メドレーの主なKPIは?サービス開始時のKPIと比較
2022.08.13
自社のビジネスの状況を正しく捉えるためには、適切なKPIを設定することが大切です。しかし、ビジネスの形態や規模などによっても採用すべきKPIは異なるため、豊富な指標の中から適したものを選ぶのは困難です。
そのようなときには、成果を上げている類似企業が採用しているKPIを参考にしてみるのも良いでしょう。ここでは、テクノロジーで医療に貢献するメドレー社の事業内容や近年の業績、重要視されているKPIについて説明していくので、ぜひ参考にしてみてください。
メドレーの会社概要
会社名 | 株式会社メドレー |
所在地 | 本社〒106-6113 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー13F |
代表取締役 社長 | 瀧口 浩平 |
設立 | 2009 年 6 月 5 日 |
資本金 | 66億9,500万円 (2021年12月現在) |
メドレーの事業内容
メドレーは、医療に関する領域において、主に下記2つの事業を展開しています。医療は日本の社会を支える基盤であり、強い社会を維持するためには、医療の充実と安定が必要不可欠です。
しかし、日本の少子高齢化に伴う人材不足や生産性の低下などの環境変化は、医療にも大きな影響を及ぼしています。そこで、メドレー社は医療介護の現場で生じる専門人材の不足という課題解決に向けた人材プラットフォーム事業を行っているのです。
また、医療の最適化や効率化に向けたオンライン診療や電子カルテなどの医療ITシステムのSaaS化を担う医療プラットフォーム事業も展開しています。
- 人材プラットフォーム事業
- 医療プラットフォーム事業
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
人材プラットフォーム事業
日本の医療介護の領域で抱える課題は、医師や看護師などの介護従事者の絶対数の不足と、特定の地域に人材が偏る地域偏在の2つあります。メドレーはこの2つの課題解決に向けて「ジョブメドレー」という人材プラットフォームを通じてアプローチしています。
日本全体で見ると、1人あたりの医師や看護師などの医療従事者が他の先進国に比べて少ないため、常に人材不足に悩まされています。そのため、医療現場は少ない労働資源で多数の患者を診る必要があり、結果としてハードな職場となってしまうのです。そして、医療従事者には女性が多くいますが、結婚や出産などのイベントを機に離職するケースが多く、十分な知識とスキルを有しているにも関わらず社会として活用できない状況があります。
そこで、ジョブメドレーでは医療に従事するスキルを持った求職者と人材不足に悩む現場をつなぐプラットフォームを提供したのです。他にはない低コストで採用ができる点が評価されています。
また、地域偏在の問題は、地方の求人案内が都市部の求人に比べて目立ちにくくアピールし辛いというのが1つの課題でした。ジョブメドレーは求人を出す事業者がダイレクト・リクルーティングを通じて魅力をアピールする機会を提供しており、これまでに計17万を超える事業者が活用するまでに成長しています。
- 医療プラットフォーム事業
もう1つの事業は、オンライン診療に代表されるITで医療をサポートする医療プラットフォームです。この事業は医療機関向けのサービスと患者向けのサービスに分かれており、医療の提供側と享受する側両者の両方に対してアプローチしています。
医療機関向け
- オンライン診療システム
近年注目されているサービスとして、オンライン診療が挙げられます。コロナ禍において、感染が懸念される中で病院へ行くことを躊躇していた患者も多く、オンラインで完結できるオンライン診療が注目されるようになりました。メドレーは「CLINICSオンライン診療」というサービスを提供し、2020年時点で日本最大の導入実績を誇ります。
子供のいる家庭だけでなく、仕事の調整がつかない、1人で病院までいけないといった状況にある患者の受診機会を逃しません。また、治療途中での離脱を防ぐなどの効果も期待できるでしょう。患者やスタッフの細菌やウイルスへの接触機会を減らすことで安全性も確保できます。
- 電子カルテ
電子カルテは、これまで紙で管理していたものを単に電子化しただけではありません。患者の保有するスマートフォンなどと連係して、受診の際の院内での待ち時間を短縮したりなど、双方にとって効率的な医療の実現に寄与しています。
レセプト機能も内包されているため、受付や会計の作業負荷も軽減可能です。診療データや患者情報、会計情報などのデータ解析ができて、医療の質や経営状況を改善するための洞察を得ることもできます。
患者向け
患者向けのサービスとして「CLINICS」というアプリがあります。これは、オンライン診療から服薬まで一元的に管理できるもので、病院へ行って診察を受けて処方箋を貰ってから薬局で薬を貰うというプロセスの削減が可能です。その結果、病院や薬局における待ち時間が無くなくなっただけでなく、薬も自宅に届くようになったため、患者にとって負担を軽減できるようになりました。
メドレーの市場規模
医療システム市場は約4,700億円の市場規模で、オンライン診療や電子カルテシステムの導入は近年急速に進み、市場規模も年々拡大しています。2020年11月時点でのCLINCSオンライン診療の導入件数はNo.1で、大学病院のような大規模病院からクリニックまで約2,800施設以上と幅広く利用されているサービスです。
これまでに本システム上で実施されたオンライン診療の総数は50万回を超えて増え続けています。
人材不足や感染症の流行などの社会環境の変化に伴い、オンライン診療をはじめとした新しい医療は今後さらに進むと推測できるでしょう。メドレー社が有する知見とノウハウを元に、今後も新たな機能やサービスが追加されることが予想され、市場の拡大とシェアの拡大によりさらなる成長が見込まれます。
メドレーの業績推移
メドレーの過去4年間の業績は非常に好調です。本業での儲けを示す2018年の営業利益は1億円のマイナスでしたが、2019年にはプラスに転じ、その後急速な成長を見せています。近年の売り上げが上がっている理由として、コロナによる影響でオンライン診療の導入が加速したことも大きな一因と考えられます。
今後の展開
新型コロナの流行は医療従事者と患者双方に大きな影響を与え、最適な医療への関りを再考している真っ只中にあります。その中での普遍的な価値は、必要なときに質の高い医療を提供または受けることができるという点です。そのため、オンライン診療や電子カルテ、アプリを介した新しいサービスは今後も重要性が高まると予想されます。
さらに、今後人材確保が特に難しくなる地方の医療介護施設にとって、人材プラットフォームにかかる期待は高まるでしょう。
いち早く医療業界と患者側のニーズを捉えサービスを提供し、これまで参入が困難とされてきた医療業界で実績を積み重ねてきたメドレーは、今後も競合よりも早いスピードで事業を拡大すると推測できます。
ジョブメドレーのサービス開始時のKPI
メドレーの主なKPIを見る前に、まずは人材マッチングサービスの「ジョブメドレー」をスタートしたときのKPIをまず見てみましょう。
採用の決定数を単価で掛け算
KPIとして設定されていたのは「ジョブメドレーのサイトから採用の決定に至った件数」に「単価」を掛けた数値でした。ページを見た人がユーザー登録をし、ユーザーが多くなれば求人への応募数も増え、その結果採用者数も増えるとの考えからです。しかし、この指標を追いかけても好ましくない判断になり、後に次のKPIに変更しています。
顧客数×顧客事業所あたりの平均売上
次に試したKPIは、「顧客数」に「顧客事業所あたりの平均売上」を掛けたものです。ジョブメドレーは成果報酬型なので、顧客数の増加が直接売り上げ増加につながるとは限りませんが、このKPIを最大化するために費用をかけて顧客数を増やした結果、売上が伸びることを発見します。その後、投資家からの資金を顧客数の増加に投じた結果、業績は伸び認知度も向上していきました。
設定するKPIによって事業の成長度は大きく変わる
上述のように、設定するKPIによって事業の成長する度合いは大きく変化することが分かります。業態やビジネスモデルの違い、企業の規模や成長段階によっても着目する数値やファクターは変わってきます。あるKPIを見てビジネスを行っても効果がない場合には、新たなKPIを検討することが望ましいでしょう。
メドレーの主なKPI
メドレー社のサービスの中には、オンライン診療システムや電子カルテのような定期的に課金が生じるサブスクリプション型のビジネスモデルがあります。これらの収益を伸ばすためには、顧客の新規獲得と同時に既存顧客を長期的に維持することも重要です。これらを確実に捉え、マネジメントするために重要なKPIが以下の3つになります。
- MRR
- チャーンレート
- ユニットエコノミクス
これらについて詳しく見てみましょう。
MRR
サブスクリプション型のビジネスモデルは月単位で契約することが一般的であるため、毎月定期的に発生する収益を表すMRRをモニターします。MRRは月間の数値ですが、企業によっては年間の収益を表すARR(Annual Recurring Revenue)もよく用いられます。
メドレー社は決算資料の中で直接MRRやARRには触れていないため、具体的な数値は不明です。しかし、上図の四半期毎の顧客事業所数から、毎期順調に顧客数が伸びていることが分かります。つまり、MRRやARRに換算すると右肩上がりになっていると推測できるでしょう。
MRRについては、「SaaSの主要KPI【MRR】とは?概要や計算方法を分かりやすく解説」の記事からご確認ください。
チャーンレート
チャーンレート(Churn Rate)は、サービスの解約率などの顧客の離脱状況を示す指標です。新規顧客が増えても、解約率が高ければ顧客数を増加させることはできません。そのため、チャーンレートをしっかりと把握するためにKPIとして設定するのです。
メドレーの資料では解約に関する数値が記載されていませんが、顧客事業者数が増加しているため、解約数よりも新規契約数のほうが多く、順調に売上も伸びていると分かります。
チャーンレートについては、「SaaSの主要KPI【チャーンレート】とは?種類や目安を解説」の記事からご参照いただけます。
ユニットエコノミクス
ユニットエコノミクスは一般的に、「一顧客当たりの経済性・採算性」を示す指標です。メドレーはユニットエコノミクスの数値も開示していませんが、「事業毎に投資回収期間やLTV/CAC等の数値を確認」と記載されているため、KPIとして常に管理していることが分かります。常に確認しているのであれば、分析・改善などを繰り返すことによって高い水準を維持できるのではないでしょうか。
ユニットエコノミクスについては、「SaaSの主要KPIと【ユニットエコノミクス】とは?計算方法や目安を紹介」の記事で詳しく解説しています。
まとめ
メドレーのビジネスは毎年急速に成長しており、変動の激しい中でも社会ニーズを捉えた事業を展開しているため、今後さらなる成長が予想されています。そして、メドレーはさまざまなKPIを駆使しながら戦略的に成長を達成してきました。その過程を見ると、自社の状況やステージに合わせた最適なKPIを見つけることが非常に重要であることが分かります。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。