メトリクスとは?KPIとの違いやメトリクス管理の方法を紹介

2022.06.14
メトリクスとは?KPIとの違いやメトリクス管理の方法を紹介

メトリクスは、測定や基準、尺度を意味する英単語”metric”の複数形です。近年では、主にソフトウェア開発やビジネスにおいて活用されています。 今回は、メトリクスの意味やKPIとの違い、メトリクス管理を行う上での目的や注意点について解説していきます。「メトリクスについて知りたい」「メトリクス管理を業務プロセスに取り入れたい」「プロジェクトをデータドリブンに進めたい」という方は、ぜひ参考にしてみてください。

メトリクスとは

メトリクスとは、さまざまな活動を定量化し、その定量化したデータを分かりやすく加工した指標です。活動や成果物をデータとして見えるようにした上で、それに計算や分析などの加工を加えて数値に変換した状態を指します。

「メトリクス管理」は、この数値化したメトリクスを見ながら業務や工程を管理することです。

KPIとの違い

KPIと似たような文脈で語られることも多いメトリクスですが、メトリクスはあくまで定量化されて分かりやすく加工された数値・指標を指すため、KPIのように重要指標としてピックアップされているわけではありません

メトリクスのうち、ゴールを達成するための重要指標であると認識されたものがKPI(Key Performance Indicator)として設定されます。

メトリクスの種類

メトリクスには大きく分けて下記の2種類があります。

  • ソフトウェアメトリクス
  • バイオメトリクス

種類ごとに解説していきます。

ソフトウェアメトリクス

スタートアップ界隈で語られるメトリクスは大抵こちらの種類なのですが、ソフトウェアメトリクスはソフトウェア開発におけるソースコードの品質を定量的に評価することや、その際の評価手法・基準などの体系のことをいいます。

コードの規模や複雑さ、関連する要素の散らばり具合を示す凝集度、クラスやパッケージの独立性の高さを示す結集度などを専用のツールを使って計測することで、一定の目標を定めてコードを改善していくことが可能です。

バイオメトリクス

バイオメトリクスは、生物上のメトリクスです。主にセキュリティ分野で活用される概念で、指紋や眼球の虹彩、声紋など身体的特徴を数値化し、本人確認を行う認証に活用されます。

暗証番号やパスワードなどの人間が設定する方式に比べて、なりすましの難易度が非常に高いです。安全性が求められる施設の入退館システムや金融機関の本人確認、スマホ端末のロック機能などに用いられている傾向です。

今メトリクスが注目されている理由

ITの発展によって、昔と比べて取得できるデータの量が圧倒的に増えてきています。開発やビジネスを円滑に進める上で計測しておくべきメトリクスが増加傾向にあるため、昨今特にメトリクスの注目度が上がるようになりました。

優れたメトリクスは、企業の戦略や事業計画達成を後押しするものです。戦略や事業計画達成は大抵が結果指標・遅行指標となっており、さまざまな要素が絡み合った結果、最終的に達成できるかどうかが決まります。

そのため、常日頃開発やビジネスを進める上では、その道標となる指標が別に存在したほうが業務を進めやすく、進捗が良くなります。とはいえ、その指標が戦略や事業計画と全く関係のないものであれば当然意味がなく、指標は日々達成しているのに最終的な戦略・事業計画は達成できなかったということになりかねません。

戦略や事業計画に紐づいたメトリクスを設定し、日々メトリクスを注視しながら順調に推移するよう行動をしていけば、最終的に戦略・事業計画が達成できるという状態を作ることが可能です。

また、SaaS業界では、ビジネスにおいてもメトリクスが頻繁に活用されています。特に、SaaSビジネスは営業プロセスに分業制を採用していることが多いため、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスがそれぞれのKPIを追う体制になっている傾向です。

  • リード獲得
  • 商談獲得
  • 契約獲得
  • 更新

このように、売上を構成するKPIを分解して、さらにそのKPIを達成するために必要なメトリクスを設定し、細かく進捗を把握していきます。

別サービスであっても、同じSaaSであれば他社のメトリクスの数値を参考にできることも多いです。業界内でさまざまなイベントや情報交換の場でメトリクスに関する議論がなされているのも盛り上がっている1つの理由といえます。

メトリクス管理とは

次に、メトリクス管理について解説します。先ほども少し触れましたが、メトリクス管理は、メトリクスを元に業務や工程などのプロジェクトを管理していくことです。

例えば、実装された機能の数というメトリクスを計測可能にして、それを横軸に日付データを取得して管理すると、いつどの程度の数の機能をリリースしたかがぱっと見で分かるようになります。

リリース機能数が落ちていたら開発の効率や速度が下がっている可能性があるため、そこからエンジニアのリソースや直近の進捗についてさらに深堀をしていくと良いかもしれません。

メトリクス管理を行う目的

メトリクス管理を行うことで、中長期にわたる業務を戦略や事業計画に沿って進めることが可能となります。

例えば「今日1日でこの作業を終わらせなければならない」というタスクがあったとすれば、特にメトリクス管理をしなくとも終わりが見えており、順調にタスクをこなせるかもしれません。しかし、「1年後にこういう状態になっていたい」というような将来像があったとして、そのために今日明日何をすべきかを見つけて順調に進めるのはなかなか難しいものです。

何かしら手をつけたとしても、それを進めれば本当に1年後になっていたい状態に到達するのかもよく分からないまま進めることになってしまいます。

そういったときにメトリクス管理が有効です。メトリクスは、最終的に得たい状態、戦略、事業計画などから落とし込んで、目の前の可視化したい情報を考えます。その結果、メトリクスが正常になるように日々の業務をこなしていけば最終的に1年後に得たい状況に到達できるようになるのです。

もちろん最初に作ったメトリクスが不十分だった、方向性が変わってきた、ということも十分にあり得るため、柔軟に変更・運用していくことも重要です。

メトリクス管理の手法

では、メトリクス管理を行う流れを見ていきましょう。メトリクス管理は、下記の流れで行っていきます。

  • プロジェクトを可視化する
  • 基本メトリクスセットを測定する
  • 2つの軸で進捗状況を管理する

順番に見ていきましょう。

プロジェクトを可視化する

まずは管理すべきプロジェクト全体のうち、どこを測定していくべきかを考えて可視化します。プロジェクトの最終的なゴールから逆算して考え、プロジェクトの途中経過・中間地点が何かを考えると良いでしょう。

その途中経過や中間地点となる指標をメトリクスとして可視化していき、さらにその中間地点、というようにどんどんプロジェクトを細分化していきます。

メトリクスは目の前の業務に落ちるまで細分化するのが理想的で、プロジェクトが達成されるまでにどういう要素が絡み合い、どういう順番で実行されると良いのかを考えながら、メトリクスに落とし込んでいくと良いです。

基本メトリクスセットを測定する

次に、プロジェクトの進捗管理を行うために基本メトリクスセットを測定していきましょう。「そもそも基本メトリクスって何?」という方のために、基本メトリクスについて下記の見出しで解説していきます。

基本メトリクスとは

基本メトリクスは、工数、作業要素、作業成果物、不具合・課題という4項目で構成されます。

工数はプロジェクトメンバーが各々の作業に費やした時間を測定したもので、人的資源が有効活用されたかを表す指標となります。

作業要素は、プロジェクト遂行に不可欠な1つ1つのタスクです。作業ごとに着手日や完了日を決めておくことで、プロジェクトが順調に進行しているのかが分かるようになります。

作業成果物はプロジェクトを通してできるアウトプットのことです。最終的に目指すゴールともいえるため、それに向かって作業要素が設定されます。

不具合・課題はプロジェクト中に発生しうる不具合や課題などのマイナス要素です。こちらも計測可能にしておかないと、ゴールを目指す間に損失を被ることとなってしまいます。

2つの軸で進捗状況を管理する

基本メトリクスが測定できるようになったら、次に行動軸と成果軸の2軸でメトリクスを管理していきます。メトリクスは2種類に分類することができ、それが行動軸のメトリクスと成果軸のメトリクスです。

行動軸はメンバーの行動に関するメトリクスで、基本メトリクスでいうところの工数や作業要素がこれにあたります。一方の成果軸は、行動ではなく行動の結果として得られるものです。基本メトリクスにおける作業成果物と不具合・課題などがこれにあてはまるでしょう。

メトリクス管理で失敗してしまう原因は?

最後に、メトリクス管理でよくある落とし穴を解説します。メトリクス管理をこれから実行したいという方はこれらの点に注意して、失敗しないようにしてください。

データが揃っていない

まず1つ目の原因が、必要なデータが揃っていないことです。これは可視化するメトリクスを検討する際に、必要不可欠だったデータが検討から漏れてしまっていることで起こります。

メトリクスが揃っていないと、メトリクスが最終的な成果物と連携していなくなっていることがあり、「今見えているメトリクスは順調なのに、最終的な成果物は厳しそう」という事態になりかねません。

そのため、必要なメトリクスがすべて洗い出せているかは最初に確認しておきましょう。現状見えているメトリクスが全て順調に行った場合に得たいものが得られるのか、抜け落ちている観点がないかを考えると良いでしょう。

問題の透明化を恐れている

メトリクスを細分化していくと、実際に業務を実行するメンバーの中には、全ての行動や成果が数値化されることをあまりよく思わない人もいるかもしれません。特に、パフォーマンスに自信のないメンバーにその傾向が多いです。数値化されることによって周囲からの目が厳しくなるのでは、という恐れを持っている人もいるのでしょう。

これについては、メトリクス化する目的や利用意図を事前にしっかりと伝えておくと良いでしょう。メトリクスを見てメンバーに対して評価をすることが目的ではない、ということが伝われば、透明化に前向きになってくれる可能性もあります。

分析のタイミングが遅い

メトリクスを可視化したとして、実際にそれを分析して改善に着手するまでの時間が長くなってしまっては意味がありません。リアルタイムで数値を見えるようにした以上、できる限りリアルタイムで改善も行って初めて可視化の効果が出るようになります。

また、不具合・課題のメトリクスは早急に対処しなければ、プロジェクトやアウトプットの品質にも大きく関わってくる問題になってきます。メトリクスはなるべく早期に分析され、改善に向けて動けるようにしておくことが理想です。

逆にいうとメトリクス管理においては、その業務・工程の改善業務も発生する前提で、最初にプロジェクトメンバーをアサインしておくのも良いでしょう。

工数に負荷がかかる

メトリクスを細分化しすぎた結果、その集計・分析に工数がかかりすぎてしまうケースもあります。

正確なメトリクスを計算するために専用のテクノロジーが必要だったり、特別なスキルが必要だったりすると工数的な負荷も高くなり、メトリクスを集計するだけで相応のコストを払わなければいけなくなってしまうのです。

また、工数負荷の高いメトリクスは運用コストも高く、いつの間にか運用できなくなってしまったり、欲しいタイミングでリアルタイムの結果を得ることが難しくなってしまうかもしれません。

メトリクスの可視化については、バランスを見ながらどう集計・分析するかを考えておきましょう。もちろん正確な数値を可視化できるのが理想的ではありますが、工数的にどうしても難しい場合はセカンドベストとして工数負荷を減らして多少正確性に欠ける数値で妥協することも検討してみましょう。

まとめ

メトリクスは中長期にわたるゴール・戦略・事業計画を実現する上で、手元の道標となる非常に重要な概念です。しかし、メトリクスの設定を間違えると、順調に見えたプロジェクトが蓋を開けてみたら全く違う方向に走っていたということにもなりかねません。メトリクスは最初の設計が重要なので、得たいゴールから逆算して適切なメトリクス設計を心がけましょう。

メトリクスの他にも、企業ではさまざまな指標に注目しなければいけません。企業が注目すべき指標についてさらに詳しく知りたい方は、下記の資料をご覧ください。

監修者

広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長

プロフィール

京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。

公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。

成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。

講演実績

株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。

論文

『経営指標とKPI の融合による意思決定と行動の全体最適化』(人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会)

特許

「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)

アクセラレーションプログラム

OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。

取材実績

日本経済新聞、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ、週刊ダイヤモンド、Startup Times、KANSAI STARTUP NEWSなど。

著書

『飲食店経営成功バイブル 1店舗から多店舗展開 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』(合同フォレスト)

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