KPIツリーを作るときのポイント10選 ー入門編ー

成長企業の間でますます広がっているKPIマネジメント。
その肝となるのは最適なKPIツリーの作成によるKPI設計です。
この設計を間違うと、運用も大変になり、成果も上がらない、ということになりがち。
今回は、このKPIツリーを作るときのポイントの中で入門編となるものをまとめました。
目次
トップダウンで作るかボトムアップで作るか
まず、トップダウンでKPIツリーを作るのか、それともボトムアップでKPIツリーを作るのか、についてです。
まずは、トップダウンで作ることのメリット・デメリットから。
メリット
- 作る際の関係者が少ないのでスピーディーに作りやすい
- トップの意図を反映しやすい
デメリット
- 現場の納得感が得にくい
- 現場の視点が漏れて現実・実務と乖離したものになりがち
もしトップダウンで進めるのであれば、その後の運用の中で、現場の意見を聞きながら、 KPIツリーを柔軟に改変していくといいでしょう。
次に、ボトムアップで作ることのメリット・デメリットについて。
メリット
- 現場の納得感を得やすい
- 現場の視点が入って現実・実務に即したものになる
デメリット
- 作る際の関係者が多くなって意見の食い違いなどから作るのに時間がかかる
- トップの意図が反映されにくい
よっぽどスピード重視でない場合は、ボトムアップで作ることをオススメします。
理由としては、KPIマネジメントの目的にもよりますが、通常、
- チーム・組織・会社としての目的・目標(業績や生産性など)を達成すること
を目的にする場合が多いと思いますので、そうすると、KPIツリーを作るのに少し時間がかかったとしても、関係者全員の納得感が得られて、かつ、実務に沿ったものにすることで短期的にも効果を得やすいので、その後の展開、例えば、
- トップの意図を盛り込む
- 長期的なKPIを盛り込む
- KPIの数を増やす
といったアップデートをしやすくなります。
では、ボトムアップで作るとして、どういったメンバーに集まってもらって作るのがいいでしょうか。
例えば、KGIを事業全体の売上にして、ビジネスサイドとして、マーケティング部・営業部・カスタマーサポート部がある組織を考えてみましょう。
この場合、KGIの目標達成に対して、3つの部署のいずれも強く関係していることから、3つの部署の部長が集まってKPIツリーを作るといいでしょう。
必ずしも部長でなくても、その部署の全体の状況が把握できている人であれば問題ないでしょう。
また、KGIを営業部の売上にした場合を考えてみましょう。
この場合、営業部のリーダーや主要メンバーに集まってもらってKPIツリーを作るといいでしょう。
このようにトップダウンとボトムアップのメリット・デメリットのバランスを考えながら取り組みましょう。
プロセスを考えながら分解する
KPIツリーでどんどん分解するときは、KGIに至るプロセスを考えると分解しやすくなります。
例えば、
- KGIを売上にした場合、Webからの問い合わせがあって、そこに対して電話をしてアポを取り、商談をして成約に至るというプロセス。
- KGIを採用人数にした場合、就職説明会やスカウトサービスで応募者を集め、一次面接、二次面接、最終面接を経て内定を出し、内定承諾を得て採用が確定するというプロセス。
というように、まずはKGIに至るプロセスを大雑把にでもいいので整理します。
次に、そのプロセスを少しずつ深掘りしていきます。
上記の例で「商談」というプロセスが出てきましたが、例えばこの「商談数」をさらに分解しようとすると、商談する前のプロセス「Webからの問い合わせ」を思い浮かべれば、
- 商談数 = Web問合数 × アポ獲得率
のように分解することができます。
さらに、「Webからの問い合わせ」というプロセスを遡ると、「Webへのアクセス」というプロセスが出てくるので、
- Web問合数 = (Webサイトの)ユニークユーザー数 × CVR
のように分解することができます。
繰り返しになりますが、このように、KGIに至るプロセス全体を整理整頓してから、細かく深掘りしていくと良いでしょう。
What?Why?How?を使って分解する
つねに分解する際に、
- What?( 何を向上させればいいのか?)
- How?(どうやって向上させればいいのか?)
- Why? (なぜ向上しないのか?)
を考えて分解しましょう。
例えば、What。
「商談数を増やすには、何を増やせば良いのか?」と考えてみます。
そうすると、
- 今はWebからの問い合わせがあれば電話をしてアポを取っていっているので、そのWeb問合数を増やせば良い。
- Web問合数が増えても、アポが取れないと商談には繋がらないので、アポの獲得率を高めないと商談数は増えない。
というように整理できて、
- 商談数 = Web問合数 × アポ獲得率
という分解ができます。
次に、How。
「商談数を増やすには、どうやって増やせば良いのか?」を考えてみます。
そうすると、
- 今はWebからの問い合わせから商談につなげているので、その問合数を増やすことと、問い合わせからの商談化の確率を高めれば、商談数は増やせる。
- Webからの問い合わせ中心になっているが、それ以外のチャネル、例えば、セミナーや展示会、代理店といったところからも商談を作っていけるようにしよう。
というように整理ができて、
前者であれば、
- 商談数=Web問合数×商談化率
後者であれば、
- 商談数=Web経由の商談数+セミナー経由の商談数+展示会経由の商談数+代理店経由の商談数
という分解ができます。
では次に、Why。
「なぜ商談が増えないのか?」を考えてみます。
そうすると、
- Webからの問い合わせ数が増えないからだ。
- Webからの問い合わせが増えてもアポが取れなければ商談にならない。
- そもそもWebだけに頼りすぎているからだ。
というように整理ができると、上記と同様の分解ができるかもしれません。
What?How?Why?のいずれでも良いので、自問自答しながら分解してみてください。
これから取り組むことも含める
いまは取り組んでいないがこれから取り組もうと思っていることも因数分解の中に含みましょう。
たとえば、いまはやっていない広告出稿も今後やってきたい場合は含めて考えましょう。
ただ、この場合でも、「広告出稿を本格的に継続的にやっていくかどうかはまだわからないので、KPIツリーの中に入れ込んでも良いのでしょうか?」という質問をよくいただきます。
「これから取り組むこと」が本格的に継続的にやっていくかどうかは現時点では未定だったとしても、その判断をするためのKPIデータを取り、その上で、やっていくかどうかを決定しますよね?
例えば、広告出稿の場合、まずは何ヶ月かやってみて各種のKPIで効果測定をし、その上で、続けるかどうかを判断すると思います。
つまり、「これから取り組むこと」であったとしても、KPIを定めて、効果測定をし、合理的に意思決定をする、というプロセスは変わりません。
あとは、
- KPIツリーに入れてそのプロセスを経る。その上で、継続しないとなればKPIツリーから削除する。
- KPIツリーに入れずに、一旦、KPIツリー外でKPI管理をして、継続的に実施していくとなればKPIツリーに入れる。
このどちらかになるでしょう。
前者のメリットは、KPIについて一元管理しやすいことですし、デメリットは、もし継続しないとなればせっかく作ったKPIツリーを修正しないといけない手間が発生するということです。
後者のメリットはその裏返しで、KPIツリーを作ったり修正したりという手間が省けますし、デメリットは、一時的かもしれませんが、本格運用のKPIと、テスト運用のKPIの2つに分けて管理しないといけなくなるということです。
メリットとデメリットのバランスを考えながら、自社に最適な方を選んでください。
各KPIの定義を確認しながら分解する
KPIの意味するところは、人によって解釈がバラバラになったりします。
例えば、商談数はどの時点を意味しますか?
- 最初の訪問時?
- 訪問して商品・サービスの説明をした時点?
- 見積もりを出した時点?
など、会社によって、チームによって、又は人によって解釈が異なることが多いです。
ですので、KPIツリーを作っていく際には、分解で出てきたKPIごとに、その定義を言語化して明確にすることをオススメします。
そうしないと、先ほどの商談数のように、人によって定義が統一されていないと、
- 最初の訪問時に商談数をカウントする人もいれば、
- 訪問して商品・サービスの説明をした時点で商談数にカウントする人もいれば、
- 見積書を出した数を商談数としてカウントする人もいれば、
となってしまうと、それらが集計されて出てきた商談数が、どういう意味を持つのかがわかりづらくなって、正しい判断や改善ができなくなってしまいます。
ぜひ、各KPIの定義を言語化して、全員が同じ認識を持てるようにしていきましょう。
すべての構造が四則演算できるように
各KPIは、KGIを達成するための一つの要素となります。
ロジックツリーをつかって分解していく際に、
- 足す(+)
- 引く(ー)
- 掛ける(×)
- 割る(÷)
という四則演算で各KPIの関係性を表せるように分解していきましょう。
例えば、
このようなKPIツリーであれば、
というように、KPI同士の関係性を四則演算で表していきましょう。
そうすることで、そのKPIの数値が上下した場合に、KGIにどのように影響がでるのかの測定が簡単にできるようになります。
例えば、次のKPIツリーで考えてみましょう。
- Web問合数が150から100に減った場合、アポ率が10%のままなら、商談数は15から10に減る。
- 商談数が15から10に減った場合、成約率が20%のままなら、顧客数は3から2に減る。
- 顧客数が3から2に減った場合、顧客単価が10のままなら、売上は30から20に減る。
といった具合です。
このようにすることで、次のようなことができるようになります。
- 先程の例で言えばWeb問合数が変動した時をシミュレーションしましたが、このようにその他の各KPIを変動させてみたときに、それぞれKGIがどれほど変動するかをシミュレーションすることで、どのKPIが重要なのか(どのKPIを変動させることがもっともKGIの改善に影響が大きいのか)がわかります。
- 先程の例で言えば、Web問合数が実際に150の計画だったのが100になってしまいそうだという見込みであれば、売上が10未達成になってしまうので、その他のKPIのどれをどれだけあげる(例えば、アポ率を10%から15%に上げる)必要があるのか、ということがわかるので、リカバリー施策を立てやすく行動しやすくなります。
その他にも様々なメリットがあるので、ぜひ四則演算でKPI同士の関係性を定義していってみてください。
逆にいうと、そうなるようにKPIツリーを作ってみてください。
単位に注意
先程、四則演算を使ってKPIツリーを作りましょうということを書きましたが、それに伴って、円、千円、百万円、%、人、回などの単位を間違えないよう、その整合性を常に意識しましょう。
- KPI①を掛け算で因数分解してKPI② × KPI③になるときは、KPI②またはKPI③のどちらかがKPI①と同じ単位になります。
- KPI①を割り算で因数分解してKPI② ÷ KPI③になるときは、KPI②またはKPI③のどちらかがKPI①と同じ単位になります。
- KPI①を足し算で因数分解してKPI② + KPI③になるときは、KPI②もKPI③もKPI①と同じ単位になることを確認しましょう。
- KPI①を引き算で因数分解してKPI② ー KPI③になるときは、KPI②もKPI③もKPI①と同じ単位になることを確認しましょう。
もう少し具体的に、次のKPIツリーで考えてみましょう。
顧客数(単位:社)を成約率(単位:%)と商談数(単位:社)の掛け算で分解すると、成約率と商談数のどちらか、この場合で言うと商談数の単位が、その上位階層の顧客数と同じ単位になります。
商談数(単位:社)をテレアポからの商談数(単位:社)とWebからの商談数(単位:社)の足し算で分解すると、テレアポ商談数とWeb商談数のどちらも、その上位階層の商談数と同じ単位になります。
当たり前と言えば当たり前のことなのですが、意外と間違ってしまうケースも実は多いので、意識しながらKPIツリーを作っていきましょう。
測定可能なKPIを設定する
例えば、次のKPIツリーをみてください。
先程までのKPIツリーよりは少し階層が増えましたが、出てくるKPIは、全てその進捗管理を定量的に行えるものになっています。
せっかくKPIツリーを作っても、それを測定することができなければ、どのKPIに問題があるのかが可視化されず、具体的な次のアクションへとつなげることができなくなってしまいます。
- そのKPIは数字で測定できるのか?
例えば、「顧客満足度」は数字で測定しづらいものかもしれません。
測定できなければ、そのKPIが「高い(良い)」のか「低い(悪い)」のかの基準が曖昧で、人それぞれでその基準が異なっていたりするので、共通認識が持ちづらくなります。KPIツリーを作る際は、出てきたKPIが「客観的な数字で定量的に測定できるのか?」ということに気をつけましょう。
- そのKPIはデータとして入手できるのか?
例えば、先程のKPIツリーでいえば、「新規の顧客」と「リピートの顧客」を今まで分けてデータをとっていなかったとした場合、「やろうと思えば分けてデータを取ることができる」のか、それとも「どう頑張っても分けてデータを取れない」のかによってKPIツリーは変わってきます。前者であれば分けてKPIツリーを作れますし、後者であればそれができないでしょう。できないKPIツリーを作っても仕方ないので、KPIツリーの作成途中で出てきた各KPIについて、データが取れるのかどうかは重要です。
- 入手できない場合は、手間をかけてでも入手すべきものか?
例えば、先程の「新規の顧客」と「リピートの顧客」の続きで、「やろうと思えば分けてデータを取ることができる」としましょう。その場合、次に考えるのは、その取得コストです。つまり、手間ですね。手間をかけてまで入手した方が良いのであればKPIツリーの中に入れるべきですし、手間をかけてまで入手するほどのKPIではないのでればKPIツリーの中には入れないでおきましょう。
こういった視点をもってKPIツリーを分解していきましょう。
これ以上分解ができないところまで分解(細分化)していく
分解すればするほど、より現場のタスクに近いKPIになっていきます。
次の2つのKPIツリーを見比べてください。
どちらのKPIツリーも「商談数」というKPまでの分解は同じですが、前者のKPIツリーはここで分解が止まってます。
後者のKPIツリーはさらにアポ率とテレアポ数に分解しています。
前者の方であれば、「商談数を増やそう」といった場合、「どうやって増やすのか」まではKPIツリーの中に盛り込まれていないので、もしかしたら、人によってアクションが変わってしまうかもしれませんし、人によっては何をやったら良いのかわからない人もいるでしょう。
後者の方であれば、「商談数を増やそう」といった場合、「アポ率を高める」か「テレアポ数を増やす」かのどちらかだとわかります。
そうすれば、
- アポ率を高めるためにトークスクリプトを修正しよう。
- テレアポ数を増やすために日中以外の時間で事務作業を行って日中はテレアポに時間を使おう。
というように、具体的な行動につながりやすくなります。
またこれは会社の「意図」「方針」でもあります。
前者であれば、「商談数を増やせるならどんな方法でも良いので個人個人に任せる」という会社方針になりますし、後者であれば、「商談数を増やしていくのを、属人的にやっていくのではなく、仕組み化すべく、アポ率とテレアポ数の2つのKPIの再現性を高めていこう」という会社方針になるかもしれません。
オススメとしては後者です。
ビジネスをスケールさせるためには、ビジネスの再現性を高めることが近道になります。
そのためには、先程の会社方針のように、KPIを細かく設定して、会社・組織・チーム全体でPDCAを回していくことで、各KPIのノウハウが溜まり、再現性が高まることにつながるでしょう。
また、KPIまで細分化していくことで、商談数が未達成だった場合に、どこに問題があるのか(アポ率なのかテレアポ数なのか)がよりはっきりします。
つまり、これ以上分解できないところまで分解していくことで、ゴール(KGI)までの道筋のどこに問題があるのか、また、どこに注力していけば目標の達成ができそうなのかがより明確になります。
ひとつひとつの因子を「質」と「量」に分けて考える
KPIを「量」「質」に分けてみると、
- 「量」は「~数」というKPI
- 「質」は「~率」「~単価」というKPI
に分かれることが多いです。
もう少し具体的に次のKPIツリーで見てみましょう。
- 売上(量)を顧客単価(質)と顧客数(量)の掛け算で分解している。
- 顧客数(量)を成約率(質)と商談数(量)の掛け算で分解している。
- 商談数(量)をテレアポからの商談数(量)とWebからの商談数(量)の足し算で分解している。
となります。
あるKPIを分解するとき、
- 掛け算や割り算で分解するときは、量のKPIと質のKPIに分解されることが多い。
- 足し算や引き算で分解するときは、質のKPIだけ、または量のKPIだけで分解されることが多い。
という視点を入れてみてください。
このように考えることによって、より分解をしやすくし、完成したロジックツリーをもとに、プロセス全体の効率性などを考えるときに有用なKPIが出来上がります。
具体的にKPIツリーを作成したり、KPIマネジメントを運用する際は、弊社のScale Cloudがお役立ちできます。
詳細を知りたい方は、ぜひ下記資料をダウンロードしてみてください。

執筆者
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。