NPSスコアとは、計算方法や調査方法、注意点などをまとめて解説
2022.01.16
企業における重要KPIの一つとされているNPSスコアですが、「具体的にはどういったものか分からない」、「顧客満足度とどう違うの?」などの疑問を抱えている人もいるでしょう。
この記事では、NPSスコアの基礎的な知識から応用的知識まで詳しく解説していきます。NPSスコアとは何か、顧客満足度との違い、NPSスコアの計算方法や調査方法などをまとめて紹介していくので、ぜひ参考にしてみてください。
NPSスコアとは
顧客が商品やサービス、企業に対して感じている愛着・信頼を「顧客ロイヤリティ」といいます。NPSスコアは、この顧客ロイヤリティを測る指標です。具体的には、顧客に対して利用した商品・サービス・企業などを自分の周囲にどの程度勧めたいかを、0〜10の11段階で判断・評価してもらいます。
NPSスコアが高いほど顧客が商品をリピートする可能性が高い、サービスの利用を続け解約リスクが低いなどを判断することにつながり、それによって新規顧客の獲得予測も可能です。
顧客満足度との違い
NPSスコアは顧客満足度と似ている指標とされており、その違いが分からないという人も少なくありません。ここでは、顧客満足度との違いを解説していきます。
顧客満足度は、商品・サービス・企業などに対する顧客の現在の満足度を示しています。顧客満足度が現在高くても、それが今後継続するとは限りません。他に満足度が高いものを見つけた場合はそちらに移行し、商品のリピート購入やサービスの継続が期待できなくなることもあるでしょう。
一方NPSスコアは「利用した○○(商品・サービス・企業など)を自分の周囲に勧めたいか」などの、将来の行動に関することを11段階の数字で評価・判断してもらうため、長期的な収益性につながりやすいと考えられます。このように、NPSスコアと顧客満足度は似ているようで大きな違いがあります。
NPSスコアが注目される理由
NPSスコアは、アメリカのコンサルティング企業が有効性を検証したことで急速に浸透し、現在では世界的に注目される指標になりました。では、ここまで注目されるようになった理由にはどのような背景があるのでしょうか。NPSスコアは、顧客満足度との相関性が高いといった面で注目されています。
顧客満足度はあくまでも現在の顧客の満足度であり、将来的にこれが続くかは判断できません。一方NPSスコアは将来に関する評価であるため、顧客満足度とNPSスコアの両方を見ることでお互いに足りない部分の判断材料になります。
2つは密接に関わり合い、一方の変化が他方の変化に影響する可能性もあるため、相関性が高いです。今までは顧客満足度でしか顧客からの評価を判断できませんでしたが、NPSスコアを活用することによってより具体的で明確な評価を得られるようになりました。そういった部分から、現在日本企業でも注目されています。
日本では意味がないとされる理由
NPSスコアは現在日本企業でも注目されている指標ですが、日本では意味がないともいわれています。
NPSスコアに限らず、アンケートや質問で数段階の評価での回答を求められた際に、「とりあえず中心値を選択しよう」と思った経験がある人は少なくないでしょう。
日本人は「良い」、「どちらでもない」、「悪い」という評価がある場合、どちらでもないという中立的な回答をする人が、世界の中で見ても多い傾向があります。これは日本人の性格的な問題なので仕方のないことですが、NPSスコアの場合、中心値に当たる5〜6点の評価は批判者に該当してしまうのです。
顧客にそういった気持ちがなくても、スコア的にはそう判断するしかなくなるため、NPSスコアの計算を日本人で実施するのはあまり適していないとされています。しかし、推薦者になる人が少ないということは、それを改善する対策をとれば良いという判断につながるので、企業の成長には大きく役立つでしょう。
NPSスコアの計算方法や調査方法は?
NPSスコアは、商品・サービス・企業などを利用した顧客に対して、5分〜10分程度で簡単に答えられる内容を質問して、その回答をもとに計算・調査を行います。NPSスコアを測る際には、顧客に対して以下の質問を行うケースが多いです。
Q1:あなたは○○(商品・サービス・企業など)を周囲に勧める可能性はどのくらいですか?
Q2:上記のように回答した理由は何ですか?
Q3:○○をもう一度利用したいと思いますか?
Q4:上記のように回答した理由は何ですか?
Q1・3は0〜10の11段階で選択してもらい、Q2・4は具体的な理由を簡潔に回答してもらいます。回答例としていくつか挙げておくことで回答率の向上が期待できるでしょう。
NPSスコア自体の測定は11段階の評価だけで計算できますが、具体的な理由は別の部分で活用できるので、フリーコメントの記入欄も用意しておくと良いです。では、実際に11段階の評価・判断からNPSスコアを計算してみましょう。
計算方法
11段階の選択肢は、点数によって回答者の分類が下記の3種類に分けられます。
0~6点:批判者(商品・サービス・企業に対して不満を感じる、リピート・継続の可能性が低い顧客)
7~8点:中立者(ほとんど満足しているが、あまり熱狂的ではない)
9~10点:推奨者(顧客ロイヤリティが非常に高い)
上記のように分類した後に、下記の計算式で算出します。
NPSスコア = 回答者全体の推奨者の割合 – 回答者全体の批判者の割合
計算方法自体はシンプルなので、回答者の分類ができればNPSスコアの算出は難しくないでしょう。
調査方法
NPSスコアの基本的な調査の手順は先ほど紹介しましたが、調査方法は具体的に2パターン存在します。NPSスコアの調査方法は以下の2つです。
- トランザクション調査
- リレーショナル調査
それぞれの調査方法を詳しく見ていきましょう。
トランザクション調査
トランザクション調査は、顧客が商品・サービスなどを利用した直後に実施・判断する調査方法です。「商品を購入した直後」、「サービスを利用した直後」などのタイミングで調査を行うことで、鮮度の高い顧客評価が獲得できます。それによって、商品・サービスなどの課題を発見して改善に活かすことができるでしょう。
トランザクション調査は、店舗やスタッフなどの細かい部分に対する顧客ロイヤリティを評価基準としています。そのため、評価やコメントで批判的又は不満感のある回答をした顧客に対して早急なフォローを行い、顧客が商品・サービスから離れるのを防ぐことが可能です。
リレーショナル調査
リレーショナル調査は商品やサービスに対する評価ではなく、それを提供する企業・ブランドのような大きなくくりを総体的に調査する調査方法です。
リレーショナル調査は、企業・ブランドに対する大きなくくりでの顧客ロイヤリティとなり、評価対象の規模が異なります。リレーショナル調査で判明した顧客ロイヤリティは企業・ブランドの戦略、事業の展開・拡大につながるでしょう。
トランザクション調査とリレーショナル調査では、それぞれ調査目的や活用方法が異なるため、それぞれについて理解し柔軟に活用することが大切です。
NPSスコアを計算するときの注意点
NPSスコアを計算する際には注意点が存在します。NPSスコアを計算するときには、下記の5つの点に注意しましょう。
- 複数リスト①
- 複数リスト②
- 複数リスト③
一つずつ詳しく説明していくので、見ていきましょう。
競合他社のスコアも調査する
NPSスコアは自社だけでなく、競合他社のスコアも調査する必要があります。NPSスコアで算出された数値は、商品・サービス・企業を展開している市場で自社のポジションを確認するのに役立ちますが、これを判断するためには比較対象である他社のNPSスコアが必要です。
また、業界全体のNPSスコアもあわせて算出すれば、シェア争いをする際に参考になります。NPSスコアを計算する際には、さまざまな企業のスコアを調査するようにしてください。
回答しなかった顧客にも注目する
NPSの調査をした際に、回答しなかった顧客をそのままにしがちですが、この顧客の存在が商品・サービス・企業にとって非常に重要なものになります。こういった顧客(サイレントマジョリティー)の数が多いと偏った計算結果で正しい分析ができなくなってしまう可能性があるので、注意が必要です。
調査対象を限定する
調査対象を限定することで、より正確なデータを算出できます。会員情報などから顧客の情報が分かる場合には、性別や年齢、購入履歴などの属性ごとに分けて調査をしましょう。属性ごとに分析して具体的なデータが算出できれば、今後の方針も決めやすくなります。
スコアの絶対値を気にしすぎない
NPSのスコアは業界によっても変わりますし、顧客によっても回答の傾向が異なるので、絶対値を気にしすぎないようにしましょう。
前述の通り、日本人に対する調査の場合は、中心値となる数値に評価を付ける傾向が強いため、批判者に分類される4〜6点に回答が集中します。これは日本人の性格的問題によって発生するため、NPSがマイナスになったとしても、気にしすぎる必要はありません。
NPSスコアは競合他社との比較や企業の顧客ロイヤリティ向上のために活用すべき数値です。絶対値を気にしすぎないように注意して、柔軟に活用しましょう。
フリーコメントを記入してもらう
NPSスコアの調査ではフリーコメントを入力してもらいましょう。入力してもらったフリーコメントを分析することで、顧客からの評価をより詳細に判断できます。
11段階の評価だけをしてもらっても、顧客がどの部分に不満を感じているのか、どんなところに満足したのかが分かりません。しかし、フリーコメントと合わせて見ることによって、顧客の具体的な意見とともに評価を見ることが可能です。
ネガティブなコメントは商品やサービスの品質向上、企業の改善などに役立てる、ポジティブなコメントは今後もそれを継続していけるようにどのようなことをすれば良いか考えるなど、意見を参考にしてみましょう。
NPSスコアのメリット
NPSスコアについて詳しく解説しましたが、NPSスコアには具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、NPSスコアの主なメリットを3つ解説していきます。
- 収益拡大の判断材料になる
- 自社の顧客に合わせた営業ができる
- 自社が業界でどのような立ち位置にいるのかが分かる
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
収益拡大の判断材料になる
NPSスコアで、顧客に対して商品・サービス・企業に対する将来性を踏まえた質問を行うことで、算出結果は収益拡大の判断材料になります。
NPSスコアが高い場合は、顧客が周囲に利用した商品・サービスを勧めたいという気持ちが強いことを示しているため、新たな顧客獲得が期待できるでしょう。
また、NPSスコアが低く批判者が多いことが判明した場合、商品やサービスの品質向上・改善、顧客に対する適切なアフターフォローを行うことにつながります。フリーコメントなども参考にしながら改善していけば、結果として良い方向につながる可能性もあるでしょう。
このように、収益拡大の判断材料になることがNPSスコア最大のメリットなのです。
自社の顧客に合わせた営業ができる
NPSスコアは、11段階の評価によって顧客を批判者・中立者・推奨者の3種類に分類します。自社の顧客にはどの分類の顧客が多いのかを把握して、それに合わせて最適な営業活動を行うことが可能です。
中立者が多い場合などは、そこに分類されていた顧客が営業次第で推奨者になる可能性があるので、顧客に合わせたアプローチを通してロイヤリティの向上を目指しましょう。
自社での想像と実際のNPSスコアに違いがあるケースも少なくないので、NPSスコアを計算することで、より自社の顧客について理解できます。
自社が業界でどのような立ち位置にいるのかが分かる
NPSスコアは、顧客からの評価を11段階で判断する共通の測定方法が用いられています。そのため、業界平均や競合他社との比較がしやすく、自社がどのような立ち位置にいるのかが分かりやすいです。
他社と比較することで、業界内で平均以下だった場合は改善するために実施すべき対策、競合他社との競争に負けていれば勝つための戦略を練るなど、柔軟な判断ができるでしょう。
NPSスコアの活用例
実際にNPSスコアを活用して、最初に計測したNPSスコアが「-60」だったにも関わらず、その結果をもとにコンセプトを変更してサービスの改善やカスタマーサクセスに力を入れたところ、半年で「-10」まで押し上げたという企業も存在します。その後も、営業やマーケティングなどに注力して、スコアを「48」まで伸ばしたそうです。
このように、NPSスコアをもとにして経営やサービスの方針を柔軟に改善していけば、高いスコアを維持できるようになるでしょう。
まとめ
NPSスコアとは、顧客ロイヤリティを測る指標です。顧客ロイヤリティは、顧客が商品やサービス、企業に対して感じている愛着・信頼のことを指します。顧客満足度と間違えられることもありますが、顧客満足度は商品・サービス・企業などに対する顧客の現在の満足度と表すという点で異なるので注意してください。
NPSスコアは、この顧客満足度との相関性が高いといった面で注目されています。顧客満足度とNPSスコアの両方を見ることでお互いに足りない部分の判断材料になるので、どちらもうまく使いながら判断しましょう。
NPSスコアをKPIとして設定する企業は多いですが、企業によって最適なKPIは異なります。さまざまなKPIの指標の中から、自社に適したものを選ぶと良いでしょう。その他の主要なKPIを知りたいという方は、以下の資料を参考にしてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。