PSR(株価売上高倍率)とは|計算式や目安、注意点を解説
2022.05.17
「PSRという言葉は聞いたことがあるけれど、どういう場面で使うのか分からない」「PSRは何を測るための指標なのかがいまいち把握できていない」という人もいますよね。
PSR(株価売上高倍率)とは、スタートアップ企業の株式銘柄の価値を判断するための指標です。スタートアップ企業や、成長途上の企業を評価する際によく利用されています。
この記事では、そんなPSRについて解説しています。PSRとは何か、どのように計算するのか、分析する際にはどういった点に注意する必要があるのか、などを詳しく紹介していくので、PSRについて知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
PSR(株価売上高倍率)とは
PSRはPrice to Sales Ratio(プライストゥーセールスレイシォ)を略した言葉で、日本では株価売上高倍率と呼ばれています。
PSRは新興株式市場において、銘柄が割安か割高かを判断するために使われる指標です。倍率を計算する際は、時価総額(株価に発行株式数を掛け算したもの)を年間の売上高で割って算出します。一般的に成長途上の企業や、スタートアップ企業の評価で使われることが多い指標です。
PSRに似た指標
PSRに似た指標として、PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)があります。もともとはPERとPBRが、株価の価値を測る指標として広く利用されてきました。
しかし、この2つだけでは判断しにくい銘柄が増えてきたことから、現在はPSRが広く使われています。とはいえ、現在もPSRと合わせて利用される指標なので、それぞれの違いは把握しておくべきでしょう。
ここでは、PERとPBRの特徴について解説していきます。
PER
PERは、Price Earnings Ratio(プライスアーニングスレイシォ)を略した言葉で、日本では株価収益率と呼ばれています。1株あたりの「純利益」が何倍の価値になるかを判断する際に利用される指標です。算出する際は、現在の時価総額を純利益(EPS)で割って計算します。
PERを見ることで、企業が出している利益に対して株価が割高か割安かを判断できます。
一般的に高いほど割高、低いほど割安と判断できますが、業種により倍率の基準は異なるという点に注意が必要です。PERだけで企業の価値を測ることは困難なので、目安として覚えておくと良いでしょう。
PBR
PBRは、Price Book-value Ratio(プライスブックバリューレイシォ)を略した言葉で、日本語では株価純資産倍率と呼ばれています。1株あたりの「純資産」が何倍の価値になるかを判断する際に利用される指標です。算出する際は、現在の時価総額を1株あたりの純資産(BPS)で割って計算します。
PBRを見ることで、企業の資産価値に対して株価が割高か割安かを判断できます。目安は1倍程度とされていますが、あくまで基準として考えると良いです。創業期の企業では、PBRは高くなる傾向があります。
PSRの計算方法
PSRの算出方法は、以下の通りです。
時価総額(株価 × 発行株式数)÷ 売上高 = PSR
比較としてPER、PBRの計算方法も掲載します。
時価総額 ÷ 純利益 = PER
時価総額 ÷ 純資産 = PBR
上記の計算式を見て分かるように、現状赤字の会社でも正確な数値を出せるのはPSRのみです。PERは、計算に純利益を必要とするため、赤字の会社では算出できません。同じように、計算に純資産を必要とするPBRは、借り入れが多く債務超過状態の会社では算出できないのです。
新興株式市場に多い、成長途上の会社でも正確な数値を算出できることから、PSRは株式の価値を判断する基準として広く用いられています。
PSRの目安
PSRの目安として、0.5倍以下だと株価が割安、20倍を超えると割高と判断されます。ただし、この数値はあくまで目安です。数値だけを見て割安だから良い、割高だから悪いと判断することはできません。
分析の細かい注意点については、次の項目で解説していきます。
PSRで分析する際の注意点
PSRを分析する際の注意点は、以下の3点です。
- 必ず同業種で比較する
- 企業の成長性に注目する
- 業界全体の将来性に注目する
PSRの分母には売上高が利用されるため、「利益率は低いが売上高が高い業種」と「利益率は高いが売上高が低い業種」を比較しても意味がありません。
分かりやすい具体例を挙げると「小売業」と「IT業」などが該当します。
小売業の平均利益率が2.1%といわれているのに対して、IT業の上位10社の平均利益率は28%となっています。単純な売上高は、販売数の多い小売業が高いのは明白です。しかし、利益率を見るとIT業界が圧倒的に高くなっています。また、IT業種は将来性が高いため、急激に成長することもあるでしょう。
このように、PSRは必ず同業種で比較する必要があります。業界によって性質が異なるため、PSRの数値だけで判断せずに将来性も考慮するべきです。PSR分析をする際は、PERやPBRも含めて総合的に調査するようにしましょう。
平均利益率の参照記事:
PSRを下げる方法
企業の経営者の中には 、PSRをコントロールしたいと考える方もいるでしょう。ここでは、PSRを下げるための主な方法を2つ紹介していきます。
- 時価総額を減少させる
- 売上高を増加させる
それぞれの項目について、詳しく解説していきます。
時価総額を減少させる
1つ目は、分子である時価総額を減少させることです。時価総額を下げる方法は、主に以下の3つがあります。
- 利益の減少
- 純資産の減少
- 発行株式数の減少
注意点として、時価総額が減少すると会社の価値自体も同時に下がります。そのため、PSRを下げようとして、安易に時価総額の減少を試みるのは推奨できません。時価総額が減少すると敵対的買収を受ける可能性も高まるので、注意してください。
時価総額の減少はPSRを下げる手段の1つですが、慎重に判断するようにしましょう。
売上高を増加させる
2つ目は、分母である売上高を増加させることです。売上高と時価総額は必ずしも比例しないため、PSRの倍率に変化が発生します。
売上高の増加自体が企業の成長につながるため、時価総額を減少させる方法と比べて再現性の高い方法です。ただし、売上高に注力するあまり利益度外視の経営をしてしまっては本末転倒なので、その点には注意しましょう。
売上高の増加にともなって時価総額が上がるケースも当然あるので、PSRの数値が大きく動かない場合もあります。とはいえ、売上の増加は良い影響を与えることも多く、総合的にはメリットの大きい方法です。
PSRはスタートアップ企業の評価に役立つ指標
PSRはスタートアップ企業を評価する際に特に活躍します。なぜなら、スタートアップの非上場企業やベンチャー企業は、赤字の会社が多いからです。PSRは売上高を基準に算出するため、利益額に左右されることはありません。
スタートアップ企業では、多額の資金調達を実施して経費先行型で経営するケースも珍しくなく、創業期は赤字経営になりがちです。また、ITバブルの影響により赤字経営でも株価が高騰することも多く、PERやPBRだけでは企業価値を測りにくい側面もあります。
このような側面から、投資家がスタートアップ企業を評価する際にPSRが広く活用されています。スタートアップ企業を評価する際は、必ずPSRをチェックするようにしましょう。
スタートアップ企業がPSRの他に見るべき指標
スタートアップ企業では、PSR以外にも役立つ指標がいくつかあります。今回はその中から、4種類の指標を紹介していくので、ぜひ参考にしてみてください。
- MRR(月間経常収益)
- ARPU
- ユニットエコノミクス
- バーンレート
それぞれの特徴について、詳しく解説していきます。
MRR(月間経常収益)
MRRはMonthly Recurring Revenue(マンスリーリカーリングレベニュー)を略した言葉で、日本語では月間経常収益と呼ばれています。MRRは「毎月繰り返し発生する収益」のことを指しており、単発の売上高は計算に含みません。
その性質から、サブスクリプション型・ストック型サービスを提供する企業の評価によく利用されています。
MRRの計算方法は「月額プラン × 顧客数」と、シンプルです。年間契約など別のプランが存在する場合は、月額に直して計算しましょう。
ただし、より正確なMMRを算出する場合は、以下の4項目を使う必要があります。
- New MRR(NMMR):新規顧客のMMR
- Expansion MRR(EMMR):上位プランに切り替えて、取引額が増えた場合に用いる追加のMMR
- Downgrade MRR(DMMR):下位プランに切り替えて、取引額が減少した場合に用いる損失分のMMR
- Churn MRR(CMMR):該当月に解約した顧客の損失分のMMR
「前月MMR + NMMR + EMMR – DMMR -CMMR = MMR」
上記の計算式を使うことで、正確なMMRが算出されます。
サブスクリプションサービスを提供する企業の場合は、ぜひ活用してみてください。
MRRについては、「SaaSの主要KPI【MRR】とは?概要や計算方法を分かりやすく解説」の記事でより詳しく紹介しています。
ARPU
ARPUは、Average Revenue Per User(アベレージレベニューパーユーザー)を略した言葉です。1ユーザーあたりの平均売上高を表し、SaaSビジネスやアプリビジネスの評価に広く使われています。
ARPUの数値は「売上高 ÷ ユーザー数」の計算式で求められます。5,000万円の売上に対して、20,000人のユーザーがいる場合のARPUは2,500円です。
SaaSビジネスやアプリビジネスでは、課金ユーザーと非課金ユーザーが混在しています。そのため、全ユーザーの平均値を算出できるARPUは重要な指標とされているのです。
ARPUについて知りたい方は、「ARPU(ユーザー平均単価)って何?ビジネスモデルごとの計算方法を紹介」の記事もご参照ください。
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクスとは、顧客1人あたりの採算性を表す指標で、サブスクリプション型のサービスを評価する際に使われます。ユニットエコノミクスを算出するためには、LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)を求める必要があります。LTVとCACの算出方法は、以下の通りです。
「顧客の平均単価 ÷ チャーンレート(解約率) = LTV」
顧客獲得コスト ÷ 新規顧客獲得数 = CAC
※顧客獲得コストとは、営業にかかった人件費や広告宣伝を総合したもの
算出されたLTVとCACを以下の式に当てはめると、ユニットエコノミクスが算出できます。
「LTV ÷ CAC = ユニットエコノミクス」
ユニットエコノミクスの数値は3倍以上が良いとされていますが、高ければ良いというわけではなく、適切な数値を維持できていることが大切です。
また、ユニットエコノミクスを求める際に利用した、CAC(顧客獲得コスト)の回収期間も合わせてチェックしましょう。CACの回収期間は12ヶ月以内が理想とされていますが、スタートアップ企業は回収が長期化しがちです。
CACにも気を配りながら、健全なユニットエコノミクスを維持できるよう努めましょう。
ユニットエコノミクスのより詳細な内容については、「SaaSの主要KPIと【ユニットエコノミクス】とは?計算方法や目安を紹介」の記事をご覧ください。
バーンレート
バーンレートとは、会社経営を行う際に、1ヶ月あたりに消費するコストを指します。日本語では資金焼却率とも呼ばれています。
バーンレートの算出方法は、以下の通りです。
「これまでにかかった総コスト ÷ トータル期間 = バーンレート」
スタートアップ企業ではコスト先行になりがちなため、バーンレートの把握は重要です。把握しないまま経営を進めてしまうと、資金ショートを起こす原因になります。バーンレートを正確に把握できれば、資金調達の目安も分かるようになるので、しっかり把握して健全なキャッシュフローを目指しましょう。
バーンレートについては、「【スタートアップ企業必見】バーンレートとは?計算方法や注意点を解説」の記事で紹介しています。
まとめ
当記事では、PSR(株価売上高倍率)について解説してきました。PSRは時価総額と売上高で簡単に算出できるため、自社銘柄の価値を把握しやすい指標です。その反面、業種によるバラつきがあるなど、正確性に欠ける部分も持ち合わせています。
PSRは目安として捉えて、他の要素も組み合わせつつ総合的判断力を身に付けていきましょう。
PSRの他にどのような指標に注目すべきなのかについては、下記の資料で詳しく紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。