経営の視点から考えるKPIとは|Real Book Seminar第2弾イベントレポート
2023.5.24
2023年4月20日に株式会社ヴィス様が主催するイベント、著者と共に経営を考えるReal Book Seminar第2弾にScale Cloud代表取締役の広瀬が登壇しました。
Real Book Seminarとは、経営本の著者が登壇し、著者の深掘りや参加者との議論を通して、経営への理解を深めるイベントです。今回は『KPI式PDCA: 数値化で事業成長する仕組み』を解説しながら、経営におけるKPI設計の方法や運用の仕方を詳しくお話しさせていただきました。
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本記事では、第二弾Real Book SeminarのテーマとなったKPI式PDCAモデル「Scale Model」とは何か、ポイントを抑えながら解説します。
KPIの数値はなぜ大事なのか、会計との違い
私は公認会計士、コンサルタントとして800社以上に携わってきた経験から、事業拡大スピードの高い会社に共通点をみつけました。それは、数値を使った方策があり、運用精度が高いことです。
数値が大事だということは、みなさんもご存知だと思います。ただ数値をフルスペックで使いこなせている方は少ないのではないでしょうか。
会社経営で使う数値は、基本的に、財務情報の会計、非財務情報のKPIがあります。ここでは会計に比べてKPIが優れている点を紹介します。
KPIは現在の数字を表す
会計の数値はすべて「結果論」になっています。2月の業務成績は3月になって初めて数値として現れます。たとえ月次決算を早くしたとしても、当月における現時点の状況はわかりません。問題が発生したとき臨機応変に対処するのが難しいことが会計における数値のデメリットです。
一方、KPIは現時点の状況が把握できる指標です。現時点でどのくらいの契約数なのか、成約率はどうなっているのか、月々の目標数値に対してリアルタイムにマネジメントができることは大きなメリットです。
KPIは情報の粒度が高い
会計は情報の粒度が低く、問題が発生したときに「何が問題なのか」すぐにはわかりません。未達成の理由を会計情報だけで読み解くことはできないのです。
吾輩は猫であるKPIであれば、問題点を即時に把握できます。たとえば契約数が足りていない場合、商談数が少なかったのか、そもそも契約率が低いのか、細かい粒度で売上未達成の原因を突き止めることが可能です。
KPIは専門知識が必要ない
会計は簿記やビジネス会計など、専門知識がなければ読み解きにくい数値となっています。
KPIは、契約数や契約率、商談率は誰がみてもわかりやすい数値です。よって、コミュニケーションが円滑になり、直感的にプロセスや結果がわかるのは大きなメリットといえます。
KPIの問題点と改善方法
企業がKPIを進めるなかで陥る悪い事例があります。各部署がバラバラにKPIを管理することでKPIの達成が目的になってしまい、組織としてのKGIにつながらないケースが考えられます。KGIのプロセス分解をおこなう際、契約数や契約単価までは迷わず設定できても、他プロセスをよく理解できておらず、正しいKPI設計ができないこともあります。
以下に具体例をあげてみます。
- プロセス
テレアポ→商談→契約→売上
- KPIとKGI
テレアポ数375件→商談率8%→商談数30件→契約率60%→契約数18件→契約単価5→売上90(KGI)
売上は90で契約数が18件だった場合、割り算すると契約単価が5になります。さらに商談数が30件で契約数18件を計算すると契約率は60%になります。またテレアポ数375件の場合、商談数30件に対して商談率が8%となります。
数値を俯瞰してみたときに、契約率60%に対して商談率が8%の場合は改善の余地がありそうだ、さらにテレアポ数375件は少ない可能性があるといった仮説検証や課題の発見ができます。シンプルな例ではありますが、KPIマネジメントの基本になります。
PDCAを活用したKPI式PDCAモデル「Scale Model」のやりかた
KPIマネジメントを一言で表すと、実績に対するプロセスの数値化です。ただし、実績数値のみの管理になってしまっているケースも多いです。そこで考えたのはPDCAサイクルを取り入れたKPI式PDCAモデル「Scale Model」です。PDCA運用時のポイントも合わせて紹介します。
- 目標値
テレアポ数400件→商談率10%→商談数40件→契約率50%→契約20件→契約単価5→売上100
- 実績値
テレアポ数375件→商談率8%→商談数30件→契約率60%→契約18件→契約単価5→売上90
Plan:計画
計画時はKGIを達成するために必要な数字を割り出していきます。たとえば、売上目標の100を設定し、契約単価を5としたとき、契約数が20件必要だとわかります。さらに契約数20件に対して契約率が50%だとすると商談数は40件必要で、商談数40件で商談率が10%だとすると、テレアポ数は400件必要になります。このように数値で計画を立てられます。
Do:実行
計画を実行に移す際、チームや個人ごとに細かく分解していきます。目標のテレアポ数が400だった場合、AさんとBさんで200件ずつおこなうなど、粒度を細くしそれぞれの必要件数まで落とし込んでいきます。そうすることで毎日の進捗率が把握できるようになります。
Check:評価
上記の目標値と実績値を確認していきます。目標売上100に対して結果が90となり、10足りていないことがわかります。なぜ、売上が達成できなかったのか、原因は商談数やテレアポ数の目標値に達成していなかったことがその日のうちにわかります。
Action:改善
原因に対して対策を考え、行動するフェーズです。コツは、事前に対策が打てる部分はできる限り早めおこなうことで、KGIに達成しやすくなります。
ロジックツリー×四則演算
KPIの設定をする際、ロジックツリーを活用します。必要な要素をもれなく、だぶりなく洗い出すことが大切です。要素を洗い出すだけではなく、上の階層と下の階層の因果関係を四則演算で表現できるように分解することがポイントです。
顧客満足度など、KGIやその他のKPIと四則演算で関係性を明確にできない要素を取り入れてしまうと売上へのプロセスをロジカルに説明ができなくなるので避けるようにしましょう。
一度10階層を目安にロジックツリーをつくってみてください。プロセスの階層が深ければ深いほど管理する数値が多くなり負担が大きくなると思いますが、KPIは多いほどよいです。たとえば健康診断の検査結果項目が10個よりか、100個あったほうがいいとは思いませんか。
一つひとつ確認する必要はなく、問題が起きているところだけにフォーカスする。意識すべきことは、問題があるのが問題ではなく、問題がわかりづらい点なのです。
たとえば地図は縮尺が小さいほど、わかりやすく進みやすいです。一方で拡大すると全体を把握できるので、拡大と縮小を繰り返すことが大切です。
数×PDCA回転スピード
ビジネスにおいて、時とともにビジネスを取り巻く環境は変わり、ビジネスのやりかたも変わっていきます。定期的にモニタリングすることが実務の安定を補っていると私は考えています。
社内でKPIをつかってPDCAを回す際、各部署で管理する数値がひとつのロジックツリーにまとまっている状態、つまりクロス・ファンクショナル(部門横断的)になっていることがポイントです。
組織として全体を把握するには、何かひとつにフォーカスした「虫の目」と、俯瞰で全体をみる「鳥の目」、時の流れを読む「魚の目」を意識する必要があります。
もちろん、それぞれの目をもったとしても見逃すケースがあるので注意です。最初から完璧を目指すのではなく、まずは運用すること。数値を管理しながらPDCAのスピードを高め、繰り返すことが会社の成長スピードを高めます。
今回、KPI式PDCAモデル「Scale Model」について、ポイントを抑えながらKPI設計から運用の仕方まで解説してきました。今回ご紹介した内容は以下の書籍により細かく記載されておりますので、ご興味があるかたは是非、お読みいただければ幸いです。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。