MVP(Minimum Viable Product)とは?メリットを紹介
2022.05.09
SaaS企業では、MVP(Minimum Viable Product)という開発プロセスが重要視されています。しかし、実際にどのようなプロセスなのかを把握しきれていないという人もいるでしょう。
この記事では、MVPとは何か、MVPを活用して開発するメリット、活用する上でのポイントなどを詳しく解説していきます。SaaSが急速に普及している国内でMVPの実行で事業拡大に成功している具体例を踏まえたうえで、有効性を見ていきましょう。
MVP(Minimum Viable Product)とは
MVPはMinimum Viable Productの略で、顧客に価値を提供できる必要最低限の機能を備えたプロダクトや、そのプロダクトを使ったアプローチを指します。起業家のスティーブブランクとエリックリースによって提唱された概念です。
エリックリースはビジネスマーケティング手法を紹介した自身の著書「リーンスタートアップ」で、MVPは「無駄のないビジネス展開のために必要なこと」であり、重要な要素として取り上げています。流行や顧客ニーズの変化が激しいSaaSやスタートアップ業界では重要な概念として周知されています。
ここで1つ抑えておきたいのが、MVPはあくまで開発のためのプロセスであり、実際のプロダクトではありません。これを踏まえた上で、実際にMVPを開発するメリットやポイント、実行する流れについて詳しく見ていきましょう。
MVPを活用して開発するメリット
MVPを活用するメリットとしては、以下の5つが挙げられます。
- 最小限のリスクで製品の市場での必要性が検証できる
- 顧客のニーズに合わせた製品を提供しやすくなる
- 短時間で無駄なく検証できる
- コストを抑えて素早く収益化できる
- 市場にいち早く参入して競争で優位になれる
これらについて具体的に説明します。
最小限のリスクで製品の市場での必要性が検証できる
顧客のニーズに完璧に沿った正規プロダクトのリリースには、開発の時間や人件費といったコストを費やす必要があります。しかし、変化や競争が激しいSaaSやスタートアップでは必ず成功するとは限りません。失敗してしまった場合、かかったコストが無駄になることもあります。
MVPは必要最低限の機能しか備えていないため、低コストで市場に参入することが可能です。最小限のリスクで製品の市場での必要性を検証、結果を分析しながらプロダクトのブラッシュアップを重ねることができるでしょう。
顧客のニーズに合わせた製品を提供しやすくなる
ユーザーのニーズに合わせて繰り返し改善を繰り返すことで、ニーズに合ったプロダクトになるでしょう。SaaSやスタートアップは市場の変化が激しく、プロダクトの開発段階で流行していたことがリリース時には流行していない、または既に収益化に成功している競合が誕生していることが多いです。必要最低限の機能を搭載してさえいれば、後から追加で新しい機能を搭載しやすく、ニーズを追いやすいでしょう。
短時間で無駄なく検証できる
複雑なプロダクトがユーザーに受け入れられなかった場合、何が問題なのか、本当に必要とされる機能は何なのかといったことを検証するのに、さらに時間がかかってしまいます。検証が必要と判断したということは、失敗した、または失敗しそうなプロダクトということでしょう。
既に時間やコストを無駄にしているため、これ以上の無駄は避けたいと考えるはずです。MVPは少ない機能を開発、ブラッシュアップするため短時間で検証できます。複雑なプロダクトを再構築するよりも、長期的に見て完璧なプロダクトのリリースが早まることが期待できるでしょう。
コストを抑えて素早く収益化できる
必要最低限の機能であれば、莫大な開発コストがかかる心配はありません。また、ユーザーが比較的早くプロダクトに触れるため、素早く収益化できます。それによって余裕のできた予算をプロダクトのブラッシュアップに使うことも可能でしょう。
市場にいち早く参入して競争で優位になれる
変化や競争が激しい市場では、いかに早くプロダクトを提供・収益化できるかが成功を左右します。競争で優位になることで、ユーザーからの認知度アップと開発スピードに差を付けられる可能性が期待できるでしょう。
MVPを実行する流れ
では、実際にMVPを実行する流れを見ていきましょう
その前に、プロダクトの開発からユーザーが実際に手に取るまでの従来の流れを軽く説明していきます。従来のアプローチでは、まず市場調査によるプロダクトのコンセプト設定と開発計画を実施、その後計画を実行、プロダクトのリリース、検証・フィードバックといった流れになります。
この流れは、プロダクト開発前の市場調査結果とリリース時のユーザーニーズが変化していた場合、対応が遅れてしまうことが問題点として挙げられるでしょう。場合によってはプロダクトの部分的な改良ではなく、大部分の修正が必要になるケースもあります。
MVPを実行する流れでは、こういった問題をどのように解決しているのでしょうか。
最低限の機能を実装して市場に出す
MVPでは、ユーザーのニーズを想定した最低限の機能を実装して市場プロダクトを出すところから始まります。ユーザーの反応をうかがいながら、その都度プロダクトの部分的な改良を行っていきましょう。また、必要最低限の機能の開発であれば、コストを安くできるといったメリットにつながります。
顧客からのフィードバックをもらう
従来のアプローチ方法では、ユーザーからフィードバックを得るまでに時間がかかっていましたが、MVPでは短期間で顧客からフィードバックをもらうことが可能です。それを元にした改良や機能の追加といったブラッシュアップで、顧客のニーズに合った正規製品の早期リリースにつながります。従来のアプローチ方法を取っている企業と比較して、開発スピードに差を付けることが期待できるでしょう。
顧客の声や市場のニーズに合わせて必要な機能の実装
ユーザーの声や市場のニーズに合わせて、必要最低限の機能しかなかったプロダクトに必要な機能を実装します。また、必要最低限と考えていたものが、実は余計な機能だったということもあるでしょう。ユーザーや市場ニーズを知るために、簡単なアンケートや聞き取り調査を実施し、有効的に活用することが重要です。
MVPの作成にはリーンキャンバスが便利
リーンキャンバスとは、顧客、課題、価値、解決、販路、収益、指標、コスト、優位性の9項目からビジネスモデルをまとめるフレームワークです。特に立ち上げ間もないベンチャーやスタートアップは、コストがかかる割に資金調達が難しいという課題があるでしょう。リーンキャンバスを作成することで、事業が透明化され、資金調達がスムーズに進む効果が期待できます。
リーンキャンバスはBMCというフレームワークと混同されやすいですが、あらゆる市場で採用できるBMCと異なり、リーンキャンバスはクラウドサービスやサブスクリプションといったIT関連事業で役割を果たします。
リーンキャンバスはビジネスモデルの見直しにも効果的であるため、MVPの改善にも役立つのです。では、リーンキャンバスを構成する9項目について、それぞれ解説していきます。
顧客
プロダクトを作成する際には、まず実際に利用するカスタマー(ユーザー)を想定する必要があります。他のフレームワークと異なり、リーンキャンバスにはアーリーアダプターの記載があります。これにより、MVを作成しリリースした後に、プロダクトにフィードバックを与え、マネタイズをもたらすカスタマー(ユーザー)をある程度判断できるはずです。
課題
優先順位が高い、カスタマーの課題を3つ書き出します。その際に、競合があるプロダクトであれば、代替として記載しましょう。これにより、MVPと競合の構造設計が分かりやすくなるでしょう。
価値
「課題」で書きだした、代替品とは異なる独自の価値を書き出します。プロダクトが競合の中で生き残るためには、カスタマーが魅力的に感じる「プロダクトが提供する価値」が必要不可欠です。また、書き出しておくことで、フィードバックを得た際にカスタマーのニーズと価値が一致しているかも確認できるでしょう。不一致だった場合は見直す必要があります。
解決
最初に書き出した課題に対する解決策を設定します。解決策も価値と同様に、独自性があれば、競合がいてもプロダクトの価値を維持できるでしょう。
販路
どのようなチャネルでカスタマー(ユーザー)にプロダクトを届けるかを設定します。プロダクトの特徴や規模に応じて適したチャネルを設定しましょう。
収益
収益化構造が不確定なプロダクトは軌道に乗せることが難しいでしょう。収益化ポイントやマネタイズポイントまでのルートをあらかじめ設定する必要があります。
指標
MVPは完璧を求めず、必要最低限の機能を搭載したプロダクトです。そのため、完全なプロダクトが完成するまでの中間点となる指標を設定することが重要です。できるだけ具体的な数値で算出し、最終目標からかけ離れた数値を設定しないように注意しましょう。
コスト
スタートアップやベンチャーといった設立したての企業は、想定よりも高いコストがかかる場合があります。少し高くコストを設定し、それに合わせた資金調達を考えましょう。プロダクトの将来性が不安定な場合は大まかな数値で構いませんが、できるだけ具体的に算出するのがベストです。
優位性
競合のプロダクトにはない圧倒的な優位性があれば、カスタマー(ユーザー)を集められます。しかし、ベンチャーやスタートアップは優位性を見つけることは難しく、競合と似たり寄ったりのアプリ・サービスは優位性とはいえません。思いつかない場合は、空欄でも構いませんが、この項目が埋まっていることがプロダクトの強みになるはずです。
MVPを用いる際のポイント
MVPを用いる際のポイントとして、以下の3つが挙げられます。
- ユーザーが使いやすい、シンプルな機能にする
- 最初から完璧にしようとしない
- 顧客の声や市場のニーズはデータ化して分析する
これらのポイントの詳細と共に、SaaS企業でMVPが主流となっている背景についても詳しく見ていきましょう。
ユーザーが使いやすいシンプルな機能にする
ユーザーが使いやすいシンプルな機能にすることが非常に重要です。複雑な機能は、ユーザーが使い勝手の悪さを感じる原因になりやすく、改良しようとしても時間がかかってしまいます。場合によっては大規模な修正が必要になるケースもあるでしょう。
シンプルさを重視するあまり、プロダクトの見た目が疎かにならないように注意する必要があります。見た目が悪いプロダクトは、機能の良し悪し以前に、そもそも使いたいと思わないのがユーザー心理です。見た目に気を配りつつ、シンプルな機能を搭載したプロダクト開発を目指しましょう。
最初から完璧にしようとしない
完璧なプロダクトを開発しようとすると、つい無駄な機能を搭載しがちです。ユーザーが不要と感じる機能が多すぎて、開発に失敗したというケースも多いので注意しましょうMVPはプロダクトを開発するための「プロセス」です。ユーザーからのフィードバックが正規プロダクトのリリースにつながるため、完璧さを追い求める必要はないのです。
顧客の声や市場のニーズはデータ化して分析する
ユーザーの声や市場ニーズを収集するだけでは、効果的な検証を行うのは難しいでしょう。また、開発側の主観が優先され、ニーズを見落とす可能性も考えられます。これらを防ぐために、収集した情報をデータ化して分析することが重要です。客観的・科学的な検証につながるでしょう。
SaaS企業ではMVPが主流になっている
SaaS企業が開発するサービスは、まだ誰も使ったことがない新しいサービスばかりです。そういったサービスはニーズや売り上げが予測しにくいため、必要最低限の機能を搭載し、まずは市場に参入しようという考えを持ったMVPが主流になっています。
具体的な企業を例に出すと、HRTechなどの国内SaaS企業が挙げられます。HRTechではサービスをリリースするにあたって、顧客の反応を見るために広告を掲載、想定よりも多い件数のサービス申し込みでニーズを把握し、事業拡大を図りました。
まとめ
ここまでMVPとは何なのか、メリットや実行プロセス、ポイントを解説してきました。MVPはもともとマーケティングの手法でしたが、現在ではSaaS企業で重要視されるビジネスプロセスになっています。
そもそもがMVPの実施が不向きなサービスである、ユーザーのフィードバックに過度に反応しすぎて本来のMVPが発揮できなくなるといったケースもあるので、こういった点を踏まえた上でMVPを効果的に実施することが重要です。
リーンキャンバスでも解説した通り、MVPを実施する際は完全なプロダクトが完成するまでの中間点となる指標を設定すると良いでしょう。どのような指標が良いのか分からないという方は、下記の資料を参考にしてみてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。