SaaSの主要KPI【チャーンレート】とは?種類や目安を解説
2022.10.28
SaaSのKPIに設定されることも多い「チャーンレート(Churn Rate)」ですが、具体的にはどのような意味合いを持っているのでしょうか。
この記事では、チャーンレートとは何か、種類や計算方法、具体的な計算例まで詳しく解説していきます。チャーンレートについて詳しく知りたいという方は、ぜひ記事をご覧ください。
また、SaaS事業はこのビジネスモデル特有の指標を数多くモニタリングする必要があります。KPIや経営数値の予実を管理をするにもエクセルでは煩雑になりやすい領域のため、そのような課題を解決するためにScale CloudではKPI管理プラットフォームをご提供しています。
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チャーンレートとは
チャーンレート(Churn Rate)は、「解約率」や「顧客離脱率」を意味する言葉で、チャーン(Churn)と略されるケースもあります。
顧客に対して継続的にサービスを利用してもらうSaaSビジネスでは、売り切りのパッケージ(オンプレ)とは異なり、導入後どれだけ長く継続して使用してもらえるかが重要です。
SaaSは、長期的に使用してもらうことによって顧客獲得コストを回収するというビジネスモデルなので、導入時点で顧客獲得にかかっているコストを回収できるSaaSサービスはほとんどありません。収益を落とさずコストを回収するには、解約率、つまりチャーンレートをなるべく低く抑えて、顧客に長く使ってもらう必要があります。
また、チャーンレートが低いSaaS製品は安定して利益を獲得し続けられるので、サービスの向上や新たな顧客獲得に向けての投資などに手を打つことも可能です。
こうした理由から、チャーンレートはSaaSビジネスの根幹となる重要な指標とされており、投資家からも特に注目されています。
チャーンレートの種類
チャーンレートは、大きく分けて2つの種類があります。KPIを設定する際には、それぞれのチャーンレートの特徴をしっかりと見極めた上で、自社の製品にはどのチャーンレートを選ぶべきなのかを検討するようにしましょう。
カスタマーチャーンレート(Customer Churn Rate)
カスタマーチャーンレート(Customer Churn Rate)は、顧客ベースの解約率です。事業のステージが比較的初期の段階である場合に設定されることが多い指標となっています。
さらに、カスタマーチャーンレートは、ライセンス数やユーザー数をベースにしたカスタマーチャーンレートと、契約者数や企業数をベースとしたアカウントチャーンレートの2つに細分化されます。カスタマーチャーンレートをKPIに設定する場合には、それぞれの違いなども把握しておきましょう。
レベニューチャーンレート(Revenue Churn Rate)
レベニューチャーンレート(Revenue Churn Rate)は収益ベースの解約率で、Dollar Churn Rateといわれることもあります。
事業のステージが初期から中期に変化してきた際に、メインのチャーンレートをカスタマーチャーンレートからレベニューチャーンレートへ変化させることが多い傾向です。また、顧客が持つID数によって料金形態を決定しているSaaS製品の場合、カスタマーチャーンレートよりもレベニューチャーンレートの方が重要になるケースが多いとされています。
レベニューチャーンレートもカスタマーチャーンレートと同様に、2つに細分化されるので、違いをしっかり把握しておきましょう。1つ目は、解約やダウングレードなどによって失った金額をベースとした、グロスレベニューチャーンレート。もう1つは、解約やダウングレードなどによって失った金額とアップグレードによって拡大した金額を合わせたネットレベニューチャーンレートです。
カスタマーチャーンレートとレベニューチャーンレートは、どちらも計測しておくべき大切なKPIですが、どちらをメインのKPIにするかは事業内容や事業のステージに応じて変わるので、しっかりと検討するようにしてください。
SaaSビジネスでチャーンレートが重要な理由
チャーンレートはSaaSビジネスの根幹となる重要な指標とされていると解説しましたが、なぜ重要視されているのでしょうか。ここでは、理由を2つ解説していくので、詳しく見ていきましょう。
顧客にとっての「サービスの価値」の指標になる
SaaS製品を継続して顧客が利用してくれるということは、そのSaaS製品が顧客のニーズにマッチしていて、顧客の抱えている課題を解決できていることを意味します。見方を変えれば、どのくらい自社のSaaS製品に中毒性があるかを図るためのKPIとして適しているといえるでしょう。
サービスが「継続的に成長できるか」の指標になる
SaaS製品で新規顧客を毎月一定数獲得できると仮定した場合、顧客数の増え方はカスタマーチャーンレートによって大きく異なります。ここでは、具体例を詳しく見ていきましょう。
例えば、毎月10の新規顧客の獲得を60か月続けたときの、各チャーンレートごとの顧客数の推移は、以下の図のようになります。
図を見てみると、チャーンレートが0の場合には600、チャーンレートが1%の場合には452、チャーンレート3%の場合には279、チャーンレートが5%の場合には190となっています。
つまり、単純に比較すると、チャーンレートが0%と5%の場合では顧客の獲得数がおよそ3倍の差になる計算です。
チャーンレートが高ければ高いほど、顧客数の増加はなだらかな推移になります。そのため、チャーンレートが高い場合には、より多くの新規顧客を獲得する、アップセルやクロスセルなどによって既存顧客からの売上を拡大するといった対策が必要です。
「MRRは順調に伸びているのに伸び率が鈍化していている」と悩む企業は少なくありません。そういった場合に、マーケティング費用を増やすなどの対策を行う企業もありますが、解約率が上昇していることが原因である可能性も考えられます。
一般的には、新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持コストの5倍~25倍ほど高いといわれているため、新規顧客の獲得だけを意識しすぎてしまうとコストが割高になってしまいます。
逆に、顧客数が少なくてもチャーンレートが低ければ、その後事業は成長していく可能性が考えられるのです。SaaSの世界では「解約率は成長速度を決める」という言葉をよく耳にしますが、成長のスピードどころか「解約率は成長の上限を決める」といえるでしょう。
チャーンレートの計算方法
チャーンレートの重要性について理解したところで、チャーンレートはどのように計算すれば割り出せるのかを見ていきましょう。ここでは、先ほど紹介した4つのチャーンレートの計算方法を解説していきます。
- カスタマーチャーンレート
- アカウントチャーンレート
- グロスレベニューチャーンレート
- ネットレベニューチャーンレート
それぞれの計算方法について、詳しく見ていきましょう。
カスタマーチャーンレート
カスタマーチャーンレートの計算方法は以下の通りです。
カスタマーチャーンレート = 当月の解約顧客数 ÷ 前月末の顧客数 × 100
カスタマーチャーンレートは、全体のライセンス数やユーザー数のうち、一定期間内にサービスを解約した割合を表すため、この式での顧客数はライセンス数やユーザー数を指しています。
例えば、前月末時点のライセンス数が100、当月解約となったライセンス数が2だった場合の計算方法は、「2% = 2 ÷ 100 × 100」です。カスタマーチャーンレートは顧客数がベースとなるため、常にプラスの値になります。
アカウントチャーンレート
アカウントチャーンレートの計算方法は以下の通りです。
アカウントチャーンレート = 当月の解約顧客数 ÷ 前月末の顧客数 × 100
アカウントチャーンレートでは、全体の会社数や契約者数のうち、一定期間内に解約した割合を表します。計算式はカスタマーチャーンレートと同じですが、ここでの顧客数は会社数や契約数を意味しているため、カスタマーチャーンレートとは異なる値になるでしょう。
例えば、前月末時点の会社数が100、当月解約となった会社数2社だった場合、今月のアカウントチャーンレートは「2% = 2 ÷ 100 × 100」となります。ライセンス数や会社数はそれぞれ違うため、実際には異なる値が反映されるのです。
アカウントチャーンレートもカスタマーチャーンレートと同様に顧客数をベースとするため、常にプラスの値になります。
グロスレベニューチャーンレート
グロスレベニューチャーンレートの計算方法は以下の通りです。
グロスレベニューチャーンレート = (当月の Churn MRR + 当月のContraction MRR) ÷ 前月末のMRR × 100
グロスレベニューチャーンレートは、MRRをベースとした解約率です。MRRとは「Monthly Recurring Revenue」の略で、月ごとに繰り返し得られる月間経常利益を意味します。
当月の解約数やプラン変更などのダウングレードによって発生したMRRの減少分を、前月末時点でのMRRで除算して算出します。
例えば、前月末のMRRが100万円、当月解約によるMRRの減少が3万円、ダウングレードによるMRRの減少が1万円だったとすると、グロスレベニューチャーンレートは「4% = 4 ÷ 100 × 100」です。
収益ベースでの算出となるため、カスタマーチャーンレートと比較するとより実態に近い数値になるでしょう。グロスレベニューチャーンレートも常にプラスの値になります。
ネットレベニューチャーンレート
ネットレベニューチャーンレートの計算方法は以下の通りです。
ネットレベニューチャーンレート = (当月のChurn MRR + 当月のContraction MRR – 当月のExpansion MRR) ÷ 前月末のMRR × 100
ネットレベニューチャーンレートもグロスレベニューチャーンレートと同様に、MRRをベースとした解約率となります。
グロスレベニューチャーンレートとの違いは、既存顧客の解約やダウングレードだけではなく、アップグレードなどによって発生した収益の増加も考慮するという点です。当月の解約や、ダウングレードによって減少したMRRからアップグレードなどによって増加したMRRを差し引き、前月末時点でのMRRを除算して算出します。
例えば、前月末時点のMRRが100万円、当月解約によるMRRの減少が3万円、ダウングレードによるMRRの減少が1万円、アップグレードによるMRRの増加が5万円発生したとすると、ネットレベニューチャーンレートは、「1% = 3 + 1 – 5 ÷ 100 × 100 」です。
この場合、解約やダウングレードは発生しているが、それを上回るアップグレードを実現できているので、MRRが1%増加しているということになります。
ネットレベニューチャーンレートは他のチャーンレートと異なり、解約やダウングレードよりもアップグレードが上回った場合はマイナスの値になるという点が特徴的です。マイナスの値になる状態は、ネガティブチャーンと呼ばれます。
具体的な計算例
それぞれのチャーンレートの計算式を紹介しましたが、ここでは、より具体的な事例とともに紹介していきます。異なるケースの事例を2つ紹介していくので、参考にしてみてください。
契約当初とそれ以降の解約率が大きく異なる場合
例えば、契約した翌月の解約率が20%、翌月以降は5%のまま一定で解約されるケースがあったとします。
1月に新規契約が1,000社、既存契約のおよそ2,000社と合わせて、1月末時点で顧客数は3000社。翌月の2月は新規1,000社のうち20%の200社が解約、さらに1月に既存顧客であった2,000社のうち5%にあたる100社が解約になって、合計して300社が解約したとします。
また、2月には1,500社が新規契約、2月末時点での顧客数は4,200社(= 3,000社 – 200 – 100 + 1,500)だった場合、チャーンレートの計算式は以下の通りです。
2月度のチャーンレート = ( 200 + 100 ) ÷ 3,000 ( 1月末時点での顧客数 ) × 100 = 10.0%
2月も3月も「契約後、翌月に解約される率が20%で、その翌月以降に解約される率は5%で横ばい」という点では同じであるにも関わらず、チャーンレートが悪化したという結果になっています。
この例のように、契約当初とそれ以降で大きく解約率が異なる場合、一般的なチャーンレートの計算式に当てはめて計算してしまうと、誤った意思決定をしてしまう恐れがあるので、注意してください。
このような場合は、毎月の解約率の推移をモニタリングしていくと、より正確な数値が把握できるようになるでしょう。
新規ユーザーの獲得と解約が同月内に発生するケース
例えば、1月末のユーザーが1,000人、2月に新規ユーザーを400人獲得したとします。1月末ユーザーの10%である100人と、2月に新規ユーザーになってすぐに2月中に解約にした10人( = 400人 × 2.5 % )、合計110人が解約しました。その結果、2月末のユーザーは 1,290( = 1,000 + 400 – 110 )です。
この状態をチャーンレートで計算すると、以下のようになります。
2月のチャーンレート = ( 100 + 10 ) ÷ 1月末ユーザー 1,000 × 100 = 11.0 %
次に、2月末のユーザーが1,290人、3月に新規ユーザーを400人獲得したとします。一方で、2月末ユーザーの10%である129人と、3月に新規ユーザーになってすぐに3月中に解約してしまった10人(= 400人 × 2.5 % )、合わせて139人が解約になったとしましょう。その結果、3月末のユーザーは1,551( = 1,290 + 400 – 139 )です。
この状態を一般的なチャーンレートの計算式に当てはめると、以下のようになります。
3月のチャーンレート = ( 129 + 10 ) ÷ 2月末ユーザー 1,290 × 100 = 10.7 %
2月も3月も、既存ユーザーの解約率2.5%と新規ユーザーの解約率10%は同じであるにも関わらず、チャーンレートが改善したという結果になりました。
2月も3月も、既存ユーザーの解約率2.5%と新規ユーザーの解約率10%は同じであるにも関わらず、チャーンレートが改善したという結果になりました。
このように、新規ユーザーの獲得と、それに対する解約が同月内に発生するようなケースも、一般的な計算式に当てはめてチャーンレートを計算すると、誤った意思決定を導いてしまう可能性があります。毎日チャーンレートを計算して、月次で合計すればより正確に計算することが可能ですが、面倒な作業になってしまうでしょう。
他の解決方法としては、平均的に発生したと仮定して計算する方法があります。
このように、新規ユーザーの獲得と、それに対する解約が同月内に発生するようなケースも、一般的な計算式に当てはめてチャーンレートを計算すると、誤った意思決定を導いてしまう可能性があります。毎日チャーンレートを計算して、月次で合計すればより正確に計算することが可能ですが、面倒な作業になってしまうでしょう。
他の解決方法としては、平均的に発生したと仮定して計算する方法があります。
例えば、1月末のユーザー数が1,000人、2月末のユーザー数が1,290人なので、2月のユーザー数は平均的に 1,145 人( =( 1,000 + 1,290 )÷ 2 )いたという概算で、2月の解約110人も日々平均的に発生していたと仮定しましょう。その場合の計算は以下のようになります。
2月のチャーンレート = 110 ÷ 1,145 × 100 = 9.6 %
次に、2月末のユーザー数が1,290人、3月末のユーザー数が1,551人なので、3月のユーザー数は平均的に1,420 人( =( 1,290 + 1,551 )÷ 2 )いたという概算で、3月の解約139人も日々平均的に発生していたと仮定した場合、計算式は以下の通りです。
3月のチャーンレート = 139 ÷ 1,420 × 100 = 9.7 %
このように計算することによって、一般的な計算式を使用するよりも2月度と3月度のチャーンレートの差が出にくくなりました。
チャーンレートを計算する際には、一般的な計算式のみを使用するのではなく、自社にとってどのような計算式を用いてチャーンレートを算出するのが最適なのかをしっかりと検討することが大切です。
チャーンレートの目安
チャーンレートの計算方法を紹介しましたが、チャーンレートはどのくらいの数値が目安になるのでしょうか。それは、SaaSが対象とする企業規模によって異なるとされています。
出典:Tomasz Tunguz / Venture Capitalist at Redpoint
SMBを対象とするSaaSのカスタマーチャーンレートは月次で3%~7%、年次で31%~58%が一般的とされています。同様にMid-Marketでは月次で1%~2%、年次で11%~22%とされており、Enterpriseでは月次で0.5%~1%、年次で6%~10%です。
これらの数値から、ターゲットの企業規模が大きくなればなるほど、チャーンレートは低く抑えるべきということが分かります。
月次チャーンレートと年次チャーンレート
ここで、よく混同しがちな月次チャーンレートと年次チャーンレートについて軽くご説明します。
チャーンレートは、単純に月次チャーンレート × 12 = 年次チャーンレートとなるわけではありません。月次チャーンレートと年次チャーンレートで等価な数値は、下記の表のようになります。細かい話ですが、月次チャーンレートと年次チャーンレートを混同しないように注意しましょう。
月次チャーン | 年次チャーン |
---|---|
0.10% | 1.19% |
0.30% | 3.54% |
0.50% | 5.84% |
1.00% | 11.36% |
1.50% | 16.59% |
2.00% | 21.53% |
2.50% | 26.20% |
3.00% | 30.62% |
3.50% | 34.79% |
4.00% | 38.73% |
4.50% | 42.45% |
5.00% | 45.96% |
6.00% | 52.41% |
7.00% | 58.14% |
8.00% | 63.23% |
9.00% | 67.75% |
10.00% | 71.76% |
SaaSのチャーンレートの目安
一般的に、大企業はSaaS製品を導入するまでにしっかりとした検証期間を設けることが多いため、実際に使用していただくまでに長い期間を要します。その一方で、一度導入されれば解約されるケースは少ないといえるでしょう。
しかしながら、受注までのリードタイムが長いために、顧客獲得コストは高くなりがちです。チャーンレートを低くしておかなければ、顧客獲得コストを回収する前に解約されてしまうことも考えられます。
中小企業は大企業と比較してリードタイムが短く、顧客獲得コストも低くなりがちですが、利用人数が少ない、導入コストが大企業と比較して低いなどの理由から、チャーンレートは高くなる傾向です。
チャーンレートの目安を一概に決めるのは難しいため、チャーンレートを一面的にとらえるのではなく、新規顧客の獲得と既存顧客へのアップセルやクロスセルなどのバランスを多面的にとらえながら自社の現状や今後のロードマップに応じたチャーンレートを検討するようにしましょう。
チャーンレートが高まる原因
吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生れたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。
- 製品・サービスの質が悪い
- 顧客へのフォローが不足している
- サービスが必要なくなった
製品やサービスの質が悪く価格と見合っていない、他社よりも優位性が低いといった場合は、顧客の解約につながりやすくなります。
また、顧客へのフォロー不足は顧客満足度が低下してしまったり、製品・サービス離れにつながってそのまま解約されてしまったりするため、しっかりと顧客データの分析を行って、製品・サービスを最大限利用してもらえるようにフォローする必要があるでしょう。
企業向けの製品やサービスを展開している場合は、顧客の業務内容の変更や組織変更などの影響で解約される場合もあります。これは顧客の変化によるものなので、製品・サービスを提供している企業側の対策で予防するのは難しいでしょう。
チャーンレートの改善に必要な視点
次に、チャーンレートの改善に必要な視点を見ていきます。チャーンレートを下げるための改善方法を実施する際には、これらの視点に注目してみてください。
パーソナライズ
パーソナライズは、マーケティングなどでよく使用される用語で、「一人ひとりの属性や思考、行動などに合わせて最適なものを提供する」ことです。属性や思考、行動の他にも、趣味嗜好、興味関心、属性など、顧客の情報をしっかりと把握した上で、製品・サービスを提供したりフォロー体制を整えたりすれば、解約を防げるでしょう。
ロイヤルティ
ロイヤルティもパーソナライズと同様に、マーケティングなどでよく使用される用語です。「顧客ロイヤルティ」「従業員ロイヤルティ」といった使い方をされますが、今回重要なのは「顧客ロイヤルティ」です。顧客ロイヤルティは、製品・サービスを利用するユーザーが企業やブランドに対して持つ信頼や愛着心のことを指します。「この会社が気に入っているからサービスを使いたい」など、会社や製品・サービスに愛着を持っている顧客が増えてくれれば、その分解約にもつながりにくくなります。
チャーンレートを下げるための改善方法
SaaS事業においては、チャーンレートを低くしておくことが重要ということはご理解いただけたと思います。では、チャーンレートを下げるためにはどうすればいいのでしょうか。ここでは、チャーンレートを下げるための施策について解説していきます。
一般的な施策
まずは、チャーンレートを改善するための一般的な施策について見ていきましょう。チャーンレートを下げるための一般的な施策は、主に以下の4つです。
- 料金体系の見直しをする
- 既存機能の活用方法を伝える
- カスタマーサクセスを強化する
- サービス設計を見直す
それぞれの施策について、詳しく解説していきます。
料金体系の見直しをする
顧客が最も気にするポイントの1つが料金で、一度料金が高いと感じた顧客は、解約する可能性が高まりやすいです。
そのため、単一のプランではなく月額費用を抑えた長期プランを用意する、利用料に応じた従量課金プランを用意するなどの方法を検討してみましょう。企業規模やニーズといった顧客属性に分けて料金プランを複数用意するのも効果的です。
料金体制を見直すのは手間とリスクをともないますが、検討する価値は高いでしょう。
既存機能の活用方法を伝える
顧客の中には、提供しているSaaSサービスに搭載されている機能をいまいち把握しきれていないという人も少なくありません。そのため、よりSaaSサービスが便利であることを知ってもらうために、具体的な活用方法などを提示するのも有効です。
顧客が機能を把握しきれていないと感じた場合には、使い方のヘルプページを準備する、チュートリアル機能を搭載する、使い方動画をHPやSNSで共有するなどの方法を検討してみてください。
顧客に分かりやすく機能を伝えられれば、その便利さを最大限に理解してもらえるでしょう。
カスタマーサクセスを強化する
カスタマーサクセスとは、その名の通り「顧客を成功に導くために能動的に課題を解決していく取り組み」です。SaaS業界では今や常識的になりつつあるポジションなので、カスタマーサクセスチームが社内にない場合には新設する、すでに存在する場合はさらに強化するといった施策も検討してみてください。
顧客から要望を待つだけではなく、こちらから要望を拾い上げてサービスに取り入れていくと、顧客からも信頼されてチャーンレートを下げる結果にもつながりやすくなるでしょう。
サービス設計を見直す
これまで使っていた機能に飽きてしまったなどの理由でサービスの利用頻度が下がってしまう可能性もあります。使わなくなったまま解約されるといったケースも珍しくないので、サービスは常に成長させていく必要があります。
サービス内で人気のある機能、あまり使われていない機能をリストアップして人気のある機能には注力してバージョンアップ、あまり使われておらず人気の少ない機能はオプション化するなどのサービス設計の見直しも効果的です。
また、競合他社の製品やサービスをモニタリングしてみると、開発や設計に役立つでしょう。
コホート分析
より自社の実情に沿ってチャーンレートを改善するには、コホート別のチャーンレートを分析してみるのがおすすめです。
コホート分析は、SaaSの契約月別にコホート(集団)に分け、コホートそれぞれのチャーンレートがどのように改善されているのかを継続的にチェック・分析します。
コホート分析を行えば、同じSaaS製品でも値引きなどのインセンティブを武器とした営業で獲得したコホートはチャーンレートが高いなど、新たな発見もあるでしょう。
SaaS企業が最終的に目指すべきはネガティブチャーン
SaaS企業にとって目指すべきは、何といってもネガティブチャーンです。解約やダウングレードによってMRRが減少するよりも、アップグレードや新規顧客の獲得などによってMRRが増加するほうが会社として成長しているのは誰が見ても一目瞭然でしょう。
そのためには、解約数を減らすこと、ダウングレードを抑制することはもちろん、新規顧客の獲得や既存顧客へのアップセルやクロスセルのバランスも重要です。
チャーンレートを導入するときはKPIを取り入れるのもおすすめ
チャーンレートを下げるという目標のために、KPIを設定するのも効果的です。チャーンレートを下げるために、自社の製品を分析すること、顧客の声を聴くこと、解約の理由や原因を追究することなどをKPIとして設定すれば、より効率的にチャーンレートを下げられる可能性も高いでしょう。
まとめ
継続的な利用が求められるSaaS製品にとって、チャーンレートはとても重要です。チャーンレートには、カスタマーチャーンレート、アカウントチャーンレート、グロスレベニューチャーンレート、ネットレベニューチャーンレートの4種類があります。
自社に適したチャーンレートはどれなのか、KPIを設定する際には、しっかりと検討してください。SaaS事業を運営する上でモニタリングすべき他のKPIやマネジメントのコツなどは、ユーザベース社の運用を参考にされると良いと思います。
ユーザベース社のCFOに直接インタビューさせていただき、まとめた資料がありますので、合わせてご覧いただき自社のKPIマネジメントに役立てていただければ幸いです。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。