経営企画のキャリアアップ|経営企画カンファレンスイベントレポート
2023.7.9
<スピーカー>
株式会社YOUTRUST 執行役員 経営企画部 部長 田中喜久氏
株式会社アイドマ・ホールディングス 経営管理本部副部長 木原宏一氏
<ファシリテーター>
株式会社MS-Japan 執行役員 キャリア事業部長 松林俊氏
イントロダクション
広瀬好伸氏:それではセッションを始めます。テーマは「経営企画のキャリアアップ」です。スピーカーは株式会社YOUTRUSTの執行役員 経営企画部部長の田中さん、株式会社アイドマ・ホールディングスの経営管理本部副部長の木原さんです。そして、ファシリテーターは株式会社MS-Japanの執行役員 キャリア事業部長の松林さんです。それでは松林さん、よろしくお願いします。
松林俊氏(以下、松林):あらためて自己紹介させていただきます。私はMS-Japanに所属しており、経理や人事、その他の管理部門、会計士や弁護士などの資格者に特化したビジネスを展開しています。その中で、主に人材紹介やダイレクトリクルーティングのサービスを統括するキャリア事業部の事業部長を務めています。私自身は経営企画の当事者ではないのですが、そういった方々のキャリアを見てきた経験から、ファシリテーターとして参加させていただきます。よろしくお願いします。
田中喜久氏(以下、田中):株式会社YOUTRUSTの田中と申します。キャリアSNS「YOUTRUST」を運営しています。私自身の経歴について簡単に説明します。新卒でコンサルティング会社に就職し、SEのような仕事も含めてエンジニアを担当し、その後は保険会社でシステム企画部を経験しました。そして、株式会社ディー・エヌ・エーや株式会社メルカリなどのITメガベンチャーで経営管理を担当しました。そして2020年4月からはスタートアップであるYOUTRUSTに参加し、コーポレート全般を管掌しています。よろしくお願いします。
木原宏一氏(以下、木原):株式会社アイドマ・ホールディングスの経営管理本部副部長の木原と申します。私たちは営業支援を軸にしたビジネスを展開していますが、在宅で働くクラウドワーカーの活用とそのノウハウを生かした人材支援も行っています。私自身のキャリアですが、2008年に公認会計士の試験に合格し、その後監査法人でM&Aのアドバイザリー業務を約10年間行ってきました。その間、プライベート・エクイティ・ファンドに出向し、約3年間在籍して案件を手がけたり、エグゼキューションにも入らせてもらい、その後事業会社に1年間常駐してバリューアップにも携わったのですが、その経験を生かしてアイドマ・ホールディングスに転職しました。アイドマ・ホールディングスは2021年6月に上場しましたが、その2ヶ月ほど前の2021年4月に入社し、経営管理部門で主に経営企画やIR、経理全般を担当しています。
松林:ありがとうございます。経営企画というポジションで活躍されていると思いますが、お二人とも経歴や経験が異なり、非常に特徴的です。後ほど詳細をうかがいたいと思います。
経営企画の定義
早速ですが、本題に入ります。今回のテーマは「経営企画のキャリアアップ」ですが、最初にこのお話をいただいたときには難易度が非常に高い議題だと感じました。経営企画ははっきりとした定義がなく、ある意味では「ビッグワード」だと思っています。まず、経営企画とは何か、大枠の定義を揃えるところから進めていきたいと思います。お二人の現在の会社を事例にして、経営企画がどのようなものかお話しいただければと思います。田中さん、いかがでしょうか?
田中:スタートアップのYOUTRUSTの例になりますが、私が経験してきたメガベンチャーと比べると少し異なる形をしています。現在はHRも含めて経営企画部門で管理しており、組織体制としては、経営管理という役割で、財務会計、IPO準備、管理会計、人事労務などを見ています。そしてHRのところで採用や組織体制を見ています。
木原:松林さんのおっしゃったとおり、経営企画は会社のステージによって担当する領域が変わります。田中さんの場合、現在のYOUTRUSTだけでなく、過去に勤めていた大きな会社での経験もあると思います。そのときの経営企画はどのようなものでしたか?
田中:スタートアップとの違いでは、例えばHR部門と経営企画部門は本部レベルで分けられていたりします。一方でスタートアップでは一体の場合もあると思いますが、採用計画や人員計画などのHR領域を中心に練り上げる計画は、経営企画や経営管理との連携が容易であると考えています。ただし、スタートアップのHR担当者は数字や経営指標への感度も上がってくると思いますので、HRだけれども経営企画や経営管理領域も一緒に考えたい人にはスタートアップはフィットすると思います。
松林:ディー・エヌ・エーのときは、IRは経営企画の領域でしたか?
田中:IRも経営企画本部の中にありました。大きく分けると、HR本部と経営企画の2つに分けられていて、HR以外のものは基本的に経営企画に入っていました。木原さんの現在の会社は上場しているので、それに近い構成になっているのでしょうか?
木原:当社はまだ上場して2年程度ですが、上場するまでは、経営企画といっても企画を考えるのは社長が中心でした。しかし、上場するとIR活動が必要になり、また予実管理も重要になるため経営企画の機能が必須となったため、私がその役割を担うことになりました。私のバックグラウンドが会計士のため、経理業務も行いながら、過去の実績を見て予算作成を行い、その結果をもとに中期経営計画を作成したり、決算発表後のIR活動を行っています。
私たちの会社は上場以降、非常に積極的にM&Aを実施してきています。買収した後のPMIは各事業部門の責任者にバトンタッチしますが、M&Aにおける初期的検討や実際のエグゼキューションはかなり深く関与しています。いくつかの会社ではM&A専門の部隊が存在するかもしれませんが、我々のような新しく上場したばかりの会社ではすべて自分たちで行っています。上場直前や直後の会社においては経営企画はさまざまな分野で挑戦できる部門であり、多様な経験を積むことが可能だと思います。
一口に経営企画と言っても、組織も、そこに所属する人のキャラクターもさまざまだと思います。松林さんにお聞きしますが、最近どのような求人が多いと感じていますか?
松林:経営企画は「何でも屋」というと語弊がありますが、かなり業務の幅が広いですよね。まだ上場して間もない企業や500人規模の企業では、M&Aや子会社管理、管理会計等、幅広い分野を担当するものが多いです。また数は少ないですが、HR領域を担当するところもあります。
大手企業では経営企画の人数がかなり多くなってくるため、M&A専門部隊やIRを担当する部門、最近ではSDGsや人的資本管理にもメスを入れていきたいということで求人を頂戴することも増えてきています。
またIPOを控えた企業では、IPO準備室を兼務する経営企画の方が多く、外部の証券会社や監査法人との折衝、資本政策などまで行う人材が多く見られます。経営企画は、会社の規模やフェーズによって求められる人材が大いに異なるため、定義するのは本当に難しいと思います。
経営企画が果たすべき役割や責任
松林:さて、ここまでは具体的なお話が中心でしたが、ここからは抽象度を高めた内容で、経営企画の役割や責任範囲について議論を行いたいと思っています。お二人が考える、経営企画が果たすべき役割や責任とは何でしょうか?
田中:私も含め、新卒から経営企画のキャリアを歩む人は少ないと思いますが、数字に関連するという意味でのキャリアは一貫していると思います。ディー・エヌ・エーやメルカリでもさまざまな立場から数値管理を実施した経験がありますが、事業側と経営側の間に立つことが多く、タイミングに合わせてブレーキを踏んだりアクセルを踏んだりすることも必要で、仕事や人間関係のバランス感覚も含めて、潤滑剤になるような仕事だと思っています。
また、共通言語は数字が中心なるシーンが多いと思います。それに加えて、スタートアップにおいては外部機関、証券会社、監査法人とのコミュニケーションも重要になってくるため、今の自分としてもチャレンジングであり、ダイレクトに面白みを感じている領域です。
前段を補足すると、経営企画の中の機能で管理会計のような領域は、経営企画の中にある場合や事業側にある場合など、自分の経験上ではローテーションしていることが多いです。予実をどこまで中央集権的に管理するかについてですが、中央集権で数字を管理したフェーズも当然ありますが、一方で、事業部に深く関与し、その数字の理解を深め、また啓蒙するようなフェーズもありました。特に、新規事業や立ち上げたばかりの事業については、教育的な意味も含め経営管理機能を現場に持たせることもありました。
また、これはネガティブな意味ではありませんが、事業構造があまり変化しない、予測や読みが容易な事業に対しては中央集権的な管理も行うことができ、現場でもきちんと数字を管理でき、運用が統一されていたりもします。やはり会社のフェーズや事業の状況で最適な形や仕組みを模索しながら進められるところが魅力だと思っています。
松林:関わり方は、事業やフェーズによって変わるわけですね。
田中:事業会社の場合、特に立ち上げ直後ではアサインされたメンバーも事業の構造も流動的に変わり、成長率も読みづらいなどの事情から、経理的なところも現場に持たせることがあります。
松林:伴走して、その過程で時間を使い、一緒に考えたりしましたか?
田中:特におもしろいと感じたのは、管理会計のメンバーが事業部に常駐し、現場の一員として仕事をしたことです。そうすると、事業責任者の思考や感情を直接感じることができます。経営企画に閉じこもってしまうと事業側の需要や思いが汲み取れず、経営サイドに寄りすぎてしまいます。そのバランスを取るために、事業側に常駐するメンバーもいれば、経営に近いメンバーなどもいました。
松林:形を変えて進めていったかたちですね。木原さんはいかがですか?
木原:私の場合、IRなどを担当することもあり、外部に対する役割もあります。まず対内的には、社長を中心とした経営陣の思いをどのように現場に落とし込むかが重要です。目標自体や、その目標をどのKPIに落とすか、例えば営業部門には受注や売上といったトップラインだけを落とす場合もありますし、営業部門にPLの責任を持たせる場合もあります。当社の場合は、比較的わかりやすい指標である受注や売上を営業部門に落として追ってもらい、PLは経営管理本部でコントロールする形をとっています。
数字はビジネスの共通言語であり、最終的にはみんなで共有できるものです。その数字目標がどのKPIで構成されているかを分解し、現場の方に理解してもらうことが重要です。例えば資本効率、ROICなどのなかなか理解しづらい概念はわかりやすく説明することが必要です。これによって現場がスムーズに運営されるようになると考えており、内部のコミュニケーションではとても重要だと思います。
また対外的には、各部門が努力して達成した成果を伝えることが求められます。さらに、経営陣がどのように考えているかを発信することも、外部に向けたコミュニケーションの一部です。私の役割としては、機関投資家への情報提供を行っています。バックグラウンドとしてファンドの経験もありますので、社内で上がっている情報を自分なりに解釈し、機関投資家が求める情報や財務モデル作成に必要な要素を提供するようなポジションだと認識しています。
直接プロフィットを生み出す部門ではなくミッションが持ちづらい部門ですが、社内外のステークホルダーとともに円滑に会社を動かす非常に重要なポジションだと認識しています。
松林:事業部側の人間としての意見ですが、事業部サイドとの連携は難しいと思うことはありますか? 特に現場のメンバーが財務やPLの概念を意識して動くのはなかなか困難だと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか?
田中:非常に難しいと思います。ひとつの例をお示しすると、財務会計から管理会計が作られる際、そのインプットとなるデータの質が重要になります。経理がすべて行うのではなく、データをインプットする機能を事業部サイドに持たせると、現場のスタッフの数値意識が向上すると思います。現場のスタッフが自分たちがどれだけのコストを使ってどれだけの仕事を行っているかを把握できるようになるため、機能を分離することによって実現する側面もあるかと思います。中央集権でなくても問題がない範囲で委譲するということです。
松林:木原さんはいかがですか? 事業部サイドへの目標の持たせ方などは難しい部分もありそうですよね。
木原:ビジョンや目標設定については、経営企画が考えるというよりはオーナーの社長が設定し、それを基に事業部に具体的な目標を設定します。そして現場では、受注件数や単価などの過去実績を考慮してどのように進めなければいけないかを考えたり、目標達成のために必要な人員リソースを算出し、それを採用計画に落とし込みます。
また、現場の経理にどこまで関与するか、事業部がどこまで経理を担当するかは会社のステージによると思います。私の感覚ですが、売上が10億円から30億円の会社では本部がすべてを担当した方がよいでしょう。当社のように売上が100億円に達している場合、このタイミングで一部の業務を事業部に委譲するのが適切だと思います。
例えば費用や予算の部分については、それを各現場に落としてその範囲内で進めてほしいと指示を出しています。PLの責任を大きく任せているわけではなく、費用のコントロールをお願いしています。現状では、例えば費用に関して、請求書や納品書が来た際にそれを検収して部長などに確認してもらう流れがありますが、個々だけではなく、きちんと全体の数字をまとめ月次で報告してあげて、どれくらいの数字だったのかという情報も交えながら会話しています。
そうすることで「これだけの費用がかかり、売上はこれだけあった」という状況が把握できるようにしており、そこから、徐々にPLがどの程度なのかという部分も含めて伝えられればよいと思っています。これが現在のフェーズでの姿だと思っていますが、まだ試行錯誤の段階です。
松林:規模の大きいディー・エヌ・エーに在籍していたときと比べて、現状はいかがですか?
田中:ディー・エヌ・エーでは事業が複数あり、それぞれの規模も一定程度大きく、売上高が3桁億円を超えるような事業も複数存在していたため、それぞれの事業部に経理を置いたり、またあるタイミングでは中央集権的に効率よく進めようといったことを都度判断して、短いスパンでローテーションしていました。
非常に変化が激しく、2年か3年後には元に戻っているということもありますが、人員的な要素も含まれるかもしれません。人員が現在のようなリソースだからこそ、最適化したらこうなるという状況も存在します。事業フェーズ、また、現場に対する数字の啓蒙というタイミングだったかもしれません。
松林:ここでこんなに深掘りするつもりはなかったのですが、もう一つ質問が出てきました。経営企画の立場で、特に予実や会社の業績、利益コントロールは非常に大きなミッションとして背負っていると思うのですが、前提として、事業が成長して売上が立っていかなければならないわけです。そうなった時に、事業の推進部分について、その事業の進め方にも深く関与して、それぞれの事業部長などと意見交換も行っているのでしょうか?
田中:現状についてお話しすると、意見交換しています。スタートアップである当社の規模感からすると、売上に影響を与えるKPIや変数について、その変数がどのように変化すると売上がどうなるのかというシミュレーションを行っています。売上を伸ばすのが困難な数字の変数がどれかという議論も、数字ベースで行っています。
「その変数を変えるとこうなる」というシミュレーションパターンをいくつか出したり、「この部分はサービス特性上、物理的に難しいのではないか」という議論をしています。そのうえで「この売上はこれ以上伸びないのではないか、他の部分で積まなければならないのではないか」といった話し合いをすることもあります。
ディー・エヌ・エーでの経験から言えば、事業の予測を精度高く行うことにより、事業の将来性を踏まえ、M&Aも含めてどのように提案できるかという部分が経営企画の醍醐味だと感じています。
松林:そういった人がいると非常に助かりますね。木原さん、いかがですか?
木原:私は経理の部長も兼任していますが、例えば新規事業を立ち上げる際、新しい事業の立ち上げにあたって経理的な視点や、新サービスの申込書の点検など、事業の初期段階からキャッチアップできます。その結果、どういった行動が増えれば売上が増えそうかという予測も可能となります。
毎月開催する経営会議で幹部メンバーと意見交換を行い、管理の立場から計画の進行状況をチェックします。特に新規事業立ち上げのとき、最初の数ヶ月のスパンは密に聞き、受注がある程度積み上がれば、その後はうまく回ると思っています。
また経営企画だけでなく、経理の立場を利用しながら、事業部から必要な数字を取得することもあります。ただ、事業改善の提案は自分の権限の範囲次第です。もちろん雑談ベースで事業部と話すこともありますが、週1回開かれる会議で事業部と経営陣との間で詳細を詰め、経営会議でフィードバックを受けて進めています。
松林:確かに、経理と経営企画でどこまで踏み込むのかは変わっていきますよね。
木原:上場企業は予算作成が必要なため、過去の数字を見ながら現実的にどこまで行けるのかを予測しますが、その際にKPIを詳細に聞いて理解を深めて最終調整します。
松林:ありがとうございます。今までのお話から、経営企画のお二人がどのように経験を積み重ねてきたのかがわかりました。
経営企画のキャリアアップ
松林:ここからは、会社の中心人物として働くお二人のキャリアに焦点を当て、これまでどのようにキャリアアップしてきたのかうかがいたいと思います。まずは木原さん、どのようなスタンス、スキルセットを持って働いてきた結果、今があるとお考えですか?
木原:元々、会計士を目指した経緯からお話しすると、当初はプライベート・エクイティ・ファンドのように事業に投資することを夢見ていました。そのためのツールとして、数字を理解しなければならない会計士の資格取得を目指しました。しかし、会計士の視点だけでは財務の実績の部分しか把握できません。そこで、M&Aの経験を積み、どのような会社を買うべきかをサポートする立場から管理面の数字を見るようになりました。このようにM&Aのアドバイザリーを経て、その後ファンドに進んだのです。
ファンドで投資した会社に実際に1年ほど常駐した際、戦略を事業に落とし込んでもフレームワークどおりにうまく進むわけでもないため、そのことを事業側の人々に理解してもらうことが重要だと理解しました。また、ファンドの視点では株主としてどこまで信頼を得ることができるかというところもあり、ある程度成果は出ましたが、まだできることがあったと思います。
事業会社の経営企画は、営業や生産などと協力しながら考える経験を生かすことで、経営企画として、またビジネスパーソンとして幅広い引き出しが持てるようになると思います。ただし、ベースとしては数字が共通言語となりますので、その上で各事業部長とどう話すかが大切だと思っています。ハード面だけでなく、ソフト面も含めて非常に重要で、キャリアとして磨き続けています。
松林:会計士の資格を持っているため、そのスキルが基盤になっていますよね。ファンド側、ある意味では外の立場から関わるところから、会社の中に入っていくというかたちでキャリアチェンジされたと思いますが、両方経験してみて、その違いは圧倒的だと感じますか?
木原:ファンド業界、特に日本ではプライベート・エクイティ・ファンドが増えてきており、情報格差が減っています。私がファンドにいたとき、投資しようと思った企業から求められるのは「入ったあとに何ができるのか」というバリューアップの部分についてでした。
金融系出身者は、ファイナンスや財務については得意ですが、バリューアップについては難しさがあります。これまではファイナンス要素が前提でしたが、事業部としてどう伸ばしていくかを考えることに重点を置いており、その結果、経営全体の数字の解像度が高くなっていると感じています。
松林:外部から内部へと関わり方が変わりましたが、ソフト面での関わり方も大きく変わったと思います。その点で難しさを感じた部分や、逆に成功したことなどを教えてください。
木原:ひとつは、共通言語の違いです。営業は成果を上げたいという強い意思があり、法に触れるわけではないですがけっこう攻めますよね。一方で、管理・企画側は、それが行き過ぎると止める立場にあります。
止めることは簡単なのですが、私が大事にしているのは、営業ががんばることにより会社が成長するため、事業部門が何をしたいのかを深く理解し、それを前提に、何を守るべきか、何が可能か不可能かといった解決案を一緒に考えることです。
以前、監査法人にいたときは、基本的に「ダメです」と言うような役割でしたが、そうではなく「どうしたらできるのか」を考えるマインドセットが経営企画には必要だと思います。数字に強い方も多いと思いますが、それに加えてさきほどお伝えしたマインドセットがあれば、事業部門とうまく進めていけると思います。
田中:本当に同感です。経営企画のキャリアを作っていくにあたって、最低でもひとつの軸があった方がよいと思っています。木原さんの場合は公認会計士という強固な軸を持っていますが、私の場合は管理会計が軸となって広がっていきました。
上場会社にいると、IR部門や経理部門、場合によっては法務や内部監査室などとリレーションを取りながら仕事を進めていくことがありますが、ある意味、能動的でなくても各部門との関わりは避けられない立場だと思っています。そのため、事業側の思いと経営側の思いの間で、どこにバリューを見出すかは会社のフェーズによってさまざまになると思っています。
また、常に経営側と事業側の中間が最良というわけではありません。時には経営側に、時には事業側に寄り添いながら最適な着地点を見つけ、会社の進むべき方向性を示すことが醍醐味だと感じています。私の場合、管理会計を軸に進めてきたところがキャリア的にはよかったと思います。
木原さんがおっしゃったとおり、どの部門にいても共通言語はやはり定量数字だと思います。そのため、数字への感度、数字の意味を理解し、それを経営側や事業側にわかりやすく伝えていくことが、自身のキャリアアップに繋がると思っています。
松林:経営と事業の間に立つシーンは大変ですよね。
田中:これは会社選びにも繋がる部分だと思います。私は「なあなあの関係」で働くのはよくないと思っていますが、「誰と働きたいか」「誰と働くことでアウトプットの最大化ができるのか」を意識することは大切だと思います。私の場合、会社選びでは「この人と働いたら楽しそうだ、自分も成長できそうだし会社も成長できそうだ」という感覚を重視して会社選びをして転職してきました。リファラルを中心に転職してきたため、自分が知っている人と働く、また働く環境をしっかりと理解した上でキャリアを選択してきたことがよかったと感じています。会社の宣伝になりますが、ぜひYOUTRUSTを使っていただければと思います。
松林:共通言語は大事な論点で、数字を共通言語としているのはとても重要だと思いますが、その一方で人間的な関わり方や柔軟な対応も非常に大事だと思います。ご自身が関わり方で気をつけてきたこと、例えば「自分はこういうことを意識したからよかった」などがあれば教えてください。
田中:ディー・エヌ・エーの難波さんがよく「ことに向かう」と言っているように、事業部門に人がいて、経営側にも人がいるのですが、経営企画は人に向かうよりも真実に向かうことが重要だと思います。あるべき方向性を明確にし、必要なことをきちんと考えて出力することが大事なわけです。
ただし、「経営側がこういっているから」「事業側がこういっているから」のような「伝書鳩」ではありません。それも踏まえて会社としてのあるべき方向性を示す上で、自分自身のキャラクターを持ちつつ、事業の現状や経営の状況を適切に把握し、それをまとめて出力することが必要だと考えています。嫌われてしまっては本心が聞けないため、人間関係は非常に重要で、それがうまくできているかは別として、これからもそのスタンスを維持していきたいと思っています。
松林:木原さんはいかがですか?
木原:どの会社でも、ミッションやビジョン、バリューなどを掲げていますが、それに共感して入社するというのは、経営企画の人だけでなく、事業部門の人も同じだと思います。
私が現在意識しているのは、ミッションやビジョン、バリューに照らして、どういった活動をしているのか、なぜこれをやっているのかということを、定量的な数字ではなく少し抽象度高く、会社の目指している姿を共通言語として定期的にコミュニケーションをとるようにしています。
私自身が会計士という経歴で、自分で営業したりした経験はありません。アドバイザリーや監査法人の業務は生産の一員のようなものなのでその業務はわかるのですが、特に営業の人たちがどのように苦心して売上を作っているのかということはわからないため、さまざまな機会で聞くようにしています。また、私の会社では受注が発生したときには全社でそれを称賛する文化があり、私もそれに積極的に参加しています。
また、経理という立場では、計画外の問題が発生したときに相談が来ることもあります。そのような問題を一緒に解決することで、よりよい関係を築くことができ、さまざまな話を聞くことができます。リスクだけでなく、将来の夢について話すこともあります。
次の年の計画を作るためには、さまざまな情報を現場から取り入れる必要があります。その情報は、計画を作るプロセスだけで集めるのではなく、日常的に広範にアンテナを張って集めています。例えば、タバコを吸いに行くときや飲みに行くときなど、仕事以外の場面でも情報を得られるので、その情報も含めて計画を作ります。
松林:お二人とも、簡単そうにお話しされていますが、そこに行き着くまでには相当な苦労があったと思います。実際に経営企画の求人を頂戴したときに、もちろん転職に成功する人もいますが、逆になかなか転職できない人もいます。木原さんのように外部から第三者的にかかわるような経験を持っていたり、スキルがあったり、経営というものに対して理解が深くても、転職できない人がいるんです。求人掲載企業からのフィードバックを聞くと、折衝力や推進力が見えないということで、会計スキルなどよりもそういった人物面の評価でお見送りになるケースが多いです。
木原:経営企画は、プロジェクトマネジメントの能力が必要だと思います。自分が専門家であるというよりは、各部署が持つ専門的な知識を取りまとめる力を持っていて、その能力に加えて会計や数字に関する知識があれば、よりよい結果を出すことができると思います。
この考え方は、IPO責任者にも同じことが言えます。会計のスキルが高いからといって、IPO責任者ができるわけではありません。むしろ、プロジェクトの進行状況を理解した上で、どのように推進するかという力が必要だと思います。
松林:ありがとうございます。ここまで、お二人のキャリアを中心にお話しいただき、ご覧いただいた方々にも多くのヒントやキーワードをいただけたかと思います。
今後のキャリアについて
松林:せっかくですから、最後に今後お二人がどのようなかたちでキャリアを積んでいきたいかという部分をお話しいただいて終わりにしたいと思います。
田中:私はスタートアップに所属しており、喫緊の課題がたくさんあります。その会社の課題を一歩一歩解決していき、当社で言うところの「日本のモメンタムを上げる」という目標に向かっていきたいと思います。そのためには、強い経営企画部門を組織し、コーポレート機能が事業の成長を阻害しないように支援できる形で、人員を迅速に増やし、機能を強化し、さまざまなことを内製化していきたいと考えています。その意味では、まだ見ぬ領域に対するチャレンジがこれから待っていると思いますが、知見や経験を積み上げて強い部門を引っ張っていきたいと思っています。
木原:当社は売上高100億円くらいから次のフェーズに突入しようとしているところで、その中でも社内活性化がうまく進んでいるので、成長に寄与できる場を作り出したいと思います。また社外的には、さらに売上が伸びた場合に、機関投資家や他の関係者からの視線も変わってきますので、会社の意思決定やビジョン、方針を適切に伝えられるようにしていきたいと思っています。今はまだ一人で進めている部分も多いのですが、すべて自分一人でやるのは限界があると感じています。
田中さんがおっしゃったように、強いチームを作ることが重要で、自分が一人でやっている属人的な部分をある程度「型」にして、規模が大きくなったときにその「型」を活用してスムーズに成長できる組織作りに取り組んでいきたいと思っています。
松林:ありがとうございます。具体的なところでお話を伺い、非常に感謝しています。今日はお二人に話をうかがいながら、あらためて経営企画というキャリアは型にはまらない部分が多く、非常に表現が難しい職種だと感じました。
とても優秀な方が多い職種だと思いますので、こういったお話からさまざまなエッセンスを得たり、横の繋がりを作っていく中で、それぞれのキャリアをどう進めていくかをしっかり考えていただければと思います。
経営企画は各社の経済を担う方々ですので、ぜひ、よいキャリアを形成していただきたいと思いますし、今日のお話がそのヒントになればと思います。ありがとうございました。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。
取材実績
著書
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