バリュープロポジションが重要とされる理由は?メリットと合わせて解説
2022.05.11
変化の激しい市場で企業が意識すべき「バリュープロポジション」。言葉は知っていても、詳しい意味やメリットを知らないというビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。
そんな方々に向けて、この記事ではバリュープロポジションについて詳しく解説していきます。バリュープロポジションとは何か、重要とされる理由やメリットなどを詳しく説明していくので、ぜひ参考にしてみてください。
バリュープロポジションとは
バリュープロポジションとは「カスタマー(ユーザー)にとっての価値」です。この価値とは競合と差別化を図った独自のものである必要があります。もっと簡単な言葉で表現すると、バリュープロポジション = カスタマー(ユーザー)がプロダクトを手に取る理由と言い換えることもできるでしょう。
プロダクトを開発・提供する上で開発側とカスタマー(ユーザー)の認識にずれが生じると、プロダクトの解約またはリピーターが獲得できないといった課題が企業で浮き彫りとなってしまいます。特に最近は、1つの市場で競合が乱立する、カスタマー(ユーザー)変化が起こるといったことを背景に、課題が発生しやすい傾向です。
分かりやすく例えると、こだわった自家焙煎で美味しいコーヒーが飲めることが売りだと考えている喫茶店があったとします。しかし、実際にお客さんが求めているのは煙草が吸える場所でした。このまま認識のずれが続き、世間の流れに沿うように全席完全禁煙にしてしまえば、確実に客足が減少、売上が悪くなることが予想できます。こういった事態を防ぐために、バリュープロポジションは重要なのです。
バリュープロポジションが重要とされる理由
バリュープロポジションが重要とされるようになった理由として、カスタマー(ユーザー)目線のマーケティングが盛んになったことが挙げられます。開発側とカスタマー(ユーザー)の認識は必ずしも一致しているとは限らず、むしろ不一致なことが多いです。クラウドサービスやサブスクリプションを開発する上で、開発側は利便性の追求と他社との差別化を図るために、たくさんの機能を搭載した複雑なシステムをリリースします。
しかし、実際に使うカスタマー(ユーザー)は機能を使いこなすことが難しい、シンプルで瞬発的に操作できるフォーマットを求めているといった理由で解約や冬眠顧客になってしまうといった課題が企業で問題視されています。この課題はカスタマーサクセスの導入といったカスタマー(ユーザー)目線のマーケティングを行うことで防げるでしょう。
加えて、ニッチ化したマーケティングもバリュープロポジションが重要視される理由として挙げられるでしょう。「特定の市場でトップシェアを獲得したい」「市場競争から離脱したい」という考えから、小さな市場で成り立ち、それを目指すマーケティング戦略をビジネス用語で「ニッチ」といいます。隙間産業と言い換えられることも多く、小さな市場規模で圧倒的なシェア率を誇る企業が多数存在するのが特徴です。
一見、ニッチ化はメリットが多いように感じますが、無理やり競合との差別化を図るために行うニッチマーケティングにより、カスタマー(ユーザー)が求めるニーズと不一致なプロダクトが開発・提供されるといったデメリットもあるでしょう。このデメリットにより、良かれと思って行っていたニッチマーケティングが売上の足を引っ張るという現象も珍しくありません。
こういった背景から、バリュープロポジションの考え方が重要視されています。競合と差別化を図った独自の価値提供を維持しながら、カスタマー(ユーザー)バリューに重きを置くことで売上確保が期待できるでしょう。
バリュープロポジションを作るメリット
バリュープロポジションのメリットとして以下の2つが挙げられます。
- 企業と顧客のニーズのずれが把握できる
- 自社の強みが分かる
詳しく見ていきましょう。
企業と顧客のニーズのずれが把握できる
バリュープロポジションは、既存プロダクトにおける企業と顧客ニーズのずれを把握できるようになります。ニーズのずれによるカスタマー(ユーザー)数の減少は売上・収益に直結するため、早期に解決したい課題の1つです。カスタマー(ユーザー)が価値を感じるプロダクトを提供することで、売上・収益の改善が期待できます。
自社の強みが分かる
バリュープロポジションで自社の強みが分かれば、効果的なマーケティングを実施できます。新しいプロダクトの開発や営業・人員コストをかけることなく、売上を伸ばす方法を発見できるようになる可能性が高い。また、競合を避けながら安定的な売上・収益の確保も期待できるでしょう。
バリュープロポジションの把握に役立つ分析方法
マーケティングのフレームワークの手順は、環境分析→戦略立案→施策立案の順で進めていく流れが一般的です。それぞれには要素の異なるさまざまな分析方法がありますが、ここでは代表的な例として、下記の3つの分析方法について紹介します。
- 環境分析の3C分析
- 戦略立案のSTP分析
- 施策立案の4P
それぞれ見ていきましょう。
環境分析の3C分析
3C分析とはCustomer(市場・顧客)、Company(自社)、Competitor(競合)という3つの「C」について分析する方法であり、マーケティング戦略や事業計画を立案する際に活用される環境分析の1つです。
内部環境であるCompany(自社)と外部環境であるCustomer(市場・顧客)、Competitor(競合)の分析は、成功要因の発見につながります。これによって事業やプロダクトの成功・成長に向けて目指すべき方向性が明確になるでしょう。また、分析は単なるデータの蓄積ではなく、マーケティング戦略の効果を最大限発揮するための知見の獲得にもつながるはずです。
では、実際の分析方法について説明します。最初に分析すべきなのはCustomer(市場・顧客)やCompetitor(競合)といった外部要因です。ニーズや自社の評価を把握するためには、まずプロダクトを提供するカスタマー(ユーザー)を知る必要があります。また、独自の強みや価値を持った唯一無二のプロダクトを開発するには、競合について知ることが重要です。
分析した結果を元にカスタマー(ユーザー)のニーズや流行に戦略を合わせ、成功につながるような優れた点を競合に発見した場合は、できるだけ吸収しましょう。
次に、ここまでの分析結果を元に内部環境であるCompany(自社)について分析します。それぞれを分析する上で、外部環境にはマクロ分析やミクロ分析、内部環境にはSWOT分析といったフレームワークを有効的に活用するとより効果的でしょう。
戦略立案のSTP分析
STP分析はSegmentation、Targeting、Positioningの3つの頭文字を取った分析方法で、どんな業界、プロダクトでも幅広く活用しやすいことが特徴です。
Segmentationは市場細分化と訳され、顧客をニーズが似ている者同士でグループ化することを意味します。自社プロダクトを開発する際は、ターゲットを明確にする必要があるため、非常に重要な視点といえるでしょう。本当にプロダクトを必要としている顧客は誰なのかを知ることで、その顧客に価値を提供できるプロダクトが開発できるはずです。
Segmentationとセットで行うのが、市場の中から狙うべきターゲット層を絞るTargetingです。一見同じように見えますが、Segmentationは市場を「分ける」こと、Targetingは市場を「絞る」ことと考えましょう。
Targetingには無差別型、差別型、集中型の3つのパターンがあります。無差別型は市場の特徴に関係なく、プロダクトを全ての市場に供給する大企業でよく見られる手法です。差別型はグループ化された市場でそれぞれのニーズにマッチしたプロダクトを提供する、クラウドサービスやサブスクリプションを展開している企業を始め、多くの企業で見られる手法です。集中型は限定された限りなく狭い市場に集中してマーケティングを行う手法であり、ニッチマーケティングを実施したい企業やプロダクトのコアなファンを増やしたいと考える企業でよく見られます。
最後にPositioningは。競合と比較する軸を持って自社の立ち位置を決定する作業です。軸を設定する際は、必要な指標を厳選して競合と比較しましょう。例としては、販売チャネル、店舗数、品質、価格などが挙げられます。それぞれの軸で競合の有無や規模、自社と異なる強みを発見し、勝ち抜ける立ち位置を探すことがPositioningでもっとも重要な目的です。Positioningを行う際には、1~4つほどの指標で比較することをおすすめします。それ以上の指標を設定してしまうと、本当に得たい情報を見落としてしまう可能性もあるので注意が必要です。
STP分析にはカスタマー(ユーザー)層の分布や、それぞれのニーズの把握、自社戦略の明確化、他社と差別化を図ることで競合を回避するといったメリットがあります。
4P分析
4P分析はProduct、Price、Place、Promotionの4つの頭文字を取ったもので、施策立案を実施する際のフレームワークの1つです。まずProductは、ターゲットとなるカスタマー(ユーザー)のニーズとウォンツを満たすようなプロダクトの提供を考えることが中心です。さらに自社の強みとなる、他社と差別化されたリソースを活用することで効果を高める効果が期待できるでしょう。
次にPriceは利益・需要・供給で弁図を構成し、3つの要素が重なり合う部分を戦略的位置づけと考え、カスタマー(ユーザー)心理を掴むような価格設定を行います。同時に価格戦略を立てるのも重要で、利益獲得とシェア獲得のどちらを重視するか、さまざまな視点から検討する必要があるでしょう。
次にPlaceは、カスタマー(ユーザー)のアプローチのしやすさと販売コントロールの視点から、開放的・選択的・排他的の3つのチャネル戦略を検討します。開放的チャネルではシェア拡大、選択的チャネルでは販売管理のしやすさ、排他的チャネルではインセンティブによる販売店競争の促進など、それぞれにメリットが期待できるでしょう。
チャネル戦略を検討する上で、販促数やエリア、販売管理、カスタマイズ、プロダクトの耐久性、自社の販売能力、コストといった多角的な視点を持つことが大切です。
最後にPromotionでは、ターゲットへの訴求・強みの訴求・ポジショニングの訴求の3つの要素で弁図を構成し、重なり合う部分に顧客価値を見出します。それぞれを訴求する上で、カスタマー(ユーザー)が他社と比較したときに差別化されていることを感じられるような内容を中心に、考える必要があるでしょう。
これらの4つの「P」はバラバラでは大きな効果が発揮できません。そのため、統合して考えられる4P分析が施策立案のフレームワークとして活用されています。
バリュープロポジションキャンバスとは
バリュープロポジションキャンバスとは、バリュープロポジションを検討する際に役立つフレームワークです。
バリュープロポジションキャンバスではまず、Gains(恩恵・嬉しいこと)、Customer Job(要望)、Pains(嫌なこと)の3つの要素で構成されたカスタマー(ユーザー)情報を記載した図と、バリュープロポジションを記載した2つの図を作成します。
これを左右に並べて比較することで、自社が提供する価値がカスタマー(ユーザー)のニーズとウォンツを満たしているか確認するのです。バリュープロポジションキャンバスによって可視化された情報によって、改善すべき点をより分かりやすく把握できます。
バリュープロポジションキャンバスを作成する際のポイント
バリュープロポジションキャンバスを作成する際のポイントとしては、以下の3つが挙げられます。
- ターゲットを決める
- 顧客が持つニーズを書き出す
- 顧客に提供できる価値を挙げる
それぞれについて説明していきます。
ターゲットを決める
顧客のニーズが多様化する現代では、ターゲット設定を詳細に記載することが重要です。どんな顧客に向けて製品やサービスを提供するのか、架空のユーザーを想定するペルソナなどを活用しながら具体的に設定していくと良いでしょう。
顧客が持つニーズを書き出す
カスタマー(ユーザー)が示したニーズから目的の本質を考えることで、プロダクトの課題を解決できます。バリュープロポジションキャンバスに書き出していけば、ニーズを多角的に捉えられて、本質に気付くきっかけになるでしょう。
顧客に提供できる価値を挙げる
ターゲットの設定、ニーズの把握ができたら、最後に「顧客に利益をもたらすもの」「顧客の悩みを取り除くもの」「商品やサービス」の3つの視点から、自社がカスタマー(ユーザー)に提供できる価値を考えましょう。具体的にターゲットやニーズを把握していけば、より適切な価値を検討できるはずです。
バリュープロポジションの成功例
ここからは、実際にバリュープロポジションを意識したことで成功した企業を見ていきましょう。今回は、SlackとZoomについて紹介します。
Slack
チームコミュニケーションツールとして有名な「Slack」。リモートワークやタスク管理など、どのような仕事のニーズにも柔軟に対応できて、どの部署に所属していたとしてもシステムによって整理されたコミュニケーションで作業の効率化を図ることが可能です。
また、特殊なワークフローや厳しいコンプライアンス要件のある企業を含め、さまざまな企業で幅広く活用されています。このようにSlackでは「生産性」と「信頼性」2つを両立していることがバリュープロポジションといえるでしょう。どんなに便利なサービスだったとしても、セキュリティが甘いものを使いたいと思う企業はありません。サービスの利便性を向上させながら企業の懸念点をクリアしたことで成長を続けています。
Zoom
新型コロナウイルス感染拡大により、リモートワークやオンライン授業などを実施する企業・学校が急速に増加しました。これを背景に一気に知名度が急上昇した「Zoom」。直感的に操作しやすい画面表示と最大1000人まで参加可能な機能性に加え、分かりやすい利用価格設定がZoomのバリュープロポジションです。
一部のユーザーからはセキュリティ面についての指摘がありましたが、大多数のユーザーは利便性を感じ、導入に障害を感じることはほとんどなかったようです。このように課題があってもユーザー数が拡大したのは、バリュープロポジションの強さといえるでしょう。
まとめ
ここまでバリュープロポジションとは何か、概要やメリットを始め、バリュープロポジションキャンバスの作成ポイントまで説明してきました。
バリュープロポジションを意識することでカスタマー(ユーザー)の変化を敏感に感じられるため、高い価値が付随しているプロダクトの開発につながります。他社と差別化を図りながら価値を提供し、競合の激しい市場でも安定的な売上・収益を目指しましょう。
しかし、ビジネスで成功を収めるためには、バリュープロポジション以外にもさまざまな点に気を付けていかなければいけません。企業が注目すべき指標やポイントについては、下記の資料をご参照ください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。