ラクスで重要視されているKPIとは|公開情報と合わせて解説
2022.08.03
ラクスの会社概要
ラクスの事業内容
ラクス社は日本の労働人口の減少や働き方改革で課題となる生産性向上を目指して小規模から大規模まで幅広い企業をサポートしています。その主な事業は以下の2つです。
- クラウドサービス
- IT人材技術支援
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
クラウドサービス事業
ラクス社の主要事業の1つが、企業を運営する上で欠かせない社員の勤怠管理や費用精算などの業務を支援するクラウドサービスの開発です。その他、マーケティングや販売部門を対象とした販売管理システム、コールセンターや顧客対応をサポートするCRMシステムなども提供しています。
これらのサービスは単体のPCや社内サーバーにインストールして利用するのではなく、ラクス社の保有するサーバー上で構築されたシステムを利用するため、webブラウザの操作のみで完結します。
そのため、高コストの設備投資や高度で複雑なメンテナンスを自社で行う必要はありません。費用も月単位で課金されるサブスクリプション方式で、小規模な企業であっても利用しやすいサービスです。
また、自社で巨大なサーバーや基幹システムを保有する大企業であっても、日々肥大化するデータの取り扱いに苦労するケースも増えています。そういった事情から、自社でシステム自体を管理する必要のないクラウドサービスに魅力を感じる企業も多いようです。
ここでは、ラクス社が展開しているクラウドサービスの中から、特に主要な以下の3製品を紹介します。
楽々精算
本サービスは、その名の通り経費の精算システムです。これまでの精算業務における紙やExcelでのマニュアル入力では人為的なミスが起こりやすく、作成や承認などのプロセスも非常に煩雑になりがちでした。しかし、本システムを導入することで手作業の工数が減るのと同時に作業ミスも減り、100名規模の企業では約80%の作業時間と65%程度の費用削減を図れるのです。
楽々明細
本サービスは日々の取引で発生する請求書や納品書などの帳票の発行・管理業務をサポートするシステムです。紙媒体に印刷したり発送準備をしたり、非常に手間の掛かる作業を電子化し、帳票をwebで発行することで業務を効率化させます。作成作業はもちろん、郵便局へ出向いたり再発行の依頼を受けることもなくなり、工数やデータ管理の削減と作成スピードアップの実現が可能です。
楽々販売
本サービスは、企業活動全般で業務を標準化、もしくは効率化する目的で利用される柔軟性の高いデータベースです。製品を販売する際は、さまざまな段階で膨大なデータを取り扱います。顧客管理や部品や製品の受発注、材料の仕入れや製造・出荷、また在庫管理など企業活動全体で膨大な作業プロセスとデータの管理が必要になるのです。
これまで、個人や部門ごとに紙やExcelファイルなどを用いて処理していた情報を1つのデータベースで管理し、組織横断的に利用可能にすることで無駄な作業を減らし、業務効率を改善します。
IT人材事業
ITの発展によってビジネスで取り扱われる情報やノウハウは電子化され、SNSや顧客のスマートデバイスからは日々膨大なデータが生み出されるなど、現代では電子化への適応が成長の鍵といえます。
ラクスはIT関連スキルを保有した人材を紹介することで、特にITプロフェッショナルのいない企業へのサポート提供なども行っています。具体的には、ラクス社のITエンジニアが派遣先の企業に常駐し、必要な支援をいつでも提供できる体制を整えているのです。
派遣されるエンジニアは近年需要の多いAI領域、IT化で益々重要性を増すweb領域、サーバー保守やクラウド環境整備、メーカーの品質テストの自動化などに対応できる幅広い専門人材を有しています。今後の社会において、さらに成長が期待されるサービスの1つです。
ラクスの市場規模
ラクスのクラウドサービスは、複数の製品で高いシェアを獲得しています。楽々精算は10,000社以上、楽々明細は4,000社以上の導入実績があり、楽々販売もITトレンド年間ランキング2021で1位を獲得するなど、年々実績を拡大させているようです。契約先の業界も物流、商社、金融、小売、教育、製造、IT、交通、人材紹介など多岐にわたっています。
クラウドサービスとIT人材事業は、ともに小規模から大企業までをカバーすることが可能です。働き方改革やデジタル化の推進、スマートデバイスのさらなる普及といった社会情勢を鑑みると今後さらに需要が高まることが予想できるでしょう。
ラクスの業績推移
売上高は右肩上がりで毎年伸びており、順調に推移しています。この調子で進んでいけば、来年以降も好調な数字が見込まれるでしょう。
今後の展開
デジタル化が一層進むことが予想される今後は、リモートワークや柔軟な勤務時間に代表されるような働き方改革も進み、企業のさらなるIT化や業務効率の改善が求められるのは間違いないでしょう。
そのような環境の中、コストを低く抑えられる、かつ新しい働き方に適合しやすいクラウドを利用した業務ツールは企業規模に関わらずさらに普及することが予想されます。
また、IT化が進んだ社会においてAIやデータを活用した企業運営はますます重要となりますが、デジタル情報を活用するための環境を構築するには、ITやデータ処理の専門家によるサポートが不可欠です。その点を考慮すると、ラクスが保有する人的リソースは幅広い領域で高いニーズがあり、今後も継続した収益拡大が期待できます。
今後の展開
ラクスで公開されているKPI
上述したように、ラクスのサービスはこれまで順調に伸びてきています。また、売上を毎年伸ばす一方で、事業拡大を見据えた投資も積極的に行われているようです。そこで、ここからはビジネスを適切にマネジメントしているラクスがどのようなKPIを利用して自社の状況を捉えているかを見てみましょう。
- キャッシュフロー
- 広告宣伝費
- 一株利益(EPS)
ここからは上記3つの指標を説明します。
キャッシュフロー
企業の経営状況を判断するためには、期初と期末時点の経営指標の確認だけでは不十分で、会計期間における現金の流れ(キャッシュフロー)も重要視されます。それによって、財務的に適切な企業活動ができているのかを確認できるのです。
企業のキャッシュフローを見る際には、一般的に以下の4つの観点で示されます。
営業キャッシュフロー
材料の仕入れや売上など、本業での支出と収入の流れを示しています。営業キャッシュフローがプラスであれば、安定的にキャッシュが流れ込んでいる状態なので好ましいです。逆にマイナスの場合には支出の方が大きいため、マイナスが「長期的」に続く場合は倒産リスクが大きくなります。
投資キャッシュフロー
投資キャッシュフローは、本業ではなく将来に向けた設備投資や不動産売買、株などへの投資活動におけるキャッシュの流れを示しています。本業がうまくいっているときは多くのキャッシュが手元にあり、将来への投資に回すことが可能です。
そのため、この数値はマイナスであることが望ましいとされます。逆にプラスである場合には、資金繰りに困って資産を売却して対応している可能性もあるため、注視する必要があります。
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローは名前の通り企業が自由に使える現金を表します。算出方法は複数ありますが、普通営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを差し引いて計算され、この金額が多いほど良好な状態にあると判断されます。マイナスである場合は資金の調達が必要です。
財務活動によるキャッシュフロ―
この数値は、外部からの資金調達や借入金の返済などの財務活動に関する現金の出入りを表します。資金を調達した場合はプラスになり、返済にあてた場合はマイナスです。つまり、業績が安定している企業は返済にあてる余裕があるため、マイナスな状態が一般的といえます。
以上の基本を踏まえて、2021年と2022年3月期のラクスのキャッシュフローを見ると、非常に健全な状況であることが分かります。2021年3月期では営業キャッシュフローは43億円のプラスで、そのうち4億円超を投資に回しているとされており、その結果フリーキャッシュフローは39億円のプラスです。そのうち、3億円程度を返済などの財務活動にあてており、最終的に60億円の残高を有していました。
そして、2022年3月期は全てのキャッシュフローがマイナスとなっていますが、ラクスはビジネスを成長させるための人員の拡充などの投資を積極的に行っているため、前年の数値とは異なっています。
依然として期末時点で豊富な残高を有しており、営業キャッシュフローやフリーキャッシュフローがマイナスであっても、将来への投資や財務体質の強化に積極的に対応していることが分かるでしょう。
広告宣伝費
過去5年間の広告宣伝費を見ると、2022年度の値が飛びぬけて高いことが分かります。これは、今後売上高の成長加速を最優先する方針であり、新規受注による事業の成長を狙い広告宣伝に力を入れているためです。
一株利益(EPS)
EPSはEanings Per Shareの略称であり、1株あたりの純利益を示す指標です。当期純利益を発行済み株式数で割ることで算出できます。発行済み株式数が同じであれば純利益が大きいほどEPSは大きくなり、大きいほど収益力が高いです。
ラクスの場合は、2021年の純利益が大きかったためにEPSも大きいですが、上述しているように、2022年3月期は成長投資により純利益が前年度よりも低いため、EPSも低くなっています。ラクスの売上は伸びており、中長期的なEPSの最大化のための施策の結果が反映されています。
ラクスの主なKPI
ラクス社のビジネスモデルは製品を販売して完了ではなく、契約期間中は毎月課金が発生するサブスクリプション型です。そのため、収益を伸ばすには顧客の新規獲得と同時に既存顧客を長期的に維持することも重要です。これらを確実に捉えるために重要なKPIが以下の3つです。
- MRR
- チャーンレート
- ユニットエコノミクス
これらについて詳しく見てみましょう。
MRR(Monthly Recurring Revenue:月間経常収益)
サブスクリプション型のビジネスモデルは月単位で契約するのが一般的なので、毎月定期的に発生する収益を表すMRRをモニターすることが重要です。MRRは月間の数値ですが、年間の収益を表すARR(Annual Recurring Revenue)もよく用いられます。算出式は以下の通りです。
MRR = 顧客数 × 月間利用料金
ARR = MRR × 12
ラクス社は決算資料の中で直接MRRやARRには触れていないため、具体的な数値は分かりません。しかし毎年の売上は伸びており、広告費等の増大により認知度が高まっているため顧客数は年々増加していると想定できます。MRRおよびARRはともに伸びているはずです。
MRRについては、「SaaSの主要KPI【MRR】とは?概要や計算方法を分かりやすく解説」の記事をご参照ください。
チャーンレート
チャーンレート(Churn Rate)は、サービスの解約率や顧客の離脱状況を示す指標です。新規顧客が増えても、解約率が高ければビジネスがうまくいっているとはいえないので、解約率をモニターすることも大切です。2022年3月期の決算説明資料では、主要なクラウドサービスの過去5年間の解約率が記載されています。長期にわたり非常に低い解約率を維持していることが分かります。
チャーンレートについては、「SaaSの主要KPI【チャーンレート】とは?種類や目安を解説」の記事で紹介しています。
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクスは企業によって定義は変わりますが、ラクス社の場合は「一顧客当たりの経済性・採算性」を示す指標としています。そしてこの指標を求めるために考慮されるのが、LTV(Life Time Value : 顧客生涯価値)とCAC(Customer Acquisition Cost 顧客獲得コスト)です。
LTV = 平均利用額 × 平均利用年数 × 粗利益率
CAC = 顧客獲得コスト ÷ 新規獲得顧客数
LTVは1顧客から得られる生涯収益を表し、CACは新規1顧客を獲得するために費やすコストを表します。ユニットエコノミクスはLTVをCACで割ることで算出可能です。
ユニットエコノミクスもラクス社は公開していません。またCACに関する数値も未公開であるため具体的な数値は算出できませんが、表によるとクラウドサービスのLTVは過去5年間高水準を維持しています。
ユニットエコノミクスについては、「SaaSの主要KPIと【ユニットエコノミクス】とは?計算方法や目安を紹介」の記事をご覧ください。
まとめ
サブスクリプション型のクラウドサービスを展開するラクスは、これまでのビジネスにおいて健全な状態を維持しており、毎年順調に売上を伸ばしています。健全な財務状況を活かして将来への投資を積極的に行うことで中長期的なEPSの成長を目指しており、今後の発展が期待できる企業です。
その中で用いられている重要なKPIを見てみると全て良好な数値を示しており、これらのKPIを用いた企業運営が非常に効果的であることが分かります。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。