SaaSの主要KPI【LTV】とは?重要性や計算方法を解説
2022.10.28
SaaSの主要なKPIとしても知られているLTVは、最近特に注目されるようになっています。では、なぜ注目を集めているのでしょうか。
この記事では、LTVとは何か、LTVが注目されるようになった理由、LTVの計算方法などを解説していきます。LTVについて知りたい、LTVをKPIに設定したいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
LTV(Life Time Value)とは
LTV(Life Time Value)は、日本語では「生涯価値」という意味で、「顧客生涯価値」という意味の「Customer Lifetime Value(CLTV)」といわれることもあります。SaaS業界では、「顧客生涯価値」という意味合いで「LTV」と呼ぶことも多いので、この記事ではLTV=顧客生涯価値として記載していきます。
LTVを簡単に説明すると、1人もしくは1社の顧客が、契約を開始してから終了するまでのサイクルで、自社に対してどれだけの利益をもたらしてくれるのかを判断する指標です。
LTVは取引ベースの考え方に沿っているので、SaaSビジネスのようにリピートするビジネスモデルの長期的な価値を示すのに役立ちます。
LTVが注目されるようになった背景
LTVは最近注目されるようになってきていると冒頭で紹介しましたが、なぜ注目されているのでしょうか。ここでは主な理由として2つ紹介していきます。
- 新規顧客獲得の難易度が上がっている
- One to Oneマーケティングが重要度が増している
それぞれの理由について見ていきましょう。
新規顧客獲得の難易度が上がっている
昨今の日本は少子高齢化社会も相まって、新規顧客の獲得に苦戦している企業が多いのが現状です。そもそも、新規顧客の獲得には膨大なコストと時間が必要なだけでなく、手間もかかります。
もちろん、短期的な利益を重視する場合には新規顧客の獲得は重要です。しかし、新規顧客の獲得だけに力を入れすぎると、コストがかかりすぎてコストに見合った収益を見込めないという課題が出てきてしまいます。
反対に、既存顧客と良好な関係性を築き続けられれば、オプション品の購入やリピート購入、既存顧客の紹介による新規顧客の獲得などが期待できるのです。新規顧客を0から獲得するコストと比較すると、既存顧客から紹介された新規顧客を獲得するコストのほうが安く抑えられます。
こうした理由から、既存顧客との関係をより良く保つマーケティングが重要視されるようになり、その関係値を数値として分かりやすく可視化できるLTVが注目されるようになりました。
One to Oneマーケティングの重要度が増している
昨今では、インターネットの普及やSNSの流行も影響して、企業が不特定多数に対して行うマスマーケティングではなく、顧客をある程度絞って行うOne to Oneマーケティングが一般的になりつつあります。
例えば、広告で出てくる商品よりも、自分が好きなインフルエンサーが紹介した商品やサービスを購入するという若者も多い傾向です。
そのため、企業としても顧客の趣味嗜好に合わせたマーケティングが重要視されています。インフルエンサーを使用するなどして、ダイレクトに商品やサービスを消費者に訴求する方法が一般的になりつつあるのが現状です。
LTVが注目されている理由には、それぞれの顧客に対してきめ細かなコミュニケーションを取って、商品やサービスに対してより満足度を高めてもらう必要があるなどの時代的な背景もあります。
サブスクリプションモデルが浸透してきている
以前までは売り切り型で商品やサービスを提供するビジネスが主流でしたが、近年ではサブスクリプションモデルのSaaSビジネスを行っている企業が増えています。サブスクリプションモデルにおいては、LTVの増加が重要な課題になるため、注目度が高まっているのです。
サブスクリプションでは、顧客が離れていかないようにするために、さまざまな対策を取る必要があります。その際に、単なる売上の増加を目指すのではなく、効率的に収益を高める方法を模索するために、LTVが重要なのです。
人口が減って企業の成長が難しくなっている
高度経済成長期のときは需要が高かったので、顧客獲得や顧客生涯価値を重視する必要がありませんでした。しかし、日本の人口は年々減っており、購買力のある若年層も減少している傾向していることから、現在では企業の成長が難しくなっています。
さらに、現代の日本では市場にさまざまな製品やサービスが溢れているため、企業同士で少数の顧客を取り合っている状態になっています。こういった事情から、国内市場では1人の顧客からの利益をどれだけ得られるかという点に注視されているのです。
LTVの計算方法
LTVが注目されている理由について解説しましたが、実際にLTVを計算するにはどうすれば良いのでしょうか。LTVの計算式について詳しく解説していくので、見ていきましょう。
LTVの計算式
LTVは一般的に下記の方法で算出されます。
LTV = 顧客の平均購入単価 × 平均顧客寿命
この平均顧客寿命(Average Customer Lifetime)は、「平均顧客寿命 = 1 ÷ チャーンレート」で計算できます。つまり、先ほど紹介した計算式は下記のようになるのです。
LTV = 顧客の平均単価 ×( 1 ÷ チャーンレート )
LTV = 顧客の平均単価 ÷ チャーンレート
この計算式では、チャーンレートが分かれば平均顧客寿命も算出できるということになります。平均顧客寿命やチャーンレート、顧客の平均単価については下記で紹介していくので、より計算方法を詳しく理解していくために、参考にしてみてください。
平均顧客寿命(Average Customer Lifetime)とは
平均顧客寿命とは、抱えている顧客の契約がどれだけ継続しているかの平均値を表す指標です。平均顧客寿命が長ければ長いほど、多くの顧客が継続してサービスを利用してくれており、同時に顧客がもたらしてくれる利益も大きいということになります。
反対に、顧客数は多く抱えているが平均顧客寿命が小さいという企業は、新規顧客の獲得などによって短期的な利益の増加を見込める可能性は大いにありますが、長期的な視点で見た場合には大きな利益はあまり見込めないでしょう。
抱えている顧客に、平均してどれだけの期間、商品やサービスを継続的に利用してもらえるかを可視化することは、ビジネスを継続していく上で大変重要な指標です。
チャーンレートとは
チャーンレート(Churn Rate)は、「解約率」や「顧客離脱率」を意味する言葉です。SaaS事業では、顧客にどれだけ長くサービスを利用してもらうかが重要なので、チャーンレートも重要な指標となります。
チャーンレートには大きく分けて2つの種類があるので、それぞれの違いについて見ていきましょう。チャーンレートについて詳しく知りたい方は、「SaaSの主要KPI【チャーンレート】とは?種類や目安を解説」の記事を参照ください。
Customer Churn Rate (カスタマーチャーンレート)
吾輩は猫である。名前はまだない。
Revenue Churn Rate (レベニューチャーンレート)
レベニューチャーンレート(Revenue Churn Rate)は収益ベースの解約率で、Dollar Churn Rateと呼ばれることもあります。前月契約していた顧客のMRRが、当月どれくらい減ったかを意味する指標です。レベニューチャーンレート(Revenue Churn Rate)は収益ベースの解約率で、Dollar Churn Rateといわれることもあります。
カスタマーチャーンレートは顧客単価の上昇を織り込めませんが、レベニューチャーンレートは顧客単価の上昇も織り込むことが可能です。
そのため、「LTV = 顧客の平均単価 ÷ チャーンレート」で計算する場合のチャーンレートは、レベニューチャーンレートのほうが理想的といえます。しかし、レベニューチャーンレートが非常に小さい数字になることもあるので注意してください。
マイナスの値や小さい値で計算すると、LTVの数値がマイナスになってしまったりとても大きな数値になってしまう可能性があるので、レベニューチャーンレートの数値によってはカスタマーチャーンレートで計算したほうが良いでしょう。
顧客の平均単価
顧客の平均単価は文字通り、1人の顧客が購入するサービスや商品の平均単価です。顧客の平均単価には売上ベースと利益バースがありますが、LTVでユニットエコノミクス( = LTV ÷ CAC )を計算する場合、売上ベースで計算するのは避けたほうが良いでしょう。
では、顧客の平均単価を利益ベースで計算する場合、この「利益」はどういった利益を指すのでしょうか。顧客の平均単価を利益ベースで計算する際の利益は、一般的に「粗利」を指します。
一般的にSaaSの原価には、サービス運営のための費用(サーバーやカスタマーサポート・カスタマーサクセスにかかる費用)などが含まれるので、これらが売上に対して何%かを計算して粗利率を割り出す必要があります。それを踏まえて計算すると、計算式は以下の通りです。
LTV = 顧客の平均単価 × 粗利率 ÷ チャーンレート
LTVが重要な理由
LTVがSaaS企業にとって重要とされる理由は、主に以下の2つです。
- 長期的に売上に貢献してもらうことが大切
- 一人ひとりの利益が上がれば利益の最大化につながる
それぞれの理由について見ていきましょう。
長期的に売上に貢献してもらうことが大切
SaaSは売り切り型のビジネスモデルではなく、長く使ってもらえばもらうほど利益を獲得できるビジネスモデルです。そのため、SaaSビジネスを成長させていくためには、顧客の短期的な売上だけに注目せず、継続的に利用してもらうことによる長期的な売上貢献度を測る必要があります。
定期的にサービスをアップデートする、顧客のニーズに合わせたサービスを提供するなど、顧客に対して「自社のサービスを利用することでどれだけ顧客に対してメリットがあるのか」を考えた上で施策を実行して、顧客満足度の上昇につながれば、解約される可能性を減らせるでしょう。
継続利用してもらえるようになれば、売上や利益が安定していきます。このように、顧客が利益をもたらし続けてくれるSaaSであるかを判断する指標として、LTVが重要視されているのです。
一人ひとりの利益が上がれば利益の最大化につながる
利益の最大化のためには、顧客に継続利用してもらうだけでなく、一人ひとりのLTVを高めることも大切です。
顧客にSaaSサービスをより活用してもらうためには、顧客一人ひとりとの関係性を構築・維持しながら、そのSaaSのファンになってもらい、契約を更新し続けてもらうことが必須といえます。
つまり、中長期的な目線で、契約後、顧客をファン化させる戦略が重要なのです。この戦略を図る上でもLTVが必要とされます。
LTVを高める方法
LTVの計算方法や重要性について解説しましたが、LTVを高めるにはどのようにすれば良いのでしょうか。ここでは、LTVを高める方法やセグメントごとに施策を考える方法などを解説していきます。
- 顧客の平均単価を高める
- 粗利率を高める
- チャーンレートを下げる
それぞれの方法について、見ていきましょう。
顧客の平均単価を高める
顧客一人ひとりから獲得できる収益を増加させられれば、全体の収益も増加します。顧客の平均単価を高めるためには、以下のような方法が有効です。
- 段階的な料金設定にする
- 料金を引き上げる
- 顧客単体からの収益を拡大する
- 顧客によって異なる料金で提案する
- フリーミアムの提供をやめる
- 複数の契約期間を提供する
- より高いプランにアップグレードしてもらう
- より安いプランへのダウングレードを防ぐ
それぞれの施策についてさらに詳しく知りたいという方は、「SaaSの主要KPI【MRR】とは?概要や計算方法を分かりやすく解説」を参考にしてみてください。
粗利率を高める
SaaS製品は、どうしても開発コストや導入コストがかかってしまうものです。前述の通り、LTVの計算式は「LTV = 顧客の平均単価 × 粗利率 ÷ チャーンレート」で、開発や導入にかかったコストが売上に対して何%かを計算して割り出した粗利率を使います。そのため、粗利率を高めるのもLTVを高める方法の一つとして有効です。
粗利率は「粗利率 = 原価 ÷ 売上」で計算するので、粗利率を上げる方法としては、原価を下げるか売上を上げるかの2つになります。
売上を上げる方法は、「顧客の平均単価を高める」方法として先ほど紹介しましたが、その他にも、顧客にいくつものアカウントを持ってもらうなどして購買頻度を上げる、顧客に契約を延長してもらって期間を伸ばすなどの方法があります。具体的な方法としては、メルマガを定期的に送って企業やサービスについて知ってもらう、顧客のニーズや定着度をしっかりと測ることなどが挙げられるでしょう。
次に、残りの原価を下げる方法についても解説していきます。
原価を下げるといっても、サービスに必要なコストを減らすと、顧客の満足度が下がってしまったり顧客の平均単価が減ってしまったりする可能性があります。減らすのはあくまでも、削減してもマイナスの影響がないものです。
粗利率は、改善余地があれば改善を進めるという大枠のコンセンサスをとっておきつつ、SaaSの成長ステージが進んで、粗利率1%あたりの影響が大きくなってきてからしっかりと向き合っていくという方針でも良いでしょう。
チャーンレートを下げる
LTVを高めるためには、チャーンレートを下げるのも有効です。チャーンレートを下げる方法としては、主に以下の4つが挙げられます。
- 料金体系に見直しをする
- 既存機能の活用方法を伝える
- カスタマーサクセスを強化する
- サービス設計を見直す
これらの方法に関しては、「SaaSの主要KPI【チャーンレート】とは?種類や目安を解説」の記事で詳しく解説しているので、そちらをご参照ください。。
ここでは、これらの施策を実行する前の段階で重要となる、顧客ロイヤリティについて解説します。顧客ロイヤリティとは、顧客がサービスや企業に対して向ける信頼を指す言葉です。上記の4つの方法は、顧客ロイヤリティを高めるとより効果を発揮するため、LTVを高める際は顧客ロイヤリティを高めることも意識しましょう。
セグメントごとに施策を考える
今まではLTVを一つの数値として紹介しましたが、もっと実用的にするためには、LTVをより小さなカテゴリに分解して、そのカテゴリごとにLTVの傾向を特定できるようにすべきです。
例えば、複数の料金プラン(ライトプラン・スタンダードプラン・エンタープライズプランなど)を用意している場合、その料金プランごとのLTVを計算してみましょう。プランごとに分析すると、低価格プランの顧客は解約率が高く支払額が低い、高価格プランの顧客はより長期間利用していて多くの収益を上げられているなどの傾向が見えるようになります。
多くの属性でLTVを計算しようとすると、データ取得などがとても大変になってしまいますが、同時にさまざまな情報を手に入れられるでしょう。データ取得コストよりも効果がありそうな属性があれば、ぜひやってみてください。
まとめ
LTV(Life time Value)は、1人もしくは1社の顧客が、契約を開始してから終了するまでのサイクルで自社に対してどれだけの利益をもたらしてくれるのかを判断する指標です。
新規顧客の獲得難易度が上がっていることや、One to Oneマーケティングが主流となっていることなどから、近年では特に注目されています。
SaaSビジネスの雄であるユーザベース社もチャーンレートやLTVは細かく設計し運用しているようです。
同社のCFOに直接インタビューさせていただき、ユーザーベース社のKPIマネジメントの全貌を資料化しましたので、下記もあわせてご覧いただき、参考にしていただければ幸いです。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。