SaaS企業のプラインシングはどうすれば良い?流れやタイミングを解説

2022.06.25
SaaS企業のプラインシングはどうすれば良い?流れやタイミングを解説

主にサブスクリプションモデルでクラウドサービスを法人向けに提供するSaaS企業。ここ数年、SaaS企業界隈ではプライシング(価格設定)に関する話題がイベントやSNSでも多く流通するようになっています。

今回はそんなSaaS企業のプライシングについて、適切な設計方法、流れ、タイミングを中心に解説します。

SaaS業界でプライシングが注目されている理由

SaaS業界は、下記のような理由から、経営・事業成長を構成する要素・メトリクスがかなり細部に至るまで可視化されています。

  • 顧客が法人なので意思決定が感情的ではなく、合理的に行われる傾向が強い
  • 営業プロセスをマーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスに分業しており、各部門のKPIが明確になっている
  • 提供サービスがWebサービスなので、サービスの利用度に関する各指標が計測可能である

そして、さまざまな指標が可視化されているがために、同じSaaS業界であらゆる指標に関しての情報発信・交換がさかんで、T2D3のような売上成長率に関する基準があったり、カスタマーヘルススコアのような顧客満足度を可視化する概念が流行したりと、業界全体でノウハウを共有する文化があります。

今回紹介するプライシングに関しては、海外・特にアメリカのVCやスタートアップがプライシング見直しによる成功事例を発信することが増えたのがきっかけで、日本でも注目されるようになりました。

プライシングを定期的に見直す企業とそうではない企業では、ユニットエコノミクスに大きな差が生まれることが分かったり、プライシング変更が利益率向上に大きく寄与する事例があったりと、海外ではプライシングの成功例がたくさんあるようです。

プライシングの視点

プライシングの設計の仕方は、どの視点から設計するかによって大きく3つの方式に分かれます。

Cost-plus方式

まず1つが、自社視点といわれるCost-plus方式です。これは製品・サービスの原価から価格を決定する方法で、「製品・サービスを提供するまでにかかっているコスト」「購入あたりに生み出したい利益」などから価格を設計する、といった考え方になります。

Competitor-based方式

次が競合視点といわれるCompetitor-based方式で、こちらは類似サービスを提供している競合に目を向ける方法です。商談時や検討時に一緒に検討の土台に上がる企業・サービスの情報を収集した上で、それを目安に価格を設計します。

他社製品よりも高機能という路線で勝負ができそうなのであれば価格も高めに設定しますし、逆に他社製品に機能や価値が劣っている場合は低価格にして、低予算な顧客を獲得する動きをします。

Value-based方式

最後に紹介するのが、顧客視点と呼ばれるValue-based方式です。こちらの設計方法がSaaS製品ともっとも相性が良いといわれており、急激な企業成長を実現しているSaaS製品は大抵Value-basedな価格設定がされています。

こちらは顧客が得られる価値を基準として計算されるため、まずは顧客がそのSaaS製品を活用することでどういった金銭的価値を得られるかを試算します。その価値を得るためにいくらのコストを顧客が支払う可能性があるかを算出し、その金額を価格として設定するのです。

SaaSと相性が良い理由は、顧客が利用を進めれば進めるほど価格も高くなる構造にできるからです。無形商材であるSaaS製品は、基本的に同じ企業内で1人使おうが100人使おうが原価に対して違いはありません。

そして、競合の価格もそんなに頻繁には変わらないため、Cost-basedやCompetitor-basedな価格設定では、利用量や利用人数、利用頻度等と関連なく価格が一定のプライシングになることが大半です。しかし、それでは事業者側が損をする構造になっていきます。

顧客が得られる価値はどんどん上がっているのに価格が据え置きのままでは、ビジネスチャンスを逃してしまうでしょうそのため、Value-based方式で価格を設計し、顧客の活用度合いに応じて料金が変動するプライシングに設定している企業が多く存在するのです。

SaaSビジネスにおけるプライシングの流れ

次に、プライシングを適切に設計する流れを紹介します。

3つのポジションに分ける

まず最初に、プライシングのプロジェクトチームを発足させましょう。

おそらく、プライシングを経営者や事業責任者が勘で「◯万円!」と決めている企業も数多く存在すると思います。しかし、勘でプライシングを決めるのは博打で事業をしていることと変わりありません。適切なプライシングを行うためには、まずプライシングチームを発足して、適切な体制を用意しましょう。

そして、そのチームには3つのポジションを用意します。

1つが、意思決定を行うプロジェクトオーナーです。揃った判断材料を元に最終的な価格を設計する人で、基本的には経営者や事業責任者・営業責任者などが適任といえます。2つ目はリーダー的ポジションです。3つ目がメンバーポジションで、メンバーがプライシングに必要な情報を収集していきながら、リーダーが情報をまとめていくらに設定するのが適切かの原案を作っていく流れになります。

最終的には3者で議論を交えながら、プロジェクトオーナーが決定すると良いでしょう。3つのポジションを用意する理由は後で説明しますが、適切なプライシングを設計するためには相応の流れや必要なデータがあるからです。これを事業責任者単体でこなすのはなかなか無理がありますし、一方でメンバーだけでは意思決定権限がなかったり情報をまとめきれず結局活用できなかったりします。

そのため、理想は3ポジションからプロジェクトチームを発足することです。

価格形態を設定する

チームが発足したらまず価格形態を考えましょう。SaaSの価格形態は基本的に月額制ですが、その中でもさまざまな価格形態があります。例としては、下記のような形態が挙げられるので、よく検討してみてください。

  • 従量課金制(利用量に応じて金額が決まる)
  • アカウント課金制(アカウント数に応じて金額が決まる)
  • 基本料金+オプション制
  • 基本料金のみ

具体的な金額を検討する

価格形態が決まったら、具体的な金額を検討しましょう。具体的な金額は上述の通りValue-basedで考えていくべきですが、そのためにはいくつかの方法があります。SaaS企業でよく用いられるのがPSM分析を活用した方法です。今回はそのPSM分析について紹介します。

PSM分析は価格感応度分析とも呼ばれるもので、顧客がサービスに対していくらなら支払う意欲があるかを調査する手法です。

顧客にいくらなら支払う意欲があるかを調査すると聞くと、単純にアンケート調査などで「この製品にいくらなら支払うことができますか?」と聞くようなものをイメージされるかもしれませんが、このような方法を「直接質問法」と呼びます。

しかし、この直接質問法では、本来支払い可能な金額よりも顧客が低めに回答してしまう傾向にあり、結果的に価格も低めに設定することになってしまいがちです。顧客の本心としてはなるべく低価格で製品を手にしたいと思うので、その思いが回答に表れるのでしょう。

そのため、PSM分析では4つの質問を行います。

  • その製品・サービスについて、あなたが高いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたが安いと感じ始める金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上高いと検討に乗らない金額はいくらくらいですか?
  • その製品・サービスについて、あなたがこれ以上安いと品質や効果に不安を感じる金額はいくらくらいですか?

これらの回答を金額別にプロットし、そこから適切なプライシングを設計するのがPSM分析によるプライシング手法です。

SaaS企業が価格見直しを行うべきタイミングは?

適切なプライシングを行ったとしても、その価格は事業フェーズによっても異なるため、定期的な見直しが必要です。多くのSaaS企業はVCなどから資金調達を行いながら成長していくため、そのフェーズに応じてプライシングに求められる観点を紹介します。

エンジェル/シード

エンジェル/シード期は、製品・サービスをリリースしたばかりのタイミングで、PMFもまだ、というケースが多いと思います。

このフェーズで意識しておきたいのは、価格によって製品が契約されないというケースをできる限り避けることです。というのも、PMFがまだ達成できていない状態ではPMFを最優先すべきで、この段階で攻めた価格設計をして顧客を逃してしまうと、価格が悪いのか製品が悪いのかニーズがないのかの判断がつかないからです。

この段階で収益・利益率を最大化する意識を持つというよりかは、PMFを検証する上で価格がネックとならないように、利益率観点を意識しながらも多少控えめな価格設計にしたほうが良いでしょう。

シリーズA/B

シリーズA/Bになり、スケールのための資金が確保できたら本格的にプライシング設計が必要となります。この段階は価格をいくらに設定するかによって大きく企業の成長率が変わってくるため、先ほど紹介したPSM分析などを駆使しながらValue-basedな価格設計を行いましょう。

シリーズC

シリーズC以降になると、アップセル・クロスセル商材などで顧客単価を上げたり新規事業で顧客層を広げたりする動きも活発になってくることが多いと思います。この時期は製品・サービスを横串で捉えたプライシングも重要で、アップセルを阻害する高すぎるプライシングになっていないか、などを注視すると良いでしょう。

プライシングを行う際の注意点

プライシングは高すぎても安すぎてもうまくいかないのが難しいポイントです。高すぎれば当然顧客に選ばれない製品になっていきますし、安すぎても利益率が低く成長しない事業になっていってしまいます。

この良い塩梅を天才的嗅覚で勘で導く人もいるかとは思いますが、多くの人にとっては難しいことなので、プライシングもPDCAを回していくものという前提で、根拠を集めながら最適解を見つけていきましょう。ただし、度重なる価格改定はそれ自体が顧客の不満を増長させてしまう可能性もあります。いくらPDCAを回すといっても、テストする顧客を分割するなど、顧客からの見え方にも留意しておくと良いでしょう。

SaaSのプライシングで気になるQ&A

最後に、プライシングに関わるQ&Aを紹介します。

料金を設定するときに気を付けるべきことは?

料金設定で主に気を付けるべきは、顧客にとって相応の価値を提供できる価格になっているか、事業者にとって提供する価値に見合う価格になっているかの2点です。そのバランスを考慮することによって、顧客にとっても事業者にとっても適切な価格を設定できます。

値上げする際のポイントは?

値上げの際は、過去に契約した顧客に対しても値上げを行うか、という点が重要になります。

既存顧客に対しては値上げせずに、今後獲得する新規顧客のみに値上げ後の価格を提供するのであれば、新規顧客に認識齟齬が起きないように丁寧に説明すれば大きな問題は起きないでしょう。

一方、既存顧客に対して値上げを行う場合は、既存顧客から不満が上がったり、解約が増えたりする可能性があることを想定しておきましょう。なるべく事前に丁寧な説明を心がけて、顧客にも納得してもらえる値上げになるのが理想です。

無料お試しは新規顧客の獲得に有効?

サービスにもよりますが、無料お試しを設ける場合は、無料お試しで顧客に達成してほしいことを明確にしておきましょう。無料版は顧客側のコミット意識も低く、結局ちょっと触って大して使われないまま、あまり価値も実感できずに有料版に移行しないまま終了するというパターンがよくあります。

無料版で達成してほしいことを明確にして顧客に促していけば、適切な価値を感じてもらいやすくなり、有料版への移行率を上げられるでしょう。逆にいうと、無料版で価値を実感できて、さらに有料化するほど有料版にも魅力を感じられるかが無料お試しを設けるかの分岐点となります。

まとめ

プライシングは安すぎても高すぎても良くないため、非常に奥が深く、勘などで安易に設定してはいけないものです。PSM分析など、Value-basedで価格設定する方法を取り入れながら、顧客にとっても事業者にとっても最適な価格を見つけていくことが大切といえます。

SaaSのプライシングでお悩みの方は、下記の資料も参考にしてみてください。SaaSビジネスで重要なさまざまな指標を解説しているので、経営のお役に立てるはずです。

監修者

広瀬好伸
株式会社ビーワンカレッジ 代表取締役社長

プロフィール

京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。

公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。

成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。

講演実績

株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。

論文

『経営指標とKPI の融合による意思決定と行動の全体最適化』(人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会)

特許

「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)

アクセラレーションプログラム

OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。

取材実績

日本経済新聞、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ、週刊ダイヤモンド、Startup Times、KANSAI STARTUP NEWSなど。

著書

『飲食店経営成功バイブル 1店舗から多店舗展開 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』(合同フォレスト)

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