North Star Metricとは?1から分かりやすく解説
2022.10.09
企業が中長期的に成長し続けるために、会社全体で改善を目指す指標がNorth Star Metricです。North Star Metricは、従来の経営指標とは異なる性質を持っており、組織の統率力や製品の顧客満足度の向上に効果が期待できる比較的新しい経営指標となっています。
この記事では、North Star Metricの概要から、設計時の注意点、実際に採用している企業の事例などをまとめていくので、ぜひ参考にしてみてください。
North Star Metricとは
ビジネスを成長させるために設定される指標には、KGIやKPIなどのさまざまな種類があります。その中で近年注目を集めている指標が、North Star Metricです。日本ではあまり馴染みのない指標ですが、NetflixやFacebook、Amazonなどの世界的な企業で採用されており、企業の成長に大きく貢献しています。
North Star Metricは顧客の満足度を重視した指標で、企業が最終目標を達成する上で重要です。
通常、North Star Metricが複数設定されることはありません。会社全体が1つの目標に向かって行動を起こすため、企業が最終的に達成すべき目標に近づくための指標を1つ設定します。
KGI・KPIとの違い
North Star Metricと似ている指標に、KGIやKPIがあります。混同されやすい指標ですが、明確な違いがあるので見ていきましょう。
KGIは最終的な達成目標であり、売上や収益を目標に設定することが多いです。一方でKPIは、目標達成度合いを評価するための評価指標となっています。KGIもKPIも企業にとって重要な達成目標ですが、これらの指標は経営視点の指標です。
それに対して、North Star Metricは顧客視点を取り入れた指標というところに違いがあります。North Star Metricは、KGIとKPIの間に設定される傾向です。KGIとKPIの間に顧客満足度を高めるための指標であるNorth Star Metricを取り入れることによって、目標達成を目指すのがNorth Star Metricの目的です。
North Star Metricの6つのカテゴリ
North Star Metricとなりうる指標は、その属性から大きく分けて6つのカテゴリに分類できます。6つのカテゴリは下記の通りです。
また、具体的なロードマップを定めていれば、計画が順調に進んでいるのか、遅れが生じているのかも判断しやすくなります。
さらに、先述の通り、経営計画は具体的かつ明確に定める必要があります。具体的な経営計画を作成していれば、会社の理念やビジョン、目標、またそれを達成するための具体的な行動が現場で働くすべての従業員に伝わりやすくなるのです。このように、従業員の意思統一を図れるのも、経営計画を作成する目的の1つとなっています。
- 収益
収益に関する指標です。収益の増加に関連する指標をNorth Star Metricに設定している企業は多いですが、North Star Metricとしては収益額そのものを指標とするのは適していません。
- 顧客の拡大
直接的に企業に利益をもたらすユーザーに関する指標です。有料ユーザーなど継続的かつ確実に企業に利益をもたらす顧客の数や増加率を指標とすることが多い傾向にあります。
直接的に企業に利益をもたらすユーザーに関する指標です。有料ユーザーなど継続的かつ確実に企業に利益をもたらす顧客の数や増加率を指標とすることが多い傾向にあります。
- 消費者の増加
企業の提供するプロダクトを体験するユーザーに関する指標です。サイトにアクセスをした上でアクションを起こした回数やプロダクトの使用頻度などがこのカテゴリに含まれます。
- エンゲージメントの成長
ある期間のうちにプロダクトを1回以上利用したユーザーの数に関する指標です。期間はプロダクトの性質によってさまざまですが、月間か週間で捉えられることが多い傾向にあります。
- 成長効率
支出と収益の効率性に関する指標です。North Star Metricとして設定する場合は、企業全体で意識できるように、ある程度ブレークダウンした数値を指標として設定するのが望ましいでしょう。
- ユーザーエクスペリエンス
製品やサービスを利用して得た経験に関する指標です。ユーザーがいかにプロダクトの体験価値を評価しているかを数値として計測します。
North Star Metricが重要視される理由
North Star Metricを活用すれば、組織を1つの目標に集中させられるため、団結力を高める効果が期待できます。
現在は情報化が進んだことによって、個人でもさまざまな知識や情報を集められるようになりました。これが要因となって、組織の中で個人がバラバラに業務改善を行いやすくなっているのです。North Star Metricを活用して、組織が目指すべき目標を1つ共有すれば、統率力の高い組織作りに役立ちます。
また、提供するプロダクトが複雑化している企業だと、分析すべきデータが膨大に存在し、方向性が定まらないという状況が起こってしまいます。複雑な指標を用いて経営分析を行うと、現場レベルで取るべき行動をイメージしづらくなり、自発的な改善行動が起こりにくくなる上、経営層から現場への指示が伝わりにくくなってしまうでしょう。
North Star Metricは、社員全員が意識できる分かりやすい指標を使うため、社内全体で1つの目標に向けた行動を起こせて、社内のコミュニケーションが円滑になります。
体験価値
体験価値はユーザーがプロダクトを体験することによって得られる価値のことで、North Star Metricの特徴である顧客目線を重視した項目です。プロダクトの顧客満足度を高めていけばプロダクトの価値が向上し、企業の成長へとつながります。
いくら利益を得られていても、顧客が不満を抱いているのをそのままにしていたら、さらに優れた競合プロダクトが登場して利益を得られなくなってしまうでしょう。企業が成長を続けていくためには、顧客の体験価値を高めていくことが必要不可欠です。
戦略
優れたNorth Star Metricを設定するためには、明確な戦略を立てておく必要があります。戦略を立てる目的とは、達成するべき目標に向かって経営を続けていく上で軸となる考え方のことです。
戦略が曖昧になっていると社員の統率が取れなくなり、経営が目的通りにならない可能性もあります。North Star Metricを設定する前段階で、プロダクトの戦略を明確にしておきましょう。
North Star Metricは会社が一丸となって目指すべき目標となるため、プロダクトの成長戦略と合致した内容でなければなりません。戦略に沿ったNorth Star Metricを設定するようにしてください。
収益
North Star Metricを設定する上で、収益につながるかどうかも重要な要素といえます。North Star Metricは企業が成長するために設定されるものですが、企業の成長の軸となるのは収益を上げることです。ただし、North Star Metricが収益のみを重視した指標になってしまってはいけません。
North Star Metricが設定される目的は、顧客満足度を高めるというアプローチから企業のプロダクトの価値を高め、結果として収益につなげることです。顧客満足度は必ずしも企業の収益と一致しないため、収益それ自体がNorth Star Metricの指標とならないように注意しましょう。
North Star Metricを設計する際のポイント
North Star Metricは企業の成長に有効な指標ですが、設定した指標が企業の成長につながらないこともあります。ここでは、KGIの達成に近づくようなNorth Star Metricを設計する際のポイントを紹介します。
North Star Metricは1つに絞る
通常、North Star Metricは1つに絞られます。そもそもNorth Star Merticは、北極星をイメージした指標です。夜空に浮かぶ数多の星の中で、たった1つ変わらないのが北極星です。North Star Metricはそんな北極星のように、全ての社員が1つの目標を目指せるように設定される指標です。
企業においてもっとも優先される指標をいくつも作ってしまうと、方針がブレてしまう恐れがあるため、基本的にはNorth Star Metricは1つに絞りましょう。
しかし、対象ユーザーが「買い手」と「売り手」や、「視聴者」と「クリエイター」のように両サイドに存在する場合はNorth Star Metricが2つになる場合もあります。そうでない場合は、North Star Metricは必ず1つに絞らなくてはなりません。
KPIがNorth Star Metricにつながるようにする
North Star Metricは最終目標であるKGIと、中間地点での目標達成率を測る指標であるKPIの中間に位置する指標です。つまり、KGIを達成するためにNorth Star Metricがあり、North Star Metricを達成するためにKPIがあります。
原則として、KGIとNorth Star Metricは複数設定することはありません。しかし、KPIは複数設定できます。KPIを達成していけば、North Star Metricが自然と達成されるように設定するのが理想です。
常にPDCAを回す
North Star Metricを設定して運用していくなら、常にPDCAサイクルを回すように意識しましょう。
初めから完璧な指標を設定するのは難しいため、North Star Metricを設定した上でKPIの数値の改善状況や会社全体の動きを観察し、問題点が見つかったら適宜修正していくなど、試行錯誤を重ねて最適な指標の設計を目指します。
North Star Metricを達成するために設定したKPIや、KPIを達成するための施策なども含めて定期的に見直して、企業が成長を続けるためにもっとも有効な指標について模索し続けることが大切です。
分析ツールを活用する
有効なNorth Star Metricを設定するためには、正しく現状を把握できていることが必須です。
KGIの達成につながるNorth Star Metricを設計するとき、またNorth Star Metricの達成につながるKPIを設定するときには、収益の向上と関連性のある指標をいくつか見つけ出さなければなりません。
さまざまな指標の関連性を見つけるためには、分析ツールが有効です。企業を成長させるための目標を設定する際は、目安となる数値を測定しておく必要があるため、あらゆる観点からデータを記録し、分析ツールを活用して数値ごとの関連性や法則を見つけ出しましょう。
North Star Metric設計の事例
ここまでNorth Star Metricの概要や設計方法について説明してきました。しかし、日本企業にはまだまだ浸透していないこともあり、実際どのようにNorth Star Metricが設定されているかイメージしにくい人も多いのではないでしょうか。
そこで、実際にNorth Star Metricを導入している企業がどのような指標を設定しているのかを企業の提供するプロダクトの概要とビジネスモデルとともに紹介していきます。
Slack
Slackはビジネスチャットツールを展開する企業です。LINEと同じようなチャット形式でコミュニケーションを取ることが可能で、PCやスマートフォンなどマルチデバイスに対応しています。
Slackは無料で利用を始められるサービスですが、無料版におけるメッセージの上限は10,000件です。小規模のチームや短期間のプロジェクトに関しては問題なく利用できます。しかし、企業全体で利用するとすぐに上限に達してしまい、企業全体でサービスを導入する必要が生じるのです。
Slackは無料での小規模な利用から、企業全体へと利用範囲が広がっていく際に有料ユーザーを獲得するというビジネスモデルを展開しています。そのため、Slackでは2000個のメッセージを交わしたグループの数をNorth Star Metricとして設定しています。
Dropbox
Dropboxは、インターネット上でファイルの管理や共有を行うクラウドストレージサービスを提供する企業です。インターネット上に全てのデータを保存できるため、PCやメモリー端末が故障してもデータを失うことがありません。また、オフライン環境でも利用できるという特徴もあります。
Dropboxは、基本的なサービスを無料で提供することによってユーザーを獲得し、追加サービスを有料にして収益を立てていくビジネスモデルを採用しています。このようなビジネスモデルは、無料ユーザーの意見がサービスの利便性向上につながるため、収益を上げるためにはユーザー数を増やすというのが戦略となるのです。
そのため、Facebookでは1つのファイルをアップロードしたユーザーの数をNorth Star Metricとして設定しています。
facecbookは世界最大の実名登録制SNSです。他のSNSとは異なり、基本的に実名で利用するのが特徴です。
匿名のSNSでは独自のコミュニティを構築していくのが一般的ですが、実名で利用するFacebookの場合は、現実でのコミュニティをそのままSNSに持ち込むことができるため、最初から友達登録をしやすい特徴があります。
Facebookは、膨大なユーザー数に支えられた広告収入をメインとしたビジネスモデルを展開しています。ただ、全ユーザーが平等に収益に貢献しているわけではありません。ユーザーがニュースフィードに滞在する時間が重要となります。ニュースフィードに滞在する時間が長いほど、多くの広告を表示できるためです。
友達登録が多い方が、ニュースフィードに表示される情報量が増えるため、Facebookでは加入後10日以内に7人の友達を追加したユーザーの数をNorth Star Metricとして設定しています。
Netflix
Netflixは、サブスクリプション型のサービスで映画やドラマなどのエンターテインメント動画を配信する企業です。既存のコンテンツだけてなく独占配信や自社で制作したオリジナル作品も扱っており、世界中にユーザーを持つ人気サービスを展開しています。
サブスクリプション型のビジネスであるNetflixでは、ユーザー数の増加および、各ユーザーが継続してサービスを利用し続けることによって収益が拡大します。
そして、ユーザーのサービスの使用頻度がサービスの継続率に影響を及ぼしていることが分かっているため、Netflixでは1ヵ月あたりの視聴時間の中央値をNorth Star Metricとして設定しています。
まとめ
企業間の競争が激化した今の時代、これまでと同じように企業努力を続けていても、競合他社に打ち勝つのはなかなか難しいことです。そこで、新しい経営指標として注目を集めているのがNorth Star Metricです。
North Star Metricは、分かりやすい数値を指標とすることで社内全体が1つの目標に向かって改善行動を起こせるため、組織としてのパワーを強化するのに役立ちます。
また、企業にとっての価値を指標としたKGIやKPIと異なり、顧客視点での指標であることから、プロダクトの価値向上にもつながっているのです。
時代が変わっても、顧客にとって価値のあるプロダクトを提供できる企業は成長を続けられます。Notrh Star Metricは日本ではまだまだ浸透していない経営指標ですが、さらなる企業価値の向上を目指すために、North Star Metricの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。