IPOのためには予算管理が大切!予実を管理する方法を紹介
2022.03.13
会社経営を行う上で、将来的にIPO(株式上場)を見込んでいる中小企業の経営者の方は少なくないのではないでしょうか。
しかし、「IPOのためにどんな点に気をつければ良いのか分からない」、「今の予算管理で十分なのかが不安」と考えてしまう方もいらっしゃると思います。
そこで、当記事では、IPOを見据えた予算管理やその具体的な方法について解説していきます。これからIPOを見据えてスタートしたいと考えている経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
IPO(株式上場)とは
IPOとは「Initial Public Offering」の略語で、株式を証券取引所へ新規公開し、市場を通して取引できる状態にすることを指します。
未公開時は経営者の親族や、特定の株主のみが保有していた株式をIPOによって公開(上場)すれば、一般投資家からも資金調達を行うことができるようになるのです。また、信頼性や知名度の向上、従業員の士気向上、優秀な人材が雇用しやすくなるなど、資金調達以外にもさまざまな恩恵があります。
ただし、IPOはどんな企業でもできるものではなく、上場に値する適格性を揃えた企業が多くの準備を整えた上でようやく行うことができるものなので、注意が必要です。
日本でIPOで株式公開を行う主要な株式市場は、以下の4つが挙げられます。
- 東証一部
- 日本で最も大きな株式市場。上場時の審査も厳しいことで知られています。
- 東証二部
- 東証一部に次いで大きな株式市場。東証一部に比べると、審査は一部緩いですがそれでも非常に厳しい審査が行われます。
- 東証マザーズ
- 1999年11月に新たに開設された株式市場で、「企業の将来性」を重視した審査が行われます。有力ベンチャー企業などがこれに該当します。
- JASDAQ
- 2010年に新たに開設された株式市場で、東証マザーズ同様に将来性の高い企業が多く上場しています。また、「JASDAQスタンダード」と「JASDAQグロース」の2種類の市場があり、「JASDAQグロース」市場の方が、より今後の成長性に重きをおいた審査基準が設けられています。
IPOを実現するための条件
IPOが実現すると、株式が一般公開されて多くの一般投資家が購入できる状態になります。そのため、IPO時にはさまざまな厳しい条件が課せられるのです。実際の審査時には、「形式要件」と「実質要件」の2種類に分けた審査が行われます。
主要4市場の形式要件を一部抜粋したものは以下の通りです。
東証一部 | 東証二部 | 東証マザーズ | JASDAQ | |
株主数 | 800人以上 | 400人以上 | 150人以上
(上場時までに500単位以上の公募を行うこと) | 東証二部と同一 |
流通株式(上場時見込み) | 2万単位以上 | 2,000単位以上 | 1,000単位以上 | 同上 |
流通株式時価総額 | 100億円以上 | 10億円以上 | – | 同上 |
流通株式数(比率) | 上場株券等の35%以上 | 上場株券等の25%以上 | 上場株券等の25%以上 | 同上 |
事業継続年数 | 新規上場申請日から起算して、3か年以前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること | 同左 | 新規上場申請日から起算して、1か年以前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること | 同上 |
引用元:日本取引所グループ|上場審査基準
また、東証マザーズの実質要件について抜粋したものは以下の通りです。
項目 | 内容 |
企業内容、リスク情報等の開示の適切性 | 企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことができる状況にあること |
企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に遂行していること |
企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が、企業の規模や成熟度等に応じて整備され、適切に機能していること |
事業計画の合理性 | 相応に合理的な事業計画を策定しており、当該事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること又は整備する合理的な見込みのあること |
その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項 | ー |
引用元:日本取引所グループ|上場審査基準
東証マザーズの実質要件の中に「事業計画の合理性」という項目がありますが、当該項目に関する審査基準をクリアするためには、予算管理が必要不可欠です。当然、他の市場に直接上場する場合でも、同様の観点から審査が行われます。
過去の例を取り上げると、IPO時の黒字予想からわずか数ヶ月で大幅な下方修正や赤字見込みを計上した事例があることから、特に近年は予算実績管理について注意深く審査が行われる傾向が見られます。
利益計画を立てるために行うべきこと
それでは、実際に利益計画を立てるためには、具体的にどのようなことを行っていく必要があるのでしょうか。ここからは、実際の計画を立てるためのポイントを項目別に見ていきます。利益計画を立てるために行うべきことは、主に下記の通りです。
- 予算編成
- 予算統制
- 予実管理
それぞれについて、詳しく解説していきます。
予算編成
まずは全体の予算を編成する必要があります。これは、ただ数値を設定するだけではなく、企業の事業計画として具体性のある数値を記入しましょう。徹底したリサーチの上で予算編成を行うことが、この先の項目にも影響してくるというのを意識して、具体的なデータを参考にするようにしてください。
予算統制
予算統制とは、策定した予算と実績の差異を無くしていくための取り組みのことです。実際のIPO時の審査をくぐり抜けるためには、この予算統制が非常に重要な要素となります。主要取引所の審査時は、概ね編成時の予算通りの数値でないと上場できません。編成予算と実績に差異が見られる場合は経営会議などで報告を行い、改善に着手していきます。
予実管理
上記で解説をしてきた予算編成・予算統制を総括したものを予実管理と呼びます。基本的な内容については、上記の2項目と変わりはありませんが、予算管理におけるプロセスを包括して「予実管理」と表現される場合が多く見られます。
予実管理は単発で行うものではなく、常にPDCAサイクルを回して継続的に行っていくことが重要です。
IPOのために予算管理が重要な理由
予算管理について理解したところで、ここからは、IPOのために予算管理が重要となる理由について具体的に見ていきましょう。IPOのために予算管理が重要な理由として、主に以下の2点が挙げられます。
- 中長期的な経営計画を具体的に立てられる
- 上場した際に決算数値の報告がしやすくなる
それぞれの項目について詳しく解説していきます。
中長期的な経営計画を具体的に立てられる
徹底した予算管理を行うことによって、中長期的な経営計画を具体的に立てやすくなります。IPOを実施すると、多くの投資家が中長期的な予算計画や経営計画を元に株式を購入することになるため、上場準備中から具体的な中長期計画を策定しておく必要があります。
具体的な期間は、中期計画の場合3〜5年、長期計画の場合は5〜10年ほどのスパンを見越した計画となる場合がほとんどです。このような長い期間の経営計画を立てるためには、その土台として月次予算や年次予算の管理がきちんと行われている必要があるのです。
上場した際に決算数値の報告がしやすくなる
上場後は、株主に対して決算数値を報告しなければいけません。また、次期業績予想として売上高や経常利益の開示が必要です。
IPOの準備段階から精度の高い予算管理を実施しておくことで、上場後も円滑な決算報告ができるようになるでしょう。しかし、近年この予算管理が甘かったことにより、上場後に大きく予想数値から剥離してしまったという事例も見られます。
上場後のトラブルを避ける意味でも、予算管理を徹底していくようにしましょう。
予実管理を行う方法
予算管理を行う重要性についての理解が深まったところで、実際に予実管理を行う方法について見ていきましょう。予実管理は主に下記の3つのステップで行っていきます。
- データを分析して予算を設定
- 予算と実績の差異を確認する
- 改善策を立案する
各フローを解説していくので、参考にしてみてください。
データを分析して予算を設定
各フローを解説していくので、参考にしてみてください。
- 予算対象
- 売上予算
- 原価予算
- 経費予算
- 利益予算
- 予算種別
- 当初予算
- 着地見込
さらに、必要に応じて「キャッシュフロー予算」などの資金繰りに関する予算も策定する場合もあります。この数値は単なる予測ではなく、これまでの実績や市場の状況から具体的な数字を算出していきましょう。
予算と実績の差異を確認する
予算の設定が終わったら、次は実績との差異を確認していきます。差異を確認する頻度は、「月次」「年次」の単位で細かくチェックしていきましょう。これは、通常の会計・経理システムを導入していれば、人為的な作業を行わなくてもデータを参照できるので、効率的に進めたい場合にはシステムを導入すると良いです。
どれほどの差異が発生しているかを迅速に把握するためにも、月次決算は月初〜10日以内に締めることが望ましいでしょう。
改善策を立案する
そして、予算と実績に差異が発生している際は、その原因を究明、改善していく必要があります。この場合、一般的には経営会議などを開いて改善策を立案することがほとんどです。
実際の改善策については、売上予算や原価予算など、どの項目に差異が出ているかによって異なりますが、早い段階で改善策を実施することが何よりも大切です。
IPOの実現には効率的な予実管理が大切
IPOを実施するためには、多くの数値を正確に把握して予実管理を行う必要があります。しかし、すべて手入力で行っていてはとても管理することができません。効率的な予実管理を実現するためには、ツールの活用を検討してみましょう。
ここでは、効率的な予実管理を実現するために活用するべきツールを紹介していきます。
- Excel
- SFAツール
- 予実管理ツール
各ツールの特徴などを紹介するので、自社に適したツールを検討する際の参考にしてみてください。
Excel
Excelを利用した予実管理は、手軽に利用できることから多くの中小企業でも採用されています。Excelで予実管理を行う場合は、作業の手間を省くためにも、項目や式をあらかじめ設定しておきましょう。
予実管理にExcelを利用するメリットは以下のようなものがあります。
- 自社に合わせたフォーマットを作成できる
- 期間に合わせて臨機応変に比較できる
ただし、事業規模が拡大してくると、Excelでの予実管理が難しくなっていきます。これは、頻繁に項目や式をメンテナンスする必要があり、作業にともなうミスが発生しやすくなるためです。
上記の理由から、事業規模が拡大してきたら、以下のようなツールを検討してみましょう。
SFAツール
SFAツールとは、「Sales Force Automation」の略語で、日本では一般的に「営業支援ツール」と呼ばれます。SFAツールを利用すると、下記のような複数の要素を一元管理できるようになります。
- 顧客情報
- 案件情報
- 営業実績
- 予実管理
事業規模が大きい場合でも、多くの情報と掛け合わせて予実管理を実施できるため、より数値に具体性が生まれやすくなるのです。営業活動が主体となっている企業では、特に効果を発揮するツールであるといえるでしょう。
予実管理ツール
予実管理ツールは、予算と実績を管理することに特化した専用ツールを指します。Excelでは補えなくなってきた予実管理も、より効率化して正確に行うことが可能です。
Excelから予実管理に移行するメリットは以下の通りです。
- 複数の部門・拠点間の予実管理も気軽にできる
- 会計システムからデータを取り込める
- 予算統制に必要な資料を自動作成できる
- 入力作業の進捗状況を把握できる
Excelと連携しているツールも多いため、予実管理ツール導入前にExcelを利用していたという場合にも、データ移行がスムーズに行えるツールがほとんどです。会社の事業規模が拡大して、多くの拠点を構えるようになったら予実管理ツールの導入も検討してみると良いでしょう。
まとめ
当記事では、IPOにおいて予算管理が占める重要性について詳しく解説しました。株式公開を見込んで経営を行う場合は、早い段階から徹底した予算管理を実施することが大切です。
もちろん、無事IPOを果たした場合においても、株式を購入した投資家に納得してもらうために、継続して精度の高い予実管理を実施していくようにしましょう。
IPOにおける予算管理についてさらに詳しく知りたい方は、下記の資料もご参照ください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。