SaaSの主要KPI【CAC】とは?計算方法や改善方法を解説
2022.12.08
SaaSの主要なKPIとしても知られるCAC(Customer Acquisition Cost)ですが、その意味や種類まで詳しく理解できていないという人は少なくないでしょう。ここでは、CACとは何かについて解説していきます。さらに、CACの種類や計算式、CACを改善する方法まで詳しく説明していくので、ぜひ参考にしてみてください。
CAC(顧客獲得単価)とは?
CACについて知るために、まずはCACの定義について見ていきましょう。CACと間違えられることも多いCPAについても、合わせて解説していきます。
CACの定義
CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価)は、「1顧客を獲得するために必要となるマーケティングや営業のコスト」を表す指標です。SaaSビジネス全体の顧客獲得単価、つまり顧客を得るためにかかった全てのコストを表す場合に用いられます。
この「全てのコスト」の中に何を含めるかは各企業によって異なるので、注意が必要です。広告宣伝費、人件費、代理店販売手数料、その他外注費まで含める場合もあれば、広告宣伝費のみをコストとする場合もあります。
これは当たり前のことですが、低いコストで顧客を獲得できた方が利益は増大するため、企業はCACを下げようと努力するのです。
CPAとの違い
CACとよく似ている言葉として間違われるのがCPAです。CPAは、「Cost Per Action」または「Cost Per Acquisition」の略で、意味はCACと同じ「顧客獲得単価」です。
先ほど解説した通り、CACはSaaSというビジネス全体の顧客獲得単価を表す場合に用いられますが、CPAはマーケティングにおいて用いられることが多く、1顧客獲得に必要となったWeb関連の広告費を表す場面に用いられます。
CACの種類
CACは主に3種類に分類できます。それぞれ何をコストに含めるかが異なるので、詳しく見ていきましょう。
- Organic CAC
- Paid CAC
- Blended CAC
1つずつ詳しく解説していきます。
Organic CAC
Organic CACは、広告費などの特別なコストをかけずに、自然増によって1顧客を獲得するのにかかったコストです。例えば、Webページの自然検索からの流入や、既存顧客からの紹介・口コミなどはOrganic CACに分類されます。コストがかかっていないため、より安価に顧客を獲得できることが多いです。
Paid CAC
Paid CACは、有料チャネルを利用した顧客獲得単価です。簡単にいうと、広告などでお金を支払った際に、1顧客を獲得するのにかかったコストを表します。Web広告やキャンペーンなどを行った場合、新規で獲得した顧客やコストを計算して効果を測定する必要がありますが、Paid CACではチャネルごとのコストパフォーマンスを測定することが可能です。
Blended CAC
Blended CACは、Organic CACとPaid CACの2つを合わせた1顧客当たりの獲得コストを表します。通常、CACを計算する場合には、このBlended CACを意味していることが多いです。CACを下げれば、顧客数の増加率を減らすことなく収益を改善できる可能性もあります。
CACが重要な理由
CACは、なぜSaaS企業にとって重要視されるのでしょうか。ここでは、CACが重要とされる主な理由を2つ解説していきます。
- 投資すべきマーケティングチャネルを合理的に決定するため
- ユニットエコノミクスを計算するため
CACをKPIに設定することを検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
投資すべきマーケティングチャネルを合理的に決定するため
SaaSビジネスで、もっとも効率良く新規顧客を獲得するための方法を選ぶためには、CACの把握は欠かせません。
新規顧客の獲得のために活用できるチャネルはさまざまですが、チャネルを見誤ればコストパフォーマンスの悪い広告コストを消費することになりかねません。活用できるチャネル別に得られるリターンを計測して、コストパフォーマンスの高いものに投資を集中させていくことが重要です。
経営状況や経済市場はすぐに変化していくので、その中でより効率的なマーケティングを行うためには、最適なマーケティングチャネルを合理的に決定していく必要があるでしょう。
ユニットエコノミクスを計算するため
1顧客当たりの採算性を表すKPIをユニットエコノミクスといいます。売り切り型のビジネスと違って、継続的に顧客に利用してもらうことでコストを回収するSaaSビジネスは、投資に対して回収期間が長いです。そのため、ユニットエコノミクスが重要視される傾向にあります。
ユニットエコノミクスの計算方法は下記の通りです。
ユニットエコノミクス = LTV(顧客生涯価値)÷ CAC(顧客獲得単価)
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、顧客1人または1社が企業と取引を始めてから終えるまでの間に購入した商品やサービスの合計金額を指します。ユニットエコノミクスを計算するにあたって、LTVとCACの把握は欠かせません。
ユニットエコノミクスについてさらに詳しく知りたい方は、「SaaSの主要KPIと【ユニットエコノミクス】とは?計算方法や目安を紹介」を参照ください。
CACの計算式
CACの一般的な計算式は、下記の通りです。
CAC = 顧客獲得コスト ÷ 新規獲得顧客数
複雑な印象を受けますが、噛み砕いて説明すると次のようになります。
CAC = 当月の全ての販売・マーケティング活動にかかった金額 ÷ 当月新規獲得した顧客
3種類のCACについて詳しく前述しましたが、それぞれ顧客獲得コストに何を含めるかが異なります。それによって各CACの計算式も変化するので、各CACの計算式について見ていきましょう。
- Organic CAC:自然増の顧客獲得にかかったコスト ÷ 自然増チャネルからの新規顧客数
- Paid CAC:有料チャネルにかけたコスト ÷ 有料チャネルからの新規顧客数
Organic CACとPaid CACを区別せずにCACを計算すると、正しい効果測定ができなくなる可能性があります。マーケティングや営業の獲得効率を議論する際には、それらの活動の影響が把握しやすいPaid CACを中心にすると良いでしょう。
- Blended CAC:(全営業コスト + 全マーケティングコスト)÷ 新規顧客獲得数
冒頭の一般的なCACの計算式と同様の計算式になります。つまり、一般的にCACといえば、このBlended CACを意味することが多いのです。
CACの目安
月額利用料金はいくらなのか、チャーンレートがいくらかによってCACは変化するため、一概に最適な目安を語るのは難しいです。CACの目安を考える際には、LTVとのバランスで最適な水準を把握しましょう。
SaaSビジネスでは「ユニットエコノミクスが3倍以上」が重要な目安となっています。つまり、前述したユニットエコノミクスの計算式から考えて、CACの目安としてLTVの3分の1以下にする必要があるということです。
ユニットエコノミクスを向上させるためには、LTVを向上させてCACを低下させることが重要になります。しかし、CACをとにかく下げ続ければいいというわけではありません。その理由については、次の具体例と合わせて見ていきましょう。
CACの具体例
例えば、CACを低下させ続け、ユニットエコノミクスが10倍になったとします。一見状態が良いように見えますが、裏を返せば「適切な投資ができていない」ということです。
SaaSビジネスはマーケティングや営業のコストが先行し、契約後にそれらを回収していくモデルなので、「CACを低下させる = マーケティングや営業への先行投資がない」という意味になります。マーケティングや営業にかけるコストを削って、サービスを利用してくれる人がいなくなってしまっては意味がありません。
営業やマーケティングを行わず、ユニットエコノミクスにだけ注目した状態が続いてしまうと、事業の成長が低下する可能性もあるため、「攻めの投資」も必要なのです。
CACを改善する方法
CACを改善する方法は、営業やマーケティングのかけるコストを最適化することです。営業やマーケティングのコストを削減するための具体的な方法としては、次のような方法が挙げられます。
- 有料広告を抑え、自然流入を増やすためのコンテンツを考える
- オンラインで営業を行うなど、営業の移動時間を削減することで効率的な営業を行う
- 業務のデジタル化で効率化を図る
- 業務のアウトソーシング化で固定費を下げる
- ライティングページを改善してCVR(コンバーション率)を下げる
前述の通り、ただ数値を下げれば良いというわけではないということに注意しましょう。ユニットエコノミクスとのバランスを確認しながら、適切な数値を目指すようにしてください。
LTV/CAC比率を上げるならLTVの向上も有効
新規顧客の獲得は難易度が高く、それにともなってCACも高くなるため、企業にとっては大きな負担になります。それは、「CACは既存顧客の維持より5倍以上もコストがかかる」といわれるほどです。
そこで、既存顧客の価値を高めるマーケティング施策を行うことが重要になります。つまりLTVのアップが必要なのです。ビジネスを継続的に成長させるためには新規顧客の獲得も重要ですが、既存顧客により長くサービスを利用してもらえる施策を検討するのもビジネスにおける大切なポイントといえます。
市場成長期の間は新規顧客の獲得で利益を狙うことが可能ですが、成熟期には新規顧客の獲得スピードが落ちる傾向が強くなります。このことからも、LTV向上施策は企業にとって必要不可欠です。
ここからは、LTV向上を目的とした具体的な施策について詳しく解説していきます。
平均購入単価を上げる
LTVは基本的に1つの数値として計算しますが、さらに実用的な指標にするためには、細かくセグメントごとに分けて計算するのがおすすめです。
例えば、料金は安いが一定のサービスしか利用できないプランと、料金は高いものの全てのサービスが利用できるプランでは、顧客のニーズやサービスへの満足度は異なってくるでしょう。
それぞれのプランごとに分割してLTVを計算すると、そういった細かいニーズまで拾いやすくなります。それぞれの顧客のニーズに合わせたサービスを提供できれば、顧客の平均購入単価の上昇やLTVの増加にもつながるでしょう。
購入回数を増やす
顧客の購入回数を増やすことも、LTVの向上に結びつきます。継続的に購入記録がある商品やサービスの過去のデータを細かく分析して、なぜ継続的に購入されているのかを把握できれば、さらなる購買頻度向上につながるでしょう。また、それを応用すれば、他のサービスや商品の購買頻度を向上させるための施策を練ることも可能です。
購買頻度を向上させるための施策としては、顧客との交流の機会を増やす、適切な時期に訴求するなどが効果的でしょう。メールマガジンやSNSでの訴求なども有効です。
長期間にかけて購入してもらう
顧客との交流の中で維持率向上に努めることが、LTV向上にもつながります。契約後にチュートリアルを用意してサービスを利用しやすくする、サポートセンターを用意して使用方法などを説明するなど、契約した顧客に対してのフォローを丁寧に行えば、長期間の購入につながるはずです。
コストを削減して収益率を上げる
コストの削減もLTVの向上に有効です。SFAツールを導入して営業活動をより効率的に行うなど、顧客の獲得や維持にかかるコストを削減できれば、結果的にLTVの向上につながります。
コストを削減するためには、自社の商品やサービスのターゲットに対して効果の高い広告を選択する、イベントにかけるコストを減らすなどの方法も挙げられるでしょう。
ターゲットに向けた最適な広告が打ち出せれば、費用対効果が高くなりますし、早い段階から効果を得られる可能性が高いです。また、イベントは長期休暇の時期や休日に行われることが多いですが、他のイベントと被らない時期や平日にイベントを行えば費用を抑えられます。このように、工夫してコストを削減すれば、収益率の向上につながるでしょう。
最大限の効果を得るためにはCACは定期的にチェックし続ける
CACの改善でより高い効果を得るためには、CACを定期的に確認し、状況に応じた適切な判断、行動に移すことが非常に重要です。細分化してCACをチェックし続けながら、事業の成長のために適切な投資をすることで、自社の収益アップが狙えます。
ビジネスツールなどを活用すると、CACの確認がスムーズにできるだけでなく、企業内での共有などもしやすくなるため、より効率的にCACの改善が進められるでしょう。
まとめ
CACとは、「1顧客を獲得するために必要となるマーケティングや営業のコスト」を表す指標です。CACには、「Organic CAC」、「Paid CAC」、「Blended CAC」の3つの種類があり、CACの計算で主に使用されるのは「Blended CAC」です。
CACを計算して把握しておけば、投資すべきマーケティングチャネルを把握しやすくなるなどのメリットがあります。
そのため、CACをKPIとして設定する企業も多いですが、SaaS企業にとって重要なKPIはそれだけではありません。その他の主要なKPIを知りたいという方は、以下の資料を参考にしてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。