SaaSビジネスで重要な「MRR成長率」とは|計算方法や高める方法を解説
2022.12.15
近年では、買い切り型のビジネスモデルだけでなく、継続して顧客に利用してもらうサブスクリプション型のビジネスも主流になってきました。現在注目されているSaaSビジネスも、サブスクリプション型です。
今回は、そんなサブスクリプション型のビジネスモデルの企業で重要とされている、「MRR成長率」について解説します。MRR成長率とは何かや計算方法について詳しく紹介するので、参考にしてみてください。
スタートアップ企業において重要な「MRR成長率」って何?
スタートアップ企業において「MRR成長率」が重要とされていますが、そもそもMRR成長率とは何なのでしょうか。ここでは、そもそもMRRとは何か、MRRの種類などを合わせて解説していきます。
そもそも「MRR」とは
「MRR成長率」についてご説明する前に、MRRについて見ていきましょう。MRRは「Monthly Recurring Revenue」の略で、日本語では月次経常収益と訳されます。簡単にいうと、「毎月決まって発生する売上」のことです。
そのため、このMRRには初期導入コストやコンサルティング費用などの一時的にしか発生しない収益は含みません。あくまでも、月額料金のような月ごとに発生する利益のみが対象です。
特にサブスクリプション型のビジネスで重要視されている理由としては、MRRを確認することでビジネスの安定性・成長性を知る指標になる、現状のビジネスや企業としての課題を把握するための貴重な材料になるなどが挙げられます。
MRRの種類
MRRは大きく分けて4つの種類があります。ここでは、4つのMRRについて、それぞれの特徴などを紹介していきます。
New MRR
New MRRとは、その月に獲得した新規顧客から得るMRRを指します。サービスを開始して間もない段階では、特に注視すべき指標です。
Expansion MRR
Expansion MRRとは、下位プランから上位プランへアップグレードしたなどの、前月よりも取引金額が増えた顧客によってもたらされるMRRです。これは、ある程度顧客が増加してきた時に重要になってくるMRRとなります。
Contraction MRR
Contraction MRRは、上位プランから下位プランへのダウングレードなどによって、前月より課金額が減った既存顧客から得るMRRです。単純にDowngrade MRRと呼ばれることもあります。
Churn MRR
Churnとは、解約や退会を意味します。その言葉の通り、当月にサービスを解約した顧客から得たMRRを意味する用語です。
ARRとの違い
MRRとよく間違えられるのが、「ARR」です。ARRは「Annual Recurring Revenue」の略で、毎年発生する利益を表します。日本語では「年間経常利益」という意味です。MRRが月次経常利益を意味するため、単純計算でARRはMRRを12倍にした数値であるといえます。ARRは年間経常利益、MRRは月間経常利益と覚えておきましょう。
MRR成長率とは
MRR成長率とは、一定期間の間にMRRがどれだけ成長しているのかを表すための指標です。SaaSなどのサブスクリプション型のビジネスでは、MRRの成長度が事業拡大などに大きく影響するため、特に重要視される指標です。
MRR成長率の計算方法
一般的なMRR成長率の計算方法は下記の通りになります。
MRR成長率 = (2ヶ月目の収益 – 1ヶ月目の収益) / 1ヶ月目の収益 × 100
このMRR成長率をもとに、前月度と比較してどれくらいの収益が上がったのかを可視化できます。MRR成長率が急激に増加、もしくは減少した月に起こったことをまとめて、企業やサービスにおける問題や課題を洗い出せれば、課題の改善や今後の対策などもできるでしょう。
MRR成長率を高めるには?
MRR成長率の計算方法について解説しましたが、MRR成長率を高めるためには、具体的にどうすれば良いのでしょうか。ここでは、MRR成長率を高める主な方法を5つ紹介していきます。
- 新規顧客を獲得する
- 解約率を減らす
- 料金設定を高くする
- 高いプランに移行してもらう
- MRRを定期的にチェックして分析する
それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
新規顧客を獲得する
新規顧客が増えれば月間の利益も増加するため、MRR成長率の向上につながります。この方法では、新規顧客を獲得するために何が課題になっているのかをしっかりと分析し、改善していくことが重要です。
企業やSaaS製品のPRがうまくいっているかどうかなど、MRR成長率をもとに現状を分析しましょう。しかし、新規顧客の獲得は既存顧客の維持よりもコストがかかります。そのため、この方法はMRR成長率を高める方法の中では、特にコストがかかりやすいので注意してください。
可能であれば、新規顧客を獲得するための施策を実行しつつ、既存顧客の解約を防ぐ対策を行うと良いでしょう。
解約率を減らす
新規顧客を毎月一定数獲得し続けたとしても、解約される数を減らしていかなければ、MRR成長率を高めるのは難しいです。解約数を減らすことができれば、より早いスピードでMRRを成長させられるでしょう。
そのためには、カスタマーサクセスを導入する、顧客に対してのサポートを強化する、ユーザーからのフィードバックをもらえるようにお問い合わせ窓口を設けるなどの対策が重要になってきます。
料金設定を高くする
月額利用料を増額すれば、その分月次の利益が増加するため、MRR成長率を簡単に高められます。しかし、値段を上げることによって、一部のユーザーに解約される恐れがあることも考慮しておかなければなりません。
少額の値上げであれば、解約する顧客もあまり多くはならないでしょう。さらに、抱えている顧客数が多ければ多いほど、顧客が解約したことによる収益の減少分を、値上げによる収益で穴埋めできる可能性が高くなります。顧客に解約されない、解約されたとしても値上げ分で補って余りあるくらいの価格に設定すると良いでしょう。
高いプランに移行してもらう
複数のプランを用意している場合には、顧客により高いプランへアップグレードしてもらうことで、MRR成長率を高められます。
複数のプランの違いやアップグレードをすることによるメリットなどを、詳しく理解できていない顧客も多いでしょう。「プランによって違いがあまりないのなら安いプランで充分」と考える人も多いはずです。
高い料金を払っても利用したいと思ってもらえるように、チュートリアルなどを充実させて、グレードの高いプランを利用するメリットを顧客に伝えましょう。
また、チュートリアルの内容が詳しくなれば、顧客がサービスを最大限利用できるようになり、サービスの便利さがより具体的に伝わります。サービスを最大限活用できる顧客が増えて満足度が上がれば、MRR成長率を高めることにもつながるでしょう
MRRを定期的にチェックして分析する
MRRを定期的にチェックして分析することによって、ビジネスモデル上の課題や事業の成長度合いを客観的に可視化することが可能です。MRRを根拠に企業としての課題やサービスの問題点などを洗い出すことによって、今後の事業プランを立てやすくなり、より戦略的にビジネスを展開するきっかけをつかむことにもつながるでしょう。
MRR成長率は投資家にも注目される
MRR成長率は、資金調達の際に投資家に見られるポイントの1つです。MRR成長率を見ることによって、継続的な利益は見込めるのか、将来性はあるのか、企業やサービスとしての課題はないのかなどの、幅広い情報を読み取れます。これから資金調達を考えている企業などは、特にMRR成長率に注目する必要があるでしょう。
スタートアップ企業にとって資金調達は重要
スタートアップ企業にとっては、資金調達が非常に重要です。いくら有益なビジネスアイデアが生まれたとしても、資金がなければビジネスを継続させることはできません。しかし、アイデアが生まれたばかりのシード期の企業などは融資を受けるのが難しいというデメリットもあります。
ここでは、資金調達を行うことによるメリットとデメリットを詳しく解説していくので、これから資金調達を考えている人は、参考にしてみてください。
資金調達のメリット
資金調達をすることによって得られる最大のメリットは、サービスを展開するための設備や従業員をしっかりと確保できるという点です。
例えば、500万円を自己資本で準備した企業があったとしましょう。この企業は、500万円で従業員の給与と設備投資にかける金額をすべて賄わなければならないため、かなり苦しい経営を強いられてしまいます。
最悪の場合、従業員を雇用するのか、設備投資をするのか、どちらかに絞らなければいけない可能性もあるでしょう。その結果、得られる利益に限界が生まれてしまうケースも考えられるのです。
反対に、自己資本500万円に加えて500万円の融資を受けた場合、倍の金額を従業員の雇用や設備投資に使用できます。人材や設備に充分な投資ができたことで、自己資本500万円だけの場合には月間の利益が100万円しか出せなかったものが、融資を受けたことによって300万円の利益を生み出せた、というケースもあるでしょう。
このように、融資を受けて利益率が増加することをレバレッジ効果と呼びます。資金調達で利益を向上させられるというのは、何よりのメリットであるといえるでしょう。
資金調達のデメリット
資金調達のデメリットは、融資を受けた先に返済義務が発生するということです。企業の業績に関わらず、毎月一定の金額を返済する必要があるため、しっかりとした事業計画を練る必要があります。企業として支払いが多い月や景気の波に関係なく発生してしまうため、負担になってしまう企業も多いです。
返済が求められない融資の方法なども存在しますが、その場合は企業の成長などを期待されているケースが多いため、一概に「何も返す必要がない」とはいえません。
また、先ほども少し解説しましたが、スタートアップ企業の場合には、融資が受けにくいというデメリットもあります。今までの借入の実績や営業利益などをもとに審査が行われ、その審査に合格しなければ融資は受けられません。業績の信頼度によっては、融資の金額が少なくなってしまうという場合もあるので、注意しましょう。
ペガサス企業では資金調達は行われない
設立から10年未満で、時価総額が10億ドルに達した企業のことを、ユニコーン企業といいます。数値だけ見ると順調な経営をしているように見えますが、ユニコーン企業であったとしても、赤字経営をしている企業は多いです。
しかし、中には「充分に収益化できる力を持った企業」も存在します。そういった企業のことを、神話のペガサスになぞらえて「ペガサス企業」と呼ぶのです。ペガサス企業の特徴として、少額の資金で有益なプロダクトを生産できる、初日から売上を出して経営や製品の開発につなげている、などが挙げられます。
スタートアップ企業にとって資金調達が重要と解説しましたが、こういった企業では基本的に資金調達は行われません。経営の進め方によっては、資金調達が必要ないケースも存在するので、できるだけ資金調達の必要がない経営を目指すというのも良いでしょう。
SaaSビジネスの成長性を確かめるためにはMRRの把握が重要
SaaSビジネスはサブスクリプション型のものが多く、売り切り型のビジネスモデルとは異なる視点で考えないと、明確な成長率を計るのが難しいです。そこで、MRRの把握が重要とされています。
MRRを把握することで、事業の現状が明確になり、問題点や課題の可視化が可能になります。そして、可視化された問題に対してどのようなアプローチをしていくのかを決めて、実際に行動に移していけば、企業を成長させていけるでしょう。
まとめ
MRRは月次経常収益という意味で、簡単にいうと「毎月決まって発生する売上」を指す言葉です。そんな、MRRが一定期間の間にどれだけ成長しているのかを表すための指標が、MRR成長率となっています。
特に、継続的な契約が求められるSaaSビジネスや、急速な成長が求められるスタートアップ企業などで重要とされる指標で、企業の目標となるKPIとして設定されることも多いです。
しかし、企業にとって重要なKPIはMRR成長率だけではありません。その他の主要なKPIを知りたいという方は、以下の資料を参考にしてみてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。