ARRとは|SaaS企業にとって重要な理由や計算方法を解説
2022.04.22
SaaS企業にとって重要な指標とされるARRですが、いまいちどんな指標なのか理解しきれていないという人も少なくないでしょう。
ここでは、ARRとは何か、ARRが重要な理由や計算方法まで、詳しく解説していきます。ARRについて詳しく知りたいという方は、ぜひ参考にしてみてください。
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ARRとは
ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)は、毎年得ることができる収益や売上の1年分を指します。毎年得る収益を指すため、初期費用などの一時的な売上は含めません。
ARRは、SaaSビジネスなどの、サブスクリプション型のビジネスモデルにとって重要な指標です。
MRRとARR
ARRに似た指標として、MRRがあります。MRR(Monthly Recurring Revenue:月間経常収益)は、毎月繰り返し得られる売上のことなので、ARRとは期間が異なるのが特徴です。
一口でSaaSといっても、
- 安定的に継続してもらえるSaaS
- 新規契約と解約が頻繁に起こるSaaS
- 料金プランが複数用意されているSaaS
- 年間契約するSaaS
- 月単位での契約するSaaS
など、さまざまなSaaSがあります。では、それぞれのSaaSビジネスではMRRとARRのどちらを重視すべきなのでしょうか。
例えば、安定的に継続してもらえるSaaSや年間契約するSaaSであればARRで良いかもしれませんし、新規契約と解約が頻繁に起こるSaaSや月単位で契約するSaaSなどはMRRの方が良いかもしれません。
一般的には、 BtoC向けなどの月単位で契約することが多く毎月の新規契約や解約が一定数発生しやすいSaaSは月単位のMRR、 BtoB向けなど年間契約が多いSaaSはARRが重視されるケースが多い傾向です。
まずは、自社のSaaSにとって、MRRとARRのどちらを重視するかを決めましょう。
ARRが重要な理由
ARRとは何かについて解説しましたが、なぜARRは重要とされているのでしょうか。ここでは、ARRが重要な理由について、3つ解説していきます。
- ビジネスの成長を確認できる
- 将来予測に役立つ
- バリュエーションのベースになる
1つずつ詳しく見ていきましょう。
ビジネスの成長を確認できる
月額の売上を積み重ねていくSaaSビジネスにおいて、毎月どれくらいの売上が見込めるのかを知ることはとても重要です。
積み重ねの結果、その時点以降の1年間でどれくらいの売上が見込めるのかを示すARRは、SaaSビジネスでは欠かせない指標になります。さらに、ARRの推移を把握することで、SaaSビジネスの成長性を確認できるのです。
将来予測に役立つ
後ほど詳しく解説しますが、一般的にARRはMRRを12倍(12ヶ月分)したものとして計算します。ただ、SaaSの契約期間は、毎月、3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月とまちまちです。
12ヶ月の年間契約のSaaSの場合は、その契約のARRがそのまま今後の1年間の売上見込として、年間収支や事業計画に使えます。
例えば、12月決算の会社で、1月に新規契約した契約のARRが120万円だとすると、当期の売上見込は120万円として、収支シミュレーションや予算に使えるのです。
一方、12ヶ月未満の契約の場合は、その契約における契約更新時のチャーンレートを加味した上で、今後の1年間の売上見込とする必要があるでしょう。
バリュエーションのベースになる
前述の2つの理由から、ARRはSaaSビジネスの成長性を確認できて、将来予測にも役立つので、ARRは企業価値評価のベースになることが多いです。
SaaS企業の多くがエクイティ・ファイナンスによる資金調達を必要としますが、その際のバリュエーション算定においてはARRが使われることが多いので、特に資金調達を必要とするSaaS企業にとって重要とされています。
ARRの計算方法
ARRの重要性について理解したところで、ここからはARRの計算方法について見ていきましょう。ARRの計算をするには、まずMRRの計算についても知っておく必要があるため、順番に紹介していきます。
MRRの計算式
MRRの計算方法は下記の通りです。
MRR = 月額利用料金 × 顧客数
複数のプランを展開している場合には、プランごとに計算する必要があるので注意しましょう。ARRの計算には MRRが不可欠なので、MRRの計算方法を理解してからARRを算出するようにしてください。
MRRについてさらに詳しく知りたい方は、「SaaSの主要KPI【MRR】とは?概要や計算方法を分かりやすく解説」をご参照ください。
ARRの計算式
ARRの計算方法は下記の通りです。
ARR(円) = MRR(円) × 12ヶ月
先ほども解説しましたが、ARRは毎月発生する売上が該当するため、初期費用、コンサルティング費用といった一時的な売上は含めません。計算する際には注意しましょう。具体的にどのようなものが含まれるのか、ARRに含めるものと含めないものを下記で紹介していきます。
ARRに含めるもの
ARRに含めるものとしては、下記のような例が挙げられます。
- 月額料金などの全ての経常的な売上
- 既存顧客からの増額になった経常的な売上(アップグレード)
- 既存顧客から減額になった経常的な売上(ダウングレード)
- 解約によって失った経常的な売上
ARRに含めないもの
一方、ARRに含まれない売上は下記の通りです。
- 初期導入時の一時的な売上(初期費用)
- アップセルやクロスセルによる単発の売上
- コンサルティング売上
- 一括課金による売上
RRは、あくまで、その時点における MRRが12ヶ月間続いたらいくらになるかという数値です。また、上記の通り、その計算に含まれる売上と含まれない売上があるので、ARRは損益計算書上の売上高とは一致しないという点に注意してください。
そもそも、SaaSビジネスにおいて、損益計算書における会計上の売上は、トップラインを示す指標としては遅行指標すぎます。
売り切り型のソフトウェアであれば、基本的には販売時点で売上が一括計上されますが、SaaSの場合は利用月ごとに売上が按分されて計上されるのです。
例えば、12月決算で、12月に売り切りのソフトウェア120万円を販売すると、会計上は120万円の売上がその期に計上されます。しかし、SaaSの場合は、同じく12月に ARR120万円の契約を締結したとしても、その期に会計上の売上として計上されるのは1ヶ月分の10万円だけです。
つまり、会計上の売上は期末時点におけるSaaS企業の実力値を正しく評価しづらい遅行指標になるので、SaaSビジネスではARRをトップラインのKPIとして、その時点におけるサブスクリプション契約の実力値を評価する方が良いでしょう。
ARR成長の4要素
ARRの計算方法を理解することで、現状のARRを把握できるようになりました。ここからは、ARRを成長させるための要素について解説していきます。ARR成長の4要素は下記の通りです。
① 新規顧客獲得によるARRの増加
② 既存顧客へのアップグレードによるARRの増加
③ 既存顧客の解約によるARRの減少
④ 既存顧客のダウングレードによるARRの減少
それぞれの要素について見ていきましょう。
① 新規顧客獲得によるARRの増加
マーケティングや営業を通じて新規獲得する顧客数を増やすことで、ARRを増加させられます。一般的に、成長フェーズのSaaS企業におけるもっとも重要な成長ドライバーは、この新規顧客獲得によるARRの増加でしょう。
ではその新規顧客獲得のために、どのくらい投資すれば良いのでしょうか?
投資の判断指標として一般的に使用されるのが、ユニットエコノミクス(1顧客あたりの経済性)です。これは、「LTV ÷ CAC」で計算され、この数値が「3」以上になるように投資をするのが望ましいといわれています。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
SaaSの主要KPI【LTV】
SaaSの主要KPI【CAC】
SaaSの主要KPI【ユニットエコノミクス】
② 既存顧客へのアップグレードによるARRの増加
既存の顧客にプランをアップグレードしてもらうことや、自社が提供する他のSaaSプロダクトをクロスセルすることで、ARRを増加させられます。
例えば、ライトプラン月額10,000円からスタンダードプラン月額30,000円にプランをアップグレードするような場合です。
既存顧客に対しては、エンゲージメントが取れた状態でマーケティングや営業ができます。そのため、追加ARRの獲得コストは、新規顧客獲得によるARR獲得コストに比べて低くなることが通常です。既存顧客にプランをアップグレードしてもらえれば、コスパの高いARR成長が可能になるはずです。
③ 既存顧客の解約によるARRの減少
SaaSビジネスでは、顧客を維持することができれば顧客数が積み重なっていき、ARRは自然と増加していきます。逆に、既存顧客が解約になれば、当然ARRは減少します。
顧客を維持していくためには、SaaSプロダクトが顧客が感じる価値にマッチしている必要があるため、顧客を知ってプロダクトを改善していかなければいけません。逆に、SaaSは顧客に見合った価値を提供できていなければ、容赦なく解約されてしまいます。
自社のSaaSが、顧客にしっかりと価値を届けることができているのかどうかをモニタリングしていく上で重要となるKPIが、チャーンレート(Churn Rate:解約率)です。
ARRの成長を考える上では、このチャーンレートを抑えることが非常に重要になります。
詳しくは以下をご覧ください。
SaaSの主要KPI【チャーンレート】
④ 既存顧客のダウングレードによるARRの減少
既存顧客が解約までは至らなかったとしても、既存顧客がプランをダウングレードすればARRは減少します。
実務上、あまりないケースかもしれませんが、例えば、スタンダードプラン月額30,000円からライトプラン月額10,000円にプランをダウングレードするような場合です。
当然、ARRの成長を考える上では、このダウングレードをできるだけ発生しないようにすることが重要になります。
SaaS上場企業のARRランキングTOP3
ここからは、SaaS上場企業のARRランキングのTOP3の企業について紹介していきます。それぞれの企業の特徴なども合わせて解説していくので、ぜひご覧ください。
SaaS上場企業のARRランキングTOP3は下記の通りです。
- Sansan
- サイボウズ
- ラクス
それぞれの企業について見ていきましょう。
Sansan
Sansanは「出会いからイノベーション」をミッションとして掲げるSaaS企業で、ビジネスに関するサービスをいくつも展開しています。
社内にある全ての名刺を集約してビジネスプラットフォームとして活用する「Sansan」、取り込んだ名刺を活用してビジネスネットワークを構築する個人向け名刺アプリ「Eight」、あらゆる請求書をオンラインで受け取れるクラウド請求書受領サービス「Bill One」などが主力サービスです。
Sansanの2021年12月のARRは171.0億円、ARR成長率は23.9%とされています。
サイボウズ
サイボウズは、「チームで働くを、もっと楽しく」を実現するためのサービスを複数展開しています。
バラバラの情報をまとめて社内で共有することで業務効率のアップを目指す「kintone」、情報共有やコミュニケーションを円滑にするための中小企業向けのサービス「サイボウズ Office」、企業課題を解決する大手企業向けの「サイボウズ Garoon」などがメインのサービスです。
サイボウズの2021年12月のARRは157.4億円、ARR成長率は26.3%といわれています。
ラクス
ラクスは、限られた人材で生産性を上げるために、クラウドやITの技術で仕事の効率アップを目指す企業です。
主なサービスとしては、経理部門の業務効率をアップする「楽楽精算」、あらゆる帳票を電子化して手間やコストを削減できる「楽楽明細」、従業員情報の管理や更新が簡単にできる「楽楽労務」などがあります。
ラクスの2021年12月のARRは145.9億円、ARR成長率は38.0%となっています。
まとめ
ARRとは、毎年得ることができる収益や売上の1年分を指す言葉で、毎月繰り返し得られる売上を指すMRRとは対象となる期間が異なります。
ARRは、推移を把握することでSaaSビジネスの成長性を確認できると同時に将来予測に役立つ、さらにARRは企業価値評価のベースになることが多いなどの理由から重要性が高いとされています。
しかし、SaaS企業に重要なKPIはARRだけではありません。他のKPIに関しての知識も身に付けたいという方は、下記の資料をご参照ください。
監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。