとしても、成長性が見えづらいので資金調達の規模が小規模になってしまいますし、PMFから間があきすぎても、せっかくPMFしているのにマーケティングの強化ができずに成長が鈍化してしまいます。
PMFを達成できたらなるべく早期にマーケティング等に費用を踏み込めるよう、資金調達するのが良いでしょう。
また、エンジェル/シード期〜シリーズAの間に製品リリースが行われているという点に注意が必要です。製品がリリースされると、さまざまな固定費が増えたり製品の原価が発生したりと、リリース前よりもかかる費用が増えることがよくあります。
そのため、リリース前には次回シリーズAの資金調達タイミングは見据えておく必要があり、リリース後に焦って動き出すことがないようにしておきましょう。
調達金額の目安
シリーズAでは、1億〜5億円ほどの調達が相場です。当然のことではありますが、この資金を何に活用するかは事前に考えておきましょう。
シリーズAで資金調達したものの、思ったよりも事業成長ができなかった、ということになれば、次のシリーズBの資金調達の難易度が上がります。PMFが達成できている状態で、次に何に費用を割くべきなのかを考え、適切な用途で適切な金額を調達しましょう。
そのためにはマーケティング戦略を構築しておく必要があります。
さらなるPMFや、顧客単価アップを狙って追加でどのような機能・製品を開発する必要があるか、販促・プロモーションにはどういう方法があって何が有効そうなのか、といった部分にあたりをつけておくと良いでしょう。
シリーズAの主な資金調達方法
シリーズAの資金調達のポイントについて把握したところで、具体的に資金をどこから調達すべきなのかを解説します。資金調達方法には主に3つの種類があるので、1つずつ紹介していきます。
- ベンチャーキャピタル
- エンジェル投資家
- 金融機関
それぞれ見ていきましょう。
ベンチャーキャピタル
まず1つがベンチャーキャピタル、いわゆるVCです。ベンチャー企業に出資する投資ファンドをVCと呼びます。VCは出資した企業の株式を受け取り、出資先の企業が上場やM&Aを行った際に保有株式の売却を行うことで利益を出しています。
ベンチャーキャピタルから投資を受ける際は、高い成長性とその実現可能性が重視される傾向です。
ベンチャーキャピタルにはいくつか種類があり、金融機関系・事業会社系・独立系などがあります。アーリーフェーズから投資するVCなのか、レーターフェーズで投資することの多いVCなのかなど、投資実績を調べた上で、シリーズAへの投資実績の多いVCに相談すると良いでしょう。
エンジェル投資家
シリーズAはエンジェル/シード期に続き、エンジェル投資家からの投資も選択肢に上がります。エンジェル投資家とは企業としてではなく個人で投資を行っている方のことです。
エンジェル投資家は過去に起業・経営を行い、上場や企業売却を経験した方が多く、そういった方から資金を調達することで、さまざまなアドバイスをもらえるのも魅力の1つです。
シリーズAの資金調達が完了するといよいよ採用も本格的にスタートし、企業規模が大きくなっていきます。経営で直面する課題もそれよりも複雑になっていくので、そういった時にアドバイスを求められるのは良いですね。
金融機関
ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家に株式を譲渡することによって資金を調達するエクイティ調達に対して、金融機関などから資金を借りることをデット調達といいます。
金融機関から融資を受ける場合は、エクイティ調達と違い、返済する義務が発生する一方で、株式を譲渡するわけではないので経営に対して口を出されるリスクがないメリットもあります。
シリーズAにおいては、政府系金融機関である日本政策金融公庫から融資を受けるケースも多いようです。日本政策金融公庫から融資を受ける場合は、金利を低くおさえられるのが魅力で、返済期間も民間と比べると猶予があり、有利な条件での借入が可能というメリットがあります。
資金調達を成功させる方法とは
最後に、シリーズAの資金調達を成功させる方法を4つ解説します。
- 資金の余裕があるうちに動く
- 達成できる事業計画を立てる
- 複数の投資家に話を聞く
- 投資家に伝えるべき内容を決めておく
順番に見ていきましょう。
資金の余裕があるうちに動く
まず、先ほど書いたこととも重なりますが、資金調達は資金に余裕があるうちから早めに動くようにしましょう。
エンジェル/シード期〜シリーズAの間には製品のリリースなどあり、エンジェル/シード期に資金調達をした当初からは想定していなかった費用がさまざま発生する可能性があります。「思ったよりも早く資金がショートしそう」といったことにならないように、早めに動いておきましょう。
また、資金調達の動きがギリギリになってしまい、資金ショートが目前に迫っている状態では事業や資金調達の条件にも悪い影響を出してしまいます。
資金調達に動いているあなただけでなく、周囲の従業員にとっても不安な状況ですし、思うように資金を投下できない状態では事業成長にも影響が出てしまうかもしれません。資金調達は早めに動くというのを覚えておきましょう。
ただし、早めに動くといってもPMFしていない段階で資金調達に動いたり、PMFしていないのにしていると言い張るのは逆効果です。
前ラウンドの資金調達で余裕を持った資金計画をしておくことも重要で、無理のないスケジュールで事業成長と資金調達を両立できるようにしておきましょう。
達成できる事業計画を立てる
資金調達をする上で、自社の今後の成長性を示すことは必要不可欠です。当然成長性とその実現可能性が高いほど調達できる資金も大きくなるわけですが、とはいえ到底達成できないような無理な事業計画を立ててはいけません。
シリーズAを調達することがゴールではなく、調達した資金で次の成長につなげていくことが必要ですから、達成できない事業計画を作ってその後未達を続けていてはそれ以降の資金調達に影響が出てしまいます。
PMF直後でまだまだ成長曲線がはっきりとは計算できない難しい時期だとは思いますが、現実的な事業計画を立てるようにしましょう。
複数の投資家に話を聞く
シリーズAに限った話ではありませんが、資金調達時は複数の投資家に話を聞くようにしましょう。1人目に会った投資家と意気投合して、早期に資金調達を終えられそうと思っても、その後何人かは話を聞いてみることをおすすめします。
シリーズAはアーリーフェーズで、まだまだ先が長い段階です。シリーズAで投資してくれた投資家とは、今後何年にも渡って付き合っていくことになるわけなので、投資家のビジネスにおける得意領域や人間性はしっかり確認しておくと良いでしょう。
投資を受けたものの、投資家との相性があまり合わないと感じてしまうと、その後の関係性がうまくいかなかったりします。
投資家に伝えるべき内容を決めておく
複数の投資家に会う場合も、なるべく伝える内容は事前に決めてある程度統一しておきましょう。
投資家とのやりとりを重ね、さまざまな質問回答や議論をしていく中で、それぞれの投資家に提供している情報が異なっていると、誰に何を伝えたかわからなくなり、情報に格差が生まれたり齟齬が生まれる可能性があります。
シリーズAの資金調達で投資家に伝える内容はの例は下記の通りです。
- 会社設立背景や創業の思い
- 代表者のプロフィール
- サービス内容
- 市場規模・顧客が抱えるペイン
- サービスが顧客に何を提供しているか
- 競合との違い
- 経営陣・組織
- 会社のビジョン・今後の方向性
- 直近の成長戦略と必要な資金
最低限でも、これらの内容は用意しておくようにしましょう。最初に用意しておけば、複数の投資家と会っていく中で受けたフィードバックを元に、どんどんブラッシュアップしていくことも可能です。
各投資家で気になるポイントはさまざまですが、投資家として気になる共通項のようなものもあるので、何人かと話す中でトークを洗練していくと良いでしょう。
まとめ
シリーズAはいくつかある投資ラウンド(段階)の中で、エンジェル/シード期の次にくるアーリーステージの資金調達です。事業のフェーズとしてはPMF達成直後で、企業のフェーズは数名〜10数名。シリーズAの調達をすることでマーケティング・開発にかけられる費用が増え、企業の従業員数も増えていく重要な時期です。
今後の事業成長の行く末を決めるとても重要な調達ラウンドなので、慎重にかつ早期に準備を進めておきましょう。シリーズAの資金調達の準備について、さらに詳しく知りたい方は、下記の資料も参考にしてみてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。