キャッシュ・フローのKPIツリー
2021.05.23
CCCという考え方
まずは、基本となるキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)についてその考え方を説明します。
キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は仕入から販売に伴う現金回収までの日数を表し、多くの企業が経営指標のひとつとして活用しています。
例えば、小売業や卸売業であれば商品の仕入を行ない、製造業や飲食業であれば原材料から製品等を製造し、一定期間をかけて店舗等で販売し、その後、お客様から代金を回収します。
CCCは「仕入→支払→販売→入金」という一連の現金循環のサイクルにおける各過程の回転日数に基づいて、運転資金を調達すべき期間を求めたものです。
この説明でピンときた方も多いかもしれませんが、売上や利益はキャッシュ・フローと一致するものではありません。
仕入れたものは売れるまでは在庫になります。そして、その商品を販売して入金されるまでには一定の期間が必要です。
売上が発生して実際に入金するまでには期間が必要ですし、費用の支払のタイミングも仕入れてから少し期間があります。
こういった売上と費用の計上のタイミングと、実際の現金の入金・支払とはズレがあり、だからこそ、このCCCを理解し、キャッシュ・フローをとらえて事業の経営をしていくことが大事です。
そういったことから、売上と費用のKPIにも、損益だけではなく、収支(キャッシュ・フロー)を可視化していくことが重要になります。
収入の考え方
いままでの説明の通り、損益の売上が当月すべて入金されるわけではありません。
納品が完了したり請求書を発行したりして、売上を計上してから、場合によって1ヶ月後に口座に振り込まれることになるかと思います。
会社によっては1.5ヶ月後の場合もあります。
この期間を「売上債権回転期間」と言います。
下図の通り、月の売上が実際に入金されるタイミングであるこの期間を前提に、前月(もしくは前期)分も含めて、売上計上した金額のうちいくらの現金の収入があるのかを計算しましょう。
この図をKPIで表現してみましょう。
まず、売上300万円のうち、100万円が当月に入金されて、残り200万円が翌月に入金されるので、回転期間は2/3(= 200 ÷ 300)となります。この回転期間2/3がここでのKPIとなります。以降、このKPIを「回収期間」と呼ぶことにします。
収入をこのKPIを使って表現してみましょう。
収入 250万円 = 前月売上 225万円 × 回収期間 2/3+当月売上 300万円 ×( 1 − 回収期間 2/3)
という計算式で表現できます。
※ 前月の回収期間も当月と同じ2/3と仮定していますが、実務的には、この回収期間は毎月変動します。
通常、この回収期間が短ければ短いほど、お金が入ってくるのが早いということになるので、キャッシュ・フローは良くなります。
支出の考え方
次に、費用の支払い期間はどうでしょうか?
売上と同様に、サービス提供や商品などを購入してから、請求書などを受け取って実際に支払うまでの期間があるかと思います。
この期間を「仕入債務回転期間」と言います。
その期間を想定し、実際に支払う金額(=支出)を算出してみましょう。
この図をKPIで表現してみましょう。
まず、仕入200万円のうち、50万円が当月に支払われて、残り150万円が翌月に支払われるので、回転期間は3/4(= 150 ÷ 200)となります。
まず、仕入200万円のうち、50万円が当月に支払われて、残り150万円が翌月に支払われるので、回転期間は3/4(= 150 ÷ 200)となります。この回転期間 3/4がここでのKPIとなります。
以降、このKPIを「支払期間」と呼ぶことにします。
支出をこのKPIを使って表現してみましょう。
支出 150万円 = 前月仕入 134万円 × 回収期間 3/4+当月売上 200万円 ×( 1 − 回収期間 3/4)
という計算式で表現できます。
※ 前月の支払期間も当月と同じ3/4と仮定していますが、実務的には、この支払期間は毎月変動します。
通常、この支払期間が長ければ長いほど、お金が出ていくのが遅いということになるので、キャッシュ・フローは良くなります。
キャッシュ・フローのKPIツリー
以上をKPIツリーで表すとこのようになります。
このKPIツリーは、とてもシンプルに表現していますが、実務的には先ほどの例の通り、前月の売上や費用も関係してきて複雑になります。
また、回収期間の主なものとしては、先ほどの「売上債権回転期間」があります。
これは、売上が計上される月の翌月以降にその入金がある場合で、例えば、「毎月の利用料を末締めの翌月末で回収する」というケースが該当します。
逆に、例えば、「毎月の利用料の12ヶ月分を契約時に一括で回収する」といったケースもあると思います。この場合は、回収期間がマイナスになったりするので、キャッシュ・フローがとても良くなります。
次に、支払期間の主なものとしては、先ほどの「仕入債務回転期間」があります。ただ、これは仕入があるようなビジネスの場合ですが、仕入があるビジネスであろうが仕入がないビジネスであろうが経費は発生すると思うので、そういったものも含めて支払期間を計算します。
また、例えば、年間の経費を一括で前払いしているケースなどは、支払期間が一気に短くなって、キャッシュ・フローが悪くなったりします。
こうしてキャッシュ・フローのKPIツリーを作ることで、
- キャッシュ・フローを改善するには、どのKPIを改善すれば良いか。
- 売上が増えてもキャッシュ・フローが良くならない原因は何か。
- 費用が減ってもキャッシュ・フローが良くならない原因は何か。
といったことがとてもわかりやすくなります。
以上の通り、実務的に落とし込もうとすればかなり複雑になったりしますが、もし可能であればぜひキャッシュ・フローのKPIツリーも作ってみてください。
具体的にKPIツリーを作成したり、KPIマネジメントを運用する際は、弊社のScale Cloudがお役立ちできます。
詳細を知りたい方は、ぜひ下記資料をダウンロードしてみてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。