カスタマーサクセスとは|仕事内容や役割を詳しく解説
2022.04.20
アメリカを中心に拡大し、最近では国内でも注目を集めるカスタマーサクセス。この記事では、そんなカスタマーサクセスに関する基本情報や注目されるようになった背景、重要KPIなどを詳しく解説していきます。今後導入を検討している企業担当者や、カスタマーサクセスについて知りたい人は、ぜひ記事を参考にしてみてください。
カスタマーサクセスとは
顧客を成長や成功に導くために、能動的なアドバイスをすることをカスタマーサクセスといいます。もともと欧米企業を中心に急速に拡大したマーケティングの概念でしたが、顧客のニーズを満たすことが顧客の成長につながり、結果的に自社の収益につながったという事例が多発しました。その結果、近年では国内企業にも浸透しつつあります。
カスタマーサポートとの違い
カスタマーサクセスとよく似た言葉として、「カスタマーサポート」という言葉を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。この2つの言葉は混同されがちですが、意味合いが全く異なります。
カスタマーサクセスは、顧客からアクションがなかったとしても顧客の状況を把握し、より成長や成功につながると考えたことを積極的に提案します。一方でカスタマーサポートは顧客が起こしたアクションに対して対応や問題解決といった形でレスポンスを返します。
つまり、カスタマーサクセスとカスタマーサポートには、能動的に行動するか受動的に行動するかという相反的な違いがあるのです。
カスタマーサクセスが注目されている理由
記事の冒頭で、カスタマーサポートは欧米企業を中心に急拡大した後に国内で浸透したとお伝えしました。では、なぜ今国内でもカスタマーサクセスが注目されているのでしょうか。その理由として、以下の3つが挙げられます。
- サブスクリプション型のビジネスモデルが浸透
- 営業スタイルの変化
- 他社サービスとの差別化
吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。
これらについて詳しく見ていきましょう。
サブスクリプション型ビジネスモデルが浸透
これまでは商品やサービスを購入するのが一般的でしたが、現在は利用期間に応じて料金を支払うサブスクリプションという方式にシフトチェンジしつつあります。この新しいビジネスモデルは、SaaS業界を中心に急速に浸透している傾向です。
サブスクリプション型ビジネスモデルは新規顧客の獲得がゴールではなく、その後の継続的な顧客フォローで満足度を維持することが重要です。満足度を維持して継続的に利用してもらい、解約されないように施策を行う必要があるため、カスタマーサクセスによる、顧客のニーズに寄り添った成功体験のプランニングが求められます。
営業スタイルの変化
サブスクリプション型ビジネスモデルの浸透は、営業スタイルの変化にも関係があります。商品やサービスの購入を目的としたビジネスモデルでは、契約を結ぶことが最重要課題であり、目指すべきゴールでした。
しかし、サブスクリプション型では、継続利用をゴールに設定する必要があります。さらに、契約獲得後にグレードアップしたプランに移行してもらう、オプションを追加してもらうなど、より深くサービスを利用してもらうことが大切です。
SaaS業界におけるサブスクリプションサービスは、顧客からのニーズをフィードバックして徐々に機能をアップデートさせていくことが、顧客満足度の増加や継続的な利用につながり、結果的に自社の利益に大きく影響します。これには、カスタマーサクセスの能動的で顧客に対する長期的な働きかけが必要不可欠でしょう。
他社サービスとの差別化
顧客は商品やサービスに対して、物理的価値よりも満足感や成功といった心理的価値を求めています。それを理解した企業が乱立する市場では、競争が激しくなる一方です。その中で自社サービスに支持を集め続けるには、他社サービスと差別化を図ることが重要です。
カスタマーサクセスが収集した顧客情報からニーズを把握し、商品やサービスに対する課題、それに対する改善策をフィードバックするという一連の流れが、それぞれの顧客に合わせた最適なプランニングと情報提供による成功体験につながるはずです。成功体験は心理的価値を高め、商品やサービスの継続的な利用が期待できます。
カスタマーサクセスの役割
カスタマーサクセスは能動的な働きかけで顧客に成功体験を届け、心理的価値の高まった顧客との長期的な関係構築で売上・利益を向上させることが最大の目的です。それを達成するために、カスタマーサクセスでは下記のような役割も担っています。
- サービスを継続的に利用してもらう
- 顧客の問題を解決
- LTVを最大化させる
- 解約率を下げる
これらについて詳しく見ていきましょう。
サービスを継続的に利用してもらう
カスタマーサクセスは、サービスを継続的に利用してもらうために、さまざまな取り組みを行っています。具体的には、商品やサービスの導入時や利用開始後に顧客にコンタクトをとることで、必要に応じたフォローを実施するなどです。
その他にも、サービスに関する勉強会の開催、利用者同士がコミュニケーションを図れる場の運営など、成功体験につながる機会を提供しています。こういった取り組みは顧客に安心感や信頼感を抱かせ、顧客ロイヤリティ向上が期待できるのです。高いロイヤリティを持った顧客は、継続的なサービスの利用が見込まれるでしょう。
顧客の問題を解決
カスタマーサクセスは、定期的なコミュニケーションで顧客が抱える不安や自社商品・サービスに対する疑問点を可視化し、問題解決に向けたアドバイスを行います。顧客が不安を抱えたままでいると、サービスの継続利用を迷ってしまう可能性が考えられます。
また、サービスの使い方が分かっていないと顧客がメリットを実感できません。サービスを利用するメリットを実感してもらうためには、しっかりと疑問を解消してサービスを最大限に活用してもらうことが重要です。
LTVを最大化させる
LTVは「Life Time Value」の略であり、日本語では顧客生涯価値を意味します。これは、個人または企業が自社の商品・サービスを利用している間にもたらす利益や価値の総額です。
LTVが高いほど企業の売上や利益が向上するため、KPIの1つとして設定している企業も多くなっています。LTVを向上させることで、企業は安定した売上・利益の維持が期待できるのです。カスタマーサクセスでは、LTVを最大化させるための施策を実行するのも重要な役割の1つとなります。
解約率を下げる
前述の通り、カスタマーサクセスでは顧客に対して能動的な働きかけを行います。成功体験につながるプランニングや情報提供は、顧客のネガティブな感情を抑制し、結果的に解約率の改善につながります。そのため、顧客とのコミュニケーションからトラブルの予兆を早めに把握して解約を防ぐのも大切な仕事といえるのです。
カスタマーサクセスの仕事内容
カスタマーサクセスは、新規顧客が商品やサービスを導入して利用を開始した時点から仕事が始まります。
具体的には、導入時のサポート、利用開始後の必要に応じたフォロー、顧客課題に対する適切なアドバイス、成功体験につながるためのプランニングを行うなど、さまざまなアプローチが求められるでしょう。
また、能動的に顧客に対して働きかけるカスタマーサクセスでは「攻めの仕事」が重要です。カスタマーサポートのように顧客が起こしたアクションにレスポンスを返すのではなく、顧客がアクションを起こす前に将来を予測した積極的な行動をとる必要があります。
カスタマーサクセスで大切なKPIの指標
カスタマーサクセスの役割で紹介したLTVや解約率は、カスタマーサクセスにおける重要KPIです。しかし、これら以外にも大切にすべきKPIの指標が存在します。
- 維持率(リテンションレート)
- オンボーディング完了率
- アップセル率・クロスセル率
- アクティブユーザー数
- NPS(顧客推奨度)
どのような指標なのか、それぞれ詳しく見ていきましょう。
維持率(リテンションレート)
マーケティング領域では、既存顧客との良好な関係を維持するための活動をリテンションといいます。リテンションレートは、自社の商品やサービスを継続的に利用した顧客のうち、どのくらいの顧客が定着したかを数値化したものです。
従来のマーケティングでは、新規顧客の獲得が最重要課題とされていました。しかし、競合他社や類似した商品・サービスのアップデートによる顧客離れにより、事業の継続・拡大が難しくなるケースが続発したのです。それ以降は、顧客の動向を分析し、結果を基に適切なマーケティング施策を実施することでリテンションレートを高めることが重要という考えにシフトチェンジする企業が多くなりました。
高いリテンションレートの維持はLTV(顧客生涯価値)の変化にもつながるため、長期的な関係構築で顧客を成長・成功に導くことを目的としているカスタマーサクセスにとって非常に重要なKPIになります。
オンボーディング完了率
顧客が自社商品やサービスの利用を開始してから定着した状態を「オンボーディング完了」といいます。自社でKPIとして設定する際は、自社商品やサービスの特徴に合わせて企業ごとにオンボーディング完了状態を定義し、達成した時点でオンボーディング完了率を算出しましょう。
オンボーディングが完了していない顧客は解約率が高い傾向があることから、オンボーディング完了率がカスタマーサクセスで重要視されているのです。
例えば、商品やサービスの導入作業を後回しにしている顧客がいるとします。長期間商品やサービスに触れないままでいると、導入する必要性が感じられなくなり、なくても大きな問題がないと思ってしまうでしょう。そういった商品やサービスは解約され、顧客と長期的な関係を構築することができなくなります。
また、初期設定完了後に操作方法や内容に不明点があった場合、顧客が問い合わせを面倒に感じて、そのまま解約するケースも考えられます。こういったことを防ぐために、商品やサービスに対する顧客の熱量が高いうちに初期設定を完了させ、利用を開始するように誘導することが重要です。
分かりやすいチュートリアル準備や問い合わせチャネルの増設、訪問や架電で顧客の関心を惹くなどの工夫を施し、オンボーディング完了率を高めていきましょう。
アップセル率・クロスセル率
アップセルは、ベーシックな商品やサービスにオプションを加える、またはよりグレードの高い商品やサービスに契約変更することです。一方のクロスセルは、利用中の商品やサービスをより効果的に使うために、別の商品やサービスを併せて導入してもらうことを指します。
どちらも、すでに顧客が商品やサービスの導入によって、成功体験を積んでいるのが前提条件です。カスタマーサクセスは、それぞれの顧客に合わせた提案をすることで、アップセル率・クロスセル率を高められます。
しかし、顧客に対して新しい成功体験を届けることができないサービスは、アップセル・クロスセルが期待できず、結果的に解約率の増加につながりやすいので注意してください。商品やサービスを頻繁に利用している、関連性の高い商品やサービスに興味を持っている顧客に対してアプローチし、ステップアップしたカスタマーサクセスを実現させましょう。
アクティブユーザー数
自社の商品やサービスを導入している顧客の中で、一定期間内に1回以上の利用がある顧客を数値化したものをアクティブユーザー数といいます。アクティブユーザー数の減少は顧客の興味関心が薄れていることを示しているため、解約率の増加につながるでしょう。
アクティブユーザー数の指標には、1ヶ月のアクティブ数を示す「MAU」や1日のアクティブ数を示す「DAU」などがあり、これらの指標を活用して短期間の計測を行うことが、迅速な改善策の立案、実施につながります。
NPS(顧客推奨度)
NPSは顧客ロイヤリティを測る指標であり、自社の商品やサービスに対する顧客の愛着度を示します。顧客に対して、商品やサービスの推奨度を0~10の11段階で評価してもらう簡単なアンケートを実施し、点数ごとに批判者(0~6点)、中立者(7~8点)、推奨者(9~10点)にカテゴリー分けした後に、推奨者と批判者それぞれの割合の差を計算することでNPSを算出します。
顧客満足度と勘違いしがちですが、定義の広さや長期的な収益の関係性に大きな違いがあるため、混同しないように注意しましょう。アンケートで推奨者に分類された顧客は、知人や友人に自社商品やサービスを勧めてくれる可能性が高く、特別なアクションなしで新規顧客の獲得が期待できます。
また、NPSの数値を見ることで自社の顧客像を把握できます。批判者が多かった場合は、商品やサービスを見直す機会につながるでしょう。将来的な収益の推測や顧客との長期的な関係構築が求められるカスタマーサクセスに、NPSは必要不可欠といえます。
まとめ
ここまでカスタマーサクセスが注目された背景、役割や仕事内容、大切にすべきKPIといった内容で解説してきました。今後、サブスクリプション型ビジネスモデルを採用する企業やSaaS型サービスを提供する企業は、さらに増えることが想定されています。
それに伴って、カスタマーサクセスの重要性も増していくことでしょう。カスタマーサクセスでは、LTVの向上や解約率の低下などの役割が求められるため、適切なKPIの設定が求められます。
カスタマーサクセスにとって重要な指標をさらに詳しく知りたいという方は、下記の資料もご参照ください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。