PLG(プロダクトレッドグロース)とは|事例やメリットを解説
2022.04.06
近年、PLGという営業戦略によって業績を拡大させている企業が増えています。今まで日本ではSLGという営業戦略が一般的でしたが、急成長を遂げた欧米企業などを参考にPLGへの移行を考えている企業も少なくありません。
では、そもそもPLGとはどのような戦略なのでしょうか。この記事では、PLG(プロダクトレッドグロース)とは何か、SLGとの違い、PLGの事例やメリットなどを解説していきます。
これからPLGへの移行を考えている、PLGについて詳しく知りたいという方は、ぜひ参考にしてみてください。
PLG(プロダクトレッドグロース)とは
近年SaaS企業などで活用されている、従来とは異なる営業戦略がPLGです。PLGは「Product-Led Growth」の略で、プロダクトでプロダクトを売り込むという意味になります。ユーザーにプロダクトを使用してもらうことによって、使用するメリットをユーザー自身に実感してもらい、そのまま購入・契約につなげていきます。
より簡潔に説明すると、マーケティングや営業がプロダクトの一部に組み込まれているのです。
マーケティングや営業活動、顧客のサポートなどがプロダクトに組み込まれているため、企業側は営業にかける時間やコストが軽減できて、少ない手間で効率的に営業活動を行えます。
SLGとの違い
PLGと似た言葉としてSLGがあります。これは、今までの日本企業で主流とされていた営業戦略なので、聞いたことがあるという方も多いでしょう。
SLGは「Sales Led Growth」の略で、営業担当者が自社のプロダクトを販促する、一般的な営業手法です。しかし、SLGには認知→閲覧→リードナーチャリング→導入→顧客化というプロセスが必要なことから、「工数が多い」「非効率的」という意見もありました。その結果、注目され始めたのがPLGです。
PLGはSLGよりも大幅に工数を削減できて、その分の人件費や労力も必要なくなるため、営業効率が飛躍的にアップすることが期待できます。
PLGの事例
PLGとは何かについて理解したところで、実際にPLGを実行しているSaaS企業の事例について見ていきましょう。日本でも有名なZoomやSlackなどの欧米企業が、PLGを導入しています。ここでは、それぞれの事例を紹介していくので、導入を検討している方は参考にしてみてください。
Zoom
Zoomは、ビデオ通話やチャットなどのサービスを提供している企業です。オンライン会議やミーティングなどでZoomが提供しているサービスを利用している方も多いでしょう。そんなZoomは、PLGによって急成長を遂げたとされています。ZoomのPLGに関するエピソードには、下記のような例が挙げられます。
- 開発当初はエンジニアの採用にこだわり、営業やマーケティングよりもプロダクト開発を最優先した
- もっとも効率良く会議が進められるのが45分というデータを元に40分の無料版を制作した
ユーザーが実際に無料でZoomを利用して「あと少し時間がほしい」と思うことで、ユーザー自身が自然に有料版への移行を検討するように設計されています。これによって、少ない労力でマーケティング・営業活動が行えるのです。
Slack
SlackもZoomと同様に、PLGを導入しています。Slackは仕事に関するやりとりを一箇所でまとめて行えるビジネスチャットツールを開発・提供している企業です。
無料版と有料版でメッセージ履歴の表示件数やセキュリティ機能に違いを作ることで、ユーザー自身が有料版を検討するようにするなど、こちらもプロダクトそのものが営業活動を行っています。
取引先との連絡方法としても使用されているため、企業間でどんどんニーズが広がっていくというのも、SlackのPLGの大きな特徴といえるでしょう。
PLGのメリット
先ほども少し解説しましたが、PLGはSLGよりも大幅に工数を削減できるのがメリットです。PLGを導入すれば、営業担当者が顧客を探して製品を紹介し、メリットや活用方法を提示しながら契約を促すといった工程が丸ごと必要なくなります。
それによって、今まで契約にかかっていた時間や費用が空いて、その時間で他の業務に取り組めるのです。営業活動の無駄がなくなり、効率的に業務が進められます。
PLGはSaaSビジネスに向いている営業戦略なので、今後も導入する企業が拡大していくことが予想できます。
PLGを実現するための要素
PLGのメリットについてはご理解いただけたかと思いますが、実際にPLGを導入して実現していくにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは、PLGをより深く理解して実現するための4つの要素を解説していきます。
- プロダクト
- マーケティング
- プライシング
- カスタマーサクセス
それぞれ詳しく見ていきましょう。
プロダクト
前述した通り、PLGはプロダクトそのもので売り込む営業戦略なので、プロダクト(製品)自体に価値が求められます。ユーザーが価値を感じるプロダクトを提供することが大切です。価値のあるプロダクトの条件としては、下記のような内容が挙げられます。
- ユーザーの悩みを解決できる
- 価値を素早く届けられる
- 不要なものは取り除く
- プロダクトなしでは仕事にならないようにする
その他にも、使いやすいシンプルな構造・デザインになっていることなども必須といえます。そのサービスがないと業務に支障が出るような重要なプロダクトを提供できれば、多くのユーザーからの支持を得られるでしょう。
マーケティング
PLGでは、マーケティングもプロダクトの役割の1つです。プロダクト自体がユーザーに認知してもらうためのものとなっているので、プロダクトを開発する際には以下の点にも注意しなければいけません。
- プロダクトそのものが集客の媒体となる
- ユーザー間でプロダクトの価値が広まっていく
プロダクトを使用したユーザーが、周りに広めたくなるようなサービスを提供できれば、プロダクトそのものがマーケティングの役割を果たしているといえるでしょう。
プライシング
PLGではプライシング(価格設定)も気を付けるべきポイントです。SaaSサービスには無料版と有料版が用意されており、有料版の中にも料金が異なる複数のプランがあるといった形式が一般的です。
無料版を用意することで、初めてプロダクトを利用する人へのハードルを下げて、気軽に利用してもらいやすくなります。プロダクトの価値を実感してから有料プランのさらなるメリットを訴求することで、ユーザー自身が確かな満足感を持って移行を検討してくれるでしょう。
また、複数のプランを提示すれば、ユーザーがさらに深くサービスを利用したいというときに拡張しやすくなります。プロダクトの利用率や利用方法などに応じて提案していけば、アップセルも期待できます。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセスとは、顧客を成長や成功に導くために、顧客からアクションがなくても企業側から積極的にアドバイスをすることを指します。カスタマーサクセスはSaaS企業にとって重要なポジションですが、PLGでも大きな役割を果たします。
例えば、プロダクトの使い方がいまいち分からないといった顧客が、問い合わせをせずにそのまま使用をやめてしまうケースは少なくありません。そういった顧客を取りこぼさないためにチュートリアルを充実させるといった施策を立てて、実行していくのがカスタマーサクセスです。
顧客のサポートをして満足度をアップさせて、より深くプロダクトを利用してもらう、周りに広めてもらうのが、カスタマーサクセスの役割といえます。
PLGに役立つMOATフレームワークとは
PLGについて詳しく理解したところで、PLGに役立つMOATフレームワークを紹介していきます。MOATフレームワークは、PLGが自社に最適な戦略かどうかを判断するためのものです。下記の4つの要素の頭文字から名前が付けられています。
- Market strategy
- Ocean conditions
- Audience
- Time-to-value
それぞれの要素を詳しく見ていきましょう。
Market strategy
Market strategyは日本語で市場戦略のことです。MOATフレームワークでは、まず企業の市場戦略をプロダクトの価格や優位性といった観点から分類して分析していきます。PLGを検討しているSaaS企業が目指すべき戦略としては、下記の2つが挙げられます。
- 既存のサービスよりも安価で優位性が高い「ドミナント戦略」
- 既存のサービスよりも安価であえて優位性を低くした「ディスラプティブ戦略」
安価で優位性が高いプロダクトが良いのは当然ですが、なぜあえて優位性を低くしたプロダクトが良いのかと疑問に思う方もいるでしょう。理由としては、既存のサービスよりもダウングレードしたプロダクトを提供すれば、操作性をシンプルにした初心者が扱いやすいサービスにすることが可能になるからです。
まずは、自社の提供するプロダクトがこれらの戦略に当てはまるかをチェックしましょう。
Ocean conditions
Ocean conditionsでは、ブルーオーシャンやレッドオーシャンなどの市場環境に注目します。競争相手のいない新しい市場であるブルーオーシャンの場合、まず顧客に知ってもらうところから始めないといけないため、PLGにはあまり向いていません。
PLGに向いているのは、顧客からの認知度が高く市場が競争状態にあるレッドオーシャンです。理由としては、すでに既存のプロダクトを利用していて不満を抱えている層にアピールできる、顧客の悩みを把握しやすいなどが挙げられます。
Audience
Audienceはプロダクトを利用するエンドユーザーのことです。PLGは顧客にできるだけ早く価値を感じてもらう必要があります。そのため、自社のプロダクトのユーザー層を把握して、PLGに適しているかを判断しましょう。
例えば、以下のような観点から注目してみてください。
- ユーザー個人で導入を決定できるか(会社側に導入の許可を得る必要があるか)
- プロダクトが解決する問題は個人単位か会社単位か(業務に関する問題か、経営に関する問題かなど)
こういった観点から、プロダクトのエンドユーザーがPLGとSLGのどちらに向いているのかをチェックしてみましょう。
Time-to-value
Time-to-valueは、ユーザーがプロダクトに価値を感じるまでの時間を指します。先ほども解説した通り、PLGは価値を実感するまでの期間は短ければ短いほど良いです。期間が長くなってしまうと、そのまま使わなくなってしまったり契約を中断されてしまったりします。
PLGを導入する場合には、下記の点に注目しましょう。
- ユーザーの身近な問題を解決できるプロダクトになっているか
- プロダクトはユーザーにとって使っていやすいか
- 問題を解決するまでのフローは明確か
ぜひ、MOATフレームワークの4つの要素を検討し、自社にPLGが適しているかを判断してみてください。
PLGに必要とされるKPI
ここからは、PLGに必要とされるKPIについて解説していきます。PLGの導入を検討している方は、これらの指標を参考にKPIを設定してみてください。
- MRR
- CAC
- LTV
- Magic Number
1つずつ解説していきます。
MRR
MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)は、毎月決まって発生する売上を指します。毎月発生する料金なので、初期費用や追加導入費用などは含まれません。月額制の料金体系が多いSaaSサービスでは特に注目されやすい指標で、MRRが高い水準を保っている企業ほど、事業が安定していて成長性が高いと判断できます。
MRRについては、「SaaSの主要KPI【MRR】とは?概要や計算方法を分かりやすく解説」の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
CAC
CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価)は、1人もしくは1社の顧客を獲得するために必要なマーケティングや営業のコストのことです。低いコストで顧客が獲得できればそれだけ利益が上がるので、CACを下げるのを目標としている企業も多い傾向にあります。
CACについてさらに知りたい人は、「SaaSの主要KPI【CAC】とは?計算方法や改善方法を解説」をご参照ください。
LTV
LTV(Life Time Value:生涯価値)は、SaaS企業においては「顧客生涯価値」とも呼ばれます。1人もしくは1社の顧客が、契約を開始してから終了するまでにどのくらいの利益をもたらしてくれるのかを表す指標です。SaaSのような、顧客と長期的な関係を築くことを目標としているビジネスモデルでは、特に重要な指標といえます。
LTVについては、「SaaSの主要KPI【LTV】とは?重要性や計算方法を解説」の記事で詳しく紹介しております。
Magic Number
Magic Numberとは、営業やマーケティングにかかるコストに対しての販売効率を示す指標です。SaaSなどの契約が前提となるビジネスで活用される傾向にあります。営業やマーケティングの効果を可視化できる、状況に応じた戦略の立案ができるなどの理由から、注目されています。
Magic Numberは「SaaSビジネスで重要なSaaS Magic Numberって何?」で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
PLG(プロダクトレッドグロース)は、プロダクトでプロダクトを売り込む新しい営業戦略です。従来の営業担当者が自社のプロダクトを販促するSLGと比べると大幅に工数を削減できることなどから、さまざまな欧米企業で導入されています。
PLGを実現するためには、プロダクト、マーケティング、プライシング、カスタマーサクセスの4つの要素が大切です。それぞれの要素に注目しながらPLGを導入してみてください。
また、PLGではKPIを設定することも重要です。ここで紹介した以外にもPLGに関係するKPIが存在するので、気になる方はぜひ下記の資料を参考にしてみてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。