売上高成長率とは?計算方法や目安を詳しく紹介
2022.12.15
売上高成長率は、企業の現状や将来性を測る上で非常に重要な指標の1つです。企業の中にいる経営者や従業員、そして外にいる株主や投資家・競合企業など、売上高成長率はさまざまな観点から注目されています。
今回はそんな売上高成長率について、計算方法や目安を中心に紹介していきます。売上高成長率が下がってしまう要因なども解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。
売上高成長率(売上伸び率)とは
売上高成長率とは、ある期間とある期間を比較してどれだけ売上高が成長したかを示す指標です。成長率が100%もしくはプラスマイナス0%という状態が、売上高の成長が停滞している状態で、100%を超えると成長、100%を下回ると低迷していると判断できます。
年単位で今期と前期を比較することもあれば、月単位で比較することもあります。企業が利益を上げるためにはまず売上が必要となるため、売上の成長率が企業の成長率を如実に表すといっても過言ではありません。
企業の経営状況や今後の将来性を測る上で、非常に重要な指標の1つとなっています。
売上高成長率の計算方法と目安は?
売上高成長率についてはご理解いただけたかと思います。では、そんな売上高成長率はどのように計算すればわかるのでしょうか。ここでは、計算方法とその目安を紹介します。
計算式
売上高成長率の計算式は下記の通りです。
売上高成長率 = 〔(現在の売上高 – 比較対象期間の売上高)÷ 比較対象期間の売上高〕× 100
3月決算の企業が年単位での売上高成長率を計算したい場合は、今期の4月〜3月までの売上高と、前期の4月〜3月までの売上高をそれぞれ当てはめて計算します。月別の売上高成長率を計算する際は、同様に今月と前月の売上高を式に当てはめると良いでしょう。
ただし、月単位で成長率を計算する場合は、季節変動に注意しておく必要があります。季節によって売れ行きが変わる商品は、単純に月別の売上高成長率だけを見ても季節の影響で正確な判断ができないかもしれません。
そういった際は、年単位での比較を行うか、前年同月比での比較を行うと良いでしょう。月別の成長率は細かな変化も影響を及ぼすため、一般的に企業の売上高の成長率を把握しようとする場合は年単位のものを活用します。
目安
次に、売上高成長率の目安を紹介します。
- 超優良水準
- 安全水準
- 準危険水準
- 危険水準
- 超危険水準
上記の5種類に分類するのが一般的で、売上高成長率が下がるほど当然下の水準となります。ただ、気を付けるべき点が1つあり、超優良水準である成長率20%を超えて21%以上の成長率を出すと、分類としては危険水準となってしまうのです。
これは、あまりに成長しすぎるのはさまざまな危険を孕むということになります。下記でそれぞれの水準について紹介するので、詳しくみていきましょう。
超優良水準
成長率が6%〜20%の状態を超優良水準といいます。着実に会社・事業が成長している状態なので、現在のスピード感を維持していくことが理想です。しかし、現在超優良水準で成長できていても、次の期も同等の成長率を維持できるとは限りません。
顧客を獲得するほど未獲得の顧客の数は少なくなっていくのでマーケティングの難易度も上がりますし、組織が大きくなれば採用や管理体制の強化も必要となります。気を引き締めて成長率を鈍化させないことが重要です。
安全水準
成長率が0〜5%の範囲内であれば安全水準といえます。経営的には安定することが多いため、何か抜本的な対策が必要というわけではありません。堅調に成長を続けながら、できるだけリスクを排除して、さらなる成長を目指しましょう。
準危険水準
成長率が -1%〜-10%の状態を準危険水準と呼びます。前の期と比べて売上高が落ちている状態なので、このままの状態が続いてしまうと業績がどんどん傾いていくことになりかねません。なぜ売上高が落ちてしまったのかを丁寧に紐解きながら、次の期では回復できるように万全な対策を打っていく必要があります。
危険水準
成長率が -11%〜 -20%の状態と、+21%以上の状態を危険水準と呼びます。-11〜 -20%の状態は、業績低化が深刻な状況です。赤字経営に陥っていることも多く、キャッシュアウトが見えてしまっていることも珍しくありません。ただちにコストカットを進める必要があるので、黒字化のために可能なことを探していきましょう。
逆に、成長率が高すぎるのも危険な状態です。一見順調な成長にも見えますが、成長率が高すぎると逆にさまざまな観点で問題が生じる危険性があります。
例えば、業務が大量に発生したことによって従業員の残業時間が急増したり、ユーザーを大量に獲得したことで個人情報管理に問題が発生したりなど、組織や管理面での問題が発生しやすい状態なのです。
成長率が高いのは良いことですが、こういった問題を軽視していると市場から一発退場となってしまうリスクもあるため、慎重に対処していきましょう。もちろん、危険水準に分類されるからといって、この状態が100%悪いかというとそうでもありません。
組織・管理面での問題をしっかり防いだ上で売上高成長率21%以上を出せているのであれば、それは素晴らしいことです。
特に、具体的な有形商材を取り扱わないIT企業では、成長率が伸びすぎることによる生産面でのリスクも少なくて済むため、ITベンチャーではこれよりも高い成長率を出す企業が多く存在します。
数字を当てはめた基準においては危険水準といえますが、実際に危険かどうかは社内を見渡せばいくらでも情報が入ってくるため、実際の状態を見ながら本当に危険か、さらに成長に向けて踏み込んでいくべきかを判断しましょう。
超危険水準
成長率が -21%以下の状態は超危険水準と呼びます。資金繰りもいよいよ厳しくなってきて、倒産の危険性も見えてきている状態でしょう。この状態から会社を立て直すには、抜本的な対策が必要となります。
不採算となっている事業や部門の閉鎖、人員整理などが必要な場合もありますし、事業のビジネスモデル・収益構造そのものを見直すべきかもしれません。
いずれにせよ、企業としてはかなり苦しい状態ですので、一刻も早く大胆な対策を打っていくべきでしょう。
倒産となると、経営者だけでなく投資家・従業員・従業員の家族・顧客など、さまざまな人の生活に影響を出してしまいます。倒産を回避するためには早めに動くことが重要です。
売上高成長率が下がってしまう原因
売上成長率の目安について紹介しましたが、売上成長率を下げないためにはどうすれば良いのでしょうか。売上高成長率が下がってしまう要因には、外的要因と内的要因の2つがあります。
外的要因
外的要因は、簡単にいうと「社外」の変化や状況が要因となっている状況です。外的要因を分析するためには、PEST分析というフレームワークを活用するのが良いでしょう。PEST分析は、下記の単語の頭文字からなる言葉です。
- P:Politics(政治)
- E:Economy(経済)
- S:Society(社会)
- T:Technology(技術)
外部環境の変化は大きくこの4種類に分類できるというものです。逆にいうと、この4つの変化は1つの企業がどうこうできるレベルの規模感ではないため、自社に不利益となる変化が発生すると、途端に売上高成長率が下がってしまう危険性があります。
直近では、新型コロナウイルスの感染拡大が政治・経済・社会に大きな変化をもたらしました。
人々の生活が大きく変わったことで、これまで当たり前のように使われていたものが全く使われなくなったり、たくさん店舗に来店してくれていた人たちが全く来てくれなくなったということもありました。このように、PESTの変化は外的変化として売上高に大きな影響をもたらす可能性があるのです。
また、「外的」の要素には競合企業の変化もあります。もともとはブルーオーシャンで、似たようなサービスを提供する企業が存在しなかった状態から、同様のサービスをより安価で提供する企業が現れたとしたら、当然これまで通りの売上を維持するのは難しくなるでしょう。このように、競合の動向も自社外で起こることなので、外的要因として注意が必要です。
これらの外的要因は、防ごうと思っても簡単に防げるものではありません。そのため、外的要因については常にワーストケースを想定し、そのワーストケースが発生したときにどう対処するか、どうすれば被害や不利益を最小限にできるかを考えておくことが重要です。
内的要因
一方で、内的要因は社内で発生する要因を指します。売上高成長率が落ちる要因はたくさんあるため、列挙し尽くすことはできませんが、例えば、ヒト・モノ・カネと呼ばれる3つの経営資源が不足することで成長率は鈍化します。
ヒトの観点だと、成長率に対して人員の採用が追いついておらず、商談や既存顧客のフォローなど人が必要なシーンが上手く回らなくなってしまう、などが例として挙げられるでしょう。
モノの観点だと、需要に対して生産が追いつかないということもありますし、生産が追いついたとしても、カネの観点でマーケティングに十分な費用を確保できていないなどの状態が想定できます。
このように、自社内で発生して、自社内で解決することができる要因が内的要因です。
売上高成長率だけでは企業成長度合いを把握できない
売上高成長率は経営指標として重要と説明しましたが、売上高成長率だけで企業の成長度合いを100%計測できるわけではありません。
あくまで売上なので、100万円の売上を立てるために99万円の費用を投下していては、利益は1万円しか発生しません。これを無理やり成長させたとしても、売上高成長率は高くなるかもしれませんが、利益率は非常に低いままです。
また、企業成長を判断するためには、キャッシュフローや残キャッシュなども重要な観点となります。キャッシュが残り少ない状態であれば、いくら売上が利益が大きくても、少しの危険で倒産の危機に瀕してしまうリスクも考えられるでしょう。
このように、企業の成長率を見る上で、売上高成長率を見るのは1つ重要なポイントではありますが、その指標だけで十分というわけではないという点は頭に入れておきましょう。
経営で活用できる売上高成長率以外の指標
最後に、売上高成長率以外に企業の成長度合いを推測するのに活用できる指標を4つ紹介します。
- 売上高経常利益率
- 経常利益成長率
- 当期純利益成長率
- 売上高当期純利益率
それぞれ詳しく見ていきましょう。
売上高経常利益率
利益は、大きく経常利益と純利益の2種類の考え方があります。このうちの経常利益は、企業の中心事業で得られた利益を示すものです。経常利益からさらに一時的な利益や損失をすべて足し引きしたものを純利益と呼びます。
売上高経常利益率は、売上高に対してどれだけの経常利益を得ているかという割合です。この割合が高いほど事業としての利益率が高い状態といえます。売上が大きいだけでなく、しっかり利益の出る事業を行えているかを判断できるのです。
経常利益成長率
経常利益成長率は、売上高ではなく経常利益の金額がどれだけ前期と比べて成長しているかを見る指標です。売上高成長率とセットで見られることが多くなっています。この2つの指標は、お互い伸びているのがもっとも望ましい状態です。
売上高は伸びているのに経常利益が伸びていない状態であれば、無理に投資を行ったことで見た目の売上だけが伸びているなどの可能性があります。逆に、売上は変わらずに経常利益だけが伸びているのであれば、コストカットして利益が増えているように見せているだけで、今後の成長可能性が低いかもしれません。
両方が健全に伸びている状態が、企業としては望ましい状態といえます。
当期純利益成長率
当期純利益成長率は、純利益の成長率です。純利益は経常利益と比べると、その年特有の売上や損失も入ってくるため、イレギュラーな要素も増えてはいきますが、そういったものも含めて企業として利益をどれだけ伸ばせているかを判断できます。
売上高当期純利益率
売上高当期純利益率は、売上高に対する純利益の割合です。売上高経常利益率の純利益バージョンと考えてもらうと分かりやすいでしょう。継続的に発生する収益や投資以外だけでなく、スポットで発生する収益や費用も加味された上での利益率となります。
まとめ
売上高成長率は、ある期間からある期間にかけてどれだけ売上が伸びたかを表す指標で、社内外で注目される経営指標の1つです。超優良水準と呼ばれる水準をクリアできるように、外的要因・内的要因それぞれに着目して上手く困難を回避しながら成長を続けていけるように努力していきましょう。
売上高成長率の経営で役立つ指標についてさらに詳しく知りたい方は、下記の資料も参考にしてみてください。
監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。