チャーンMRRとは|SaaSビジネスで重要とされる理由や計算方法を解説
2022.05.03
主にSaaSビジネスにおける重要指標として扱われることの多い「チャーンMRR」サブスクリプションモデルにおける解約金額を意味するチャーンMRRですが、なぜSaaSビジネスにおいて重要視されるのでしょうか。
今回はそんなチャーンMRRについて、定義や重要視される理由、改善方法などを解説します。
チャーンMRRとは
チャーンMRRは簡単にいうと「解約に至った月額の総和」という意味です。
SaaSビジネスの最重要指標の1つにMRRがあります。これは月次経常収益を意味する単語で、例えば月額10万円のSaaSサービスを10社に提供している(解約にも至らない)場合、基本的には毎月10万円 × 10社 = 100万円が継続的にこの企業の売上として計上される状態になっているため、MRR(月次経常収益)は100万円です。
このMRRを増やすためには新規契約を獲得するか、既存顧客の方からアップセル契約を獲得する必要があります。
一方で、MRRは増えるだけでなく減っていくことももちろんあり、それが解約やダウンセルによるものです。この解約・ダウンセルによって減少する月次金額をチャーンMRRと呼びます。チャーンが「顧客がサービスを解約すること」を意味しますので、チャーンMRRは解約によって減少するMRRを意味するのです。
チャーンMRRに影響を与える要素
チャーンMRRは企業の売上であるMRRが減っていく要素ですので、当然小さい方が事業上は良い成績を出しているということになります。チャーンMRRを小さくするためには、以下の2つの観点を気にしておく必要があるでしょう。
- 解約率
- ダウングレード
それぞれ詳しく解説していきます。
解約率
1つ目が解約率で、SaaS界隈では「チャーンレート」とも呼ばれます。解約率(チャーンレート)は文字通り顧客がどのくらい解約をしたのかを表す数値で、「解約に至る顧客 ÷ 全契約顧客 × 100」で計算が可能です。これによって数値を把握し、チャーンMRRを小さくおさえることが大切になります。
ただし、解約率の計算の仕方には大きく2つあります。
1つ目が顧客数で解約率を求める方法、もう1つが契約金額で解約率を求める方法です。
例えば、Aというサービスを契約している企業が3社あり、それぞれ1万円・4万円・5万円で契約をしていたとします。
このうち5万円で契約している企業が今月いっぱいで解約した場合、単純に顧客数で考えると解約率は1/3(≒33.33%)です。ただし、金額ベースで考えると合計の契約金額は「1 + 4 + 5 = 10」なので、そのうち5万円が解約になると1/2(=50%)の解約率になります。
このように、解約率を顧客数ベースで計算するか金額ベースで計算するかによって解約率は異なります。解約率をどのような目的で取り扱うかによってどちらを使用すべきかは若干異なりますが、毎月の解約傾向からチャーンMRRがいくらくらいになるかを把握する際は、金額ベースの解約率を見るのが適切といえるでしょう。
ダウングレード
もう1つ、チャーンMRRが増えてしまう要因としてあるのがダウングレード(ダウンセル)です。こちらは解約はせずに契約更新はしてくれているものの、契約金額が以前より落ちてしまうことをいいます。
例えば1アカウント1万円のサービスを10アカウント(10万円)分契約してくれていた企業が、次の年から半分の5アカウント(5万円)分しか継続してくれなかった場合、解約されたわけではありませんが5万円分ダウングレードされたことになります。これもチャーンMRRの一種になりますので、解約だけでなくダウングレードをいかに防げるかがチャーンMRRを小さくする上で重要な観点となるのです。
チャーンMRRの計算方法
このように、チャーンMRRは大きく解約とダウングレードから発生するものなので、チャーンMRRは下記の方法で計算を行います。
解約金額 + ダウングレード = チャーンMRR
先ほど金額ベースでの解約率について説明しましたが、チャーンMRR/全体MRRを計算することで、金額ベースの解約率も計算できます。
SaaSビジネスでチャーンMRRが重要な理由
SaaSビジネスでは、チャーンMRRが非常に重要な指標であるとされていますが、それは何故なのでしょうか。
SaaSビジネスはサブスクリプション型のビジネスモデルを採用しています。月額課金制で、1社あたりの平均契約期間が長くなるほど、当然1社あたりが支払ってくれる金額も大きくなるのです。
ソフトウェアを購入してインストールする形式だった旧来のオンプレミス型の提供方法と違い、サブスクリプション型のメリットは月額課金制にすることで初期費用を圧倒的におさえられるようになったことにあります。
逆にいうと、月額費用自体は安価で導入しやすいものの、すぐに解約になってしまうと提供している側は大した売上を得ることができずに事業存続が難しくなってしまうのです。
チャーンMRRが大きいと、どれだけ新規獲得のMRRを大きく積もうとも、バケツに大きな穴が空いた状態で水を入れている状態に過ぎません。SaaSビジネスの事業成長を早めるためには、チャーンMRRを小さくすることがマスト条件といえます。
チャーンMRRが増加する原因
では、チャーンMRRが大きくなってしまう原因はどういうところにあるのでしょうか。
主な理由を3つ紹介します。
- 価格に不満を感じている
- サービスの内容に不満を感じている
- 競合サービスへ乗り換えをしてしまう
それぞれ見ていきましょう。
価格に不満を感じている
1つが価格への不満です。解約に至る理由、もしくは契約金額を下げて更新する理由として、今の価格が高すぎると感じているのでしょう。
特にBtoBサービスであれば、顧客は費用対効果を気にします。サービスを利用していることで何らか価値・効果を感じていたとしても、それが支払っている価格に見合うものでなければ解約する可能性は高くなります。
自社サービスが契約者に対していくら分の価値を生み出しているのかを計算した上で、妥当な価格体系を設定する必要があります。
サービスの内容に不満を感じている
逆に、価格が安くても当然サービス内容に不満があれば継続はされません。顧客からお金をもらっている以上、満足いくサービスを提供するのは当然ですが、顧客が求めるものもさまざまある中で、全ての顧客が満足するものを提供するのは簡単なことではありません。
顧客が満足いくサービスを提供するためには、ひたすら顧客の声を聞く必要があります。社長や経営者が独断で機能を考えたり、懇意にしている少数の顧客のいいなりで機能を開発していては、多くの顧客に満足してもらえるサービスは作れません。
競合サービスへ乗り換えをしてしまう
チャーンMRRを意識する上で、競合動向からは常に目が離せません。SaaS界隈は注目度も高く新規参入も多い業界ですので、この前まで競合がいなかったサービスに突如として競合が現れることもあります。
そして、大抵新規参入してくる競合は、あなたの企業の製品をベンチマークしているため、機能は劣らず、価格が安いという条件で勝負してくることが往々にしてあるのです。
市場に存在している競合サービス、価格、機能、サポート範囲、など競合情報は常に最新のものにアップデートし、競合に対して自社製品のどこが優れているかを明確に顧客に伝えられるようにしておきましょう。
逆に、競合に対する優位性を見つけることができなくなったらピンチといえます。新機能開発や価格体系の見直しを視野に入れましょう。
チャーンMRRを減少させる方法
このような原因から増加してしまうチャーンMRRですが、SaaSビジネスを運営していく上でこのチャーンMRRをいかに減少させられるかが勝負どころです。
チャーンMRRを減少させる方法をいくつか紹介します。
解約につながる行動を把握して早めに対策する
まず1つは解約につながる行動を早期に対策することです。当たり前の内容に聞こえますが、これができている企業は残念ながら多くありません。まず、何が「解約につながる行動」なのかを把握しましょう。
これは自社サービスの価値とは何かを考えるところから始まります。Web会議システムなら、オンライン上で会議ができれば会議の場所の制約がなくなるのが大きな価値です。名刺管理ソフトであれば、名刺情報を社内で一括管理することによって、社員が持っている縁を全員で共有して営業等に活かせるのが価値となるでしょう。
企業はこの価値を得るためにサービスを契約しているため、価値が得られないと解約される可能性が高くなるわけです。
例えばWeb会議システムであれば、その企業内でWeb会議が実際に行われた回数が減っていると、Web会議システムの価値を感じるシーンも減り、解約する可能性が高くなるでしょう。名刺管理ソフトであれば、社員が取り込む名刺の数が減っていれば管理する名刺の数も少なくなるため、解約する可能性が高くなるといえます。
このように、サービスの利用状況を可視化すれば、この数値の増減が解約につながるかもしれない、と仮説を立てられるようになります。仮説が立ったら、過去に解約に至った企業の数値と見比べることによって、本当に相関しているかが分かるでしょう。
解約を防ぐためには、この「解約につながる行動」をデータから導くのが重要です。解約につながる行動が特定できたら、あとはこの行動を取った企業がいち早く社内にアラートされる状態を作ると良いでしょう。
解約行動を取った企業に対して早めに営業・CS担当がアプローチし、再度サービスを活用してもらうようフォローするなどの対策によって、解約可能性が下がる可能性が期待できます。
ユーザーのサポートに力を入れる
理想は人の工数をなるべくかけずに顧客がサービスを使い続けてくれることですが、そううまくはいかないでしょう。それで解約が増えるくらいであれば、人的サポートを充実させた上で解約率を下げた方がまだビジネスとしては健全ですので、ユーザーサポートに力を入れましょう。
特に「オンボーディング」と呼ばれる導入初期のサポートはとても重要です。初期の段階でつまづくと、結局契約期間中ほぼほぼ使わずに解約に至ってしまう可能性が高くなります。しかし、初期のサポートが充実していて一度使えるようになれば、あとはそこまでフォローしなくても顧客が自分達で使いこなしてくれるでしょう。
また、ユーザーの問い合わせ窓口を設けて発生した疑問は都度解消する、よくある質問コーナーなどの疑問を解消できるページを充実させるなど、さまざまなサポート形式を検討しておきましょう。
ユーザーの意見を集めて改善につなげる
人的サポートを充実させるだけでなく、機能・プロダクトの改善で解決していくのも重要です。人的サポートは契約者数の増加によってサポート人員もどんどん増やしていかなくてはならないため、機能・プロダクト改善でユーザー満足度を上げる方が企業としては効率的といえます。
機能改善はユーザーの意見を集めることで必要な機能が見えてきます。しかし、ユーザーの意見を集めるというのも単純な話ではありません。ユーザーに意見を求めると、「こういう機能がほしい」「ここにこういうボタンをつけてほしい」「この画面からこういうことができてほしい」と機能ベースでの要望をたくさん受けます。
それらすべてに対応していると、画面もごちゃごちゃしてしまい、機能も煩雑で分かりづらいツールになってしまうでしょう。
ユーザーから声を集めるときは機能ベースで話を聞くのではなく、「その人が何に困っていて、何ができればそれが解決できるのか」を深掘りしましょう。それはユーザー自身がいっている機能でなくても解決する可能性があります。
カスタマーサクセスを取り入れる
カスタマーサクセスをまだ採用していないようであれば、カスタマーサクセスの動きを取り入れることによって、チャーンMRRをおさえられるでしょう。カスタマーサクセスは文字通りカスタマーのサクセスを追求する職種です。
サブスクリプションモデルを提供している以上、製品を売れば良いというわけではなくなりました。1つの企業にしっかり使ってもらい、なるべく長く利用してもらうことが提供側としても収益につながります。そして、長く利用してもらうためには、顧客がツールを使うことによって成功をおさめることが重要です。これがカスタマーサクセスの考え方になります。
顧客がツールを契約することで何を求めているのかをしっかり見極め、ツールを利用した先にその成功が待っているかを常に確認しましょう。
リテンションやLTVを向上させる
リテンション率はツールの継続利用率を意味する言葉ですが、このリテンションを高めることがチャーンを防ぐ結果にもつながります。基本的にたくさん使用しているツールのほうが解約されにくいため、チャーンを防ぐための施策を実行する場合にはリテンション率やLTVにも注目すると良いでしょう。
まとめ
以上、チャーンMRRについて解説しました。チャーンMRRは、解約・ダウンセルによって減少する月次金額を指します。チャーンMRRが大きいと、いくら新規契約を獲得しても大きな穴の空いたバケツに水を注ぐようなものになってしまいます。さまざまな対策を講じた上でチャーンMRRをできる限り減少させることがSaaSビジネスを運営する上で非常に重要です。
また、チャーンを防ぐための施策を実行する際は、リテンション率やLTVにも注目すると良いでしょう。その他にも、SaaS企業が注目すべき指標がいくつかあるので、より詳しく知りたい方は下記の資料をチェックしてみてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。