SaaS企業がSLGからPLGに移行し始めている理由とは
2022.04.04
日本でも有名なZoom、Slackといった欧米企業が、PLGという営業・成長戦略実践で急拡大したことを知っている人も多いのではないでしょうか。国内企業のほとんどは従来の営業・成長戦略であるSLGを実践していましたが、近年ではSaaSやサブスクリプション型ビジネスモデルの浸透で、SLGからPLGへの移行を考える企業も多い傾向です。
この記事では、SLGに関する基本情報を踏まえた上で、企業がSLGからPLGへ移行を考える理由を詳しく解説していきます。SLGへの移行を考えている方などは、ぜひ参考にしてみてください。
SLG(セールスレッドグロース)ってそもそも何?
SLGとは「Sales Led Growth」の略であり、営業担当者が自社のプロダクトを販促する、これまで一般的だった営業戦略です。ここでは、SLGとは何かをさらに詳しく解説した上で、SLGの特徴やPLGとの違いなどを説明していきます。
SLG(セールスレッドグロース)とは
SLGはセールスがプロダクトを売り込む営業主導の戦略です。一般的な営業戦略であり、国内企業のほとんどがSLGを実践しています。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大や、SaaS・サブスクリプションといった新しいプロダクト・ビジネススタイルの確立でSLGに対する考え方が変わりつつあります。
SLGの特徴
SLGには以下のような特徴があります。
- セールスでプロダクトに価値を付ける
- セールスサイクルが長い
- グローバル展開しにくい
- 営業主導
- 高単価なプロダクトが生まれやすい
- CAC(顧客獲得までのトータルコスト)が高い
- ハイタッチセールスでオンボード
- 必要に応じてセールスプロセスの改善が求められる
一般的な営業戦略ですが、デメリットが多いように感じます。特に、セールスサイクルが長い、高単価なプロダクトが生まれやすいなどの特徴は、「非効率的」「成約率の低下」などのネガティブな結果につながりかねません。こういった課題点が少ないことや、アメリカなどのSaaS型ビジネスで実践されていることから注目されているのが、PLGという新しい営業戦略です。
PLGとの違い
まずPLGとは、プロダクトでプロダクトを売り込む製品主導の営業戦略です。製品主導と聞くと「顧客のことを考えていないのでは」と思う方もいるかもしれませんが、あくまで自社プロダクトの販促方法を変えた営業戦略です。
顧客のことを考えてプロダクトの利用・導入を促すという根本的な営業の意識に変わりはありません。では、PLGの特徴を踏まえた上で、SLGとの違いを見ていきましょう。PLGには以下のような特徴があります。
- プロダクトがプロダクトに価値を付ける
- セールスサイクルが短い
- グローバル展開しやすい
- 製品主導
- 単価の低いプロダクトが生まれやすい
- CACが低い
- テックタッチセールスでオンボード
- 改善すべき点はプロダクトのみ
SLGではデメリットだったセールスサイクルやプロダクト単価が、メリットになっていることが分かります。また、SLGでは営業課題が生じた際に、セールスプロセス全体を改善しなければなりません。しかし、PLGではプロダクトの改善が営業課題を含めた全体の課題解決につながるため、一点に集中した意識が大きな成果を生み出すことが期待できます。
そして、最大の違いはプロダクトに触れるまでの時間です。プロダクトがプロダクトに価値を付けるというのは、最初に無料コンテンツを試してから有料コンテンツの契約に誘導するということです。
SLGでは契約・商談成立後に初めてプロダクトに触れる場合がほとんどですが、PLGはお試しでプロダクトに触れるところから始まります。身近な例で紹介すると、アプリの無料コンテンツを最初に使い、使い勝手が良かったから有料コンテンツが使えるように契約変更する、といった形になります。
SLGの代表例:salesforce
今でこそ一般的になった営業支援ツールであるCRM(顧客管理システム)を開発したのが、1999年創設のsalesforceです。現在、CRMはサブスクリプションサービスとして利用可能であり、テクノロジー業界における代表的なクラウドに成長しています。しかし、リリース当初はクラウド自体が一般的ではなく、営業による地道なリードナーチャリングと画期的な営業プロセスの考案でクラウドサービスの基礎を構築しました。salesforceはSLGを実施した代表例といえるでしょう。
SLGの流れ
SLGには、認知→閲覧→リードナーチャリング→導入→顧客化という一連の流れがあります。各段階では、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスがそれぞれの役割を担い、実際にプロダクトを利用するのがエンドユーザーです。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
マーケティング
マーケティングでは、ターゲットを選定して、どのように収益・売り上げを拡大するかといった戦略を立てて、プロダクトを販促する仕組みを構築します。具体的には、市場調査の実施、広告宣伝活動とそれに伴う効果の検証などです。
広告宣伝活動は、オンラインで行うオウンドメディアマーケティングやデジタルマーケティング、オフラインで行うSP広告やイベント・セミナー開催などの種類があり、プロダクトに応じた費用対効果の高い方法で実施します。
市場調査や効果検証によって顧客のニーズを可視化して、特別な営業活動をしなくても自然にプロダクトが販促できる状態を作ることがマーケティングの理想です。
インサイドセールス
インサイドセールスは、マーケティング活動によって収集された見込み顧客に対して、電話やメール、WEB会議システムを活用して営業活動を行うことです。
近年では新型コロナウイルスの感染拡大で、直接顧客の元まで足を運ぶ従来の営業スタイルを取ることが難しくなりました。また、最近では非生産・非効率的な営業活動や営業人材不足などが課題となっています。こういった社会情勢や営業課題を背景に、インサイドセールスの注目度が高まっているのです。
インサイドセールスはツールを活用したオフラインでの営業活動がメインなので、移動時間の短縮や効率アップ、幅広いリードへのアプローチが可能といったメリットがあります。しかし、顧客との関係性が希薄になりやすい、複雑な説明や商談には不向きといった点がデメリットです。プロダクトの特徴によってはインサイドセールスの効果が得られないケースもあるので注意しましょう。
フィールドセールス
インサイドセールスで関係性を深めた顧客に対してプロダクトを提案、商談・契約につなげる営業活動をフィールドセールスといいます。インサイドセールスと連携することで営業効率が良くなり、商談・契約の成功率アップが期待できるでしょう。
具体的には、インサイドセールスが確度の高いリードを育成し、それをフィールドセールスが継続することでリードをクロージングまで誘導します。
また、フィールドセールスは既存顧客に対する営業活動も重要です。顧客のニーズや課題を把握し、それらを解決するアイディアを提案、場合によってはアップセル・クロスセルなど自社の収益拡大に直結する提案を行う必要があります。インサイドセールスとの連携により時間と余力が出たフィールドセールスは、一層コアワークに集中できるでしょう。
エンドユーザー
実際にプロダクトを使う人をエンドユーザーといいます。SLGでは営業担当者が経営層やリーダー層にコンタクトを取り、プロダクトを販促するため、エンドユーザーが導入後に初めてプロダクトに触れるということも少なくありません。
現場のニーズと異なるプロダクトを導入してしまうと「なくても特に困らない」「使い勝手が悪い」といった声が挙がり、長期的な顧客との関わりが難しいという問題が発生する場合があります。企業の経営層リーダー層が現場の声を集約することはもちろんですが、営業担当者も企業の状態を把握し、無駄なプロダクトを販促しないように注意しましょう。
SLGはエンドユーザーがプロダクトに触れるまで時間がかかることがネックな点ですが、PLGは実際に現場でプロダクトを使ってみて、感触が良ければ顧客が自ら有料コンテンツの契約に進みます。こういったメリットもSLGからPLGに移行し始めている理由として挙げられるでしょう。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセスは、SaaSやサブスクリプション型ビジネスモデルで重要視される概念であり、顧客を成功体験に導くことでLTV(顧客生涯価値)最大化を目指します。
カスタマーサクセスは、顧客のニーズや課題に沿った積極的な提案で顧客に成功体験を届ける能動的な働きをするのが特徴的です。営業スタイルの変化や他社サービスとの差別化を目的に注目されるようになり、まだまだ拡大途中の概念です。
しかし、サービスの継続利用につながる、顧客の問題を解決する、解約率を下げるといった役割があるため、SLGにとって必要不可欠といえるでしょう。
PLGは素早くユーザーに届けることが大事
PLGは、プロダクト自体が営業やマーケティングの役割を担っています。顧客がプロダクトを認知してから顧客化するまでの流れで閲覧・リードナーチャリング・導入が1つにまとまっているため、エンドユーザーが素早くプロダクトに触れることが可能なのです。SLGよりも速いスピード感でプロダクトを提供したいという場合には、PLGへの移行を検討してみてください。
現在はSLGからPLGに移行しつつある
SLGのデメリットをPLGがカバーできることなどから、企業の営業戦略はSLGからPLGに移行しつつあります。日本でも有名なZoom、Slackは、PLGを成長戦略に掲げたことで急成長を遂げました。
国内急拡大しているSaaSやサブスクリプション型ビジネスモデルも、もともとはSLGを前提に設計されていましたが、PLGによる欧米企業の急成長を背景に、新たな成長戦略として考える国内企業が増加傾向にあります。SLGからPLGへの移行は、国内SaaS・サブスクリプション型ビジネスに以下のようなメリットをもたらします。
- 積極的に営業を行う必要がない
- SaaS型ビジネスモデルに適している
- 顧客に合わせた最適なプランやサービスを提案できる
これらについて詳しく見ていきましょう。
積極的に営業を行う必要がない
PLGはプロダクトの中に営業・マーケティング・カスタマーサクセス・開発が含まれているため、積極的に営業を行う必要がありません。実際にエンドユーザーがプロダクトに触れて使用感を体験することが一番の営業になるでしょう。
また、分かりやすいチュートリアルを用意すれば、カスタマーサクセスによる導入サポートの必要がありません。無料コンテンツから有料コンテンツに切り替えるときに、顧客の興味を惹く似たコンテンツや魅力的なオプションを準備すれば、アップセル・クロスセルを顧客自ら行うことも期待できます。
このようにマーケティング・セールス・カスタマーサクセスのすべてを網羅していることがPLGの大きな特徴であり、メリットです。
SaaS型ビジネスモデルに適している
SaaS型ビジネスモデルで提供するプロダクトは、業務効率化や生産性を向上してくれるという点が顧客にとっての大きなメリットになります。しかし、プロダクトの扱いが複雑で、課題が生じたときに簡単に解決できないとなると、顧客は使いたいと感じないでしょう。
そのために、今まではSLGでマーケティングやセールスで顧客のニーズを拾い上げてプロダクトを提供し、カスタマーサクセスが顧客の悩みを解決するという一連の流れを行っていたのです。PLGならその一連の流れを素早く実行できるため、より顧客のニーズの洗い出しや悩みの解決が行いやすくなります。PLGの構造・特徴・役割すべてがSaaS型ビジネスモデルに適しているといえるでしょう。
顧客に合わせた最適なプランやサービスを提案できる
PLGでは、実際に無料プラン・コンテンツを使用した上で、顧客がよく使う機能やプロダクトの使用頻度を元に最適なプランやサービスを提案できます。また、経営層やリーダー層が決めたプロダクトの導入で「現場の求める機能がなかった」「切り替えコストがかかる」といった弊害の発生も防いでくれるでしょう。
まとめ
ここまでSaaS・サブスクリプション型ビジネスでSLGからPLGに移行している理由について見てきました。PLGは新型コロナウイルスの影響による働き方の変化や、現代の営業スタイルの変化によって注目を集めるようになった戦略であるため、国内企業の多くがまだSLGを実践しています。
もちろん、SLGが悪いというわけではありませんが、今後のSaaSビジネスではPLGが企業における成長戦略の当たり前になっていくでしょう。その流れに乗り遅れないためにより深い知識を知っておきたいという方は、ぜひ下記の資料を参考にしてみてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。