スタートアップ企業/上場準備企業における予実管理|経営企画カンファレンスイベントレポート
2023.7.11
<スピーカー>
株式会社SmartHR 経営企画マネージャー 治正人氏
株式会社LegalOn Technologies 経理財務部 部長 倉本佳宇氏
<ファシリテーター>
株式会社ZENKIGEN 代表取締役CEO 野澤比日樹氏
イントロダクション
広瀬好伸氏:それではセッションを始めます。テーマは「スタートアップ企業/上場準備企業における予実管理」です。スピーカーは、株式会社SmartHRの経営企画マネージャーの治さん、株式会社LegalOn Technologiesの経理財務部部長の倉本さん、ファシリテーターは株式会社ZENKIGENの代表取締役CEOの野澤さんです。それではよろしくお願いします。
野澤比日樹氏(以下、野澤):株式会社ZENKIGENの野澤と申します。本日はファシリテーターを務めさせていただきます。まず、登壇者から簡単に自己紹介させていただきたいと思います。私が、ファシリテーターを務めさせていただく野澤です。社名であるZENKIGENは禅の言葉で「人の持つ能力のすべてを発揮する」という意味で、そんな社会を実現したいということで、HR TechのSaaSの会社として起業しました。
我々はシリーズBで25億円まで調達していますが、今回はSaaSのジャイアント企業2社からいろいろ学べるということで、私自身とても楽しみにしております。では、お願いします。
治正人氏(以下、治):SmartHRで経営企画を担当しております、治と申します。私がSmartHRに入ったのが2020年7月で、主に計画策定や予実管理を担当しています。本日はよろしくお願いします。
倉本佳宇氏(以下、倉本):LegalOn Technologiesの倉本と申します。よろしくお願いします。私は2020年3月に入社し、主に経理財務を中心に、経営企画面も含めて3年ほど担当しております。よろしくお願いします。
予算の立て方
野澤:本日のタイトルは「スタートアップ企業/上場準備企業における予実管理」です。SaaSの場合は「T2D3」という指標もありますが、SmartHRは記事によるとT2D3を達成しているということで、まさにユニコーン企業の証ですが、どのSaaS企業もその目標を目指しています。最初のT2が相当難しく、それを達成したとしても、次のD3ではまた大変な努力が必要です。経営者の立場として、自分自身も日々それを感じています。
SmartHRやLegalOn Technologiesは、その難しさを乗り越えた企業ですが、KPI管理や予実管理も相当難しいと思いますし、それが100%成功するわけでもないと思いますので、そのあたりの経験や知見は、私自身や視聴者の方々、経営企画担当者、財務経理の方にとって学びになると思います。本日はどうぞよろしくお願いします。
まずは予算の立て方についてうかがいたいと思います。T2D3だけで考えているかもしれませんし、他の方法もあるかもしれません。そこからフォーキャストを立てて、どのようにKPIに落としてモニタリングし、また予測がずれてたときにはどのようにリカバリーを行っているのかを深掘りしていければと思っています。早速、予算の立て方について、治さんから教えていただければと思います。
治:社内の予算は、単年度のものと3年から5年の中長期のものを作成していますが、今回は単年度のものについてお話しします。弊社はSaaSのサービスを提供していますが、T2D3という共通言語ともいえるわかりやすい成長曲線があるため、基本的にはそれをベースに予算を立ててきました。ただし、それありきというわけではありません。それをガイドラインとして置きつつも、実際に達成できるかどうかは検証が必要で、採用できるか、マーケティング施策でリードを獲得できるかも含め、ボトムアップで検証した上で「いけそうだ」ということで経営陣と話し合って予算を立てています。
野澤:現場から「それはちょっと無理じゃない?」という声もあるかと思いますが、経営陣からは「ここを目指すんだ」という指示もあり、その間に板挟みになったりしませんか?
治:当社の場合、現場も意識が高く「T2D3、かっこいいよね」という思いもあるため、トップダウンとボトムアップの駆け引きはそれほど多くないですが、どんどん目標が高くなると「さすがに厳しいな」というケースもあります。しかし、最終的には落ち着くところに落ち着いています。倉本さんの会社でも、トップや現場の駆け引きなどはありますか?
倉本:一般的なT2D3という指標はあるものの、それよりも弊社代表の角田が意識しているのは、目指しているミッションをどれくらい達成できるか、達成するためにはどの規模の会社であるべきかという考えですので、来年はどの程度数字を伸ばさなければならないかを考えています。しかし、変化が大きい会社のため、現在の積み上げだけ考えるのもまた難しいです。
新たなアイデアや施策は現場から出てくるため、まずは代表のメッセージングをしっかり行っています。現場と板挟みになることは少なく、どちらかというと「みんなで目指そう」という意識ですね。
野澤:両社ともに、カルチャーとして成長しようという意識があり、会社が目指す方向に社員も向かって共に成長しようとしているわけですね。
ボトムラインへの意識
今はトップラインのお話でしたが、予算には営業利益やボトムラインといった要素も含まれます。特に売上を作るために、営業部としてはマーケティング部分は重視したいところですが、人件費とマーケティングコストは、恐らくコストで大きい部分を占めていると思います。どのような形でボトムラインと合わせて予算を作成されているのか、倉本さんから教えていただけますか?
倉本:一番目指しているところはトップラインですが、経理財務や経営企画としては、一番高い目標を見据えてすべて投資してしまうと、万が一失敗したときの影響が大きいため、ある程度低めの財務計画を作成するのが私たちの方針です。それは全社で追うものではなく、あくまで資金管理におけるラインとしてのものです。
また、利益率などの目標も考慮しなければなりません。現在の株式市場は以前よりも利益改善が求められていますので、それを踏まえてボトムラインを考えています。そこからは、セールスやマーケティング、研究開発、管理部門などの売上に対する比率を設定してキャップを決め、各部門と話し合って調整しています。
治:弊社の状況は最近少し変化しているのですが、それ以前はボトムラインにそれほど意識を向けていませんでした。資金調達の環境がよかったり、SaaSビジネスに対する投資家の理解が進んだりして、積極的に投資するようになりました。とにかくトップラインを伸ばそうという考えだったわけです。
ボトムラインについては、ビジネスモデルによって見るべき指標があると思いますが、PLよりも、SaaSで見るべき生産性や効率性の指標がいたずらに悪化しておらず許容水準であれば積極的に投資を続けるのが、私が入社した当初の考え方でした。基本的にはトップライン成長のための投資を考え、足りなければ調達するといった判断をしていましたので、結果的にボトムラインは予算というよりは予測に近い形でした。
しかし、ロシアやウクライナの事情、また資本市場に変調もあり、トップラインだけでなくボトムラインも改善しながら成長させようという意識が全社的に出てきたため、今はその精度を高めるために努力しています。強くコントロールするわけではありませんが、ボトムラインの改善も考慮しつつ予算作成しています。
倉本:私たちの会社もほぼ同じで、2年前はお金がある限り投資して売上を伸ばすという考え方が主流でしたが、一度に投資を行うと投資対効果が悪化してしまうため、どのようにしてコントロールするかを考えました。その中で、全体の財務として、利益率という要素を考慮しなければならないことに気がついたわけです。
野澤:SmartHRの株主について、ある記事で紹介されており、とにかく「ガンガン踏め」と言われることもあったようですが、利益を見るようになったのは株主やVCからの提案でしょうか? それとも経営として、事業環境の変化を踏まえて利益に意識が向いたのでしょうか?
治:株主から指示が出ていたわけではないですが、取締役会には株主から派遣された役員も含まれており、そこでの議論としては、自社が置かれている事業環境や経済環境を正しく把握した上で、どのように舵取りすべきかを話しました。以前は資金調達環境がよかったため積極的な戦略を採用していました。しかし、現在の資金調達環境は以前と異なるため、自分たちで利益を出せるように改善しながら、過度に守りに入らず、踏むべきところはお金も人もリソースを投入していこうということで、取締役会や経営メンバーとの会議で話しています。
新規事業やR&D部門の予算配分
野澤:予算について1点だけお聞きしたいのですが、2社とも新規事業の立ち上げを積極的に進めていると思います。不確実性の高い新規事業や、外部からは見えにくいR&D部門などに対する予算配分はどのように考えていますか? 最近アメリカに会社を設立して新規事業を立ち上げたということで、倉本さんお願いします。
倉本:まず、既存の事業と人員で中期的にどれくらい利益が出て、どれくらいキャッシュがかかるのかを見ています。それに対して、手元資金や調達環境を考慮したときに、目先の1年から2年でどれくらい投資したいかを考えます。そして、トップラインも含めてこの程度という形で合意をとっています。
ただし、一気に全額を投資したり、1年分まるまる投資することは極力避けています。新規事業は製品ができるのか、PMFするのかなど多くの不確定要素を含んでいます。そのため、ステップごとにチェックポイントを設けています。しかし、期限までにチェックポイントに到達できなかったからダメということではなく、次回どれくらい投資すればそこまで到達するのかを都度考えています。投資の上限は財務状況によって決めなくてはいけないですが、投資タイミングはかなり流動的に考えています。
野澤:治さんの会社はいかがですか?
治:当社は子会社が5社ほどありますが、数年分の資金を提供するのではなく、半年から1年分の資金を提供して、その間に特定の目標を達成することを期待しています。目標達成できなかった場合、それで終わりというわけではなく、振り返りをして続けるべきかをケースバイケースで考えて進めています。種をまいておかなければダメだと思いますので、一定の財務余力は確保している形です。
倉本:私たちも同じく、投資が伸びたときにそれに対応できる余力を考慮しながらコントロールしています。
予実のモニタリング
野澤:この2社の素晴らしい点は、予実をきちんと合わせて成長を達成しているところだと思います。次のテーマが本日一番深く掘り下げたいところですが、モニタリングをどのようにしているのかうかがいたいと思います。
私たちもSaaS企業ですから、KPIは2社と同じようなものだと思いますが、それぞれがどのようなKPIを設定しているのか知りたいです。特に、最も重視しているKPIは何か、その考え方について詳しく教えていただきたいと思います。
治:弊社は、SaaSとして王道のKPIを採用しています。究極的にはMRR(Monthly Recurring Revenue)で、それを構成するものとして新規契約がどらくらい積み上がったか、チャーンがどれくらいだったかを見ています。そしてこれが全社の成果給と連動しています。さらに、新規契約を獲得するための商談数やリード数などを細かく分解し、いくつかの指標で管理していますが、かなり一般的なKPIだと思います。
野澤:そのKPIはあらゆる試行錯誤を経て決定したものですか? それとも最初から決めていたものですか?
治:COOの倉橋がKPI設計に強い方で、私が入社したときにはすでにKPIが設定されていました。聞いたところでは、VCの方や海外スタートアップのベストプラクティスをそのまま導入したようです。
野澤:「ミスターKPI」といわれる倉橋さんがいるのは強いですよね。結果として王道のKPIに落ち着いて、そこを追っているわけですね。倉本さんはいかがですか?
倉本:私たちもほぼ同じで、MRRやNRR(Net Revenue Retention)を重視しています。もう少し細かく言うと、営業の受注率や商談数なども重要な指標としています。SaaSビジネスですので、「The Model方式」と言いますか、すでに確立されているものですから、それに対応したKPIを設定しています。最初はリード獲得を重視していましたが、現在は商談獲得と、それにどれくらいコストがかかっているかを見始めています。
野澤:リードから商談へのシフトについてですが、例えば「リードからポテンシャルリードに至る率が低く、商談に繋がりにくい」といった背景があっての変更でしょうか?
倉本:本来のリード獲得の目的は、商談を設定してお客さまから受注を獲得することですよね。そのプロセスはすべて繋がっているわけですが、組織や人数が大きくなる中で分解しすぎると1点にフォーカスしてしまって、「リードは取れているけれども商談が進まない」といった状況になってしまいます。そして「リード獲得に対するコストは適正だ」という話になったりしますが、商談に繋がっていない状況は適正ではないわけです。ですので今期は、リード獲得は中間指標のような形で見る方針にしています。
治:評価体系はどのようになっていますか? さきほどのお話は、部門ごとで最適化が進むと全体最適が疎かになるという内容だと思うのですが、例えばマーケティングチームは商談数に対しても何らかの責任や目標を持っているのでしょうか? それとも現状はそこまで見ておらず、経営企画側で生産性や獲得単価などが大きく変動していないかをチェックしているような形でしょうか?
倉本:評価軸が変わり始めています。最初はCAC(Customer Acquisition Cost)などを見て、経営企画側から「費用がふくらんできているよ」と声をかけていたのですが、どうしても部分最適が進んでしまうため、多面的に評価するようにしています。むしろ、SmartHRはどうしているのでしょうか?
治:我々も以前に同じような事象があったため、今はマーケティングチームはリードだけでなく、自分たちが生み出したリードが商談になっているのかという視点で商談数も目標にしています。商談を作るインサイドセールスチームは、受注金額ではなく、セールス側にパスした商談が一定のフェーズまで進んだかという指標を持っています。自分たちのコントロール外ではありますが、一歩先のものにもコミットできるよう、評価の持ち方やKPIの設計を工夫しています。
モニタリングの頻度
野澤:KPIを設定すると、それが先行指標となって、フォーキャストを作って現場や経営にフィードバックするというサイクルを回していると思いますが、どのようにして異常値を察知しているのでしょうか? どの程度の間隔でモニタリングしているのか教えてください。
倉本:当社には営業企画の部門があり、その部門と現場のリーダー、現在は角田も入って隔週でモニタリングを行っており、異常値を検知するというよりは、定性的な部分から情報をキャッチアップするようにしています。具体的な指標は、経理財務や経営企画の部分で、もとの計画と比較して異常値を拾っています。
野澤:その異常値を現場や経営にフィードバックするわけですか
倉本:センシティブな情報以外は、取締役会で報告する内容は全社にも公開しています。
治:当社も、経営情報を全社にオープンにしています。週次でビジネスセクションや経営会議などがあり、リード数や商談数、受注数やチャーンレートといったものをセグメントごとに共有しています。基本的には、各人が定量的な情報を見られるようにしていて、何か問題があれば察知できるようにしています。各リーダーが定性的な情報を補足してくれるため、週次ベースでビジネス状況を把握できるようになっています。
野澤:経営企画の役割としては、それらの情報をモニタリングして、進捗しているかどうかを明確にして現場に伝えることですか? より深く介入することもありますか?
治:ビジネス側に営業企画や事業企画チームがあり、彼らが情報をまとめて見える化してくれています。したがって、基本的に私たちのメインの作業は、その情報を確認したり、取締役へレポーティングしたりがメインです。全社レベルで共有されているため、アラートなどは現場レベルで迅速に対応できる環境を整えています。
野澤:現場スタッフは毎週フィードバックを受け取り、毎週改善を行っているということですね。これが週単位で行われているのはすごいですね。
治:全社レベルでは週次ですが、現場レベルでは日次や施策ごとに改善を行っていると思います。
倉本:MRRなどの重要な指標だけですが、毎日決まった時刻に全社向けにSlackで投稿されるため、全員が目標に対する現状を確認できるようになっています。実際にそれを管理しているのは営業企画チームですが、よい取り組みだと思います。
治:当社もKPIシートは全社共有されていますので、詳細を見たい人は見ることができます。いつも情報を確認している人は限られていますが、必要があればサマリーデータやバックデータにもアクセスすることができます。私も日次で数字を確認しています。
野澤:KPIが日次できちんと更新される仕組みになっているわけですね。
倉本:当社はすべてのKPIではなく、MRRなどの重要な数字だけ日次で進捗が見られる形です。
予実の乖離のリカバリー方法
野澤:モニタリングをする中で、目標と実績に乖離がありそうなときにリカバリーをすると思います。現場で少しずつ取り組む部分もあると思いますが、読みが大きく外れてしまったり場合、少し失速しただけでも目標との乖離がかなり生まれてしまいますよね。そのときに、リカバリーとしてどういったことをされてきたのか教えていただけますか?
治:現状認識がとても重要だと思います。目標に届かなかったとき、その原因が我々自身にあるのか、それともマクロ環境的な影響、例えばパンデミック、競争環境の変化などもあると思いますので、原因によってアクションが変わると思います。
コロナ禍の最初の時期は受注が大幅に減少し、目標に対して実績が大きく遅れたことがありました。それは我々の努力が及ばなかったというよりも、外部環境の変化によるものですよね。そうした新型コロナウイルスによる経済的な不況の影響が出た際は、財務的な体力もあったため、初年度は少し割引して受注を促進する施策を打ちました。
その半期や年度では目標未達になるかもしれませんが、まずは契約していただければ、来年や再来年にはしっかり利益が返ってきますので、そのような対策を打つなど、トップラインの数字への対応は臨機応変に行ってきました。ボトムラインについては、市場の変調もあったため、採用計画を見直すなど、全部をストップするわけではなく、メリハリをつけて経営側や現場と話し合いながら調整を行っています。
野澤:市場環境に応じて柔軟に変更していくということですね。
治:何が何でも最初の予算にミートさせるのではなく、置かれている状況を正しく把握し、その中でどういう行動をとるべきかが重要だと思います。
野澤:初年度に割引したわけですが、2年目以降の契約は想定どおりに進み、結果としてリカバリーできたわけですね?
治:最初の契約が終了した後に解約されるのではないかと心配しましたが、幸いにも継続していただけたため、施策としても成功したと言えると思います。
野澤:御社のビジネスモデルはチャーンレートがとても低いため、そのようなアプローチが取りやすかったのだと思います。倉本さんはいかがですか?
倉本:治さんがおっしゃるとおりだと思います。問題は、予算に届かないことよりも、なぜ届かなかったのか、その原因を把握して、それに対してどう対処するかだと思います。予算に到達するために、本来やるべきではないことまでやらなければいけないような状況の場合は、修正すべきだと思います。ただし、施策や改善策で次年度以降にリカバリーが見込める状況であれば、積極的に実行するべきで、予算修正を行う必要もないわけです。数値の上下に一喜一憂するよりも、常に内部・外部環境を含めてきちんと把握した上で対応すべきだと思います。
野澤:外部環境の中には競合の存在も含まれますよね。2社とも優れたプロダクトを持っていますが、競合は必ず存在します。その競合の動向をモニタリングし、適切な対策を打つことも当然行っているでしょう。
経営企画や財務経理として、そのあたりの情報をどのようにキャッチアップして現場に伝えるか、あるいは伝えなくても、それらを考慮に入れて数値に落とす際に工夫しているといったことがあれば、ぜひ聞いてみたいです。
治:当社は組織として仕組みで担保できている部分と、そうでない部分があります。ビジネスサイドには企画職に近いPMM(プロダクト・マーケティング・マネージャー)という職種があります。彼らはプロダクトのマーケティングだけでなく、競合がどのような機能を出しているのかといった情報を収集して社内に発信しています。私自身が調べるのではなく、そのチームのアウトプットを参照してビジネスサイドと会話しています。
それ以外で、まだ整備されていない部分がありますが、ビジネスサイドは現場に近いかたちで競合と向き合う一方、財務・ファイナンス側は決算発表なども含めたマクロ的な視点で競合を見ているため、自分たちのインプットとして他社の戦略や方向性を理解しつつ、社内の人々と話し合っています。
倉本:当社では、コンペに出ているビジネスサイドから競合に対する声が強く上がっており、それがとても役立っています。マクロ的な視点は私たちの部署が引き続き取り組むべきであり、今後も推進していきます。
治:私が入社した頃に比べて、SaaSの普及やビジネス環境の変化に伴い、競合の動きや経済環境が我々のビジネスに大きな影響を及ぼすようになってきたと感じています。ここ3年くらいの感想ですが、こうした変化をインプットして社内に還元していかなければいけないとあらためて思いました。
他部門とのコミュニケーション
野澤:SmartHRにも営業企画のような部門が存在すると思いますが、日々コミュニケーションする相手は、経営や営業企画でしょうか?
治:おっしゃるとおりですね。
野澤:経営企画と言えば「閉じこもって数字をいじっている」といった閉鎖的なイメージがありますが、お二人の話を聞くと、多くの部門と関係を持ち、情報がシームレスに流れ、即座に対策を打てている印象を受けます。コミュニケーションをしっかり取るという点で意識していることがあれば、ぜひ教えていただければと思います。
倉本:営業企画チームとは、できる限りコミュニケーションを取るようにしています。もし私が現場まで入り込んでしまうと、コミュニケーションミスを生んでしまう可能性があるため、そこはしっかりと意識しています。KPIも業務管理も経理財務も担当しているため、そこも含めて自分が感じた課題はきちんと伝えるようにしています。
野澤:例えば、数字が伸びていなかったり、コストが膨らみすぎているなどの問題があるときに、現場は「まだやれるはずだから、コストはかかるがもう少し取り組みたい」といった意見が出たりして、現場とコンフリクトすることもあると思います。そうした状況でのコミュニケーションで工夫されていることはありますか?
倉本:投資対効果的な話をする場合は、自分たちの考えをきちんと伝えますし、角田が営業を見ているため、角田とも話しています。数字の伸び悩みの話をする際は、現場のマネージャーや経営陣も含めて話すことが多いです。そもそも当社のコミュニケーション自体は基本的にオープンですね。
私たちはこういう指標からこういう判断をしているが、トップラインを優先するのか、投資対効果を優先するのかといったところは経営判断だと思いますが、あまりコンフリクトすることなく丁寧に話し合っています。どのような判断が会社にとってベストなのかをみんな常に考えていますね。
治:我々ができることとして、もしコンフリクトしている場合は、レイヤーを上げるといいますか、1つ上の視座で議論できるようにするのがよいと思っています。倉本さんもおっしゃっていましたが、例えばマーケティングの人たちの「リード数を達成するためにコストを踏まないといけない」という主張は、1つ視座をあげると投資対効果の話になるかもしれませんし、目標設定のところで吸収できる話かもしれないわけです。
経営企画や財務側が「予算を追加で使うのはNG」というよりは、そうした状況がある中で、その議論に決着をつけるために、正しい場所で正しく議論して意思決定できるように調整することだと思っています。
数字に対する会社のカルチャー
野澤:2社とも全社的にKPIが明示されていて、カルチャーとして、全社員が会社の成長を意識しているからこそ、コンフリクトも起きずに全社で目標に向かっていけるのだと思いました。
これは経営企画とは関係ないかもしれないですが、数字を達成していくカルチャーについて、感じていることがあればお願いします。
治:この会社に入ってすごいと思ったところですが、数字に対してコミットするカルチャーがすごくあると思っています。それは一朝一夕で作られるものではなく、成功体験の繰り返しで作られるものですよね。まずは適切な目標を設定してそれを達成し、次も達成して、次も達成して、という積み重ねによるものだと思います。
当社は半期ごとに予算や事業目標を立てており、まさに今が予算を作っている時期なのですが、合言葉は「達成確度7割の目標を設定しよう」です。「なりでいけば達成できるでしょう」のような確度10割のものではなく、創意工夫して自分たちが進化した結果として達成確度7割くらいがほどよいストレッチ目標だと考えて設定しています。
倉本:数字達成について、営業部サイドには本当に頭が上がらないのですが、すごく強いカルチャーだと思っています。当社は達成確度7割といった目線はないのですが、目指すべきところはやっぱり最高到達点ということはずっと言っており、そこに対して角田が「みんな、もっともっとできるし、そういうメンバーがいると思っているから、みんなでしっかりがんばっていこう」と力強く語っています。それがカルチャーになっていると思います。そこをしっかり達成させてあげるのが営業企画や経営企画、財務の役割だと感じています。
冷静と情熱のバランス
野澤:2社とも経営層の個性が強いと思うのですが、ブレーキをかけることも経営企画の重要な仕事だと思っています。そのあたりはどのようにお考えですか?
倉本:まず、私の上にCFOの大木がいるのですが、とても理知的な方です。トップラインを伸ばしたいという中でも、止めるところは止めるという判断をしてくれるため、彼には全幅の信頼を寄せています。
我々の仕事は、経営に対して必要な情報をどれだけ早くアップできるかだと思っていますし、しっかり情報提供しなくてはいけないと思っています。角田をはじめ、経営層も聞く耳を持ってくれているため、しっかり対話できています。どんな判断を促すことができるかが大事だと思っていますね。
僕が古い人間といいますか、大手企業から移ってきたため、最初は止めようとする意識が強かったのですが、止めることが仕事になると、止めることをしなくてはいけないと思ってしまいます。しかしそうではなく、正しく情報提供してアラートを出して、意思決定を促していくことが仕事だと思っています。
治:私は「冷静と情熱の間」みたいなところがすごく大事だと思っています。情熱という意味では、事業会社の中の人間ですので、事業として目指したい世界観や最高到達点に向けて同じ方向を向いていくのがすごく大事だと思っています。
一方で、冷静という意味では、自分が投資家的な視点を持って「この事業はどこまで行くのか」「高い目標を立てた場合、どこでどうしようとしてるのか、どこでストレッチをかけるのか」など、いくつか要素分解して冷静に見極めるようにしています。そうした視点で数字をモニタリングして、経営陣に正しくレポーティングする形で価値を発揮していきたいと思います。
経営企画の方へのメッセージ
野澤:最後に、経営企画として日々奮闘されている方々にメッセージをお願いします。
倉本:予実管理の役割は全社的なPDCAを回すことだと思っています。「予実を合わせる」という言葉が強く広まっている印象ですが、PDCAを正しく回して判断し、それが経営の意思決定に生きるというところを意識してもらえると、すごくよいと思っています。
治:倉本さんのお話と同じく、予実を合わせることが目的になりがちだと思うのですが、場合によっては予算の設計自体が間違っていることもあると思いますので、時には予算を修正すること自体を厭わず、前提が違ったのであればそこを疑ってかかる感覚もすごく大事だと思っています。
野澤:私自身、大変勉強になりました。それではこのセッションを終わらせていただきます。ありがとうございました。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。