経営企画組織のつくり方|経営企画カンファレンスイベントレポート
2023.7.10
<スピーカー>
株式会社ベーシック 執行役員 CAO コーポレート部門長 角田剛史氏
株式会社ABCash Technologies 常務執行役員 経営企画室長 伊藤修次郎氏
<ファシリテーター>
株式会社ビットキー 代表取締役 COO 福澤匡規氏
イントロダクション
広瀬好伸氏:それではセッションを始めます。テーマは「経営企画組織のつくり方」です。スピーカーは株式会社ベーシックに所属しつつ、経営企画コミュニティの管理人もされている角田さん、株式会社ABCash Technologiesの常務執行役員・経営企画室長の伊藤さんです。ファシリテーターは、株式会社ビットキーの代表取締役COOの福澤さんになります。それでは福澤さん、よろしくお願いします。
福澤匡規氏(以下、福澤):ここからは、私の方でファシリテーションを行いながら進めていきたいと思います。
ご登壇いただくお二人は、経営企画というジャンルでは非常に著名で、今回視聴しているみなさまも知っている方が多いと思います。私の方から角田さんと伊藤さんのプロフィールをご紹介します。
角田さんはソニー株式会社で法人営業や経営企画を経験し、アメリカの現地法人にも赴任され、その後株式会社ディー・エヌ・エーで海外向けの新規事業立ち上げの責任者を務めました。そしてスタートアップの創業メンバーを経て、2018年に現在の株式会社ベーシックに入社されました。ベーシックでは経営企画の機能をゼロから立ち上げ、コーポレート機能全般を管掌されています。また、700名以上のメンバーが参加する経営企画のコミュニティの管理人も行っています。
続いて伊藤さんです。株式会社テレウェイヴ(現・株式会社アイフラッグ)という会社で事業企画を担当した後、企画担当となり、その後IPOを経験されました。そしてIRや投資担当を経て、不動産コンサルタント会社の株式会社ランドピア、また株式会社ウィルグループのIPO、市場変更を経験されています。
その後も株式会社GameWithのIPO、市場変更を経験し、現在は株式会社ABCash Technologiesの常務執行役員として活躍されています。今回は、経営企画の組織づくりというテーマでお話しいただきます。
経営企画の組織づくりと一言に言っても、各社のフェーズによって経営企画の定義は異なります。お二人とも、ゼロからの立ち上げや大企業での経験、IPO前後の経験などがありますので、フェーズごとに切っていきながらディスカッションを進めていきたいと思います。私が用意させていただいたスライドは以上になりますので、ここからはディスカッションをメインに進めていきたいと思います。
まずお二人にお聞きしたいこととして、私が所属しているようなベンチャー企業は最初から経営企画部門が存在するわけではなく、あるタイミングから必要性が生じてくるわけですが、いつ経営企画をつくるべきかについてお聞きできればと思います。
お二人が考える「経営企画が必要になるタイミング」を教えていただきながらディスカッションを進めていきたいと思います。最初に、角田さんお願いします。
経営企画が必要になるタイミング
角田剛史氏(以下、角田):福澤さんが先ほど述べたとおり、経営企画は他の職種と比べて理解しづらい部分があります。「いつからある組織なんだ?」といった形で具体的なスタートが明確でない職種だと思います。私が働いたソニーやディー・エヌ・エーのような企業では、当たり前のように経営企画は存在していたため、いつからあったのかを考えることはありませんでした。逆に、その後働いたスタートアップはまだ規模が小さかったため、経営企画はまだ必要ない状況でした。
現在所属しているベーシックは、ちょうどその中間的な状況だと思います。必要そうだけれど、本当に必要なのかわからないまま立ち上げたのが実情です。その後「いつ、経営企画が必要なのか」について考える機会があったため、そのときにまとめた考えをお伝えします。
経営企画は、本当にさまざまな仕事をするものですよね。「どこまでが経営企画の役割なのか」は会社によっていろいろです。一昔前ではWikipedia、最近ではChatGPTですが、そこで調べたりすると一応の定義は出てくるのですが、具体的でなく、正しいかもしれないけれどよくわからない部分もあります。
福澤:スライドはChatGPTの回答ということですよね?
角田:ChatGPTの回答です。「簡潔に、より具体的に教えて」とオーダーしたところ、このような内容になりましたが、やはりわかりにくいものでした。
4年ほど前になりますが、私が経営企画を立ち上げた際に、私なりの定義を作成しました。それは「経営企画はジャングルガイドのようなものではないか」というものです。経営企画は会社の目指すべきゴールを常に指し示し、そのゴールに向かって最速・最短距離で進めるように、あらゆることを支援する役割だと思っています。
この考えに至った理由についてお話しします。まず、会社はジャングルのようなものだと思っています。新設の会社はまだ複雑な事情がなくて見通しがよく、「出口はどっち?」と聞かれても「そっちだよ」とはっきりと示せますよね。しかし、会社が大きくなるにつれて「面積が広がる=事業や製品が拡大する」「木が生い茂る=取引が増えたり、費用計算が複雑になる」といったことが生じて全体が見えづらくなります。そして、会社が目指すゴールがどこなのかわからなくなる状態が「遭難」です。このような状況がジャングルに似ていると考え、そこを導くジャングルガイド、すなわち経営企画だと解釈しました。
これを踏まえて「経営企画が必要になるタイミングはいつか?」を考えてみます。ジャングルが大きくなる、つまり会社が複雑になるにつれて、本来見通せていたものが見通せなくなり、経営陣の脳内リソースが多岐にわたる問題に取られ始めるフェーズが来たときでしょう。そうなると最短・最速で事業を動かすことができなくなりますので、その時期が経営企画が必要になるタイミングだと思います。
これを定量化してみると、組織人数が100名を超えてきた状況くらいかと思います。私がベーシックに入ったときがそれくらいでしたが、100名を超えてもそういう機能がなく、いろいろ見えていない状況があったため、それくらいのタイミングなのかなと思います。
また、人数が100名くらいでも事業が単一であればまだ見通せる範囲は大きいですが、事業が複数化してくるといろいろと複雑化してくるため、そういったタイミングもあるかなと思います。100人規模になったとき、事業が複数化してきたときが、経営企画が必要となるタイミングでしょう。後ほど、そうしたときの経営企画の役割もご説明したいと思っています。
あくまで、目安として無理やり定量化するとこのような形ですが、結局は「どういう課題が会社で起きているか」であり、あえて定量化したり定義するとこうしたタイミングかなと思っています。
伊藤修次郎氏(以下、伊藤):ジャングルが大好きな我々としては、なかなかこのステージはおもしろいですよね。
福澤:そうですよね。ちなみに角田さんは、ベーシックでは何をきっかけに立ち上げたのですか?
角田:まさに、さきほどお話しした状態だったわけですが、新規事業をもう1つ立ち上げたいというお話があり、前職のディー・エヌ・エーの経験を生かそうと考えて入社しました。そのときは経営企画機能などはなかったのですが、バックグラウンドもあったため、数字の整備をしながら新規事業立ち上げを行っていました。そして1ヶ月、2ヶ月と経ったわけですが、すでに事業が4から5つほどあり、新しい事業を1つ付け加えるよりは、会社の基盤である経営企画機能やコーポレート機能を強化することで既存事業を伸ばした方が会社全体としてはよいのではないかと感じ始めたのです。
そこで社長と相談して、今のフェーズにおいては、基盤を整えて既存事業を整備する必要性のほうが大きいため、まだ存在していない経営企画の機能の立ち上げが必要だという議論をして、そちらにシフトしたわけです。
私は会社が成長するためだったら何をしてもよいと思っていますので、もしそのときに新規事業を立ち上げた方がよいと思っていたらそうしていましたが、当時のベーシックのフェーズを考えたら経営企画を立ち上げる方がよいと思ったため、そのようにしました。
福澤:もう少し聞きたいこともあるのですが、後ほど深掘りさせていただくとして、続いては伊藤さんからお話をいただきたいと思います。僕の中では「ミスター経営企画」というイメージが強い伊藤さんですが、事前にお話をうかがうと、いろいろなフェーズ、いろいろな事業の経営企画を経験されていますので、その観点からもお話しいただければと思います。
視聴している方でも、経営企画をつくった方がよいと何となく思いつつ、いつつくるのがよいのか、そのきっかけが決められない経営層の方々もいらっしゃると思いますので、その点についてもお話しいただけるとありがたいです。
伊藤:先ほどの「人数フェーズ」は本当にわかりやすいですが、今回は「0→1」「1→10」「10→100」「100以上」の4つのフェーズに分けてお話しします。
私自身のキャリアですが、主にスタートアップを経験してきて、IPOを軸に会社を大きくしてきた経験が多く「1→10」や「10→100」のフェーズにたくさん関わりました。会社を立ち上げた時点は経営企画室は贅沢品で、会社の経営は創業者の方や共同創業者の方がやればよく、全員で事業立ち上げやプロダクトの精査を行い、事業を伸ばすことに注力すべきだと思います。角田さんのお話にあったように1つの事業であればそれで十分です。そうして1つのコアができた時点で、これを組織化しようとなってプロフェッショナルな職能が必要になってきた際に「経営企画があったらいいな」という考え方になると思います。
具体的には、予算と実績の分析をしなければならないときなどに、社長自身もできるかもしれませんが、そのような業務を任せられる人がいたらよいというのが「1→10」のフェーズだと思います。
「10→100」のフェーズ、つまりIPOを目指すようなフェーズになると、業務が専門性を必要とするようになります。そのときに経営のプロ、例えば経理なども内製化を検討すべきだと思います。
「100人の壁」というものがありますが、その規模になると社長や経営メンバーが全体を見るのが難しくなってきます。100名規模はみなさんが苦戦するタイミングですが、これを突破すると会社は一気に成長します。このフェーズは、社長が経営をしないわけではありませんが、社長しかできない仕事があるため、一部の業務を経営企画に委任するフェーズになります。
「100以上」のフェーズでの社長は、例えば角田さんや伊藤さんのような個人ではなく、社長や経営企画室長という職位が組織を動かさなければなりません。そして、IPOを行った場合、個人に依存する組織は許されません。このフェーズになると、個人の影響力はほとんどなくなり、組織として動かさなければならなくなります。
個人的にはこのフェーズはあまり好きではなく、100名規模になると再び「1→100」のフェーズに戻りたくなります。それ以上のフェーズも確かにおもしろいですが、個人技で戦うことができるのは「1から100」までのフェーズであり、組織をつくるスキルが試されるおもしろいタイミングだと思っています。
福澤:伊藤さんが経験された中で、もう少し具体的なストーリーをお聞かせください。「1→10」への移行のタイミングで、何がきっかけで経営企画室を設けなければならなくなったのでしょうか?
伊藤:私が新しい会社に転職する理由は、ほとんどの場合、その会社の株主からIPOのために呼ばれるからです。IPOのフェーズでは、プロダクトメインのチームではなく、経営の専門家を外部から呼ぶ流れになるため、私が呼ばれたりします。
IPOを目指すとなると、自社ビジネスを監査法人や主幹事に説明しなければならないため、その翻訳機能が必要になります。また事業メインから経営メインへと移り、社長やマネジメントチームが組織全体を見ることが厳しくなります。そしてIPOという大きな課題をクリアしなければなりませんので、そのタイミングで経営企画組織をつくり始めるのがよいと思います。
角田:横断的な視点はとても重要ですよね。先ほども事業の多様化や経営陣の脳内リソースについてお話ししましたが、会社が複雑化してくるとさまざまな要素に気を取られます。それによって横串で見ることができなくなって全体最適を見失い、個別最適に偏りがちになります。組織を横断的に見て全体最適を考える役割が経営企画であり、この時期にはそのような役割が求められるわけです。
経営企画に適した人材
福澤:特にみなさまが聞いてみたいと思っているのが、組織の具体的なつくり方だと思います。例えば、角田さんはもともとは経営企画ではなく新規事業を立ち上げようとしていましたが、会社としては角田さんが参加したからこそ経営企画が立ち上げられるかもしれないと考えたわけですよね。
一方の伊藤さんの場合は、外部から呼ばれた請負人というイメージを受けました。株主や経営陣が、専門家を招き入れるべき時期が近づいていると感じ、クチコミや紹介によって伊藤さんが採用されたというイメージです。このあたりは異なる部分ですよね。
伊藤:そうですね。さて、経営企画室のつくり方ですが、会社が急激に成長するときに最初にやるべきことは、IPO担当を探したり経営企画室を設立するよりも、人事責任者を採用し、その方に採用やソーシングを任せることです。これは多くの成功している会社が取っている方法です。
例えば、社長がある方針を持っていても、それが会社のフェーズに合わない場合、しっかりした採用担当者はそれを指摘できます。その結果、採用すべき人材の選定が適切に行われ、採用すべき方が「ろ過」されやすいわけです。
適切な人材を見つけるための方法は、IPO軸になりますが、株主やベンチャーキャピタル、また日頃から関わりのある経営者に「経営企画の方を探している」と伝えて紹介を受けるとよいと思います。この点について、角田さんはどう思いますか?
角田:採用責任者を早期に選定して、その人にソーシングを任せるという考え方は、会社全体を考えると賛成です。ただし、経営企画については少し違う考えを持っているかもしれません。
私の場合は立ち上げフェーズでしたので、そのフェーズにおいて必要な人材と関わってきましたが、経営企画の最初の1人目は内部から登用する方がよいと考えています。なぜかというと、初期の立ち上げフェーズの経営企画に求められる仕事を考えたときに、それがよいと思うからです。この点について補足説明が必要ですね。
伊藤:会社の中の方は私も大好きで、プロパーの方は会社へのロイヤリティが高くて素晴らしいと思います。ただ、会社が成長するとき、その方を経営企画に異動させるのはもったいない、またはショートカットしたいといった場合に、私のような外部の人材を採用するという方法もあります。会社の状況によると思いますが、個人的には社内の人が経営企画になるのが一番だと思います。
角田:少し補足させていただきます。さきほど「ジャングルガイド」についてお話ししましたが、具体的に何に取り組むのかについてご説明します。資料は4年ほど前に作成したもので、自分が取り組んだことを振り返って6つのカテゴリに分けたものです。
会社がジャングルだとしたら、まずは出口を指し示すことが必要だと思います。2つ目が、道の誤りを指摘して正しい方向へ導くこと。3つ目が、ただ歩くだけでなく、効率的に歩くために草木を伐採する必要もあるかもしれません。
4つ目が、伐採の際にアナログで手でちぎるのではなく、道具を使うことが必要になるため、それを揃えます。5つ目が、1人ではなくパーティーとして進むため、ときには隊列を整える必要があるかもしれません。一定の距離を進むため、途中で食事や水分補給を適切に行う必要もありますよね。これらのことを会社に当てはめると、スライドに記載されているようなことを行う必要があるわけです。
具体的には、「出口を指し示す」は、事業計画や中期計画を地図のごとくつくることです。「道の誤りを指摘する」は、計画だけでなく予実を分析し、どこに差分があるかを明確にすることです。「効率的に歩く」は、業務改善やBPRを行うことです。「伐採するための道具」は、システム導入などです。「隊列を整える」は人事観点も入りますが、組織変更や人員配置の提案などを行うことです。特に重要だと思っているのは、内製にこだわらず、外部の専門家の力を利用することです。最後は財務的なことですが、資金調達などもしながら進むことが大切です。特に立ち上げフェーズにおける経営企画は、これらのタスクが重要だと思っています。
ですので、求められるのはこれらの業務を任せられる力です。ジャングルを進むには、ジャングルの知識が重要ですよね。例えば、植物の知識があれば有用かもしれません。それを考えたときに、その会社のことを理解している人を経営企画に任命し、「今日からこの会社のガイドをしてください」とすると、ショートカットできると思います。経営企画の経験者を採用するのもよいですが、会社のブランド力などに依存する部分もありますので、そのあたりの素養があって事業をよく理解している内部の人材をアサインするのも1つの手だと考えています。
福澤:まさに「1人目をどうするか」のところですね。また、伊藤さんは経営企画の最初のメンバーとして入ることが多いのでしょうか? それとも「将来的には経営企画を任せたいと思っているが、まずは入社して手伝ってほしい」という依頼が多いのでしょうか?
伊藤:ほとんどの会社で初代の経営企画室長です。管理部門もあり、経理や総務もあり、これから経営というところで舵を切るタイミングで呼ばれて管理部門を統括することが多いですね。
私自身はこだわりはないですが、経営企画室、経営企画職という肩書きと職位は非常にあいまいなのが逆に便利です。何でもできて、何でもやらせてもらえて、積極的に手を挙げれば吸収できる、会社にとって友軍のような存在で、横串を通したり、不足しているところを補ったりできるファジーな立ち位置が気に入って、20年ほどこの仕事をしています。
福澤:先ほど角田さんのお話では、社内に精通しているからこそ横断的な動きができたり、部門間調整で活躍できたりというところがありましたが、伊藤さんはそのあたりをどのように解決されてきましたか? 経営企画の1人目、または室長という形で入社するとき、他部門や現場のことにそこまで詳しくないと思いますので、そのあたりが気になりました。
伊藤:私自身は、IT、不動産コンサル、人材、メディア、そして現在は金融教育で、業界も商材もまったく違う会社に所属してきました。ただ、会社の経営というものは、売上を固めて原価のあるものや費用を支払い、税金を納めるという部分ではあまり変わらないため、そこに関してはどの会社でも同じです。正しく決算を回すことですね。
基本的に私はトップダウンでゴールを設定し、そこから逆算して今何ができていないかを把握し、上から指示するだけでなく、現場の人と一緒につくり上げていきます。ゴールを明確に示すことが重要で、方向性を共有することが必要です。ジャングルで言えば、地図を開きながら進むだけでなく、自分で道を切り開きながら進むタイプでもあります。
角田:さきほどの「内部からの登用がよい」という意見とつながるのですが、特に立ち上げ期の経営企画は、ただ数字を理解するだけでは不足しており、自分自身で道を切り開いていけるかが重要です。数字が苦手なのは問題外ですが、立ち上げフェーズにおいて必要なスキルはスライドのとおり「巻き取り力」「プロジェクトマネジメント力」「現場理解力」「整理整頓力」「コミュニケーション能力」の5つです。
ジャングルの中ですので「死んだら終わり」です。自分で自分の業務範囲を決めて、自分はここしかやらないという方は1人目の経営企画として向いていません。「僕は管理会計を学びたかった」「内部統制を経験したかっただけ」みたいな、自分の範囲を指定している方はこのフェーズにおいてはあまり歓迎できません。「何でもかんでもやります」みたいな、ある意味では自分のキャリアにこだわらない方が向いています。いろいろなことが同時並行で進むため、バタバタする方も向いていません。
先ほどもありましたが、内製にこだわらず、外の力も使いつつプロジェクトを進められる方が向いています。また、現場を理解していなければ自分で数値を改善することはできませんので、ただ数値を見るだけではなく、自分が見ている数値を改善できる力が必要です。そうなると、オペレーションレベルまで踏み込む能力が重要となります。
「物流費が高いから、この物流のフローを変えてみませんか?」「サプライチェーンを改善しませんか?」という提案ができる人が必要なわけです。そのためにはやはり現場理解力が必要で、散らかっている状況を整理しながら自分で進んだあとに道をつくれる人が求められます。整理整頓ができる人、言い方を変えると「型化できる人」です。
また、PLを見ることができるだけではダメというところにつながりますが、ただ単に「利益を上げろ」「費用を削減せよ」というのでは、立ち上げのタイミングではうまくいきません。現場とコミュニケーションを取りながら、「みんなでどう脱出できるか」という方向性を見つけることが重要です。
PLを見ることができたり、数値に強い人が重視されがちですが、そういう能力も確かに重要ではあるものの、それだけでは不十分です。自分で手を動かしてPLを改善できる人、数値に影響を及ぼせる人こそが、経営企画の初期段階において重要な人物となります。よって、現場理解力が大切なわけです。
会計知識がある人を初期の経営企画メンバーにしたいという考え方もありますが、それだけにこだわってもいけません。先ほど述べた5つの能力をすべて兼ね備えた人はそう多くないものの、最初のメンバー選びにおいてはこれらの能力をある程度有している方を重視しています。
伊藤:口で言っているだけでは誰も動いてくれないですからね。
角田:自分の背中を見せて率先して行動することが必要です。そうした「率先垂範」の精神が経営企画には必要だと思います。
経営企画の採用
伊藤:採用に関してですが、まずは会社に何が足りないのかを考え、それを補う人材を採用するのがよいと思います。最初からCFOやCSOのような存在を探すのではなく、現状の課題に対して何をすべきかを考える、例えば資金調達が必要、予算実績管理を強化したい、M&Aを進めたい、IPOを目指す、新規事業を始めたいなど、現状の課題に応じて適切な人材を採用するべきです。
特にスタートアップの立ち上げ時期は、スキルだけでなくカルチャーフィットも重要ですし、さまざまな仕事を経験していると自然と幅広い領域で能力を発揮できるようになり、結果的にそういう方が最後まで生き残ります。採用の際には、求める人物像を具体的に定め、それに合致する人を採用するほうがミスは少ないですよね。
角田:おっしゃるとおりです。経営企画に限らず、どの組織も課題ありきで考えて組織づくりすべきです。私がさっき述べた基準に則って「うちも100人を超えた際には経営企画をつくろう」という議論があったとして、でもそれが単一事業ならまだ早いわけです。人数だけを考えて無理やり経営企画をつくったとしても、経営企画部署のための仕事をつくることになるかもしれないですし、むしろ立ち上げ作業自体が非効率を生むことになります。自社の課題は何か、今は何が必要なのかを突き詰めた上で部署をつくることが重要です。採用も大変な作業ですので、課題は何なのか、今必要なのかの見極めが慣用です。
経営企画に限らず、これから部署をつくるにあたっては似たような課題があります。例えば情報システム部門。大きな会社では当たり前にある部署ですが、小さな会社はいつから部門を設けるべきかタイミングが難しいですよね。
情報システム部門は今必要なのか、それとも外部との連携でよいか、という形で、経営企画に限らず、部署を新たにつくる時や、新しくつくる組織にないケイパビリティを持った方を採用する時は、タイミングであったり、内製なのか外部調達なのかは考えたほうがよいでしょう。
特定の分野の専門家や専門会社も増えていますから、選択肢が増えているんですよね。しかし、選択肢があることを知らないまま、必要な機能が出てきたから採用や内製化に走ってしまうと時間だけが経過してしまいます。だからこそ、どのような手段があるのか情報をキャッチしつつ、自社にとって最適な選択肢は何かを選べるように、常にアンテナをはっておくことが重要だと思っています。
福澤:経営側の悩みとして、足りないファンクションは定義できるものの、それに合致する方をタイミングよく採用するのは本当に難しいですよね。創業からずっと悩みの1つで、だからこそ採用に強い方をまず確保して、そこからスタートするというお話は、そのとおりだと思います。
角田:採用に強い方は必要なのですが、その人はあくまで採用の方なので、基本的には採用しようとしますよね。そのときに、内部と外部の適切なバランスを見失うこともあるため、全部を内製化する方向に走る場合もあります。
伊藤さんもご承知のとおり、上場が近づくと、売上が伴っていればよいのですが、伴っていない場合に管理部門の比率や全社共通費の比率が適切か問われることがあります。管理部門が十分機能していないという場合もありますから、内部と外部のリソースを適切に使い分けることが非常に重要だと実感しています。
IPO準備のフェーズ
伊藤:私が現在在籍しているABCash Technologiesの組織図をお見せします。現在5期目のスタートアップで、入社時の従業員は全部で65名でした。管理部門があり、部長1人と財務経理の方、総務の方がいて6名体制ですが、全体の約10%で少し重いと思っていました。
約1年が経過し、今月末時点で従業員は89名ですが、私が所属する経営企画室は管理部という位置付けではなく並列の位置付けで、私が管掌役員として両方を見ています。
部長は元々いた方と途中で採用した方がいましたが、現在は当時の部長ではありません。経理の方も2名退職し、2名採用しました。また、法務の方が内部で異動しました。経営企画室長の私とメンバーの方がそれぞれ1人ずつ増えましたが、人数自体は徐々に減り、現在は全体の7%弱となっていますし、中のメンバーもすべて入れ替わっています。
この入れ替わりは、会社のステージが進んでいく中で必要だったからです。当時の方のレベルアップは問題ありませんでしたが、会社の成長スピードに追いつけない時があり、既存メンバーを残すか外から採用するか選択しなければならず、冷たく聞こえるかもしれませんが、急成長するタイミングでついて来れなかった方は退職しています。これだけを聞くと「この会社は冷たい」と思われるかもしれませんが、成長のための土台をつくるには、この1年間で一気に荒療治をする必要がありました。
私のことを冷たい人間と思われるかもしれませんので、前に働いていたGameWithでのバックオフィスの変遷もお見せします。私が入社した時、従業員は1名しかいませんでした。その方は税理士に提出するものを作成するだけで、バックオフィスとは言えない状態でした。それからマザーズ上場までの間に、私と一緒の時期に入社した会計士の方が管理部長となり、経理の方、私の3名、ただ実質的にコアメンバー2名でマザーズ上場を達成しました。これは会計士の方と私の過去の経験から、法務、総務、会計、内部監査、経営管理など各領域をカバーできたからです。
ただしこれは非常にリスキーです。人数の問題よりもコアスキルの問題で、もしどちらかが退職してしまうとどうしようもなくなるため、このような方法はおすすめしません。しかし、会社が急成長する場合にはこのようなこともあるわけです。
そしてマザーズ上場直後は、組織を整えていく必要がありました。経営戦略室をつくり、外部から採用した方がIR業務を担当するなど、バックオフィスを強化することになりました。財務、経理、総務、法務などの部門は上場すると専門スキルが必要となりますので、採用を進めました。そしてマザーズ上場から1年半で東証1部に上場するまで、各部門がしっかりと機能するようになりました。もともとバックオフィスは私が主導していましたが、ここまで来ると組織全体で運営できるようになったため、私はCFOとして動いていました。
マンションの一室という規模から東証1部上場の規模まで持っていくと、短期間ながらもこれくらいの変化はあります。多少強引な部分もありますが、こうしてバックオフィスを整えることによって売上が伸び、会社も大きくなっていくわけです。
当初の経営企画室は主にバックオフィスの統括みたいな部署でしたが、現在は予実管理部署となっています。横串を通す、トップダウンで進める、細かいところを拾っていくといった業務から、徐々に経営企画として本来あるべき予実管理などを行う部門になっていったわけですが、私が在籍したころの経営企画部門と、現在の経営企画部門とで役割が異なっているのは、どちらが正しいということではなく、ステージに応じて組織自体が中の人とともに変わったわけです。
求める人材は会社の課題で変わる
角田:私の場合、主に会社の立ち上げに関与していたこともあり、伊藤さんの視点とは少し違う観点でお話ししようと思います。さきほどは1人目の経営企画のお話をしましたが、それ以降どうしていくかについてお話しします。
大前提として、1人目以降、その会社における経営企画の守備範囲、特にどういう課題が残っているかによって求める人材は変わると思います。1人目はジェネラリストが向いているというお話をしましたが、それ以降は課題に応じた専門性が必要になります。戦略をつくる、M&Aなどで新規事業を積極的に進める、上場が近いため内部統制に取り組む、上場準備をしっかり行いたい、といった課題に応じて経験ある方を選ぶべきだと思います。
組織づくりで重視しているのは、すべてを内製で解決しようとしないことです。特に我々が置かれているような未上場のベンチャー企業の立ち上げ期においては、逆に専門性が高すぎるとスキルを持て余すといいますか、ハイスペックな方がいてもフルに活用できるほどの業務がまだない場合があります。また、内部にその方と同じ能力を持つ方がいないため、適切なマネジメントができないこともあります。情報システムや士業関係の方を早期に雇用するのはありがちですが、あくまで外部を最大限活用し、外部も我々のチームの一部として考えることが非常に重要だと思います。
上場が近づけば、採算構造として管理部門も適正な状態になるはずです。そのためにも、何が管理部門におけるコア業務なのかを明確にして外部を上手に活用するのがよいでしょう。ノンコア業務は外に出すという考えもありますが、「コア業務ではあるけれど、今採用すると持て余したりマネジメントできない」という問題もあるため、コア業務だけど外部に頼るフェーズもありますよね。やはり、何が自分たちの真のコアなのかをしっかりと理解して、うまく外部を頼ることが重要だと思います。
さきほど「経営企画は何でもかんでも担当する仕事」と述べましたが、それが原因で過度に業務を引き受けてしまい、経営企画自体がボトルネックになる事態も頻繁に起こります。そのためにも、過度な内製化にこだわりすぎないのは重要です。ジャングルのガイドなのにガイドできなければ本末転倒ですので、それは避けたいというお話です。
また当社の組織図について少し触れます。私たちの企業ではコーポレート部門が中心になって、その周りに細かく分けた複数の部署が存在しています。大まかには4つほどの部署があり、それぞれが何をすべきか、どういうミッションを持っているのか明確にしています。そして、弱点がある部署に対しては経営企画が入ってサポートする形です。
ミッションを実現するためには、内部だけでなく外部の力をしっかり活用しましょうということを経営陣に伝えています。管理部門ですので「そんなに外部にお金を使わないで」という意見が出ることもありますが、「それをしなければ、会社のミッションが進まない」ということをしっかりと伝えるようにしています。
また、特に大手企業でよく見られるのですが、経営企画は自分たちの領域を守ろうとする傾向があります。「これは経営企画の仕事だから」と囲い出すことがあるのですが、それはそれで問題です。「ジャングルでパーティーが死なないこと」を最優先とするならば、適切なタイミングで適切な人に業務を委譲する必要があると思います。経営企画自身が自分の領域に固執してボトルネックになったり、セクショナリズムを生むような行動は、会社の成長のために避けるべきだと思います。
当社でも最初は経営企画で広報を担当していましたが、採用を強化するためには本来人事部門が担当すべきだと考えて人事部門に業務を移しました。また、最初は総務業務も担当していましたが、社員管理の効率性を考えると労務と総務は近しい人間が担当した方がよいと考え、その業務も委譲しました。「経営企画だからなんでもやって」みたいな形でスタートしましたが、力ある人の採用に合わせて、経営企画から機能をはがしてきました。経営企画という範囲に固執してずっと業務を持っていると組織の推進を妨げるため、全社最適で配分し続けるのが重要です。全員がジャングルを出たいのなら、適切な方に業務を渡しましょうと考えるのが大切です。
伊藤:経営企画が努力することで成長できる部分は積極的に伸ばすべきですが、任せたほうが伸びることであれば他部門にパスするなど、柔軟な思考が強みとなります。
角田:まさにそれができる人が経営企画であって、自分の役割を囲う人ではないということですね。
伊藤:マネジメント目線を持っていれば誰でも経営企画に挑戦できますし、その心構えで臨めばよいと思います。手に職があるので何でもできますしね。
福澤:最後にまとめとして、お二人から一言ずついただいて終わりたいと思います。今日は経営企画の立ち上げ期の定義、組織づくりをどのように進めるべきかについて、具体的な事例を交えてお話しいただきました。
特に印象的だったのは、経営企画は「何でも屋」でありながら、自分が巻き取る場合もあれば、よい方が採用できれば業務を委譲するなど、柔軟な対応ができる方が経営企画を束ねるということがわかりました。最後に、お二人から一言ずつお願いします。
角田:「何でも屋」という言葉は、経営企画を揶揄する言葉のように感じたり、自分を卑下する言葉のように思う方もいるかもしれませんが、私はジャングルを脱出するために何でもやるのは当たり前だと思っていますので「何でも屋、上等」という気持ちです。
経営企画は経営陣と現場の間で挟まれて孤立しがちで、人数も多くない部署です。他の経営企画担当者との情報交換の場を主催していますので、そこで情報共有することで一気に問題が解決したりすることもあります。情報の感度が大切だというお話をしましたが、その意味でも私が管理者である経営企画のコミュニティを活用いただければと思います。ありがとうございました。
伊藤:必要な時期が来たら経営企画を作らなければならないわけですが、そのときは角田さんのコミュニティからスカウトするのもよいと思いますので、ぜひ参加してみてください。
福澤:本日のセッションをここで終了します。ありがとうございました。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。