物流KPI(物流管理指標)とは|具体的な指標をまとめて紹介
2022.09.17
組織の業務プロセスを改善していくためには、適切なKPIの設計が欠かせません。特に物流業界の仕事は、日々の業務の稼働状況が業績に直結するため、KPIとして定めた数値を短いスパンで監視していくことが有効です。
この記事では、物流KPIとして設定される代表的な指標や、物流KPIを設定するメリット、導入の手順などを解説していきます。KPIを業務に組み込んで活用していくことで、社員のモチベーションを高めつつ、確実に業績の改善を目指していきましょう。
そもそもKPIって?
KPIとは「Key Performance Indicator」の略で、組織が目標を達成するために設定する業績評価の数値のことです。どのような企業でも、業績を上げて収益の増加や価値の創出など達成すべき目標があります。
しかし、達成すべき目標は企業の事業内容や形態によって異なるでしょう。そこで、企業ごとに特定の指標を設定し、達成率を監視しながら活動を続けることで、企業の特性にあった指標で業務内容に即した経営改善を図ることができるのです。
物流KPI(物流管理指標)とは
インターネットの普及や新型コロナウイルスの影響でネットショッピングが一般的になった現在、小口配送の増加などによって物流業界は活性化しています。しかし、物流業界は人手不足やドライバーの高齢化などの問題を抱えており、業務の効率化が急務となっています。
そこで、有効な手段がKPIによる業務改善です。物流業界の業務の増加やそれによる競争の激化は、国土交通省によっても問題視されており、KPI導入による業務効率化が推奨されています。
物流業界では主に以下の3つの観点からKPIを測定するのが一般的です。
- 複数リスト①
- 複数リスト②
- 複数リスト③
それぞれの項目について、実際にどのようなKPIが設定されているのか解説します。
コスト・生産性
- 保管効率
保管効率 = 保管間口数 / 総間口数
倉庫などの保管スペースでの商品の保管状況や、スペースが適切に使用されているかどうかを示す指標です。
- 人時生産性
人時生産性 = 処理ケース数 / 投入人時
物流現場における、それぞれの作業の生産性を示す指標です。
- 数量あたり物流コスト
数量あたり物流コスト = 物流コスト / 出荷数量
商品1つあたりにかかる物流コストを示す指標です。
- 日次収支
日次収益 = 1日あたりの収益 – 1日あたりのコスト
物流現場における、1日あたりの収支を示す指標です。一般的に財務収支を算出する期間は四半期や年次単位が多いですが、物流現場では日々の収支を算出することで随時業務改善を行うことが必要になることもあります。
- 実車率
実車率 = 実車距離 / 走行距離
荷物を配送する車両の走行距離と、貨物を積載して走行した距離の比率を示す指標です。数値が高いほど無駄な走行がなく輸送効率が高いことが分かります。
- 実働率
実働率 = 実働日数 / 営業日数
配送車両がどれだけ稼働できているかを示す指標です。車両の非稼働を減らすために、日数を用いて稼働状況を可視化します。
- 積載率
積載率 = 積載数量 / 積載可能数量
車両の積載可能数量に対して、実際にどれだけの数量の荷物を積載しているかを示す指標です。稼働する車両が適切かどうかを検討するために使われます。また、ルート別・顧客別に把握することにより、配送ルートなどの見直しにも活用可能です。
品質・サービスレベル
- 棚卸差異率
棚卸差異率 = 棚卸差異 / 棚卸資産数量
商品の在庫の管理状況を示す指標です。帳簿に記載された商品の在庫数と実際の在庫数の差異を調べ、総量と比較することで在庫管理が適切になされているかを算出します。
- 誤出荷率
誤出荷率 = 誤出荷発生件数 / 出荷指示数
品違いや数量違い、出荷先間違いなどの誤出荷の発生率を示す指標です。
- 遅延・時間指定違反率
遅延・時間指定違反率 = 遅延・時間指定違反発生件数 / 出荷指示数
配送の遅延や、時間指定を守れなかった件数の比率を示す指標です。
- 汚破損率
汚破損率 = 汚破損発生件数 / 出荷指示数
商品の汚れや破損の発生率を示す指標です。
- クレーム発生率
クレーム発生率 = クレーム発生件数 / 出荷指示数
すべての出荷数に対してクレームが寄せられた件数の比率を示す指標です。汚損・破損や遅延だけでなく、配送時の態度や接客対応などへのクレームも含まれます。
物流条件・配送条件
- 出荷ロット
顧客別・納品先別の出荷数量(数量や重量)を計測します。輸送効率や保管スペース内の作業効率を改善するために活用されます。
- 出荷指示遅延件数
出荷指示の遅延は物流効率に大きく関わるため、KPIとして設定することで常に監視し、随時改善につなげていくことが大切です。顧客や納品先・商品ごとに管理することで、出荷指示の遅れの傾向を把握し再発防止につなげられます。
- 配送頻度
配送頻度= 配送回数 / 営業日数
それぞれの配送先について、どれくらいの頻度で配送業務が発生しているのかを示す指標です。配送頻度が高すぎる場合は、改善することで業務効率化を図れます。
- 納品先待機時間
指定時間に配達したにも関わらず、納品先で待機時間が発生した場合、その平均時間を算出します。
- 納品付帯作業時間
納品先で契約以外の開梱、検品、棚入れなどの付帯作業が発生する場合の1回あたりの平均作業時間を計測します。付帯作業にかける時間が長くなってしまうと、物流効率に影響を及ぼすため業務改善を行う必要があります。
- 納品付帯作業実施率
納品付帯作業実施率 = 納品付帯作業実施回数 / 納品回数
契約外の付帯作業の発生する割合を示す指標です。契約外の作業が多くなりすぎるようであれば物流効率を悪化させることにつながるため、是正する必要があります。
物流KPIを設定するメリット
物流業務は毎日現場作業があるため、日々の作業改善の積み重ねが大切です。さまざまな指標を設定し、数値を確認しながら施策を検討することが作業改善の近道となります。
課題が明確になる
物流業界は、人手不足による業務の激化などの問題が生じやすい業界です。しかし、一定の指標がなければ、これらの問題が見過ごされてしまう場合もあります。そこで、KPIを設定し客観的に業務状態を監視できるようにすれば、現在抱えている課題を明確化することができ、改善への施策を立てやすくなります。また、複数の課題を抱えていたときに優先して解決すべき課題を可視化することも可能です。
目標達成までの過程が分かりやすくなる
KPIを設定すると、課題を明確化するだけでなく、目標達成までの過程が分かりやすくなります。数値で達成度を管理することによって、課題解決までに要した期間や、解決に効果的だった施策も明らかにすることができます。課題ごとにKPIを監視することにより、新たな課題が発生したときに他の課題の解決策にも応用できます。
社内における評価基準が明確になる
人的リソースに頼って業務の評価を行うと、評価基準が曖昧になって、同じ業務プロセスでも評価する人によって評価が異なってしまいます。KPIなどの客観的かつ数値化できる指標によって業務を評価すれば、評価基準を統一化することが可能です。
これによって公平な評価を行えるようになり、従業員のモチベーション向上につながります。
コミュニケーションがスムーズになる
物流は、依頼人から仕分け業務、輸送、配達に至るまで多くの人が関わる仕事です。1つの荷物が発送元から目的地に届けられるまでに複数の経由地を経て、それぞれの拠点の人々の協力によって成り立ちます。
物流業務にKPIを設定することで、業務に関するさまざまな情報を客観的に評価することができるようになるため、仕事に関わる多くの人々の間で認識を一致させられるようになるのです。コミュニケーションを円滑に進める結果につながるでしょう。
物流KPIを設定する流れ
物流KPIを設定することで、組織が抱えている問題の明確化やその解決のプロセスに効果を発揮できます。
それでは、新たにKPIを設定して業務改善を目指したい場合には、どのようなステップが必要になるのでしょうか。KPIを設定するからには、業務の改善に役立つよう社内の仕組みを整えることも大切です。ここからは、物流KPIを設定する具体的な流れを解説します。
データから現状を分析・把握する
物流KPIを導入するにあたり、最初からKPIの運用システムを完全に構築してうまく稼働させることは簡単ではありません。KPIを業務に取り入れて効果的に運用していくためには、データの取得手段や活用の仕組み、人事評価との連動など改革すべき項目が多く、完全に構築してから運用するとなると、多くの時間を要することになるでしょう。
そこで、物流KPIを導入する際は、できるところから業務状況の把握をしていき、段階的に導入していくとスムーズに進みます。
まずは、重要なプロセスなどに絞って現状のデータ確認作業から始め、KPIの運用方法自体も試行錯誤して改善していくつもりで取り組みましょう。
KPIの指標を設定する前に、データから現状の分析・把握を行ってください。
目的に合わせた目標を設定する
現状の確認・把握が終わったら、目的に合わせた目標の設定をします。KPIはあくまでも業務改善のための手段にすぎません。活用すべきKPIの種類や目指す目標値は目的によって変わります。したがって、KPIの設定でもっとも重要になるのが、KPIを導入する目的を明確化することです。
各社の抱える問題は、コストの削減や品質向上、労働状況改善などさまざまです。経営層が意識している問題と、担当者レベルで抱えている問題が異なることもありますので、KPI設定前に自社の課題意識を組織内で広く共有する必要があります。
社内の一部の関係者が抱える問題意識からKPIを設定すると、業務改善の進むべき方向性が大きくズレてしまう可能性も高いため、KPIを設定する前に社内で意識のすり合わせを行っておくことが大切です。
KPIの導入目的を明確にしたら、KPIとして設定する指標を定めます。このときに重要なのが、数値の改善を目的とした業務にならないようにすることです。
物流KPIを設定する目的は、あくまでも業務改善の一環なので、手段と目的を誤って本末転倒にならないように、KPIを設定する目的と合致しているか、最後に改めて確認する必要があります。
社内に物流KPIを浸透させる
KPI設定が完了したら、いよいよ運用を開始していきます。社内全体でKPIの運用をしていくためには、KPIの周知を徹底する必要があります。
KPIの監視を行う上層部はもちろん、数値を記録するための従業員もKPIの算出方法や数値の目標値を把握しておかなければなりません。現場で働く人々もKPIの運用方法を理解しておけば、日常的に数値の改善を意識した業務を行えます。
そこで、社内でKPIの数値を共有するための仕組み作りをしたり、物流KPIに関する研修会を行ったりと、社内に物流KPIを浸透させるための準備を行いましょう。
物流KPIを設定したら、本格的に運用を開始する前に社内にKPIの指標や運用方法、目標値などを浸透させるようにしてください。
定期的に見直して改善する
物流KPIの運用を開始したら、定期的に見直して業務の改善を図ります。KPIを設定すれば、PDCAサイクルを回すための分かりやすい目安となるので、指標ごとに監視する頻度を定めて定期的に見直すようにしましょう。
社内のシステムで社員がKPIの数値にアクセスしやすい状況を作れば、日々の業務にKPIを意識しながら取り掛かれます。
また、数値を監視していくたびに基準となるラインを修正しなければいけない場合もあるでしょう。業務状況に合わせて、目的にあった基準の設定になっているかを見直すことが大切です。
KPIの状況による業務改善を行う際は、四半期・月次などスケジュールを定めて定期的な会合を設定するようにしてください。改めてKPIの状況について話し合う場を設けることにより、進捗状況の見過ごしを防げます。
物流KPIを利用するときのポイント
業務改善のために物流KPIを設定しても、うまく運用できなければ意味がありません。KPIを導入する目的は、業務目標を確実に達成することです。そのため、組織のトップだけでなく、担当者レベルまでの全従業員が共通してKPIに対する意識を持つ必要があります。
ここでは、物流業界においてKPIの導入を成功させるために抑えておきたいポイントを解説するので、見ていきましょう。
具体的な分かりやすい指標を設定する
物流KPIを設定する際には、具体的かつ分かりやすい指標を設定するよう心がけましょう。
年に1度の株主総会で発表するようなKPIであれば、いくつかの数値から妥当な値を算出してKPIとするのも効果的ですが、日々監視して改善していくような項目が多い物流KPIは、具体的かつ分かりやすい指標が適していることが多いです。
また、KPI運用の失敗例として、計測方法の基準に曖昧な部分があって担当者ごとに数値のズレが生じてしまうというパターンがあります。どのような条件で値を計測するのか、詳細なところまで定めておき、担当者による判定の差が出ないようにしておきましょう。
目標と現状を見える化する
KPIの目的は、目標達成までの過程を可視化して進捗段階を分かりやすくすることです。目標達成までの経過を数値として追っていけば経過の記録ができて、モチベーションの維持にもつながります。
KPIの運用をより効率的にするためには、目標と現状の数値を見える化するのが効果的です。社内インフラの整備や、日々の業務でKPIを意識する心がけを浸透させていきながら、小さな改善を積み重ねて目標達成に至るような仕組みを作ると良いでしょう。
また、モチベーションの維持にはそれぞれの担当者が達成感を感じられるような環境を整備することも大切です。従業員にとってメリットが生じるインセンティブの設定にもKPIを適用し、従業員とコミュニケーションを取りながら適切にKPIを運用していけば、社内全体で能動的な管理を行う結果につながるでしょう。
まとめ
物流業界は件数の増加やドライバー不足、燃料価格の高騰などを受けて厳しい状況におかれている状況です。そこで、企業間の競争激化や人件費の削減など、業務の効率化以外の面で収支を伸ばそうとしている現状があります。
KPIを活用した業務改善を行えば、企業や従業員が身を削ることなく経営状況を改善することができ、物流業界全体の健全化にもつながります。
今回の記事で解説したKPI導入のメリットや手順を踏まえて、さらに効率的な業務に向けて物流KPIを導入してみてはいかがでしょうか。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。