New MRRとは|計算方法やメリットを分かりやすく解説
2022.05.05
New MRRは最重要指標の1つとされている、SaaSビジネスなどで用いられる用語です。新規獲得した契約金額(月額)を意味する言葉で、New MRRをいかに大きくできるかがSaaSビジネスの成長性を表す1つの目安となります。
今回は、そんなNew MRRについて計算方法や把握するメリット、伸ばす方法を解説します。
New MRR(新規MRR)とは
New MRRは簡単にいうと「新たに獲得した月額の総和」という意味です。
SaaSビジネスの最重要指標の1つとして、月次経常収益を意味するMRRという指標があります。このMRRを増やすためには新規契約を獲得するか、既存顧客の方からアップセル契約を獲得するかになるわけですが、この新規契約がNew MRRとなります。
つまり、先月のMRRが100万円で、今月あらたに10万円の契約を2社獲得した場合、New MRRは20万円となり、今月の合計のMRRは120万円となるのです。
New MRRを把握するメリット
New MRRはアップセルとともに、SaaSビジネスの売上を決定するMRRを伸ばす要素の1つですので、このNew MRRが毎月いくらになっているかを把握することがSaaSビジネスの成長性を測る1つの目安となります。
また、成長性を測る以外にもNew MRRを把握するメリットが2つあるので、見ていきましょう。
- 顧客獲得コスト(CAC)を抑えられる
- 営業とマーケティングの効果が分かる
1つずつ解説していきます。
顧客獲得コスト(CAC)を抑えられる
1つ目のメリットがCACを抑えられることです。CACは顧客獲得コスト(Cost Per Acquisition)の略で、1社の契約を獲得するためにかかったコストを指します。
例えば、100万円分Web広告を配信して100社のリードを獲得、30社の商談を実施、その結果2社の契約を獲得したとしましょう。そうすると、100万円のコストから2社の契約を獲得したことになるため、CACは「100 ÷ 2 = 50万円」となります。
New MRRを把握すると、このCACが適切かどうかのジャッジができるようになるのです。50万円かけて得た2社の契約金額が200万円であれば適切といえますが、2社の契約金額が20万円であればお金をかけるほど赤字になっているため、CACのかけかたとしては不適切といえます。
事業は投資対効果が見合っているかどうかが成長の鍵となりますので、そのリターンを意味するNew MRRを把握することで適切なCACを計算し、必要に応じてCACを抑えるアクションを取れるようになるでしょう。
営業とマーケティングの効果が分かる
適切なNew MRRとCACを把握できれば、営業とマーケティングの効果が分かるようになります。
先ほどの例だと、CAC50万円で200万円を獲得できているのであれば、投資対効果は4倍となり、営業とマーケティングの効果によって(人件費は無視していますが)4倍の契約金額を得ていることです。
闇雲に営業をしていると契約金額だけに目が行きがちですが、事業成長という意味では投資に対する効果も見ておく必要があります。営業とマーケティングの効果を測るためにも、New MRRを把握しておきましょう。
New MRRの計算方法
New MRRはその月に獲得した新規契約の月額の総和で求められます。計算式でいうと、「契約社数 × 月額」になるでしょう。例えば、新規契約を10社分獲得したのであれば、10社の月額の総和がNew MRRです。
New MRRの数値が低い場合の対処法
では、New MRRを把握した上で、そのNew MRRの数値を高めるためにはどのような対処法があるのでしょうか。
リード数を増加させる
1つ目がリード数を増加させる方法です。New MRRは契約金額の総和なので、契約数を増やす必要がありますが、契約数を増やすためにその上流であるリード数(見込み顧客数)を増やすというのが1つの手段です。
リード数向上の方法は、リードジェネレーションとリードナーチャリングの2つがあります。
リードジェネレーション
リードジェネレーションはリードを生み出す(ジェネレート)ことを意味します。新たにリード獲得するという意味にも言い換えられます。
- Webサイトからのお問合せ・資料請求
- ebookのダウンロード
- 展示会での名刺交換
- セミナーお申し込み
などの形式によって、自社製品に興味がある方の情報を獲得することでリードジェネレーションができます。
リード数を増やすためには、
- リード獲得のチャネルを増やす
- リード獲得施策の頻度を増やす
- リード獲得施策のパフォーマンスを上げる
などの方法があります。
例えばこれまでWebサイト経由の資料請求・お問合せしかリード獲得の施策を実行していなかったのであれば、セミナー開催を検討すればチャネルが増えてリード数も増える効果が期待できるでしょう。
セミナーを月2回実施してたのであれば月4回に増やすのも有効ですし、1回1回のセミナーのパフォーマンスを上げるためにどのようなテーマの需要が大きいかを調査するのも良いです。しかし、リード獲得施策には費用を必要とするものも多くあります。
この場合、New MRRを増やすために費用を投下したはいいものの、獲得金額より費用が高くなってしまっては元も子もありません。どのチャネルにいくらの費用を投下し、結果としていくらの受注を獲得したかは常に見えるようにしておきましょう。
投資対効果を費用に対するリード数だけで評価していると、受注につながりづらい質の低いリード獲得施策ばかり評価してしまう可能性もあります。投資対効果は受注金額まで見ることも重要です。
リードナーチャリング
リードナーチャリングはリードジェネレーションによって獲得したリードを育てることを意味します。リード(見込顧客)といっても、すべてのリードがその後商談に移行し、契約に至るわけではありません。少し興味を持ってセミナーに参加したりしたものの、「別に商談で話を聞くほどではない」という方はたくさんいるでしょう。
そういった方に継続的にアプローチをしながらさまざまな情報を提供して、その方のモチベーション・意向を上げることをリードナーチャリングと呼びます。
MA(マーケティングオートメーション)ツールを利用して、メールマガジンを送付するといった方法がリードナーチャリングとして一般的な手法です。
例えば、サービス詳細をメールで紹介したり、事例を送付したり、新たなセミナーを告知したりなど、メールでさまざまな情報を送ることで、ユーザーの意向を上げていき、結果的に商談や契約に至るリードを増やしていきます。
このリードナーチャリングにおいては、ユーザーの意向を上げつつ、適切なタイミングでインサイドセールス(顧客の架電し商談を依頼するチーム)からアプローチすることも重要なので、インサイドセールスとうまく連携して施策を実行しましょう。
コンバージョン率の向上を目指す
リード数を増やすことで商談数を増やすのも1つの手ですが、商談化率・契約率などのコンバージョン率を上げるのもNew MRRを増やすための1つの施策となります。商談化率・契約率を上げるためには営業パーソンの電話スキルや商談スキルを高めるのが効果的です。
闇雲に商談スキルを高めようとしても何をしたら良いか分からないという人も多いと思いますが、まずは複数人いる営業メンバー間での契約率の差を見てみましょう。
契約獲得率が高いメンバーと低いメンバーで商談トークにどういう差分があるのかを見ることによって、メンバー間の契約率の差を埋められるかもしれません。メンバー間の差が埋まれば、チームとしてのコンバージョン率は高まります。
また、新機能開発などもコンバージョン率向上に有効な手です。失注理由に機能要因が多く並ぶのであれば、それは機能が足りていない証拠といえます。商談時にどういう機能が求められ、何がないと契約に至らないのかを確認してみましょう。
New MRRはスタートアップ企業でも注目される
New MRRはすべてのSaaS企業で重要視される指標ですが、特にシード期・シリーズAなどのスタートアップでは最重要の指標といえます。というのも、サービスをローンチしたばかりの企業においては、まだ既存顧客というものが少なく、市場の大半がこれからサービスを提案する未獲得企業だからです。
これが契約企業が増えてきて、市場の大半を獲得できている状態になってくると、次第に既存顧客のアップセルやチャーンが重要な指標に変わってきます。
まだこれから契約を獲得していく段階においては、どのくらいのスピードで新規契約を獲得しているかが最重要であり、それを評価する指標がNew MRRなのです。そのため、SaaS企業であればどのフェーズであれ一定重視しているこのNew MRRですが、特にアーリーステージのスタートアップにおいては何よりも重視しなければいけない指標といえます。
New MRRを理解したらNet New MRRも活用すると良い
事業のフェーズがアーリーから後半に変わっていくにつれて、New MRRだけでなくNet New MRRという指標も重要になってくるのです。Net New MRRは簡単にいうと、先月のMRRと今月のMRRの差分を表します。
例えば、先月の全体のMRRが1,000万円で今月のMRRが1,200万円の場合、Net New MRRは200万円です。New MRRとかなり似て見える指標ですが、内訳を見ると異なることが分かります。
MRRが増減する要因は大きく4つあります。
- New MRR:新規契約獲得による増加MRR
- Expansion MRR:既存顧客によるアップセルMRR
- Churn MRR:解約による減少MRR
- Downgrade MRR:既存顧客によるダウンセルMRR
MRRの計算式は、「先月のMRR + New MRR + Expansion MRR – Churn MRR – Downgrade MRR = 今月のMRR」となります。
この(New MRR + Expansion MRR – Churn MRR – Downgrade MRR)がまさに今月と先月の差分ですから、これがNet New MRRとなるのです。Net New MRRを追うためには、新規獲得だけでなく、既存顧客のアップセル/ダウンセル/チャーンを追わなくてはなりません。
MRRと一緒によく使用される指標
最後に、MRRと同様にSaaSビジネスにおいて重要視される指標を紹介します。
SaaS Quick Ratio
まず1つがSaaS Quick Ratioです。これは一定期間に獲得したMRRと同期間に失ったMRRの比率を表す指標で、上述した4種のMRRを使って、下記のように計算します。
(新規MRR + Expansion MRR)÷(Churn MRR + Downgrade MRR)
増加を意味する2つのMRRを分子に、減少を意味する2つのMRRを分母にすることで増減率を出しています。この数値が大きくなるほど成長率が高いと判断できるでしょう。
SaaS Quick Ratioについて詳しく知りたい方は、「SaaSの主要KPI【Quick ratio】」をご参照ください。
ARR
ARRはMRRがMonthlyなのに対して、Annualを意味しており、年間経常収益を意味する単語です。1年分の収益を表すため、「MRR × 12」で簡単に求められます。年間単位の収益を確認したい場合には、ARRを活用すると良いです。
ARRについては、「SaaSの主要KPI【ARR成長率】」からご確認いただけます。
ARPU/ARPA
ARPU/ARPAは平均単価を意味する言葉です。ARPU(Average Revenue Per User)は、1ユーザーあたりの平均売上高を示します。一方のARPA(Average Revenue Per Account)は、1アカウントあたりの平均単価です。
MRR向上を目指す際は平均単価を上げることも1つの手段となるため、ARPU/ARPAを把握して、どう高めていくかを考えると良いでしょう。
ARPU/ARPAについては、「ARPU(ユーザー平均単価)って何?ビジネスモデルごとの計算方法を紹介」「SaaS企業にとって大切なARPAとは|ARPUやARPPU との違いを解説」でそれぞれ解説しています。
まとめ
以上、New MRRについて解説しました。New MRRはSaaSビジネスにおける新規契約のパフォーマンスを示す指標です。
既存顧客からのアップセルを意味するExpansion MRRもMRR増加の1要素ですが、大抵のSaaSビジネスにおいては新規契約(New MRR)がMRR増加の大半を占める重要な指標になります。
New MRRを構成する要素を把握し、適切なCACでNew MRRを最大化できるように対策を打っていくことが大切です。その際には、さまざまな指標に注目しながら施策を実行すると良いでしょう。
SaaSビジネスで注目すべき指標については、下記の資料で詳しく解説しておりますので、ぜひ参考にしてみてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。