ARPU(ユーザー平均単価)って何?ビジネスモデルごとの計算方法を紹介
2022.01.12
企業の業績を評価する際にさまざまな指標が用いられる中で、近年成長しているSaaSビジネスにおいては、ARPUという指標が重要な指標の一つとされるようになっています。しかし、ARPAやARPPUなどの似ている用語も多く、ARPUを他の用語と区別できていない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、ARPUが何を意味するのか分からないという方に向けて、ARPUとは何か、他の用語との違いや計算方法などと合わせて詳しく解説していきます
ARPU(ユーザー平均単価)とは
ARPUとは、1ユーザーあたりの平均売上高を指す指標であり、「Average Revenue Per User」の略です。
以前までは電気通信会社の売上指標として用いられていましたが、インターネット事業やSaaSビジネスでも用いられるようになりました。
この指標は、期間あたりのユーザー平均単価を求める場合もあれば、顧客の購入額の変化を示すものもあり、分析内容によって使い分けます。
ARPUとARPA/ARPPUの違い
ARPUと似た指標として、ARPAとARPPUの2種類があります。「ARPA」とは「Average Revenue Per Account」、「ARPPU」は「Average Revenue Per Paid User」の略です。
業界や分析内容が異なれば、使う指標も変わってきます。それぞれの指標の違いをしっかりと理解して、状況や場面に応じた指標を使うようにしましょう。ここでは、ARPA/ARPPUとARPUの違いについて解説していきます。
ARPAとの違い
「ARPA」とは「Average Revenue Per Account」の略であり、1アカウントあたりの平均単価を表す指標となっています。ARPUがユーザー数を対象としているのに対して、ARPAはアカウント数で売上高を対象にしているのが大きな違いです。
ARPAを用いる際の例としては、通信業などが挙げられます。近年は、スマートフォンの普及によって、1人で複数台のスマホやタブレットを持つことも珍しくありません。そのため、端末1台あたりの売上よりも、契約者1人あたりの売上高の方がより正確なデータを分析できます。
ARPPUとの違い
ARPPUとは、「Average Revenue Per Paid User」の略であり、課金ユーザー1人あたりの金額を表す指標です。これは、ARPUが売上高を単にユーザー数を対象にしているのに対し、ARPPUはユーザーの中でも課金ユーザーの数を対象にしているという違いがあります。
このARPPUとARPUの差、つまり課金ユーザーあたりの単価とユーザー全体の単価の差はどのような意味を持つのでしょうか。ARPPUとARPUの差が大きい場合と小さい場合でそれぞれ解説していきます。
ARPUとARPPUの差が大きい場合
ARPUとARPPUの差が大きい、つまり課金ユーザーとユーザー全体の単価に大きな差があるということは、そのビジネスが一部のコアな課金ユーザーに支えられていることを意味します。
差が大きい場合は課金ユーザーの割合が低いため、課金ユーザー数が増加しない限り収益性を上げることは難しいでしょう。逆に、課金ユーザー数を増やすことで収益を増やす余地があると捉えることもできます。
無課金ユーザーが課金しても良いと思うようなコンテンツの作成、有料プランのお試し期間を設けるなどの方法を取ると良いでしょう。
ARPUとARPPUの差が小さい場合
ARPUとARPPUの差が小さい、つまり課金ユーザーとユーザー全体の平均単価の差が小さいということは、課金ユーザーが利用者の多くを占めていることを意味します。
これは幅広いユーザーから収益を上げており、安定した収益を確保できていることを意味しています。
しかし一方で、収益を増加させるための手段として課金ユーザー数を増やすのが難しい状況でもあるでしょう。この場合は、複数のプランを設定して上位のプランにグレードアップしてもらうなどの方法で、1人あたりの単価を上げる努力をすると良いです。
ARPUが注目されている背景
ARPUが注目されている背景としては、昨今のネットビジネスの興隆が挙げられます。
ARPUはもともと、通信キャリアビジネスにおいて利用されていた指標です。昨今では、ほとんどの人が通信端末を所持しているため、売上の向上を目指す手段としてユーザー数を増やすことは難しい状況にあります。
そこで通信キャリア会社は、ユーザー1人あたりの平均売上に注目するようになり、この指標が通信キャリア業界において一般的になりました。
ネットビジネス業界は、ビジネスモデルの構造上、事業の初期段階では顧客数が伸びやすいですが、ある程度普及するとユーザー数を増やすのが難しいです。そのため、1人あたりの単価が重要とされており、顧客単価を分析できるARPUが注目されるようになりました。
ビジネスモデルごとのARPUの計算方法
ARPUの一般的な計算方法は、「売上 ÷ ユーザー数」です。計算方法がシンプルで割り出しやすいので、指標としても定めやすいでしょう。
しかし、この計算方法では状況に応じた計算をするのが難しいです。ここでは、状況に応じて適切な計算方法を用いるために、ビジネスモデルごとのARPUの計算方法について解説していきます。一般的にはアプリで利用される計算方法なので、簡単に紹介していきます。
1.課金モデル
ユーザーが課金を行うことで収益を得るタイプのビジネスモデルの場合、計算式は以下のようになります。
ARPU = ARPPU(課金ユーザー1人あたりの平均収益) × PUR(課金ユーザー率)
なお、ARPPUは商品の単価、1回あたりの購入数、購入頻度によって導出することが可能です。
2.表示型広告モデル
表示型広告モデルとは、広告を表示することによって広告主から広告料をもらって収益を上げるビジネスモデルです。アプリなどで一般的な手法なので、SaaSサービスで利用されることはあまりありませんが、計算方法としては以下の通りです。
ARPU = 1人あたり広告表示回数 ×(CPM ÷ 1,000)
3.クリック型・成果型広告モデル
クリック型・成果広告モデルは、ユーザーが広告をクリックするごとに、もしくは広告アプリをインストールするごとに広告収益を得られるという仕組みです。こちらもアプリで利用されることが多い方法なので、簡単に計算方法を紹介します。
ARPU = CPC(広告1クリックあたりで発生する売上) × CTR(クリック率)
ARPUを最大化させるためのポイント
ネットビジネスで頻繁に用いられる指標であるARPU。これを最大化する、つまり1人あたりの単価を上げる方法としては以下の4つが挙げられます。
- 購入頻度をアップさせる
- アップセル/クロスセルの提案
- 顧客ロイヤリティを向上させる
- 無料プランと有料プランの差別化
以下ではこれら4つの方法について詳しく解説します。
購入頻度をアップさせる
ユーザー1人あたりの単価を上げる方法の一つが、購入頻度をアップさせることです。1人あたりの売上は「購入頻度 × 1回あたりの購入金額」に分解できるため、購入頻度のアップが効果的といえます。
具体的な例としては、サービスにより便利に利用できる有料オプションを追加するなどが挙げられます。
アップセル/クロスセルの提案
アップセルとは、購入を検討もしくは以前購入したことがある顧客に対し、さらに上位の商品を紹介することで乗り換えてもらう方法です。例えば、複数のサービスを提供している場合、下位のプランから上位のプランに移行してもらうことなどは、アップセルにあたります。
それに対し、クロスセルとは現在検討している商品に加えて、さらに追加で商品を購入してもらうことです。例としては、既存のサービスに新たに追加した機能を追加購入してもらうなどが挙げられます。
これらの方法によって、1ユーザーあたりの単価のアップにつながるのです。
顧客ロイヤリティを向上させる
サービス・商品が溢れている現代においては、選択の主導権を顧客が握っています。そのため、顧客のロイヤリティの向上は非常に重要です。
顧客がサービスや製品に独自の価値を見出していなければ、別のサービス・製品に乗り換えてしまう可能性があります。顧客ロイヤリティを向上できれば、購入頻度のアップやアップセル/クロスセルの提案にもつなげやすくなるでしょう。
そのため、顧客ロイヤリティはARPUの向上を支える非常に重要な要素であり、これを高めることは最優先といっても良いです。
以下では、顧客ロイヤリティを測る指標などを詳しく解説していきます。
顧客ロイヤリティを測るなら「NPS」
顧客ロイヤリティを測る主な手法として、NPSがあります。NPSとは「Net Promoter Score」の略で、近年では顧客満足度に並んで注目を浴びている指標です。
この指標により、今まで計測が難しかった、企業やブランドに対する愛着や信頼を数値化できて、企業の顧客との接点における評価・改善に役立っています。
これは一見「顧客満足度」と同じように見えますが、単に「満足したか」を表すのではなく、リピート購入の可能性や単価向上の可能性という観点から評価しているという点が大きな違いです。NPSは、より事業の成長と相関関係の高い指標となっています。
NPSの計測方法
NPSの計測方法はいたって単純です。「あなたはこの企業(製品/サービス/ブランド)を友人や同僚に進める可能性は、どのくらいありますか?」というような質問を行い、0(まったく思わない)〜10(非常にそう思う)の11段階で評価してもらいます。
このアンケートでは、0〜6は「批判者」、7,8は「中立者」、9,10は「推奨者」と3つの顧客タイプに分類することが可能です。
この中で「推奨者」は再購入率が群を抜いて高いのに対し、「批判者」は否定的な口コミによって新規顧客の購入意欲を削ぐ存在になりえます。
そして、回答者全体に占める「推奨者」の割合から批判者の割合を引いて導き出したものがNPSの値です。
無料プランと有料プランの差別化
ARPUを向上させる手段として、有料プランのユーザーを増やす方法がありますが、有料プランを利用したいと思わせるためには有料プランをより魅力的に見せることが重要です。
そのための手段として、無料プランと有料プランの差別化があります。ユーザーに課金したいと思わせるように、サービスの重要な部分や顧客にとって必要な部分を有料にすることで、ユーザーに「課金をしてでもサービスを利用したい」と思ってもらうのです。
しかし、あまりに大きな差をつけるとサービス自体を利用してもらえなくなることもあるので、バランスには気を付けましょう。
ARPUが導き出せればLTVも計算できる
LTVは「Lifetime Value」の略で、生涯顧客価値という意味です。これは、1人の顧客から生涯にわたって得られる収益を指します。
これはARPUを使って算出することが可能です。計算方法は以下のようになります。
ARPU × 平均利用期間
もしくは、以下の計算式でも算出可能です。
ARPU ÷ 解約率
解約率は文字通り、一定期間の間に顧客がそのサービスの利用をやめる割合です。つまり、離脱率の逆数は、顧客がサービスを利用する平均期間になります。よって、この式は「ユーザー単価 × 平均利用期間」と同義であり、LTVを求めることが可能です。
SaaSビジネスではARPUの向上が重要
SaaSビジネスにおいて、ARPUの向上は非常に重要な課題です。SaaSにおける収益は「ユーザー単価 × ユーザー数」に分解できますが、このユーザー数は事業開始初期には伸びるものの、段々と伸ばすことが難しくなります。
そのため、事業開始後期に収益を拡大するには、一般的にユーザー単価の向上を目指す方が収益の増加が期待できるでしょう。そういった事情から、SaaS企業の多くがKPIの一つとしてARPUを設定しているのです。
KPIを管理するならScale Cloud
市場の動きや顧客の動きに合わせて企業のKPIを柔軟に変更するには、全ての関係者がリアルタイムで情報を共有し、KPIに反映させていく必要があります。
Sales Cloudは、全ての営業活動を単一のプラットフォームで実行することが可能です。これによって、さまざまな情報のリアルタイムでの共有が可能となり、状況に合わせたKPIの管理を実現できます。
KPIの管理をお考えなら、ぜひSales Cloudをご検討ください。
まとめ
ARPUは、1ユーザーあたりの平均売上高を指す指標です。もともと通信キャリア業界で用いられていましたが、近年ではSaaSビジネスなどのネットビジネスで注目されています。
これと似た指標としてARPPUやARPAがありますが、ユーザー1人あたりの値を重視するか、アカウントや課金ユーザー1人あたりを重視するかという点で異なっているため、利用シーンに合わせて使い分けると良いです。
ARPUを向上させるためにはいくつかの方法がありますが、その中でも特に企業・ブランドに対する顧客ロイヤリティは非常に重要になっています。
ARPUは今後さらに注目される指標なので、覚えておくと良いでしょう。ARPUをKPIとして設定・管理したいという場合には、ぜひSales Cloudの運用をご検討ください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。