PSF(プロブレム ソリューション フィット)とは?達成する方法を解説
2022.05.07
新たなビジネスを始める上で重要とされているのがPMF(プロダクト マーケット フィット)です。
PMFはプロダクトの供給とそのプロダクトを必要とするマーケットの需要がフィットしている状態とされていて、適切なプロダクトを必要とするマーケットに提供することによってビジネスが成立するとされています。
今回は、そのPMFに必要とされる前段階であるPSF(プロブレム ソリューション フィット)といわれる状態について、達成する方法や確認すべきポイントなどを詳しく紹介します。
PSF(プロブレム ソリューション フィット)とは
PSF(プロブレム ソリューション フィット)とは、顧客が抱えている課題(プロブレム)と企業が提供している解決策(ソリューション)がフィットしている状態のことです。顧客(特に法人の場合)は、基本的に何かしらの課題を解決するためにサービスの購入・契約を検討します。何も課題がないところに製品を提案されても全く耳を貸さないわけで、課題なき市場は存在しません。
逆に、課題があったとしても企業が提供するサービスが最適な解決策になっていない場合も同様で、サービスが選ばれるためには顧客の課題にとってそのサービスが最適な解決策である必要があります。
つまりPSFとは、顧客の課題に対して企業が最適な解決策を提示できている状態を指すのです。これから作るサービスがビジネスとして成立するかを検証する上で重要な観点といえます。
PMFとの違い
PMFはPSFの後工程といわれています。PSFによって顧客の課題に対する最適な解決策を提示することができるようになった上で、次はその課題を抱える適切なターゲットセグメント(市場)に対してプロダクトを適切な価格・機能で提供できている状態がPMF(プロダクト マーケット フィット)です。
人々の生活が豊かになり、ビジネスが複雑化している現代においては、会社や個人が抱える課題は昔よりもはるかに多様化しています。
ある人が抱えているプロブレムを万人が抱えているわけではないため、誰かの課題(プロブレム)を最適解(ソリューション)によって解決できたとしても、同じ課題を抱えている人々にそのサービスを提供できなればビジネスは成り立ちません。
PSFした上で、そのソリューションを適切な機能と価格のプロダクトに落とし込み、適切な市場(マーケット)に提供することでPMFを成立させましょう。
PSFを達成するためのステップ
では、PSFを達成するためのステップを紹介します。PSFを達成するためには、主に下記の4つの工程を行う必要があるでしょう。
- 顧客の問題や課題を見つける
- 問題や課題の解決策を検討する
- コミット率を検証する
- ユーザーのニーズや購買意欲を確かめる
それぞれ詳しく解説していきます。
顧客の問題や課題を見つける
PSFは、P(プロブレム)とS(ソリューション)のF(フィット)ですから、このPとSを用意しないことにはフィットするものもありません。プロブレムは顧客に発生する課題なので、まずあなたが顧客のどのような問題・課題を解決したいかを明確にしましょう。
このとき、同じ課題を抱えている人が日本に数人しかいないような珍しい課題を選定すると、ビジネスとして成り立つ可能性が限りなく低くなってしまいます。
課題を見つける際は色々な人にヒアリングしたりインタビューしたりと、「個」に向き合って発見するほうがリアルな課題を見つけることにつながります。その場合には、その課題がその人特有のものなのか、もしくは同じ属性を持つ人、同じ業界同じ職種、同じ年齢同じ性別の人の多くに当てはまるものなのかは確認しておきましょう。
問題や課題の解決策を検討する
問題・課題を見つけたら、次にその解決策を検討します。人の手によって解決するような人的サービスかもしれませんし、機能などで解決するWebサービスかもしれません。
その解決策によって本当に問題・課題が解決できるのか、他に新たな問題・課題を発生させていないか、その解決策が法に触れていないか、その解決策が現実的に可能なものか、などに留意しつつ、実際のユーザーに解決策を提示して反応を伺いましょう。
コミット率を検証する
PSFを検証する上で、実際に課題を抱えている方に解決策の開発プロセスへの協力を打診しましょう。生のユーザーの声を聞きながら開発しないと、開発者の独断で作られたサービスになって、できあがったものが的外れになってしまうかもしれません。
本当にそれが意味のある解決策なのであれば、開発にコミットしてくれる顧客もそれなりに見つかるものです。解決策の開発プロセスへの協力を打診して、どれだけの割合で顧客がコミットしてくれるかを検証しましょう。
ユーザーのニーズや購買意欲を確かめる
最後に、その解決策を実際にユーザーがほしがっているのか、有料でも利用を検討するのかを確かめましょう。「確かに課題はあるし解決もしたいけど、お金を払うほどではない」といわれてしまったらビジネスは成り立ちません。ユーザーのニーズや購買意欲を調査するためには、定性調査と定量調査が有効です。
定性調査
調査方法の1つが定性調査です。定性調査はいわゆるヒアリングやインタビューを指しており、1人1人に対して深く調査を行うことができます。
- どういうときにその課題に直面するか
- その頻度はどれくらいか
- その課題はどれくらい困るか
- その課題を解決するためにいくらなら費用を出しても良いと思うか
- その課題を解決する方法としてこの解決策は適切か
など、顧客の課題と用意した解決策の妥当性を実際にインタビューして聞いていきましょう。
定量調査
定性調査だけでは、インタビューした数人の意見が珍しいパターンだった際に市場全体の声をとらえ違えてしまう可能性があります。インターネット調査などを活用して、定量的な調査も実施しましょう。
- 特定セグメントのうち、課題を抱えている率
- 課題の発生頻度
- 課題解決に支払える費用の平均値
などを定量的に把握して、ビジネスの成長性が見えるような調査をすることが重要です。
PSFを実行する前に確認しておくべきポイント
上記の方法でPSF達成を目指す際には、事前に下記の3つのポイントを確認しておきましょう。
- 本当に解決したい問題なのか
- お金を払ってでも利用したい製品・サービスか
- PSFの達成の基準といえる指標は何か
各ポイントを解説していきます。
本当に解決したい問題なのか
まず、その問題・課題は顧客にとって本当に解決したい問題・課題なのかを確認しておきましょう。
「◯◯という課題はありますか?」と聞いて、「確かにありますね」といわれたとしても、それが顧客にとって本当に解決したい課題ではない可能性もあります。いわれてみれば課題ではあるけど、わざわざ時間やお金をかけてまで解決する課題ではない、というケースもあるので注意してください。
また、「課題は何ですか?」と顧客に大雑把な質問をするのも危険です。顧客が答える課題が表層的なものに過ぎず、解決の糸口が見えない可能性があります。
例えば、誰かが「朝起きられないことが課題です」と答えたとして、それならばと音の大きい目覚まし時計を提供しても適切な解決策ではないかもしれないのです。
なぜならその課題の裏側には、毎晩スマホをずっと眺めていて寝るのが遅くなってしまっているという課題が潜んでいるかもしれませんし、使っている枕が体に合っていなくて眠りが浅くなってしまっている課題が潜んでいるかもしれません。
顧客が抱えているものは、それらの結果として具体的にペイン(痛み、苦しみ、悩みなど)として表れているものなので、本質的に解決しなければならない課題はその奥に隠れています。
単純に「課題は何?」と聞いて得られた答えを鵜呑みにするのではなく、「それはなぜか」「なぜそうなるのか」と深ぼる中で原因を突き止めていきましょう。
お金を払ってでも利用したい製品・サービスか
用意した解決策が本当にお金を払ってでも利用したいものかも念入りに確認しましょう。「無料で使う分には便利かもしれないが、お金をかけるほどではない」というものは世の中にたくさんあります。
「同じ金額を別のものに使えばもっと良い解決策になるかもしれない」となったら顧客は当然別のものを使いますし、金額が高くなれば高くなるほど「これくらいの金額をかけるなら課題は放っておいて他のことにお金を使いたい」となるかもしれません。
ビジネスとして成立させるために、顧客がこの解決策にどれくらいの金額なら支払うことを許容できるかをあらかじめ把握しておきましょう。
ただし、支払える金額は顧客層によっても異なります。中学生をメインターゲットとするのと、大企業の管理職をメインターゲットとするのでは当然支払える金額は変わってくるでしょう。
お金を払ってでも利用したい製品・サービスかを検証する上では、誰をメインターゲットとするかという議論も同時進行で行うと良いです。
PSFの達成の基準といえる指標は何か
PSFには厳密な達成基準があるわけではありません。だからこそ、事前にあなたなりに達成基準を決めておくことが重要です。
例えば、商談でサービスを紹介して「ほしい」という反応をもらえた数だったり、インタビュー時にサービス構想を説明して「早く作ってほしい」といわれた数だったり、どこを基準にするかは異なります。
正確に進めるのであれば、同業界の企業やサービスを参考にしたり、実際に運営している人にアドバイスをもらうのが良いでしょう。
PSFを達成したらPMFへ移行
PSFを達成したら次にPMFを目標にしましょう。ここからは、PMFへの移行ステップを紹介します。
- 顧客の問題や課題を最低限解決する製品を作る
- 実際に顧客に提供して評価を計測する
- PMFを検証して改善を繰り返す
それぞれ詳しく見ていきましょう。
顧客の問題や課題を最低限解決する製品を作る
まずはPSFを達成したソリューションを製品に落とし込んでいきます。ベータ版のような形で作っているのであれば、しっかりデザインや挙動を定義した上でサービスとして開発を進めていきましょう。製品として提供するのであれば、その価格体系も定義していく必要があります。
顧客にとってどのような価値を提供していて、それは金額だとどのくらいの価値になるのかを試算した上で、適切な価格体系を設定しましょう。
実際に顧客に提供して評価を計測する
製品が完成したら実際に顧客に製品を提供しましょう。この際、PSFと同様にPMFについても自分の中で達成基準を定めておくことを推奨します。PMFの基準についてはいくつかありますが、1つの方法としてはNPS(ネットプロモータースコア)が挙げられます。
NPSは実際にサービスを利用した方に「このサービスを知人におすすめしたいですか?」という質問をして、10段階で回答してもらうものです。9,10で回答した方を推奨者、7,8を中立者、6以下を批判者と定義し、「推奨者の割合 – 批判者の割合」をNPSのスコアとして計算します。
ただし、NPSの数値は国民性によって左右されやすく、日本においては中立的なスコアをつける人が比較的多くなるという点に注意が必要です。
また、その他にもSean Ellis testと呼ばれる基準もあります。
こちらは利用者に対して「このプロダクトが使えなくなったらどう感じますか?」という質問をして、「とても残念である」「まあまあ残念」「残念ではない」「もう使っていない」で回答してもらう手法です。「とても残念である」の割合が40%を超えるとPMFしていると考えられています。
PMFを検証して改善を繰り返す
PMFが達成されると、一般的にはスケールの段階に入っていきます。スタートアップであればマーケティング資金や人件費を資金調達して、一気に広告宣伝費と人件費を増やして事業を伸ばしていくタイミングがこの段階です。しかし、PMFは一度達成したらそれで完了ではない、という点にも注意しておきましょう。
というのも、マーケットを構成するのは人なので、その中の人の趣向や行動、考え方や向き合っているものが変われば当然ニーズも変わります。時代によって抱える課題もさまざまですし、直近だと新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、世の中が大きく変わった出来事もありました。
うまくPMFしていて事業が伸びていたとしても、マーケットの変化によって製品が求められなくなることは多々あります。PMFを達成しているかの調査は一度達成したらストップするのではなく、半期に1回、通期に1回、といったペースで調査し続けておきましょう。
まとめ
以上、PSF(プロブレム ソリューション フィット)について解説しました。PMF(プロダクト マーケット フィット)の前段階といえるPSFですが、このPSFをないがしろにした状態でビジネスを行うと博打になってしまいます。顧客の課題と最適な解決策をしっかり定義し、PSFが達成できていることを確認した上でPMFやその後のスケールに進めていきましょう。
しかし、企業はPSFにだけ注目していれば良いというわけではありません。その他にもさまざまな指標に注目しながら製品やサービスを提供していかなければいけないのです。企業が注目すべき指標については、下記の資料で紹介しておりますので、ぜひご参照ください。
関連記事
No posts found!
監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。