CMRR(既決月間定期収益)とは、MRRとの違いや計算方法を徹底解説
2022.01.08
CMRRは、SaaS企業において重要なKPIとされています。しかし、「CMRRが何かいまいちよく分からない」という人もいるでしょう。
この記事では、CMRRとは何かについて、計算方法などと合わせて解説していきます。CMRRを把握しておくことによるメリットも紹介していくので、ぜひ参考にしてみてください。
CMRR(既決月間定期収益)とは
CMRRについて説明する前に、まずはMRRについて説明していきます。MRRは月間経常収益とも呼ばれ、毎月繰り返し得られる収益を指す言葉です。継続的な利用が求められるSaaS企業で重要視されていて、ビジネスの安定性や成長性を知るための指標となります。
CMRRは既決月間定期収益とも呼ばれ、企業が将来の正確な収入を予測するために重要な指標です。簡単に考えると、CMRRは将来のMRRということになります。
CMRRは今後の解約・アップグレード・ダウングレードまで考慮されているため、確実で信頼性の高い将来予測を提示することが可能です。その数値は、資金調達の際に融資先が企業の信頼性を判断する材料、経営陣が進捗状況を監視する目安としても活用されるほどです。他にも、CMRRを算出することで、解約や新規予約などがいかに重要か理解することにもつながります。
MRRとの違い
前述した通り、CMRRは将来的なMRRです。MRRでは、月毎の繰り返し得ることができる収益の中に、初期費用などの1回支払いの費用は含まれていません。また、今後の解約・アップグレード・ダウングレードも含まれていないため、CMRRのように企業の将来的な収入を正確に測定することが難しいです。
MRRの算出によって出た数値が現状企業にとって理想的な状態であっても、今後それを継続できるかは分かりません。MRRのみで企業の将来性を判断するのは非常にリスクがともなうため、注意が必要です。
MRRは以下の計算方法で算出します。
MRR = 平均月額料金 × 顧客数
MRRについて詳しく知りたい方は、「SaaSの主要KPI【MRR】とは?概要や計算方法を分かりやすく解説」をご参照ください。
Quick Rationとの違い
CMRRとQuick Ration(当座比率)は、どちらもサブスクリプション・SaaSビジネスの成長性を見極めるために重要なKPIです。しかし、Quick Rationの算出には、一定期間に失われたMRRと獲得できたMRRの数値を使うため、CMRRのように「確実で将来性の高い予測値」というより「ビジネスの質的な成長性を見極める数値」になります。
Quick Rationの計算方法は以下の通りです。
Quick Ration = 一定期間に獲得できたMRR ÷ 一定期間に失われたMRR
上記の式で使用する、一定期間に獲得できたMRRと一定期間に失われたMRRは、それぞれ以下のように計算します。
一定期間に獲得できたMRR = 新規顧客増加で獲得したMRR + 既存顧客のプラン変更で獲得したMRR
一定期間に失われたMRR = 既存顧客の解約で失われたMRR + 既存顧客のプラン変更で失われたMRR
CMRRの計算方法
CMRRは確実で信頼性の高い将来予測、つまり将来のMRRと解説してきました。ここからは、実際にCMRRはどのように算出すれば良いのかについて説明していきます。
CMRRの計算方法は以下の通りです。
CMRR = MRR + 新規確定MRR – チャーンMRR – ダウングレード + アップグレード
MRRの算出は、前述したように「平均月額料金 × 顧客数」で求めることが可能です。例えば、サブスクリプションの利用料金が月額980円、顧客数が100人とすると「980 × 100 = 98,000」で、MRRは98,000円となります。
新規確定MRRは、新規顧客から得られるMRRです。顧客がまだ利用を開始していない場合も、契約に署名または料金が発生した時点で新規確定MRRに含まれるので、注意しましょう。
チャーン、ダウングレード・アップグレードについては、次の項目で詳しく説明していきます。
チャーン
チャーンとは、サブスクリプション・SaaS企業が顧客に提供するサービスの解約率です。
解約率が上がっている場合は、サービスに問題がある、もしくは顧客へのサポートが足りていないなどの対応に問題があると考えられます。早めに改善策を考えて、行動に移す必要があるでしょう。
チャーンの算出は複数の方法がありますが、最初に期間を決めて、期間内に失った顧客数の割合を計算する方法が1番簡単でしょう。
計算式は以下のようになります。(算出における期間を今回は30日と考えた場合)
チャーン(%)= 直近30日間の解約顧客数 ÷ 30日前の顧客数
収益ベースやサブスクリプションサービスにおける年間契約の解約率の算出は、それぞれに合わせた計算方法が存在するため、状況に合わせて柔軟に算出しましょう。
チャーンについて詳しく知りたい方は、「SaaSの主要KPI【チャーンレート】とは?種類や目安を解説」の記事をご参照ください。
ダウングレード・アップグレード
ダウングレードとアップグレードは、プラスマイナスの変化が出たときのMRRです。
例えば、金額が異なる複数のプランを提示しているサービスなどで、顧客に料金の高いプランから安いプランへ移行された場合、金額はマイナスになります。そのマイナスの変化をダウングレードというのです。
逆に、顧客が安いプランから高いプランに移行してプラスになった場合は、アップグレードとなります。また、顧客が自ら変更しなくても、サービスの自動更新により生じた変化もダウングレード・アップグレードに含まれるので注意しましょう。
CMRRの成長率の理想はT2D3
T2D3とは、毎年のCMRRをTriple(3倍)、Triple(3倍)、Double(2倍)、Double(2倍)、Double(2倍)の段階で成長させていくことです。Tripleが2回、Doubleが3回なので、T2D3と表現されています。
T2D3では5年間で72倍の成長が理想とされており、多くのサブスクリプション・SaaS企業がこの成長率を目指して、事業の拡大・展開を進めています。CMRRの成長率の目安が分からないという方は、T2D3を参考にしてみると良いでしょう。
T2D3について詳しく理解したいという方は、「SaaSのスタートアップ企業が知っておくべき「T2D3」とは?」の記事をご参照ください。
CMRRを把握しておくことによるメリット
ここまで、サブスクリプション・SaaS事業を展開する企業にとって、CMRRはどのような役割を果たす指標なのか、計算方法や理想の成長率について詳しく説明してきました。ここからは、CMRRを把握しておくことで得られる主なメリットを3つ解説していきます。
- 顧客の指標を理解できる
- MRRよりも信頼性の高い収入の予測ができる
- 資金調達ではMRRよりCMRRが優先される
それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
顧客の指標を理解できる
CMRRは、顧客の利益率ではなく自社ビジネスに関する顧客の指標です。例えば、あるサブスクリプションサービスにおいて、サービスの改善を行ったことでユーザー数が増加した、逆に改善点や要望の見落としでユーザー数が減少したなどの事例が起こったとします。これらは、どちらも顧客の指標に対する理解の有無が原因で発生している事例です。
顧客の指標に対する理解は事業の拡大・展開に直結するため、ビジネスの成長が期待されます。
MRRよりも信頼性の高い収入の予測ができる
CMRRは解約率や新規顧客数を考慮して算出されますが、MRRにはこれらの数値が含まれていないので、企業の将来性を測るには精度が低いです。
例えば、サブスクリプションサービスの月額料金と顧客数でMRRを算出すると、毎月顧客数が増加するとそのまま右肩上がりのグラフになります。一見すると、サービスが成長しているように思えるでしょう。しかし、必ずその中の何割かの顧客に解約されて、一定数顧客が減少するのです。
CMRRでは、解約数なども考慮した、より具体的で精度の高い数値を導き出せるので、MRRで算出した数値と把握すると変化に大きな差が生じます。
解約を視野に入れていないMRRで今後の収入を予測すると、想定外の変化が乱発して大変な目にあう可能性が高くなります。企業の将来性を予測する際には、より信頼性の高いCMRRを活用するようにしましょう。
資金調達ではMRRよりCMRRが優先される
CMRRは信頼性が高いため、資金調達の場面でもMRRより優先されやすい数値です。
SaaS企業では、たとえMRRの数値が高かったとしても、同時に解約率も高い、今後解約見込みがある顧客が多いという場合には、サービスに対しての信頼性が低くなります。そのため、投資家にとっては、MRRよりも信頼性の高いCMRRの方が重要とされているのです。
まとめ
CMRRは、企業が将来の正確な収入を予測するために重要な指標です。毎月繰り返し得られる収益を指すMRRと似ていますが、CMRRの方がより具体的な収益の予測ができるという点で大きく異なります。
CMRRを把握しておくことで、顧客の指標を理解できる、MRRよりも信頼性の高い収入の予測ができる、資金調達の際にMRRより信頼性の高い数値を提示できるなどのメリットがあります。
SaaS企業における重要KPIの一つであるCMRRですが、その他にも重要なKPIは複数存在します。その他の主要なKPIを知りたいという方は、以下の資料を参考にしてみてください。
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監修者
広瀬好伸
株式会社Scale Cloud 代表取締役社長
プロフィール
京都大学経済学部卒、あずさ監査法⼈にてIPO準備や銀⾏監査に従事。
起業後、公認会計⼠・税理⼠として、上場企業役員、IPO、M&A、企業再⽣、社外CFOなどを通じて600社以上の事業に関わる。
公認会計士、 IPOコンサルタント、社外役員として計4度の上場を経験。
株式会社i-plug社外役員、株式会社NATTY SWANKY社外役員。
成長スピードの早い企業におけるKPIマネジメントやファイナンス、上場準備や上場後の予算管理精度の高度化といった経験を踏まえ、KPIのスペシャリストとして、日本初のKPIマネジメント特化SaaS「Scale Cloud」の開発・提供やコンサルティングに注力。
従来のマネジメント手法を飛躍的に進化させ、企業の事業拡大に貢献中。
講演実績
株式会社セールスフォース・ドットコム、株式会社ストライク、株式会社プロネクサス、株式会社i-plug、株式会社識学、株式会社ZUU、株式会社あしたのチーム、ジャフコグループ株式会社、トビラシステムズ株式会社、株式会社琉球アスティーダスポーツクラブなどの主催セミナー、日本スタートアップ支援協会などの経営者団体、HRカンファレンスなどのカンファレンス、関西フューチャーサミットなどのスタートアップイベントなどにおける講演やピッチも実績多数。
論文
特許
「組織の経営指標情報を、経営判断に関する項目に細分化し、項目同士の関連性を見つけて順位付けし、経営に重要な項目を見つけ出せる経営支援システム」(特許第6842627号)
アクセラレーションプログラム
OIH(大阪イノベーションハブ)を拠点として、有限責任監査法人トーマツ大阪事務所が運営するシードアクセラレーションプログラム「OSAP」採択。