KPIの月次運用のポイント

2021.07.16
KPIの月次運用のポイント

ここではKPIを活用した月次の運用方法のポイントについて書いています。

ただし、 KPIツリーを作っていることを前提にしていますのでご注意ください。

 

KPIツリーで予算をつくる

KPIツリーと赤色の数字をご覧ください。

 

このようにKPIごとに、計画(赤色の数字)を立てることで、売上予算、費用予算、利益予算が出来上がるようにしましょう。

 

このKPIツリーで言えば、右から左に向かって順番に計画を立てていくイメージです。

 

  • テレアポ数の目標は1,000で、そのアポ率は1%を目標にしよう。
  • そうすると商談数は10になるはずなので、成約率の目標を20%とすれば、顧客数は2になる。
  • 顧客数が2で、顧客単価の目標を10にすれば、売上予算は20になる。

 

 

という具合です。

 

その上で、この売上20が本来目標とする予算に足りないのであれば、各KPIの目標値を再度見直しながら、売上20を達成できるような各KPIの目標値を決定します。



もちろん逆でもOKです。


利益予算が決まっていて、その内訳として売上予算と費用予算が決まってる。

そして、それを達成するために必要な各KPIの目標値を、左から右に向かって順番に決めていくイメージです。

 

  • 売上予算が20で、顧客単価は一旦今のまま据え置きしたとして10とすると、売上予算を達成するには顧客数は2必要になる。
  • 顧客数2を獲得するためには、いまの成約率のアベレージが20%なので、商談数を10つくる必要がある。
  • 商談数を10つくるためには、テレアポ数1,000とアポ率1%を目指そう。

 


という具合です。



いずれでもOKなのですが、要は、各KPIの目標値と、予算を結びつけることが重要です。

 

なお、KPIツリーを作る際に四則演算で作ることによってこれが可能になります。

そうすることで、1つのKPIが変動するとその他のKPIがどのように連動するかがわかりやすくなります。

 

このようにして毎月の計画を立てていきましょう。

次がその完成形のイメージです。

 

このように、「KPIの上に数値でストーリーが乗っている」状態を作りましょう。

ただ単に「KPIや数字が並んでいる」状態よりも、圧倒的に、直感的に理解しやすく共通認識も持ちやすくなります。

チームで仕事をする上では、この「共通認識」が本当に重要ですよね。


重要なので繰り返しますが、KPIが「無味乾燥な数値の羅列」のままなら、それは単なる「実績報告」で終わってしまいがちです。

しかし、KPIを過去ではなく未来を見据えて活動するための「ロジック」として捉えることができれば、KPIは「ビジネス上の課題を解決するストーリー」へと変わるはずです。

 

 

 

複数パターンの計画をつくる

KPIツリーをベースにして計画を作ったならば、次はぜひ複数パターンの計画を作ってみましょう。

赤字が先ほどの計画(仮に「標準計画」と呼びます)ですが、これをベースに、

 

  1. テレアポ数を2,000社から2,500社に増やそう
  2. アポ率が標準計画と同じ1%とすると商談数が25社になる
  3. 成約率が標準計画と同じ20%とすると顧客数が5社になる
  4. 顧客単価は標準計画では10だったが12にしよう
  5. そうすると売上は60になる
  6. テレアポ数の増加に伴ってセールスの費用が標準計画に比べて10増える
  7. マーケの費用は変わらないのでトータルの費用は25になる
  8. 結果として利益の計画値が標準計画では25だったが35になる

 

というような別パターン(以下、「シナリオ」と呼びます)の計画を作ってみましょう。

 

たとえば、次のようなシナリオが考えられます。

 

  • 標準シナリオと強気シナリオと弱気シナリオ
  • 外部公表用シナリオと内部目標用シナリオ
  • VC向けファイナンス用シナリオ
  • 上場準備用シナリオ

 

複数のシナリオごとに計画をシミュレーションしてみることで、それぞれの計画の精度がより高まっていくはずです。

 

KPIの優先順位を決める

 

上下のKPIツリーを見比べてみてください。

 

当然、下のKPIツリーのように、KPIの数が増えれば増えるほど、その数だけKPIのデータをとってこないといけないのでデータ集約に時間と手間がかかります。

 

また、そのデータがもともとあるのであればとってくるだけでいいかもしれませんが、そのデータがそもそもないものであれば、そのデータを取れるように業務フローを見直したりしないといけません。

 

つまり、運用コストが重くなるということですね。

最悪の場合、運用が大変すぎて、KPIマネジメントが形骸化してしまったり、運用されなくなったりします。

 

そこで優先順位をつける必要があります。

 

優先順位を決める方法は2つあります。

① 統計分析を行うか

② 数字遊びを行うか

です。

 

① 統計分析については、その名の通り、各KPIの実績データと一定期間分取得して、その取得したデータをもとに統計分析を行うことで、KPIごとの重要度、つまり、優先順位をロジカルに計算させることができます。

 

では、② 数字遊びで行う方法についてです。

先ほど、複数パターンの計画を作りましょうという内容を書きました。

その中で、色々と各KPIの数字を触ってシミュレーションしていると、自然と重要なものが見えてきます。

 

先ほどの2つのKPIツリーのうち、下のKPIツリーであれば、6つのKPIの数値をいろいろ変動させてみて、KGIである売上にどれくらいインパクトがあるかを見るということです。

 

次のKPIツリーでもう少し具体的に考えてみましょう。

たとえば、

 

(ア)アポ率を頑張ってあげたとすると、あと1%くらい上がる可能性がある。

(イ)テレアポ数は、今の人員であれば、あと500社は増やせそう。

 

とすれば、

 

  • (ア)のようにアポ率が1%上がって2%になれば、テレアポ数が今のまま1,000だとすると商談数が10増えて20になり、成約率が今のまま20%だとすれば顧客数が2増えて4になり、顧客単価が今のまま10だとすれば売上が20増えて40になりそうだ。

 

  • (イ)のようにテレアポ数を500増やせば、アポ率が今のまま1%だとすると商談数が5増えて15になり、成約率が今のまま20%だとすれば顧客数が1増えて3になり、顧客単価が今のまま10だとすれば売上が10増えて30になりそうだ。

 

といった具合に、各シナリオの数値を見比べます。

そして、数値の大きい方、つまり(イ)の方が売上に対するインパクトが大きいので、アポ率が優先順位の高い、という要領で優先順位を決めていきます。

 

ここでた非常に単純化したカタチでご説明しましたが、たとえば、(イ)のシナリオでいえば、

 

  • テレアポ数を今の人員で500増やしたら、1件1件にかけることができる工数が減ってしまって、アポ率が1%を維持できずに0.8%になってしまう可能性がある。

 

といったことが考えられるので、実務的にはもう少し複雑化します。

 

また、厳密に言えば、仮に利益をKGIとしたならば、費用との関係性を踏まえて優先順位をつける必要があります。

 

たとえば、(ア)のシナリオでいけば、

 

  • トークスクリプトを変えたりコールする時間帯を変えたりといった施策になり、追加的なコストがほとんどかからないが、(イ)のシナリオでいけば、テレアポ数を増やしただけアポインターの工数が増えて人件費が追加的にかかってきてしまう。

 

といったように、各シナリオごとの費用も考慮してシミュレーションしてみると、より厳密に、利益に対する優先順位を導き出せるでしょう。

 

KPIツリーに沿って予実分析する

たとえば、PLの売上が予算未達だったとしても、なぜそうなったのか、どうすればいいのか、がわかりにくいですよね。

PLの情報、つまり、会計の情報だけでは細かいことまではわかりません。

そこで、その要因をKPIで分析しましょう。

 

次のKPIツリーを見てください。

赤字が計画、緑字が実績だったとします。

 

利益の未達成が2となっています。

その原因は、費用は計画通り15となりましたが、売上の実績が18で、計画20に対して未達成2となっていることです。


ではその売上の未達成2の原因はというと、顧客数の実績3は計画2を上回っていますが、顧客単価の実績6が大きく計画10を下回っていることが原因です。


このように計画の未達成原因がはっきりとわかります。


そうすると、

 

  • 顧客単価がなぜこれほどまでに下がってしまったのか
  • どのようにして顧客単価をあげていくのか


というように改善策も具体的に考えやすくなりますね。


ここで、ポイントとしては、顧客数の実績3は計画2を上回っていますが、このように、あるKPIの結果が良かったとしても油断しないでください。


この顧客数をさらに深掘りしていくと、

 

  • 成約率の実績20%は計画通りですが、商談数の実績15が大きく計画10を上回っている。

 

  • さらに、商談数が良かった原因は、テレアポ数の実績2,000が計画1,000の2倍も達成していることが大きな原因で、一方の、アポ率の実績1%が計画の50%しか達成していない。

 

ということがわかります。


このようにあるKPIの結果が良かったとしても、さらに深掘りすれば(KPIツリーを右へ右へとたどっていけば)、

 

  • 良かったKPIと悪かったKPIがあって、良かったKPIが悪かったKPIを上回っているからこそいい結果につながった。

 

ということがよくあります。

こうなれば、悪かったKPIの原因分析と改善をする必要がありますよね。


つまり、顧客数の実績が良かったからといってそれで終わらないことが大切です。

KPIツリーに出てくるすべてのKPIについて、計画に対して実績がどうだったのかという分析をしていきましょう。

 

そんなにシンプルにいけるものなのか?と言う質問をよくいただきます。

お答えとしては、「いけます」です。

 

正確に言うと、100%正しいものなんて作れません。

ビジネスはイレギュラーの連続なので。

ただ、その中でも、何が大事なのかの本質を見極めて、社内に対しても、外部に対しても蓋然性を持って説明できることが大切です。

 

月次会議を効率化する

毎月の定例会議で、先ほどのようにKPIツリーに沿って予実分析しながら、前月の業績の振り返りと当月のアクションを決めているとします。

管理部長)
前月の利益は目標5に対して3になったので未達成2でした。その原因は、顧客単価が4未達成であったことが主な要因です。

社長)
営業部長、顧客単価が未達成になった原因は何だ?

営業部長)
・・・(考え中)・・・
おそらくアップセルやクロスセルがうまくいかなかったのと、一部値引きをしてしまったのが原因じゃないかと思います。

社長)
では改善策と今月のアクションはどうする?

営業部長)
・・・(考え中)・・・
安易な値引きをしてしまっていないかを確認しつつ、アップセルやクロスセルの強化を営業部内で徹底します。

 

 

このようなやりとりになってしまっていませんでしょうか?

問題点をいくつかピックアップしてみましょう。

社長に原因や対策を聞かれてから営業部長がその場で考えているため、その考えている間、他のメンバーは待っていないといけないので時間がもったいない。

原因や対策を聞かれてその場で考えているため、推測で話してしまって、事実に基づかない正しくない原因や対策を報告してしまっているかもしれず、そうだとすると、出席メンバーの中で誤った共通認識ができてしまって、誤った経営判断をしてしまう恐れがある。

このようになってしまう大きな原因としては、

利益目標未達成の主な原因が顧客単価にあって、かつ、その未達成が4であることを、営業部長はその会議に出席して初めて知った。

ということが挙げられます。
その場で初めて知って、その場で問いただされ、その場で答えざるを得なかったので、先ほどのような問題が起きやすくなります。

その対策としては、

この図のような状態であること、つまり、KGIの達成状況と、それに伴う各KPIの達成状況を、会議の事前に全出席者が認識して、自らが責任を負っているKPIについて、

 

  • 達成しているならばその原因
  • 未達成ならばその原因と今後の対策

 

を事前に事実データを確認しながら考え、準備した上で会議に臨むことです。

 

また、月次会議ではこのようなことも起こってないでしょうか?

社長)
前月、アポ率の改善について議論したはずなんだけど、どんな議論になってどうすることになったんだっけ?

営業部長)
たしか、スクリプトを改善するということになったはずです。

社長)
そうか、で、その結果はどうだった?

 

「たしか」というのがちょっと曖昧で心配になりますよね。

もしくは、このような会話はないでしょうか?

社長)
たしか、半年くらい前に、成約率が急に下がった月がなかったっけ?

営業部長)
えーっと、そうですね、ありましたね。

社長)
あれ、原因は何でどうしたんだっけ?

営業部長)
たしか・・・

 

先ほどの例であれば前月の話なのでまだ記憶にあるかもしれませんが、この例のようにさらに過去のことになり、それが6ヶ月前にもなってくると、さらに曖昧になってしまいますよね。

このような曖昧な状況の中で議論を進めたり経営判断をするのはちょっと危険かもしれません。

もっと問題なのは、そもそも前月(または過去)の振り返りがなされないまま、当月の議論が進んでいってしまうことです。
こういったことが常態化すると、議論しっぱなり、言いっぱなし、決めっぱなし、になってしまって、PDCAがうまく回らなくなってしまう恐れがあります。

そこでぜひ議事録を取っておきましょう。

  • KPIごとの達成・未達成の原因と対策
  • KPIごとに取り組んだ内容とその結果

といったことをしっかりと残しておくことでしっかりと振り返りをしながらPDCAを回すとともに、ノウハウがしっかり蓄積されていくはずです。

 

近い未来を予測する

次のKPIツリーを見てください。

  • テレアポしてから商談に至るまでの平均的なリードタイムが1ヶ月
  • 商談してから成約に至るまでの平均的なリードタイムが1ヶ月


だったとします。

そして、

 

  • 4月のテレアポ数が計画2,000(赤字)に対して達成率75%の実績1,500(緑字)


だったとします。


そうすると、

  1. テレアポから商談までのリードタイムが1ヶ月なので、5月の商談数は、アポ率が1%のままだとすると15(=1,500×1%)になりそうだ。
  2. そして、5月の商談数が15になってしまったとすると、商談から成約までのリードタイムが1ヶ月なので、6月の顧客数(成約数)は、成約率が20%のままだとすると3(=15×20%)になってしまいそうだ。
  3. そうなると、顧客単価が計画通りの10だとすれば、6月の売上は、計画40に対して30になってしまう可能性が高そうだ。

と言ったことが予測できます。



このようにKPIツリーとリードタイムというKPIを組み合わせれば、

 

  • 今のままだったらどうなるのか?

 

というシミュレーションが簡単にできます。


とてもシンプルな例でお話ししましたが、KPIツリーとリードタイムのKPIの粒度をもっと細かくしていけば、さらにシミュレーションの精度が上がっていくでしょう。


このようにシミュレーションできれば、

 

  • 6月の売上が、計画40に対して30になり、10未達成になる可能性が高い。

 

ので、その対応策とすれば、たとえば、

 

  • 5月の商談数を増やすために、5月のテレアポ数を増やしたりアポ率を高めたりしても、(アポから成約までのリードタイムが合計2ヶ月なので)7月の売上にはプラスになるが、6月の売上に対しては効果が薄い。

 

  • 5月の商談数を増やすことではなく、すでにつくった5月の商談に対する成約率を高める必要がある。

 


という施策が考えられます。


では成約率を何%まであげる必要があるでしょうか?

これも簡単に逆算で計算できます。

 

  • 計画の売上40を達成するためには、顧客単価が10のままだとすると、顧客数(成約数)を今のシミュレーションの3から4にする必要がある。
  • 商談数が15しかないので、顧客数4を達成するためには、成約率は27%(=4÷15)を上回る必要がある。

 


という具合です。

その上で、

 

  • 成約率を20%から27%にするにはどうしたらいいか?

 

という具体的施策をチームで話し合ってアクションしていくという流れです。



また、顧客単価を高める施策も考えられます。

 

  • 5月の商談数が15で、成約率が20%のままだとすると、6月の顧客数は3になる可能性が高い。
  • 計画の売上40を達成するためには、顧客数が3だとすると、顧客単価を14(=40÷3)以上にする必要がある。

 


という具合です。

その上で、

 

  • 顧客単価を10から14にするにはどうしたらいいか?

 

という具体的施策をチームで話し合ってアクションしていくという流れです。


このように、KPIを活用して、

  1. 今のままだったらどうなりそうかを予測する。
  2. その予測と計画との差分(特に足りないところ)をはっきりさせる。
  3. その差分をどのようにして解決するかを考えてアクションする。

 

これを繰り返すことで、計画の達成度は上がるはずです。

 

 

 

着地見込みをシミュレーションする

先ほどは、リードタイムを中心とした近い未来のシミュレーションでしたが、次はもう少し先の未来、つまり、今年度末までをシミュレーションしてみましょう。

 

たとえば、12月決算の会社だとして、1月から6月までの実績が次のとおりだったとします。

 

1月 2月 3月 4月 5月 6月
売上 20 24 33 40 33 45
 顧客単価 10 12 11 10 11 9
 顧客数 2 2 3 4 3 5
  成約率 20% 15% 23% 29% 25% 31%
  商談数 10 13 13 14 12 16
   アポ率 10% 11% 9% 13% 10% 11%
   テレアポ数 1,000 1,200 1,400 1,100 1,200 1,500

 

また、7月以降の当初の計画が次のとおりだったとします。

 

7月 8月 9月 10月 11月 12月
売上 44 44 60 72 78 78
 顧客単価 11 11 12 12 13 13
 顧客数 4 4 5 6 6 6
  成約率 20% 20% 20% 20% 20% 20%
  商談数 20 22 25 30 30 30
   アポ率 10% 10% 10% 10% 10% 10%
   テレアポ数 2,000 2,200 2,500 3,000 3,000 3,000

 

並べてみましょう。

 

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
売上 20 24 33 40 33 45 44 44 60 72 78 78
 顧客単価 10 12 11 10 11 9 11 11 12 12 13 13
 顧客数 2 2 3 4 3 5 4 4 5 6 6 6
  成約率 20% 15% 23% 29% 25% 31% 20% 20% 20% 20% 20% 20%
  商談数 10 13 13 14 12 16 20 22 25 30 30 30
   アポ率 10% 11% 9% 13% 10% 11% 10% 10% 10% 10% 10% 10%
   テレアポ数 1,000 1,200 1,400 1,100 1,200 1,500 2,000 2,200 2,500 3,000 3,000 3,000

 

1月から6月までの実績推移を見ていると、7月以降の計画は明らかに見直した方がいいですよね。

 

このように、実績の推移を見ながら、随時、その後の見込みをシミュレーションし直しましょう。

 

たとえば、次のようにシミュレーションし直したとします。

 

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
売上 20 24 33 40 33 45 40 50 55 72 84 104
 顧客単価 10 12 11 10 11 9 10 10 11 12 12 13
 顧客数 2 2 3 4 3 5 4 5 5 6 7 8
  成約率 20% 15% 23% 29% 25% 31% 25% 28% 25% 24% 26% 27%
  商談数 10 13 13 14 12 16 16 18 20 25 27 30
   アポ率 10% 11% 9% 13% 10% 11% 10% 10% 10% 10% 10% 10%
   テレアポ数 1,000 1,200 1,400 1,100 1,200 1,500 1,600 1,800 2,000 2,500 2,700 3,000

 

テレアポ数の実績推移をみると、当初計画の達成は当面難しそうなので、テレアポ数の見込み値を下げよう。

アポ率は、当初計画に近い水準で推移しているので、そのままにしよう。

成約率は、逆に当初計画を上回る水準で推移してきているので、見込み値を少し上げよう。

顧客単価は、当初計画の通りにアップセル・クロスセルは当面難しそうなので、年度末に向けて当初の計画値を達成できるようにしていこう。

 

このようにシミュレーションした結果の、1月から6月の実績と、7月から12月の見込みを合計したものを「着地見込」と呼ぶことにします。

 

そして、その着地見込と当初計画を比較してみたら、次のようになったとします。

 

当初計画 着地見込 差異 達成率
売上 700 600 -100 86%
 顧客単価 12 11 -1 92%
 顧客数 58 54 -4 93%
  成約率 20% 25% +5% 125%
  商談数 290 214 -76 74%
   アポ率 10% 10% 0% 100%
   テレアポ数 29,000 21,000 -8,000 72%

 

つまり、

 

  • 今のままだと売上が100未達成になりそうだ。
  • その原因としては、顧客単価と顧客数が、ともに少し未達成になりそうであることが原因だ。
  • 顧客数が未達成になりそうな原因としては、成約率には問題なさそうなので、商談数が大幅に未達成になりそうなことが原因だ。
  • 商談数が未達成になりそうな原因としては、アポ率は問題なさそうなので、テレアポ数が大幅に未達成になりそうなことが原因だ。

 

といったことがわかります。

 

その上で、当初計画を達成するためには、たとえば、

 

テレアポ数を残り6ヶ月(7月から12月)でさらにリカバリーして増やす必要がある。

ただ、急に増やすには限界があるので、アポの取り方を見直してアポ率を少しでも高める施策を考えよう。

成約率は今のところ問題ないので今のままのアクションを続けつつ、その成約率を下げないようにしながら、顧客単価をもう少し上げていく必要があるな。

 

といったように、具体的なリカバリーを考え、その上で、再度シミュレーションをし直します。

これを繰り返して、着地見込が当初計画に限りなく近づく、または達成できる目標値と施策を決めていきます。

 

なお、シミュレーションする際は、複数のシナリオを想定して、複数のシミュレーションを同時にしてみると、早めに着地点が見つかるかもしれません。

 

着地点が見つかったら、あとはそれに沿ってアクションをし、その目標値通りにいかなければ、再度同じようなことを繰り返すというサイクルを回していきます。

 

部門間の連携を密にする

「ミクロなKPIは結構達成しているけど、マクロなKGIが全然達成できていない」というようなことはありませんか?

 

たとえば、

 

  • マーケティング部のKPIは達成できているけど営業部のKPIが達成できていない
  • 営業部のAチームは達成しているけどBチームが達成できていない
  • その結果、事業全体としての売上というKGIの目標が達成できていない

 

といったような状況です。

 

ビジネスの現場においては、営業・マーケティング・経営管理など、部署ごとにKPIを個別に管理していて、部署ごとの部分最適な経営になってしまっているケースが多く見受けられます。

 

  • 営業部は営業チームで、SFA(営業支援システム)やエクセルなどを使って営業のKPIを追っている。
  • マーケティング部はマーケティング部で、MA(マーケティング支援システム)やGoogleAnalyticsやスプレッドシートなどを使ってマーケティングのKPIを追っている。
  • 経営管理部は経営管理部で、財務会計システムや予算管理システムを使って会計データや予算データの管理を行っている。

 

次のKPIツリーで考えてみましょう。

 

今月の商談数の目標が150社で、その内訳として、テレアポからの商談が50社(担当はインサイドセールス部)、Webからの商談が100社(担当はマーケティング部)だったとします。

 

そして、Webからの商談の進捗がよくなくて、80社になりそうだったとします。

 

この時、1つの解決策としては、Webからの商談の未達成見込み20社を、テレアポからの商談を20社増やすことでカバーすればいいですよね。

 

つまり、マーケティング部の未達をインサイドセールス部がカバーするということです。

 

しかし、部門ごとにバラバラにKPI管理をしていて部門間の連携が取れていないと、インサイドセールス部はインサイドセールス部で自部署の目標である50社だけを追っていて、マーケティング部はマーケティング部で未達の20社を何とかリカバリーしようと奮闘するでしょう。

 

しかし、マーケティング部が一丸となって頑張って疲弊した割には結局90社になってしまって目標未達成になってしまう。

一方、インサイドセールス部の方は目標50社を達成できて、少し余裕があったので別のことにリソースを割いていた。

その結果、事業全体としての商談数の目標150が達成できずに140になってしまった。

 

そうなると結局、事業全体としては今月の目標が未達成になってしまうでしょう。

 

部門横断的に、全体最適な目線でKPIマネジメントができていないことが失敗の原因です。

 

つまり、インサイドセールス部は緑枠のKPI、マーケティング部はオレンジ枠のKPIしか見てない(見えていない)のでしょう。

 

これは何も営業部とマーケティング部だけのことではなくて、

 

  • 会社としてはA事業とB事業がある
  • 事業拠点としてはC事業所とD事業所がある
  • 営業部としてはEさんとFさんとGさんがいる

 

といった場合も同じことが起こりえます。

 

平たくいうと「セクショナリズム」による問題ですね。

このセクショナリズムの問題がKPIマネジメントでも起こってしまいます。

 

そもそも企業に対する顧客の要求はクロス・ファンクショナル、つまり、部門横断的なので、コストの問題にせよ、品質や納期の問題にせよ、一つの機能、一つの部門だけで解決できるものではないはずです。

 

そこで、全社的な経営課題を解決するために、事業部や役職に関わらず、時には社外からも人材を集めてクロス・ファンクショナル(機能横断的)に事業運営していく必要があるでしょう。

 

そのためには、

 

  1. 各部署のKPIを集めてKPIツリーとしてまとめる
  2. 各部署が自部署のKPIだけではなくKPIツリーを使って全体のKPIの状況を理解する
  3. 全体の目標を達成するために部門横断的にリカバリー策を考えて行動する

 

ことが大切ですね。

 

そうすることで、先ほどの例でいえば、マーケティング部でのWebからの商談獲得が20社足りなさそうなので、たとえば、

  • インサイドセールス部でのテレアポからの商談獲得を20社増やしてカバーしよう。
  • インサイドセールス部とマーケティング部から供給される商談数が150社から130社になりそうなので、セールス部の方で先月と先々月の商談をもう一度洗い直し、追加で20社の商談をつくり直して成約数30社を確保しよう。
  • 商談数の見込みが130になってしまって仮に成約率が20%のままなら、成約数は26社になってしまう可能性がある。それでも売上300を達成するには、成約単価を10から12に上げていく必要があるので、アップセルやクロスセルの施策を考え直そう。

 

というようなリカバリーが可能かもしれません。

 

その他、たとえば、

 

 

「マーケで新規リード獲得数が未達成になりそうなので、インサイドセールスで架電数を増やして、フィールドセールスへの商談供給量を確保しよう、そうすることで、全社的な売上目標をみんなで達成しよう。」

 

「マーケティングでのいまのリード数の増加傾向からすれば、セールスでの商談数が増えていく見込みだけどいまの営業の生産性でまわせるのか?いや、まわせなさそうなので、早めに営業マンを採用をしていこう。」

 

「エンジニアの稼働率がこんなに下がっていっているまた新規採用するのか?いや、一旦新規採用は止めておこう。」

 

「Webチャネルより代理店チャネルの方が顧客獲得単価が下がっていく傾向にあるので代理店へのフォローを強化しよう。」

 

と言ったように、組織の壁を超えて、組織横断的な意思決定やマネジメントができるようにしましょう。

 

繰り返しになりますが、部署ごとのKPIが目標達成していても、事業全体のKGIが達成できていなければ決して喜べないですよね。

 

全部署の全員が、KGIという同じ目標に向かって連携し合いながら目標を達成していくことが重要です。

 

 

執筆者

広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長

プロフィール

京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。

公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。

成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。

講演実績

株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。

論文

『経営指標とKPI の融合による意思決定と行動の全体最適化』(人工知能学会 知識流通ネットワーク研究会)

特許

「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)

アクセラレーションプログラム

OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。

取材実績

日本経済新聞、日経産業新聞、フジサンケイビジネスアイ、週刊ダイヤモンド、Startup Times、KANSAI STARTUP NEWSなど。

著書

『飲食店経営成功バイブル 1店舗から多店舗展開 23の失敗事例から学ぶ「お金」の壁の乗り越え方』(合同フォレスト)

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