スタートアップ・新規授業メンタリングにおける「Scale Model」のすすめ | スタートアップアドバイザーアカデミー(SAA)イベントレポート
2022.12.15
株式会社ユニコーンファーム様が主催する「スタートアップアドバイザーアカデミー(SAA)」に株式会社Scale Cloud 代表広瀬がゲスト講師として登壇しました。
今回は「スタートアップ・新規授業メンタリングにおける「Scale Model」のすすめ」をテーマに、具体例を交えながら「Scale Model」について説明をします。
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長の広瀬 好伸と申します。
私は大学卒業後、あずさ監査法人に入社し公認会計士として従事しました。2007年に起業し、会計/税務/M&A/企業再生などのコンサルタントとして800社以上の経営を支援、4社のIPOに携わり、現在そのうち2社の社外役員を務めています。
約15年間、800社以上の会社をサポートさせていただきIPOに携わるなかで、成長速度の早い会社には2つの共通点があると気づきました。
会社経営で使われる「数字」とは何か
「Scale Model」のお話しをする前に、会社経営で使う数字について振り返ります。会社経営で使う数字は基本的に財務情報の会計と、非財務情報のKPIに分けられます。まずはそれぞれの違いを説明します。
会計は結果、KPIは結果に到達するまでのプロセス
会計が表す数字は基本的に結果です。たとえば、2月の業務成績は3月になって初めて数字として現れます。つまり、すでに終わっている月の「結果論」になっています。たとえ月次決算を速くおこなっても当月の状況は分かりません。通常、会計は会社経営を俯瞰的に理解、分析する際に用いるケースが多いです。
一方、KPIは現時点の状況が分かる指標です。現時点の商談率など、情報がすぐにわかる指標になっています。結果に至るプロセス管理が可能です。
情報粒度の違い
会計は会社経営の全体像を理解する際に役立ちますが、情報粒度は粗くなります。「売上が予算の未達成」の場合、未達成の理由は会計情報をどれだけ読み解いても分かることはありません。
KPIは情報の粒度が細かいため、売上が未達成だった場合は客単価が低かったのか、そもそも商談数が足りないなど、原因が数字で明らかになります。
求められる知識の違い
会計は簿記の専門知識がないと読み解きにくいので共通言語としては少々ハードルが高いといえます。
KPIは、会計と比べて専門知識がなく、直感的に理解できることが多いです。
もちろんKPIにもデメリットがあります。一般的にいわれるのは、セクショナリズムが発生しやすいという点です。マーケティング部署、営業部署とそれぞれがKPIを追っているうちに責任や業務内容の押し付け合いに発展するケースがあるのです。
弊社ではこうしたKPIが持つデメリットを補完し、現状を素早く正確に把握できるKPIのメリットを生かした独自の「Scale Model」を提唱しています。
「Scale Model」とは
「Scale Model」は、端的にいうとKGI(経営目標達成指標)にいたるプロセスをKPIで可視化して、問題点を即時に見つけて改善するアプローチ手法です。
分かりやすいように簡単に説明します。仮に上図のように売上をKGIとします。KPIはテレアポ数、商談数、契約数が設定できます。
売上の実績が90だとします。それに対して契約数が18件だと契約単価は5だとわかります。さらに商談数が30件の場合、成約率が60%、テレアポ数が375件の場合は商談獲得率は8%です。
全体をみると、成約率60%に対して商談獲得率が8%しかないことが問題といえます。テレアポ数を増やすなど、課題をみつけて改善が可能です。
PDCAを回す上で重要なポイントは「結果がでる前に」行動すること
KGIにたどり着くプロセスは大きくわけて2種類あります。成果=売上に近い「結果指標」と、もっとも遠い「先行指標」です。できるかぎり先行指標を設計、把握できるようにすると「結果がでる前に」行動できるため即時に成果をコントロールできます。
具体的に説明すると、上図のようにテレアポ数の目標が400件に対して、結果が300件だったとします。すると商談の獲得率が計画どおり10%だとしても、商談数は減ると予想ができます。
商談数が減った場合、成約率が50%だとしても契約数が減ると予測できます。そうなれば契約単価が計画通りだとしても、売上は必然的に下がります。
商談数のリカバリーが必要だと分かれば、売上が下がる前に先手を打つことができ、短期サイクルで先行指標を見直すことで成果が生まれやすくなります。
「Scale Model」の実践:KPIの設計
短期サイクルで数字指標を見直す重要性が分かったところで、「Scale Model」を業務に取り入れるために必要な「KPIの設計」と「KPIの運用」の2つのステップを紹介します。
先に説明したKGIまでのプロセスをロジックツリーにします。すると、先行指標と結果指標が逆になり、目的である売上が最初にくるはずです、これをKPIツリーと呼びます。
ポイントは「ロジックツリーというフレームワークにそって実行すること」、「上の階層と下の階層のKPIの関係性を四則演算で表現できるように分解していくこと」です。
売上を分解すると、ロジックツリーは四則演算で分解できます。細分化することで売上を構成できるKPIが漏れなく、ダブりなく洗い出しできます。
因果関係が非常にわかりやすくなります。たとえば契約数が原因で数字が伸びなかった場合、原因になるのはもう1つ下の階層にある成約率と商談数のどちらかです。先行指標までしっかり分解していくことが大きなポイントとなります。
受託開発業の例
システムの受託開発を例にあげた場合、新規売上、クロスセル売上を構成する要素を分解できます。ロジックツリーは10階層を目指すのが理想的です。できるだけ深く分析することで、先行指標をあぶりだすことができ、先行指標と結果指標の関係性がわかりやすいです。
KPIの数が増えると運用は大変になりますが、状況を正確に判断するためにはモニタリングするKPIは多くなります。
血液検査の結果表(サンプル)を見てみましょう。仮に検査結果表が送られてきたとします。その際、検査項目が10の場合と100の場合、あなたはどちらを選びますか。
私は100項目のフルスペックを選びます。10項目の重要項目に絞っていたとしても残りの90項目に異常値があったら不安になるわけです。健康体に近づこうと思ったらモニタリングする指標の数は多ければ多いほどいいと考えています。
KPIを説明する書籍には、確認する重要指標は10個ほどに絞ろうと書いているケースがありますが、環境変化が激しい現代では特に重要指標を5つに絞るのはなかなか難しいです。
KPI指標も、全ての項目に目を通すのではなく異常値のみを確認し、改善を図ります。指標が多くてもモニタリングしやすい仕組みをつくり、随時アップデートし続ける方法をおすすめします。
「Scale Model」の実践:KPIの運用
KPIを活用している会社の多くは実績管理だけをおこなっているケースが散見されます。たとえば営業部署のKPIをSFA(Sales Force Automation)を使ったサービスで管理しているケースです。確かに実績管理はしているが、売上目標の計画値がないのです。
仮に計画があったとしてもマーケティングのKPI計画とセールスのKPI計画がうまくひもづいてないケースもあるのです。横断的にKPIの設計をして予算を立てることがまずは必要だと思ってます。ここからチームや個人の計画に落とし込んでいくことが大切な流れです。
仕組み化するための3つのポイント
最後に「Scale Model」を仕組み化するポイント3つ「インフラをつくる」、「業務フローに組み込む」、「評価と結びつける」についてお話しさせていただこうと思います。
誰もが多角的に現状把握ができるインフラをつくる
まず1つ目はインフラをつくることです。いつでも誰でも簡単にデータを扱える状態をつくることが必要です。
電車はいつでも誰でも乗れるため、インフラと言われています。数値管理も同じです。特定の人しかわからない状態で、加工もできない、アクセスできない状態はインフラとは呼べません。
多くの方がこちらの写真をコップだと判断されると思います。しかし、なぜコップだと判断できるのでしょうか。横からみると長方形で、上からみると円にしかみえないはずです。
写真のように斜めからみることで立体だとわかります。ビジネスもまたさまざまな角度から見ることで全体像が把握できます。計画と実績の比較、強気計画との比較、複数プロダクトの実績を見比べてみるなど、簡単に事実を捉えられる状態をインフラとしてつくっておくことが必要です。
インフラをつくる上でGoogleスプレットシートを使う企業もありますが、ざっと考えても上図のようにファイルやシートが増え、データ管理者が不明確になるといったデメリットが多くあげられます。こうしたデメリットをカバーしているのがScale Cloudになるので、ご興味ある方は別途お問合せください。
業務フローに組み込む
2つ目は「業務フローにScale Modelを組み込む」ことです。特に新規事業やスタートアップは、KPIを使ったPDCAの習慣を横断的に、組織一体となってやるケースが少ないです。
たとえば定例会議の業務フローに必ず振り返り時間をつくる。KPIの数字を起点に議論する場をつくるなど習慣化していくことが必要です。
評価と結びつける
3つ目はシンプルです。やはり人が動くので人事評価などにひも付けてあげるとより強力になると思います。
今回は「Scale Model」のほんの一部をご紹介させていただきました。詳しい運営ポイントや注意点、業界別の事例や分析、運用方法は書籍に書かせていただいています。参考に手に取っていただけると嬉しいです。
「Scale Model」をやろうと肩肘を張るのではなく、常に仮説と検証の繰り返して新規事業や既存事業にお役立ていただけると嬉しいです。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。