ROIC(ロイック)とは?メリットや計算式、業界ごとの平均を分かりやすく解説
2022.10.05
企業にとって重要な指標であるROICですが、どんな指標なのか、どういった場面で役立つのか、あまりよく分かっていないという人もいるでしょう。
この記事では、ROICとは何か、ROE・ROAとの違い、計算方法やメリットなどを詳しく解説していきます。企業の指標として活用したいという方は、ぜひ参考にしてみてください。
ROIC(ロイック)とは
ROICの具体例
ROICはどのように活用していけば良いのか、具体例を見ていきましょう。
例えば、IT会社を経営するA社長と小売店を経営するB社長がいたとします。A社長とB社長はそれぞれ1億円ずつ、事業に使いました。
そして1年後、A社長は1億円を1.2億円に、B社長は1億円を1.1億円に増やしたとしましょう。どちらが稼ぐことができたかというと、当然A社長ですよね。これがROICです。
- A社長のROIC =(1.2億円 – 1億円)÷ 1億円 × 100 = 20%
- B社長のROIC =(1.1億円 – 1億円)÷ 1億円 × 100 = 10%
つまり、A社長は1億円を事業を通じて20%の利回りで運用し、B社長は10%の利回りで運用したということになります。A社長のほうが運用力、つまり事業を通じての「稼ぐ力」が高かったといえるでしょう。
ROICは、事業に投じた資金(1億円)がどれくらいのリターン(A社長2千万円/B社長1千万円)を生み出したかという投資効率を把握するのに役立つ指標なのです。
では、A社長が1億円、B社長が3億円の元手だった場合を見てみましょう。
- A社長が1年間で稼げる額 = 1億円 × 20% = 2千万円
- B社長が1年間で稼げる額 = 3億円 × 10% = 3千万円
B社長のほうが稼いだ「額」は多くなりますが、「事業に投じる資金」には限界があります。裏を返せば、「事業に投じる資金を調達する(ファイナンス)」の限界があるので、その「限りある資金」を事業に投じて「できるだけ多くのリターン(稼ぎ)」を得るほうが良いですよね。これが投資効率であり、ROICであり、稼ぐ力です。
ROE・ROAとの違い
ROICに関連する用語として、ROE・ROAがあります。これらの指標がROICとはどのように異なるのか、詳しく見ていきましょう。
ROE
ROE(自己資本利益率、Return On Equity)は、自己資本に対しての企業の収益性を表します。つまり、自己資本を元手にどれだけ収益を得られているのかを表しているのです。
ROEの計算方法は下記の通りです。
- ROE(%)=(当期純利益 ÷ 自己資本)× 100
ROEの目安は10%程度とされているので、算出する際には10%程度を基準として考えると良いでしょう。
ROA
ROA(総資産利益率、Return On Assets)は、総資産に対しての企業の収益性を把握するための指標です。自己資本だけのROEとは異なり、借入金などの他人資本なども含めて計算します。
ROAの計算方法は下記の通りです。
- ROA(%)=(当期純利益 ÷ 総資産)× 100
ROAの基準は業界によって異なるので、自社の行っているビジネスに合った業界の数値を参考にするようにしてください。
ROICが注目されるようになった背景
投資家から企業に対するROEを向上させるための要求は年々高まっています。これまで、資本生産性を改善しなければいけないと思っている企業は多かったものの、今まで通りPLを重視した経営を行っているという企業は珍しくありませんでした。しかし、転機が訪れたのは2014年です。「伊藤レポート」で、最低限8%を上回る ROE を達成する必要があると具体的な数値と合わせて記載されたことによって、多くの企業が課題として認識しました。
また、企業では第三者が事業を多角的に評価することも大切です。その評価の際に役立つのがROICで、評価に合わせて人材配置を行い、企業全体で無駄なく作業を進めていくのに効果的といえます。
ROICのメリット
ROICが注目されるようになった背景について知ったところで、ROICのメリットを見ていきましょう。ROICの主なメリットは下記の2つです。
- ROEやROAの問題を解決できる
- 事業ごとに管理できる
それぞれ順番に見ていきましょう。
ROEやROAの問題を解決できる
ROICの最大のメリットは、ROEやROAの問題を解決できることです。
ROEは当期純利益を自己資本で割ることで算出できますが、自己資本の数値を変更すれば簡単に数値も変えられてしまうという問題があります。ROAは取引先への買掛金の支払いを留保できる見込みがあったとしても、数値に反映できないというのが問題点です。
ROICでは、これらの問題を解決できます。ROICは数値を操るのが難しく、調達コストに合わせた収益力を正確に図ることが可能です。
事業ごとに管理できる
ROICのもう1つのメリットが、ROEやROAと違って事業別に管理ができることです。いくつかの事業を行っていると、それぞれの事業に対して評価をするのが大変ですが、ROICを活用すればそれも可能になります。事業ごとに評価を行って、事業を運営していく上での方針を明確にできるのです。
限られた資金の中で、事業ごとに適切な予算や人材を配置するためにも、ROICで事業の成長性や収益性を評価していくことが大切といえます。
ROICの計算式
ROICを計算式にすると、下記のようになります。
- 利益 ÷ 投下資本
利益は一般的に「NOPAT(みなし税引後営業利益)」を使うため、まずは下記の計算式でNOPATの数値を導き出します。
- NOPAT = 営業利益 ×(1 – 実効税率)
仮に営業利益が1億円ならば、計算式は以下のようになります。
- NOPAT = 営業利益1億円 ×(1 – 実効税率32%) = 6,800万円
一方の投下資本は、使うシチュエーションによって異なりますが、一般的には下記の計算式で算出します。
- 投下資本 = 有利子負債 + 株主資本
仮に、有利子負債(借入金や社債など)3億円、株主資本(≒純資産)1億円ならば、以下のようになります。
- 投下資本 = 有利子負債3億円 + 株主資本1億円 = 4億円
それぞれで導き出した数値をROICの計算式に当てはめたのが、下記の計算式となります。
- ROIC = NOPAT6,800万円 ÷ 投下資本4億円 = 17%
ROICを指標としたいと考えている方は、まずは自社のROICを把握するところから始めましょう。
ROICの目安
先ほど、ROICは事業ごとに評価できると紹介しましたが、事業単位でROICを算出する場合の目安は7%とされています。7%を下回る場合には、事業の撤退や縮小を検討する必要があるでしょう。事業の継続を悩んでいるという方は、この数値を参考にしながら判断してみてください。
ROICが低いと市場淘汰される
ROICの数値が低いと、市場淘汰されてしまいます。例えば、こんなケースを考えてみましょう。
あるベンチャーキャピタルが、「どのベンチャーに投資しようか」と常に探していたとします。当然、投資するからにはリターンを得られる可能性が高く、かつ、そのリターンが大きい投資先を選びます。
あなたの会社がライバル会社よりも将来性を含めた稼ぐ力が低いと、そのベンチャーキャピタルは、あなたの会社ではなくライバル会社に投資をするでしょう。その結果、ライバル会社はより多くの資金を得てスケールし、多くのマーケットシェアをおさえます。一方で、あなたの会社は市場から淘汰されてしまうのです。
先手を取るための施策の1つとして、「稼ぐ力」を高めることは必須といえます。では、「稼ぐ力」を高めるにはどうすれば良いのか、詳しく見ていきましょう。
稼ぎ方改革
昨今、ニュースで「働き方改革」という言葉を聞く機会も増えたと思います。働き方改革が注目されている背景としては深刻な労働力不足があり、その解決方法には下記の3つが挙げられます。
- 長時間労働の解消
- 非正規と正社員の格差是正
- 高齢者の就労促進
いずれの方法でも、会社としてはコスト増になる可能性が高く、そのコスト増を吸収するために会社としての生産性を高めていかねばなりません。
例えば、働き方改革や休日の増加で労働時間が減少すれば、生産性を高めないと今まで通りの収益性は確保できません。生産性を高めるということは、投下したリソースからのリターンを最大化することになります。
労働時間でいえば働いた時間、会社全体でいえば投資した資金に対するリターンの最大化であり、つまり「稼ぐ力」の最大化が必要といえるのです。働き方改革によって会社としての「稼ぎ方改革」を実現していかねば、経営が立ち行かなくなってしまうリスクもあるでしょう。
PL経営だけでは心配
中小・ベンチャー企業を取り巻く環境として、下記のような課題が挙げられます。
- 経営環境の変化が早い
- 未来の不確実性が高い
- 競合他社との競争環境が激化
これらの課題は厳しそうに思えますが、だからこそチャンスがあるのです。チャンスを活かすためには、ビジネススピードを早める必要があります。しかし、そのために必要な資金は無限に湧いてくるわけではありません。そういった環境の中で、以下のような悩みを抱えている企業も少なくないでしょう。
- 感覚経営のまま事業拡大することにリスクを感じる
- 今までのやり方に行き詰まりを感じる
- 今のビジネスモデルのまま拡大しても大丈夫だろうか
- もっと安全かつ確実な方法で一気に拡大したい
- どこまで先行投資すべきなのかが判断できない
- 意思決定をする際にどの選択肢がベストなのか分からない
- 経営戦略を進める上でどれだけの資金が必要かが分からない
- その経営戦略に適したベストな資金調達法が分からない
- 起こりうるリスクについてしっかり備えておきたい
これらを解決するためには、PL経営から脱却して戦略経営を実践する必要があります。
ビジネスのスピードを上げる戦略経営とは
戦略経営について説明する前に、まずPL経営について解説します。PL経営とは、短期的な売上や利益の最大化を目指す経営スタイルです。
売上や利益が増えても投資が大きすぎれば経営的には不効率ですし、売上や利益が増えても資金が増えなければ苦しくなります。中小・ベンチャー企業は大企業のように潤沢な資金がないので、限られた資金を使って効率良く稼ぐことが大切です。
- 中長期的な戦略にそって
- 限られた資金を最適な戦術に投資し
- 最大のリターン = 稼ぎを得ること
これを実現する経営が戦略経営です。
ROICの業界平均
ここからは、上場企業のROICについて解説していきます。ROICは業種によって平均値が大きく異なるので、自社企業の属している業界の数値を参考にしてください。
自動車業界
自動車業界のROICの業界平均は10.6%です。大手企業の中では、SUBARUの数値が高く、日産の数値が低めですが、基本的にはどの企業にもあまり大きな差はありません。
精密・電機・機械業界
精密・電機・機械業界のROICの平均は8.4%です。しかし、一番数値が高いキーエンスが16.42%なのに対して、一番数値が低い三菱重工が3.02%と、数値の幅が広い傾向にあります。
百貨店業界
百貨店のROICの業界平均は3.2%です。自動車業界や精密・電機・機械業界と比較すると、かなり数値が低めの印象になります。
コンビニ業界
コンビニ業界のROICの平均は5.1%です。コンビニ大手の中ではローソンの数値が1番高く、6.12%となっています。
情報通信業界
情報通信業界の平均値は10.5%です。平均は自動車業界と近い数値となっています。NTTドコモとKDDIの数値は高めですが、ソフトバンクは2社と比較すると低い数値となっているのが分かります。
あなたの会社の業種平均
さまざまな業界のROICの平均を表にまとめました。全体的に平均値に大きな差はありませんが、それぞれの業界によって数値が異なるので、自社の業界の数値を参考にしてみましょう。
異業種/複数事業間でも比較可能
冒頭でROICの活用事例を紹介しましたが、業種が違っても稼ぐ力「ROIC」は比べられます。同じ業種ではない経営者仲間とも比べてみてください。
また、あなたの会社が複数事業を営んでいれば、それらの事業同士でも比較可能です。例えば、システムの受託開発事業とエンジニアの派遣事業を行っている場合、それぞれの事業の稼ぐ力「ROIC」を比べられます。現状と将来的なROICを考慮した上で、どちらの事業に優先投資していくかの判断材料にもつながるでしょう。
まとめ
監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。